時事随想

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ニュースや新聞を見て、想ったことを綴った随想・論説集

【NHK】最高裁、受信契約の憲法判断へ

 受信契約に関する最高裁裁判で、放送法64条について初の憲法判断を示す見込みとなりました *1

 この裁判は、テレビを設置・視聴していたにも関わらず、受信契約を行わない視聴者に対してNHKが訴えた裁判の上告審で、最高裁の小法廷(大谷剛彦裁判長)から大法廷(寺田逸郎裁判長)に回して判断を行うということです。大法廷への回付は、憲法判断や重要な法的問題についての判断を示す場合に行われることから、放送法64条についての初の憲法判断を示す見通しです。

 今回の記事では、この裁判の概要について調べましたので、まとめたいと思います。

1. テレビ設置者の受信契約の義務

 放送法64条1項では、テレビを設置した場合、NHKと受信契約を行うことを義務付けています。

第六十四条  協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。ただし、放送の受信を目的としない受信設備(中略)を設置した者については、この限りでない。
出典:放送法

 従って、通常、テレビを設置した場合、NHKと契約する必要があります。

 しかし、テレビを設置しても、NHKと受信契約をしていない世帯は、約1000万世帯にものぼるため、受信契約を締結させるため、NHKは最近では裁判を行うことにしました。但し、裁判を行うといっても、極わずかの視聴者を対象とした裁判です。

2. これまでの裁判

2.1 提訴されている視聴者

 NHKは、基本的に、以下の次の二つのケースに提訴を行っているようです。

  • 契約しているにも関わらず、受信料を支払わない視聴者
  • テレビを設置・視聴しているとNHKが把握している未契約の視聴者

 未契約の視聴者でも、NHKがテレビの設置を把握できていなければ提訴されません(テレビ設置が確認できていないので、当たり前と言えば、当たり前ですが)。

 神奈川県相模原市在住の男性の場合、視聴者自らBS放送の視聴を連絡(テロップ解除の申請)をNHKにしています。このためNHKは、視聴者がBS放送を視聴していることが分かっています。

 原告は,被告からのテレビジョン受信機の設置の連絡を受けて,平成21年1月13日に当該連絡に対応する登録処理を行った。なお,被告が原告に対して設置を連絡したテレビジョン受信機は,衛星系によるテレビジョン放送を受信できるカラーテレビジョン受信機である。
出典:裁判所判例,「 受信料等請求事件」, 平成25(ワ)82, 横浜地方裁判所相模原支部, 2013/6/27.

 その他にも、NHKが弁護士法に基づいて、スカパーに個人情報を照会した場合にも提訴されているようです。

 NHK裁判については、「NHKから国民を守る党」の立花孝志氏の解説が非常に分かりやすいので、ご参考にしてください。

2.2 未契約の視聴者に対する裁判

 報道されている主な裁判としては、以下の裁判があります。

2.2.1 神奈川県相模原市在住の男性視聴者の場合

  • 事件の概要*2
    • 2009年1月13日 BS視聴をNHKに連絡する。
    • 2012年11月22日 特別対策センター」に窓口を切り替える。
    • 2013年1月24日 このままでは提訴せざるを得ない旨、予告通知発送(内容証明郵便にて契約締結を申し入れる)。
    • 2013年2月21日 民事訴訟を提起(横浜地方裁判所相模原支部)。
    • NHKは、契約締結申し入れから2週間経過すれば契約が成立すると主張。
  • 1審:横浜地方裁判所相模原支部(2013年6月27日判決, 小池喜彦裁判官)*3
    • 判決要旨
      • 契約締結申し入れから2週間の経過で契約が成立するとのNHKの主張は退ける。
      • 契約成立には、裁判でNHK側の勝訴判決が確定することが必要。
      • 2009年2月~2013年1月分の受信料(約10万9000円)の支払を命じる。
    • NHKは、裁判を経なければ契約が確定しないことを不服として控訴。
  • 2審:東京高等裁判所(2013年10月30日判決, 難波孝一裁判長)*4
    • 判決要旨
      • NHK側が契約締結を申し入れて2週間経てば契約が成立する。
      • 被告は、受信料約10万9000円の支払いを命じる。
  • 3審:上告せず

2.2.2 大阪在住の視聴者の場合

  • 事件の概要*5
    • 2005年6月 NHKがテレビの設置を確認(BS放送の視聴申請をしたと思われる)。
    • 2005年6月から2015年3月までの受信料約27万円の支払いを求めて提訴。
  • 1審:堺簡易裁判所(2015年6月26日判決)
    • 判決要旨
      • NHKが契約締結を求めて2週間経てば契約が成立する。
      • 2005年6月から2015年3月までの受信料約27万円の支払いを命じる。

2.2.3 東京都渋谷区在住の男性視聴者の場合 

  • 事件の概要 *6
    • 2006年3月、テレビを設置、「放送内容が偏っていて容認できない」と契約拒否。
    • 2011年9月、NHKは男性宅に受信契約申込書を送付したが、応じず。
    • 契約の申し立てを行った時点で契約は成立すると、NHKは主張。
  • 1審:東京地方裁判所判決(2013年7月判決)
    • 判決要旨
      • 受信者に契約の承諾と受信料24万8640円の支払いを命じる。
      • 判決の確定時に契約が成立する。
  • 2審:東京高等裁判所 (2013年12月18判決, 下田裁判長) *7
    • 判決要旨
      • NHKからの契約申し込みと、受信者による承諾という双方の意思表示がなければ受信契約は成立しない。
      • 放送法には『申し込みと承諾が一致する以外の方法でも契約が成立する』とうかがわせるような規定はない。
      • 契約は受信者に契約の承諾を命じる判決が確定した段階で成立する。
      • 契約の申し立てを行った時点で契約が成立するというNHKの主張を退ける。
      • 受信者に契約締結の受諾を命じる。
      • 受信料24万8640円と1万800円(受信料改定に伴う増額)の支払いを命じる。
    • NHKは、裁判を経なければ契約が確定しないことを不服として上告。
  • 3審:今回の最高裁裁判

2.2.4 その他の裁判

  NHKのホームページによれば、上記以外にも以下の未契約者に対する裁判の判決がでています。

いずれの場合も、裁判所判決をもって受信契約が成立するという内容の判決です。

2.3 これまでの未契約者に対する判決のまとめ

 これまでの判決をまとめると、以下の通りです。

  • いずれの場合も、テレビ設置が確認された日からの受信料支払が命じられている。
  • 受信契約の締結時期は、次の二つに判断が分かれる。
    • 裁判の判決により、受信契約が締結される。
      • 横浜地方裁判所相模原支部(2013/6/27判決)、東京地方裁判所(2013/7月判決)、東京高等裁判所(2013/12/18判決)、東京地方裁判所(2014/10/9判決)、札幌簡易裁判所(2015/6/16判決)
    • NHKによる契約締結の申し入れから、一定期間経過後に、受信契約は締結される(裁判は不要)。
      • 東京高等裁判所(2013/10/30判決)、堺簡易裁判所(2015/6/26判決)

 今回の最高裁の裁判では、「裁判の判決により、受信契約が締結される」という東京高等裁判所(2013/12/18判決)を不服とし、NHKは上告しています(被告も上告)。

 NHKにとっては、裁判所判決が必要となると、受信料徴収の手間がかかるため、別の東京高裁判決(2013/10/30判決)のように申し立てを行えば、自動的に受信契約が締結されることを望んているのです。

3. 最高裁の裁判

3.1 大法廷の裁判

 今回、最高裁の大法廷に回付された裁判は、東京地方高等裁判所(2013/12/18判決)を不服とした上級審です。大法廷では、憲法判断や重要な法的問題についての判断を示す場合に行われることから、以下の点について判決が下されると思われます。

  • 放送法64条1項の合憲性
  • 契約拒否者との契約はどの場合に成立するのか?
  • 受信料は、いつまで遡るのか?

3.2 裁判の争点

  • 被告の視聴者の主張
    • 放送法は訓示規定なので違反しても支払い義務はない。
    • 義務だとしたら憲法が保障する契約の自由(憲法13条(個人の尊厳), 憲法29条(財産権)などを侵害しており違憲。
  • NHKの主張
    • 受信機を設置した人は契約締結義務があり、NHKが契約締結申込書を送った時点で契約が成立する
    • (テレビを破棄する等により)自由に受信契約は解約できることから「放送法は合憲」

 合憲に関する地裁、高裁の判断では、「 契約の自由は制約するが、公共の福祉に適合している」などとして、合憲とする判決が相次いでいる。

3.3 個人的な判決の予想

 以下は、最高裁判決についての個人的な考えと予想です。素人の判断なので、あまり信用しないでください。

3.3.1 争点1:放送法64条の合憲性

 まあ、合憲でしょうね。

 契約の自由を争点とした場合、まず、民法91条がその根拠となります。

第九十一条  法律行為の当事者が法令中の公の秩序に関しない規定と異なる意思を表示したときは、その意思に従う。
出典:民法

 放送法は特別法で、一般法である民法よりも優先されます。このため、民法91条に基づいて、契約の自由を主張をすることは困難です。従って、憲法に基づく契約の自由を主張する必要があります。

第十三条  すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
出典:日本国憲法

 憲法13条で保証するのは、「公共の福祉に反しない限り」と限定された自由です。

 従って、法律に合理性があれば、個人の自由(契約の自由を含む)を制限することは可能です。

 逆に、その法律に合理性がなければ、個人の自由は制限されるべきではありません。例えば、暴力団にみかじめ料を支払う契約を義務づける法律があるとすれば、この法律は憲法違反と言えるでしょう。

 NHK問題についても、同様に思考実験すると、違憲となる条件が導けるのではないかと思います。

 仮に、NHKが、サラ金なみの違法な受信料徴収をし、職員は年間1800万円もの人件費で私腹を肥やし、さらに幹部職員は多額の金を着服し、放送法1条に違反した偏向報道を行う、公共の福祉に資することのない組織であるとすれば、NHKとの受信契約を義務とすることに合理性はありません。従って、放送法64条に基づき受信契約をさせることは、違憲と言えるでしょう。

 しかし、裁判所がそのような判断を下すことは、まず考えられません。

3.3.2 争点2:契約はいつ成立するのか?

 BS視聴の申込(テロップ解除申請)をしているのであれば、被告に視聴の意思があることは明らかなので、放送法64条1項の但し書きについての判断をするまでもなく、契約の義務が発生します。

  放送法64条1項の但し書き:「ただし、放送の受信を目的としない受信設備(中略)を設置した者については、この限りでない」

 このため、被告はNHKと契約しなければならないことは明らかです。被告が契約を拒否しているために、裁判所の判決をもって「承諾」の意思に代えることができる(民法414条2項但し書き)ということを根拠に、下級審では、被告に受信契約を承諾する命令を下しています *8

第四百十四条 2 債務の性質が強制履行を許さない場合において、その債務が作為を目的とするときは、債権者は、債務者の費用で第三者にこれをさせることを裁判所に請求することができる。ただし、法律行為を目的とする債務については、裁判をもって債務者の意思表示に代えることができる。
出典:民法

 「視聴者に承諾する裁判所命令が出た時点で契約が成立する」という考えが主流ということなので、今回もこれが踏襲されることになるでしょう*9

3.3.3 争点3:受信料はいつまで遡るか?

 NHK放送受信規約第5条では、受信機の設置の月から受信料を支払う義務があります。

(放送受信料支払いの義務)
第5条 放送受信契約者は、受信機の設置の月から(中略)放送受信料を支払わなければならない。
出典:日本放送協会放送受信規約

 これまでの裁判所命令は、「受信契約を承諾せよ」ということなので、被告は、NHK放送受信規約を承諾し、NHKと契約することとなります。

 NHK放送受信規約第4条では、「受信契約は、受信機の設置の日に成立するものとする」ということです。

(放送受信契約の成立)
第4条 放送受信契約は、受信機の設置の日に成立するものとする。
出典:日本放送協会放送受信規約

 従って、裁判の判決を受けて、設置日に遡って契約が成立し、被告には設置日に遡って受信料支払の債務が発生し、NHKは同じく設置日に遡って被告に対する債権が発生します。

 ここで、遡れるのはいつまでなのか?という疑問が生じます。

 これまでの判例では、設置日(実際には、テレビの設置をNHKが確認した日)に遡及し、この段階からの受信料を支払うように命じています。

 しかしながら、例えば、50年間受信契約を行わなかった場合、たとえ、50年前にテレビを設置したという確たる証拠があったとしても、支払の遡及には何らかの制約があってしかるべきです。例えば、裁判所が、被告に対して「NHKの受信規約に従って、50年前からの受信料を支払うことを承諾せよ」というのは、いかにも理不尽です。

 時効の起点になりそうなタイミングには、設置日、NHKが受信者に申し立てした日、提訴日、裁判所判決により承諾が命じられた日があります。

  • 設置日:2006年3月
  • 契約締結の申し立て日:2011年
  • 提訴日:不明(2011年11月16日~2013年7月までの間の日)*10
  • 1審判決:2013年7月(24万8640円の支払命令)
  • 2審判決:2013年12月 (24万8640円と料金改定に伴う1万800円の支払命令)
  • 3審判決:2017年頃

 民法では、時効が規定されていますが、どの条文が今回の例に適用できるのか良く分かりませんが、5年、10年、20年のいずれかでしょうか。NHKの受信料債権は、通常、5年で時効となります*11

 今度の裁判の判決では、従来判例通り、民法414条2但し書きに基づき、契約を承諾することが命じられると思われます。提訴日は不明ですが、判決が命じる受信契約の承諾は、提訴日になるのではないかと思います。過去の判例では、設置日から提訴の月までの受信料支払が命じられており、今回も同様の判決となると思います。提訴日に契約を承諾することになるので、この時点で時効は消滅し、設置日が提訴日よりも5年以上前であったとしても、時効は成立しないと思われます(今回の事件では、設置日から提訴日までは5年以上経過している)。

 但し、設置日が50年も前に遡ってしまうような場合に設置日以降の受信料の支払を求めることは、普通に考えれば不条理です。このため、具体的な法的根拠は分かりませんが、受信料支払には何らかの制約があるのではないかと思います。

 例えば、受信契約の成立日を設置日にバックデイトするNHK放送受信規約4条が不適当である(バックデイトには限界がある)といったことが挙げられます。今回の裁判で、バックデイトが争点となっているか不明ですが、たとえ争点となっていたとしても、5年程度の遡及なので違法とまでは言えないのではないかと思います。

4. 最後に

 最高裁で大法廷に移されましたが、放送法の合憲性、受信料遡及も従来判例通りの原告敗訴の判決になると予想されます。

 これまで、判断が分かれていた受信締結のタイミング、「受信契約は裁判判決により成立する」か「受信契約の締結申込によって自動的に成立する」の判断は、今回の裁判で統一されます。恐らく、「受信契約は裁判判決により成立する」という判決となります。

 自動的に受信契約が締結できないと「支払督促」が利用できません。このため、裁判所の命令を得る必要があり、訴訟費用と時間が掛かります。最高裁判決は、NHKの上告理由を認めず、実質敗訴となるでしょう。

(2016/11/5)

(2016/12/15) 立花氏のYouTubeのリンクを最新版(2016/12/14)に更新。

(2017/12/7) 最高裁判決がありました(最高裁の判決文)*12。NHKと視聴者側の両者の上告が棄却されているので、両方とも敗訴です。判決結果は、概ね予想通りのものでした。但し、時効については、東京高裁判決を踏襲し、「時効は裁判確定後から進行する」ということなので、私の東京高裁判決の理解不足で誤りがありました。

関連記事

*1:
朝日新聞DIGITAL, 「NHK受信料制度は合憲か? 最高裁が初判断へ」, 2016/11/2.
日本経済新聞電子版, 「NHK受信料訴訟、大法廷が判断へ 最高裁 」, 2016/11/2.
産経ニュース, 「NHKの受信契約義務、最高裁大法廷が初判断へ テレビがあるのに契約せず…受信料は徴収できるのか」, 2016/11/2.
時事通信, 「NHK契約義務、憲法判断へ=受信料未払いめぐり-大法廷に回付・最高裁」, 2016/11/2

*2:NHK, 「放送受信契約の未契約世帯に対する民事訴訟 初の高裁判決」, 2013/10/30.

*3:
NHK, 「放送受信契約の未契約世帯に対する民事訴訟 初の司法判断」, 2013/6/27
森越壮史郎, 「NHK未契約世帯でも受信料、支払い命じる判決」, 2013/7/2.
裁判所判例, 「 受信料等請求事件」, 平成25(ワ)82, 横浜地方裁判所相模原支部, 2013/6/27.

*4:
・事件番号「東京高等裁判所 平成25年(ネ)第4466号)」.
森越壮史郎, 「NHK受信料、応諾なくても2週間で契約成立 東京高裁」, 2013/11/5.
日経新聞電子版, 「NHK受信料、応諾なくても2週間で契約成立 東京高裁 」, 2013/10/30.
立花孝志, 「NHK受信契約「通知後2週間で成立」判決確定の解説」, YouTube, 2013/11/19.

*5:
NHK, 「大阪府内における受信料の公平負担への取り組みと 未契約世帯に対する民事訴訟の大阪府内初の司法判断について」, 2015/6/26.
J-CASTニュース, 「拒否しても2週間で契約成立 NHK受信料めぐる判決に「納得できない」と反発の声」, 2015/6/29.
和はいい和@どうみん, 「堺簡易裁判所「受信契約に応じなくてもNHKが契約締結を求め2週間たてば契約成立」として支払いを命じる判決」, 2016/6/29.
はぴらき合理化幻想, 「NHK集金人の受信契約訪問の画期的な断り方、撃退ついでに強制的にお金儲けもできる拒否方法」

*6: 読売新聞, 「NHK契約初の憲法判断へ」, 2016/11/3朝刊.

*7:
・事件番号「東京高等裁判所 平成25年(ネ)第4864号」.
森越壮史郎, 「受信料契約:「承諾必要」…東京高裁、NHKの主張退ける」, 2013/12/20.
日本経済新聞電子版, 「NHK受信契約「相手の承諾必要」 高裁判決分かれる 」, 2013/12/18.
J-CASTニュース, 「NHK受信契約には視聴者の承諾必要 東京高裁で異なる2つの判断、どうなる?」, 2013/12/25.

*8:山下江法律事務所, 「弁護士コラムvol.61 「NHK受信料と契約自由の原則」 松浦亮介」, 2013/10/25.

*9:
弁護士ドットコム, 「「NHK受信契約」はいつ成立するのか? 矛盾する2つの「高裁判決」をどう見るべき」, 2013/12/30.
山下江法律事務所, 「弁護士コラムvol.61続編 「続・NHK受信料と契約自由の原則」 松浦亮介」, 2013/11/8.

*10:NHK, 「放送受信契約の未契約世帯に対する民事訴訟 初の提起について 」, 2011/11/16.

*11:お支払いに関するQ&A(受信料に時効はあるのか)

*12:朝日新聞デジタル, 「NHK受信料、ネット時代の徴収は 最高裁「合憲」判断」, 2017/12/7.
読売オンライン, 「NHKの受信料制度「合憲」…最高裁が初判断」, 2017/12/6.
毎日新聞, 「NHK受信料 制度は「合憲」 最高裁が初判断」, 2017/12/6.
弁護士ドットコム, 「NHK受信料「時効」も最高裁判決の論点、原審支持なら「50年分一括請求も可能」」, 2017/12/6.
弁護士ドットコム, 「「NHK受信料制度は合憲」 最高裁が判決、支払強制「立法裁量として許容される」」, 2017/12/6.
弁護士ドットコム, 「NHK受信料合憲、男性側「大山鳴動して鼠一匹」「ネット同時配信で制度見直しを」, 2017/12/6.
弁護士ドットコム, 「NHK受信料判決、弁護士出身の裁判官1人が反対意見」, 2017/12/6.

【NHK】サラ金からの卒業(2):BCASカードの有料レンタル化

 ここのところ、NHKの集金人トラブルに関する記事を書いています。NHKトラブルの原因は、集金人を用いて時代遅れの集金方法を続けていることに原因があります。また、NHKをサラ金と過去の記事で呼んでいるのは、NHKが合法的にサラ金のような厳しい取立て(受信料徴収)を行っているからです。

 「【NHK】サラ金からの卒業(1):税務署が受信料徴収? - 時事随想」では、受信料徴収を税務署に委託するという受信料徴収モデルを説明しました。今回は、より実現性が高い、B-CASカードを有料レンタルとする受信料徴収モデルについて、説明します。

1. B-CASカード

 B-CASカードはデジタル化された放送の暗号を解除するために用いられるICカードで、テレビを購入すると、通常同梱されています。このB-CASカードをテレビに挿入しないと、テレビは受信できません。このB-CASカードはテレビを購入しても、その所有権はB-CAS社(ビーエス・コンディショナルアクセスシステムズ)に帰属しており、所有者はB-CAS社です。つまり、テレビの使用者は、B-CASカードを無償レンタルしているという形になっています。

 実は、全てのデジタル放送は、既に暗号化(スクランブル化)されていて、B-CASカードによってスクランブルを解除しているのです。

2. B-CASカードを有償レンタルとした受信料徴収モデル

 集金人を用いない受信料徴収モデルとして考えられる方法は、B-CASカードを有償レンタルとし、レンタル料の中にNHKの受信料を含めるという方法です。例えば、視聴者は次のような手続きでテレビを視聴できるようにします。

  • 受信料は、世帯単位の課金ではなく、B-CASカード単位(テレビ単位)の課金とする。
  • テレビの販売と、B-CASカードのレンタルを分離する(現在は同梱されている)。
  • 視聴者は、B-CAS社とB-CASカードの有償レンタル契約を行う。
    • 有償レンタル契約がなされた段階で、B-CAS社はNHK及び民放のスクランブル解除を行う。
    • 契約は、提携店舗(家電量販店やNHK窓口など)、インタネット経由で行う。
    • BS放送は、別途、NHKとBS契約しない限りスクランブル解除しない(BS契約自体は、B-CASカードのレンタル契約と同時に手続きしても構わない)。
  • 免除世帯は、NHK経由でB-CAS社との無償レンタル契約を締結する。
  • NHKのみならず、民放もB-CASカードのレンタル契約をしないと、視聴をすることができません。
  • B-CAS社は、NHK受信料相当の料金をNHKに支払う。

有償レンタル契約時の契約者は、B-CAS社とするのか、NHKとするのか、両社とするのかなど検討する必要はありますが、NHKの放送受信規約の変更(及び、必要であれば放送法64条の変更)で対応できる可能性が高いです。至ってシンプルです。

 レオパレスのような場合には、テレビ備え付けのマンションの場合にはB-CASカードは挿入せず、個人持ちのB-CASカードで視聴するという形態で利用すれば構いません。ホテルも同様です。B-CASカードを持っていないお客様には、ホテル側から貸し出す(その分、利用料金が割高となる)ということでよいでしょう。

 ワンセグ携帯などは、nanoSIMカードなどのような小さなB-CASカードを作って、それを挿入することで視聴可能となるようにすれば、同様に対応できます。

 現状の状態から、新しい受信料徴収モデルへの移行が面倒ですが、移行期間を設けて、B-CAS社と有償レンタル契約に変更し、当面は無課金で、移行期間終了後に課金を開始するということで、スムーズに移行することができるのではないかと思います。

 また、B-CASカード単位の課金となるので、新しい料金体系となりますが、1世帯あたり2台程度テレビを保有しているので*1、現状の半額程度の料金となります。また、受信料の支払率は向上するので、それを考慮すれば、半額以下となります(B-CASカード一枚あたり月300円から400円程度でしょうか)。テレビを多数保有している世帯では現状よりも高くなりますが、そうでない場合には、安くなります。

3. 問題点

 B-CAS社の有料レンタル条件にNHKとの受信契約を含めれば、放送受信規約の変更のみで、受信料義務化は不要で放送法の変更も必要なさそうです(ワンセグに課金する場合は、放送法の変更が必要)。

 また、安定収入によって、NHKの経営や放送内容がさらに劣化する危惧はあるので、これに対する対策(NHK会長・経営委員の信任投票など)を設ける必要はあると思います(前回記事参照)。

 B-CASカードで民放も人質にとった料金徴収方法ですが、集金人を使う従来の徴収方法よりは、はるかにまともな徴収方法でしょう。

(2016/11/3)

関連記事

【NHK】サラ金からの卒業(1):税務署が受信料徴収?

 前回は、「【NHK】受信料義務化で国内最大のサラ金へ?」という記事を書きましたが、今回は、その逆。NHKのサラ金からの卒業です。受信料義務化と税務署への受信料徴収の委託により、NHKがサラ金のような取立てを集金人に委託しなくて済む方法について説明したいと思います。

1. NHKによるサラ金なみの受信料徴収

 前回記事で、NHKがサラ金であるとしているのは、NHK集金人が、サラ金のような取立て(受信料徴収)を行うためです。NHKには貸金業法が適用されないので、貸金業法で禁止されているような取立て(受信料徴収)を行っても、合法です。このため、昔のサラ金のように厳しい取立てが行うことが可能で、実際に行っています。このため、多くの視聴者がNHK集金人への恐怖から、受信契約を行うことになっています。

 昔の集金人は悪質な人は少なかったそうですが、1年ほど前に、私が出会ったNHK集金人も、確かに恐怖を感じるような集金人でした。

 基本的には、このような集金人を使わずに済む方法で受信料を徴収すればよいのですが、普通に考えれば、単純にNHKの放送にスクランブル化すればよいだけで、法改正は不要です(NHKの受信契約規約の変更もたぶん不要)。しかし、何故か、NHKはスクランブル化に及び腰。NHKは良質な番組を作っているので、スクランブル化によって増収も期待できるはずなのですが、不思議です。視聴者の満足が得られない悪い番組を作っていると、NHK自ら思っているのであれば、スクランブル化を嫌がることは理解できます。

2. 1950年と現在のテレビ普及率

 放送法が制定された1950年は、NHKがテレビ放送を開始した年であり、民放はその3年後の1953年にテレビ放送を開始します。テレビ放送が始まった当初のテレビ普及率は非常に低く、高度経済成長期に急速に普及し、1980年にはほとんどの世帯にテレビがあるという状態になりました*1。現在では、単身世帯で92%、そうでない場合で98%の普及率となっています*2

 テレビ放送が始まった当初、どのように受信料を徴収していたのかは知りませんが、少なくとも、テレビが普及していく段階でテレビがある家庭とテレビがない家庭が混在することになります。昔はスクランブル技術はありませんでしたから、各家庭を訪問して、テレビの有無を確認することが必要で、集金人による受信料徴収モデルが出来上がったのではないかと思います。

 ほとんどの家庭でテレビが普及し、スクランブル技術が開発されている現在では、このような受信料徴収モデルは時代遅れで非効率な方法となっています。また、トラブルが多発する原因でもあります。

3. 受信料徴収の税務署への委託

 さて、集金人を使わない方法としては、スクランブル化する方法が受益者負担の観点からも最も適切な受信料徴収モデルですが、なぜか、適用しないので、別の受信料徴収モデルを考えます。

 ここでは、ほとんどの世帯にテレビがあると仮定して、全ての世帯からまず受信料を徴収し、テレビがない世帯に返金するという受信料徴収モデルで徴収していくことを考えます。

 まず、受信料徴収業務は税務署に委託し、強制的に税務署により受信料を徴収します(年金受給者は、年金から天引き)。税務署に徴収業務を委託するといっても、税務署に家庭訪問をさせるわけにはいかないので、従来の受信契約というステップをなくし、受信料徴収の条件を以下のように変更します。

  • テレビ設置に無関係に世帯毎に徴収(全ての世帯でまずは一律に徴収)
    • 課税対象者が受信料を支払う。
    • 世帯に課税対象者が複数いる場合、支払義務者を決める。
    • 支払義務者は、課税対象者の中から選ばれるので、学生の単身世帯などは自動的に支払免除。
  • 義務契約は地上波の公共放送番組のみ
    • 義務契約は、地上波の公共放送番組のみ(強制徴収される受信料はここ)。
    • 公共放送として必要性がない娯楽番組・スポーツ番組等は任意契約(有料放送)。
    • BS契約は任意契約(有料放送)。
    • 有料放送に関しては、NHKに申請して別途契約。
  • テレビがない世帯、現行の受信料免除世帯、非課税世帯等は、受信料を免除する。
    • 税務署の課税情報をNHKが使うことができるのであれば、非課税世帯などは自動的に免除判定することが可能。また、累進性がある受信料体系も可能。
  • NHKの放送はスクランブル化する。
    • 視聴を希望する視聴者は、スクランブル解除をNHKに申請する。
    • NHKは受信料支払を確認し、申請されたテレビのスクランブルを解除。
       税務署による受信料徴収の確認には、マイナンバーを用いる?
  • 免除対象となる世帯は、NHKへ免除申請する。
    • NHKが免除の適否を確認する。
    • 確認がとれれば、徴収した受信料を返還する。
       免除でも、一旦徴収されたものを返還する形となる。
  • 法人契約は従来通りの方法で徴収する。

 但し、上記であげた方法では、テレビがないと虚偽申請し、受信料を返還してもらうことで、NHK受信料支払わないで済む民放だけを見られるテレビを作ることができます。虚偽申請による不正返還に罰則を設ければ、不正返還はほとんどなくなるのではないかと思います(特段の罰則を設けなくても、虚偽申請は詐欺罪となるので、刑事罰を科すことは可能です)。

 この抜け道を罰則ではなく、技術的に防ぐのであれば、民放もスクランブル化し、NHKの視聴の可否と民放の視聴の可否を連動させる必要があります。この場合、市販のテレビは、購入段階では、NHK・民放のすべてがスクランブル化された状態となります。NHKへのテレビ登録により、スクランブルが解除されて、初めてテレビの視聴が可能となります。この方法は、NHKという特殊な法人のために、民放の営業が阻害されてしまうので、適切な方法とは言えないかもしれません。

 この受信料徴収モデルでは、NHKが視聴者宅に訪問することは基本的になく、スクランブル解除や免除申請をする視聴者側がNHKに赴くというように、人の流れは逆方向になり、トラブルの原因である集金人を使う必要はありません。サラ金から卒業です。

4. 受信料の引き下げ

 システム変更に伴う初期投資が100億円単位で発生しますが、その後の徴収コストは、現状の700億円の10分の1以下になるのではないかと思います。また、徴収率が100%近い値になることを考慮すると、現行よりも20%から30%程度値下げができるのではないかと思います。

 但し、この方法でも、NHKを見ていない人にとっては、やはり受益者負担の原則から外れ、不満が残る結果となりますが、強制徴収される公共放送番組部分の料金設定を低く抑えれば、多少は不満感を軽減することができるのではないかと思います。

5. その他の影響

 徴収した受信料がNHK特別会計のような取り扱いになると、実質的にNHK税になります。NHKに受信料の徴収能力がなくなるので、国への依存が強まり国営放送的な色合いが、現状よりもさらに濃くなる可能性があります。

 また、現在は、受信料不払いにより、NHKに対し異議あることを意思表明することができます。しかし、ここで説明した受信料徴収モデルでは、NHKに安定収入を与えることになります。このため、NHKは、これまで以上に、視聴者を無視し、好き勝手な放漫経営や政府寄りの公平性に欠ける報道を行う可能性があります。

 視聴者が、NHKを監視し、異議申し立てを行うことができる強力なメカニズムを設けることが必要です。

 最低限でも、NHK会長や経営委員の信任投票の制度はあるべきです(データ放送のボタンをポッチとすれば、簡単に投票できます。現在でも導入すべきですね)。

 まずは、受信料義務化の前に、視聴者による監視メカニズムを設けるように法改正を行い、次の段階で、受信料の義務化という順番でしょうね。

(2016/11/1)

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【NHK】受信料義務化で国内最大のサラ金へ?

 NHKの受信料の義務化が、しばしば話題になります。最近でもワンセグ裁判で契約が義務ないとの判決がでており、関連して「支払義務化」についての記事も見かけるようになりました。本記事では、NHKの受信料義務化に伴う影響について、未払い受信料が債権であるという観点から考えたいと思います。

受信料の義務化とは

 NHKの義務化については、特に去年の自民党「放送法の改正に関する小委員会」が昨年9月に「受信料の支払義務化」の提言をまとめたことから、ニュースや新聞でいろいろと取り上げられました*1。ワンセグ裁判や同時配信などの報道でも、受信料の義務化が話題になっています*2

 NHKの受信料義務化について簡単に説明します。NHKの受信料の支払は、(1)NHKとの受信契約を行った後に、(2)受信契約に基づきNHKへの支払いを行うという流れになります。現在、法律(放送法64条1項)で、視聴者に義務付けられているのは、(1)のNHKとの受信契約です。受信料支払については義務付けられていません。しかし、(2)のNHK受信規約に基づきNHKと受信契約を結ぶと、受信料の支払義務が発生します。

 受信料の支払義務化とは、法律を変更して、(1)の放送法の段階で受信料の支払を義務化するというものです。

受信契約をしていない人はどうなるか?

 受信料を義務化すると、現在、受信契約をしていない人でも、NHKへの受信料支払義務が発生します。そのままの状態を継続すれば、NHKへ支払うべき受信料債務が発生します。一方、NHK側から見れば、NHKが回収すべき債権が発生します。

 つまり、受信料未払いの視聴者は、債務者となり、NHKは債権者となります。

 現在、受信契約をしている世帯が全体の80%程度です*3。具体的には、2015年度末で、対象世帯数4652万世帯のうち、契約世帯数は3671万件で79%、世帯支払い数は3564万件で77%となっています。

 義務化をすれば、受信料を支払わない視聴者は、いきなり債務者になります。受信契約率が同じであれば、未払い世帯数は、現在の107万世帯から1088万世帯となり、一挙に10倍の世帯が債務者となります。

 現状でも、未契約者は契約した時点で過去に遡った受信料債務を抱えることになります。つまり、表面に現れないだけで、NHKは多額の隠れ債権を持っています。未契約世帯の大部分がテレビ設置から10年を超えると考えられるので、現在、NHKは数兆円規模の隠れ債権を持っていると容易に推測することができます。

NHKは国内最大の消費者債権を保有

 NHKの支払をしなかった場合の債務は、NHK放送受信規約第12条の2(支払いの延滞)によれば1期(2カ月)毎に、2.0%の延滞遅延金が発生します。これが単利なのか複利なのか良く分かりませんでしたが、単利計算であれば、年率12%の延滞利息、複利計算であれば、1年で1.026=1.1262なので年率12.62%の利息となります。消費者金融並みの利息です。

 仮に地上契約(月額1310円)で5年以上不払いを続けると、次の債務額となります。

  • 支払うべき受信料(元本相当):1,310円×12カ月×5年=78,600円
  • 延滞遅延金を含む債務(単利計算):101,394円
  • 延滞遅延金を含む債務(複利計算):106,288円

 5年以上の不払いでも5年で計算しているのは、受信料債務の時効が5年であるため*4

 仮に2015年度末の未払い世帯数と同じ1088万世帯が5年分の未払い債務を抱えるとすると、以下の債権をNHKが持つことになります。

  • 106,288円×1088万件=1.15兆円(複利計算)

 つまり、NHKは、消費者金融最大手のプロミスの貸付金残高1.02兆円を超える債権を持つことになります*5

 1088万世帯がそれぞれ13年間滞納すれば、NHKは1088万件×482,881円=5.3兆円(複利計算)の債権を持つことになります(時効は裁判を経ないと適用できない)。年利12.62%なので、年間約6600億円の債権が増加します。延滞遅延金を取り立てるだけで、現在の受信料収入と同額となりますので、NHK受信料の無料化が実現できます(笑)。

 現在でも、NHKは107万世帯の債務者(未払い世帯)の多額の債権を持っています。NHK財務諸表(2015)によれば、170億円の受信料未収金があります。実際の額面上の債権総額は良く分かりませんが、年間170億円の新規債権が発生していると仮定すると、単純に5倍すると850億円となります。このため、NHKは、現在でも、額面ベースで1000億円前後の債権を持っているのではないかと推察できます。

厳しい取立てが可能なNHK

 消費者金融は、昔はサラ金と呼ばれていました。サラ金といえば、厳しい取り立て。これが社会問題となり、現在では、貸金業法により、厳しい取立ては禁止されています。例えば、以下のような規制があります。

 貸金業法貸金業法施行規則で規制される違法な取り立ての例*6
●「午後9時~午前8時以外の時間に債務者に電話をかけたり、FAXを送ったり、自宅を訪問すること」(貸金業法第21条の1)
●「債務者から、訪問に対して退去するように意思表示されたにもかかわらず、退去しないこと」(貸金業法第21の4)

 一方、NHKは貸金業をしているわけではないので、この規制は適用されません。このため、NHK集金人は貸金業法で禁止されているような行為を日常的に行います。また、貸金業法では、上記のような取立てを行えば、業務停止命令を受けるなどの処分が下される場合がありますが、NHKの場合には、NHK集金人が貸金業法で違法となるような取立て(契約活動)を行っても、処罰を受けることはありません(NHKの場合は、合法ですから)。

NHKは国内最大のサラ金へ

 今後、受信料を義務化すれば、NHKは1兆円規模の債権を保有し、国内最大の債権者を抱える組織となります。つまり、NHKは、貸金業法で違法となるような厳しい取立てをすることができる国内最大の"サラ金"となると言えます。

 また、NHKは債権回収(契約業務)を外部委託しているので、債権回収の業者は繁盛しますが、人手不足で、今よりもさらに悪質な集金・取立が行われ、多数の視聴者がその被害を被ることになるでしょう。

まとめ

 受信料義務化に伴い、NHKは国内最大の消費者債権を持つ巨大組織となります。この消費者債権を持つNHKは、貸金業法に基づく規制が適用されず、合法的に貸金業法で禁止されるような悪質な取立てが行えます。これまでよりも、多くの視聴者が被害を受けることが予想されます。

 現状でも、多数の被害者が出ています。少なくとも、金融業法で禁止されているような行為を禁止し、違反すれば、NHKに対する業務停止を含む改善命令を下せるように法改正をすべきです。

 また、義務化をするのであれば、集金人を使うというような時代遅れでトラブルが多い方法で契約・債権回収をするのではなく、トラブルが発生しない方法をセットで考えるべきでしょう。

 スクランブル化は、視聴者間の不公平感もなく、NHK被害者が少なくなる最も良い方法ではないかと思います。また、スクランブル化によって、受信料収入の増加も期待できるので、NHKの経営によっても良い施策ではないでしょうか。NHKは良質なコンテンツを作る能力はあるのですから、減収を心配する必要など全くないでしょう。

 いずれにせよ、NHK集金人による横暴で悪質な取立ての被害者を増すことがないよう施策を講じる必要があります。

(2016/10/30)

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【NHK】テレビ付き賃貸物件、支払い義務なし

 10月27日にレオパレスのテレビ付き賃貸住宅について、居住者にNHK受信料の支払義務なしとの判決が東京地裁で下され、NHKは敗訴しました。報道を見る限りでは、NHKの敗訴は当然と言える内容でした。この判決に対して、NHKは控訴するようですが、素直に非を認めるべきではないでしょうか?

1. 裁判の概要

 いくつかのニュース記事 *1 *2 *3から、その概要をまとめると以下の通り。

  • 事件の概要
    • 原告の福岡市の男性が勤務先の指定で兵庫県内のマンスリーマンション(レオパレス21)に短期プラン(30-100日)で33日間入居した(2015年10月19日入居)。
    • 約10日後、NHK訪問員から執拗に契約を迫られ、サインの上、2カ月分の受信料(2620円)を支払った。
    • 男性は、2015年11月20日に退去。後にNHKは男性に1カ月分の受信料1310円を返還したが、残る1カ月分は返還しなかった。
    • 男性は「自分がテレビを設置したわけではないのに、不当に受信契約を結ばされ、受信料を支払わされた」として、NHKに1カ月分の受信料(1310円)の返還を求めた。
  • 争点
    • 原告の主張
      • テレビを設置したのはレオパレスである。
      • 短期間の宿泊施設として利用されるホテルでは、ホテル側が受信料を支払っている。
    • NHKの主張
      • マンションの運営業者は「受信料は入居者が負担する」と明示していた。
      • 「受益者負担」の観点から、テレビを現実に占有・管理している入居者が実質的な「受信設備を設置した者」に当たる。
  • 判決要旨
    • 受信料とはNHKの放送を視聴する対価ではなく、公共的なNHK放送を維持するために、テレビを設置した者に対して公平に負担を課すものだ。NHKが視聴の対価として受信料を理解しているとすれば間違いだ。テレビ設置者を問題にせず、テレビの使用者を問題にしている点も失当だ。
    • 男性の入居時点で既に設置されており、貸主側が設置者と推認される。
    • 「設置者」は、実際の視聴者が誰かが問題ではなく、物理的・客観的にテレビを設置して受信できる状態を作り出した者である。
    • よって、未返還の受信料全額(受信料1か月分,1310円)の返還をNHKへ命じた。
  • NHKの対応
    • 即日控訴した。

 また、背景としては、以下のことがあります。

  • レオパレスの物件では、入居者がNHKの受信料を支払うように定めており、空室では受信料が支払われていない。
  • レオパレス21によると、同社のテレビ付き賃貸物件の入居者側の支払い義務を否定した判決は初めてという。同社は50万件以上のテレビ付き賃貸物件を扱うが、従来は入居者がNHKの受信料を支払っていた。

2. 破綻しているNHKの反論

 「受益者負担の観点から、テレビを現実に占有・管理している入居者(レオパレスの利用者)が「受信設備を設置した者」に当たる」とNHKが本当に主張しているのであれば、あまりにも論理が飛躍しています。

 受益という点では、レオパレスも受益者で、テレビが予め設置されていることを売りにして賃貸サービスをしているわけで、素直に考えれば、ホテルと同様にレオパレスと受信契約を結ぶべきです。

 判決はさらに突っ込んでいて、受益は関係ない(「NHKが視聴の対価として受信料を理解しているとすれば間違いだ」)と言っています。受益は無関係というのは放送法上はそうだと思います*4。だから、NHKの視聴の有無に無関係(受益に無関係)に、NHKの受信できるテレビを設置すると受信料を払わなければならないのです。しかし、放送法は受益者負担の原則に反しているので、憲法に照らせば問題があるような気がしますが、該当する憲法の条文が分からない…。憲法13条(自由及び幸福の追求)や憲法29条(財産権の保護)に違反しているような気がするのだけど、論理の組立が難しく、ちょっと無理のような気もする。

 また、「受信料は入居者負担とする」と明示しているとのNHKの主張ですが、少なくとも「入居者がNHK受信契約を結ぶ」というレオパレスとの契約でなければ、利用者にはNHKとの受信契約義務は発生しないでしょう(それでも、利用者に契約義務があるかは疑わしいです)。

 但し、利用者はレオパレスに対するNHKの受信料金分の支払義務は残ります。賃貸料金の中にNHKの受信料金が入っているのか入ないのか知りませんが、賃貸料金とは別に受信料は入居者負担ということなのでしょうかね。

 NHKは即日控訴しましたが、明らかに無理筋の裁判でしょう。これまでもレオパレスを始めとして、いろいろなところで違法な受信契約を居住者にさせているので、引くに引けないということだと思いますが、そんな理不尽なことをやっているから、アンチNHKが増えるのではないですかね?

3. NHKによる強引・脅迫的な契約の強要と取立て

 原告の方も、1310円の金の欲しさで、裁判を行っているわけではなく、NHK訪問員の執拗・強引さ、NHKの理不尽な対応に怒りを覚えて、訴訟をしているのでしょう。これは多くの体験者の共感を呼ぶところではないでしょうか?

 前日の10月26日にもNHK関連の訴訟で東京地裁の判決がありました。こちらは、原告敗訴でしたが、ビデオに撮っておけば勝訴したでしょう。

 裁判官も、NHK訪問員によるトラブルは日常茶飯事で、被害女性の恐怖を理解できないわけではないでしょうが、確たる証拠がないことには、いかんともし難いです。

 従業員に呼び鈴を10回ぐらい鳴らされ、拒否するとノックが激しくなった。払うまで帰らないと言われた。
出典:産経ニュース, 「「NHK受信料のしつこい取り立てで苦痛」認めず 東京地裁、脅迫や強要否定」, 2016/10/27.
 男性従業員が「呼び出しのチャイムを計10回鳴らし玄関ドアをどんどんと叩き」、「支払いを求めて玄関の中に足を踏み入れ」、受信料の支払いを強いた。
出典:弁護士ドットコム, 「「NHK受信料の取り立てに強い恐怖」担当業者を訴えた裁判で原告敗訴…東京地裁」, 2016/10/26.

 精神的苦痛で慰謝料を要求するのには、イマイチ弱いかも、ですが、男の私でもNHKの訪問員には恐怖を感じますから、さぞかし恐ろしかったのではないかと思います。

 さらに、15万円も滞納していたので、要するに昔のサラ金の取り立て屋みたいなの(あくまでもドラマイメージ)が来たのでしょう。現在は、消費者金融(サラ金)がNHKのような取り立てをすると、違法行為になってしまうので、少なくとも大手の消費者金融はやっていないと思います。

 貸金業法貸金業法施行規則で規制される違法な取り立ての例*5
●「午後9時~午前8時以外の時間に債務者に電話をかけたり、FAXを送ったり、自宅を訪問すること」(貸金業法第21条の1)
●「債務者から、訪問に対して退去するように意思表示されたにもかかわらず、退去しないこと」(貸金業法第21の4)

 NHK訪問員は貸金業法で禁止されているようなことは、平気でやりますので、NHKはサラ金よりも悪質な業者ということです。少なくとも、貸金業法で禁止されている行為は法律で禁止してもらいたいです。一部の悪質なNHK訪問員は、刑法犯罪(住居侵入罪や不退去罪、恐喝罪、強要罪、詐欺罪など)をしていると思いますが、それだけだと、NHKそのものを処罰することはできないですから。

4. 最後に

 なぜ、NHKは、敗訴することが分かっているような裁判に上告するのでしょうか。個人対組織の戦いなので、個人は消耗戦についていくのは大変です。原告イジメとしか思えません。

 思い出すと、腹が立つNHKの押し売り員。こんな裁判を続けているのなら、アンテナ外して、BS契約は解除しようかしらん(前々から解約しようと思っていたのだが、面倒なので放置していた)。

(2016/10/28)

付録A. NHKは、既にレオパレスに契約を断られていた(追記)

下記の記事によれば、既にNHKとレオパレスは、受信契約の協議をしていたようです。

かつて、NHKとレオパレス側は受信契約についての協議を行いました。
結果的に「入居者が居ない時期の受信料免除」がNHK側に受け入れられなかったことから受信契約を行わないこととしました。
レオパレス側は「テレビは使用目的を定めずに入居者に貸し出すためにそこに置いてあるだけ」とし、いわゆる「協会の放送を受信できる設備の設置者」ではないと主張、レオパレス規約に「NHK受信料は入居者負担とする」という一文を入れることでその後の訴訟に対応できる体制を整えました。
NHK側はレオパレスと明確に合意したわけではありませんが、事実上その主張を認めているようです。
出典: sabotennetobasさん, 「レオパレスにおけるNHK受信契約」, Yahoo!知恵袋, 2011/12/24.

 この記事が事実だとすると、NHKは入居者に受信契約義務がなく、レオパレスに受信契約義務があると認識していたと理解できます。放送法上もレオパレスと契約することが適当ですし、NHKもそれは理解しているはずです。

 要するに、NHKはレオパレスに断られたので、取れるところから取ったということですね。

 極めて悪質です。NHKの訪問員にせよ、この事例にせよ、法令順守の概念がNHKにはないのでしょうか?大手企業で、このように悪質な事例は聞いたことがありません。

付録B. レオパレス裁判判決文 (追記:2016/11/1)

 判決文がありました。

NHKとの裁判また勝ちました ワンセグに続きレオパレスも|NHKから国民を守る党 公式ブログ

 論理構成はシンプルで比較的分かりやすい判決文です。

 NHKの反論も大したことを言っているわけではありませんので、上級審で判決が逆転することはないでしょう。

 NHKは最高裁まで戦うつもりなのかもしれませんが、こんな勝ち目のない裁判を継続するなんて、NHKは視聴者のためのNHKではなく、単なる守銭奴ではないですか。

付録C. 原告へのインタビュー (追記:2016/11/6)

 原告へのインタビューがありました。

NHK相手に裁判してくれている方の紹介です レオパレスは【オーナー】か【住民】どちが支払うの?|NHKから国民を守る党 公式ブログ

 やはり、集金人の恐喝によって、契約を強要されていたようです。

 ワンセグ裁判は「NHKから国民を守る党」所属の市議会議員によるものでしたが、レオパレス裁判も、立花氏が支援した裁判だったのですね。

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テレビ放送を停波せよ!5G通信による放送の終焉

 最近、総務省がテレビ放送のネットへの同時配信を解禁するという報道がされていますが、今回の記事では、通信技術の進歩に伴う、放送と通信の役割交代について、表現の自由の観点から考えたいと思います。

1. 放送と通信によるテレビ映像の同時配信

 テレビ放送とネット通信による同時配信するサイマルキャストについて、その実現に向け総務省が検討会を設置したことから、NHKによるサイマルキャストが現実味をもってきた(解禁する)と新聞各社が報道しています*1。但し、総務省の資料を読む限りでは、NHKという個別案件には、踏み込んではいないように読み取れます*2

 個人的には、受益者負担の原則が担保されるのであれば、NHKがサイマルキャストを行うことに特に異論はありません。但し、現状のNHK放送では、NHKを見ない人にも契約を強要し、受信料を払わない人がNHKを見ることができるなど、受益者負担の原則から外れる事態となっています。アナログ放送が始まった当初であれば、仕方ない面がありました。しかし、現在は技術的に容易に解決できるにも関わらず、全く対策を取っておらず、非常に問題があると考えています。

 サイマルキャストでも、受益者負担の原則から外れて、パソコンやスマホを持っているだけで課金するというようなことは、あってはなりません。また、視聴者に費用請求する代わりに通信事業者にNHKの費用負担を要求するなどということも当然あってはなりません(通信コストは、通信網を使うコンテンツ事業者側と視聴者側で負担すべきですから、本末転倒です)。

 いずれにせよ、テレビ放送を通信を使ってブロードキャスト配信できる環境が整いつつあるということです。今回の記事では、放送における表現の自由と技術的に可能となる通信によるテレビ映像の配信について考えたいと思います。

2. 放送における表現の自由

2.1 放送における政治的公平性

 放送法では、「政治的に公平であること」(放送法第4条)を求めています。

 このように放送では、政治的公平性などが求められ、表現の自由が一部制約されるのは、電波の帯域が限られているため、誰もが自由に参入できるものではないということに起因します。これが紙媒体やインタネットであれば、公序良俗に反しない限りは、表現は自由です。不偏不党や政治的公平性は求められません。

 この政治的公平性は実際には実現不可能な理想であるため、政治的に公平でない放送が必然的に行われます。

 実際、公平というのであれば、先の東京10区の補欠選での幸福実現党の立候補者を無視すべきではないし、都知事選の候補者であるスマイル党総裁のマック赤坂も大いに取り上げるべきです。個人的にはいずれの候補者も無視してもらった方が有難いですが、それぞれの候補者を無視することが政治的に公平であるかと問われれば、公平とは言えないでしょう。選挙では、一応、政見放送という候補者が主張をできる場を提供はしていますが、あくまで公平でない放送に対する補償に過ぎません。

2.2 放送局への政治介入

 放送事業は、免許事業であるが故に、免許取消等を示唆することで、放送事業者への政治介入が行われます*3*4。脅しの効果があったのか、なかったのか、今年になって立て続けにテレビ朝日「報道ステーション」の古舘伊知郎氏、TBS「NEWS23」の岸井成格氏、NHK「クローズアップ現代」の国谷裕子氏など辛口なニュースキャスターが降板となりました*5

 個人的には、私にとっての主要3番組が見る価値がない(存在しない)ものになってしまったので、残ったのは、WBSぐらい。辛口コメントもなく、単にニュースを流しているだけなら、ネットで十分です。今では、伝統的なニュース番組よりも、寧ろ、ワイドショーの方が、深掘りや追及が激しく、余程ジャーナリズム精神に溢れているのではなかと思います(東京都のネタが尽きると、ゴシップ番組に戻る気もしますけど)。

 NHKに至っては、政治介入どころか、政権が経営陣の人事権を握っていますので*6*7*8、籾井会長曰く「政府が右と言っていることを左と言う訳にもいかない」と、公平でない放送を目指す放送局となっています。

 日本は、放送の政治介入や自主規制、政権の意を忖度した報道姿勢などが評価されてか、2016年の世界の報道自由度ランキングで、71位のタンザニアの下の72位となりました。日本以下には、レソト・アルメニア・ニカラグアが続きます*9。2010年の11位からの見事な急降下。実に不名誉なことです。

2.3 放送メディアの表現の自由の限界

 放送は、電波の帯域制限から自由な参入ができず、免許事業となります。また、自由に参入ができない免許事業であるが故に、放送には公平性が求められます。しかし、この公平性を理由に免許取消をちらつかせることで、政権に批判的な放送に政治介入をするという余地ができてしまっています。また、NHKにおいては、そもそも時の政権が経営者を選ぶので、政権の意向に沿う報道を行うことは当然と言えば当然です。

 これが、放送というメディアにおける表現の自由の現実であり、限界です。

3. 通信による放送の終焉

 さて、ここからが今回の記事の本題です。放送で表現の自由が制約され、通信では制約されないのであれば、今後10年単位のスパンで目指すべきものは、通信によって放送を終焉させることではないかと思います。過激です(笑)。

3.1 5G時代の通信速度

 現在のインタネットの通信速度は、おおよそ光ファイバー回線で1Gbps、現状のLTE通信で100Mbps。これが2020年頃に導入され始める5G通信となると現状の約100倍の10Gbpsの通信速度となります*10。通信速度が100倍になったとしても、基本的には、通信費は100倍にならず、現状と同程度、許容される通信のデータ総量も100倍程度になると思います。現状での通信量制限はほぼ撤廃され、映像を5G回線で好きなだけ自由に視聴できるようになるでしょう。

 但し、2020年の段階では、無線通信で各世帯が現状のテレビのように視聴したら通信容量オーバーとなる可能性はありますが、さらに10年も経てば、それも問題とならないでしょう。有線通信ならば、徐々に移行するのであれば、現状でも、十分、通信負荷に耐えられると思います。また、映像の配信をユニキャストではなく、マルチキャストで実現するのであれば、通信網への負荷を大幅に低減できます。

 なお、放送を通信に置き換えたとしても、テレビのユーザインタフェースは、現状のテレビと変わらないように作ることはできるので、「パソコンを使わなきゃいけないの?」と心配する必要はありません。現状でも、最近のテレビであれば、AmazonビデオやU-NEXT、Netflix、Huluなど普通に見られます(通信回線とコンテンツ事業者との契約は必要)。

3.2 放送から通信への移行

 放送では参入制限から表現の自由は制限されますが、通信では、表現の自由は担保されます(されるべきです)。今後、技術的に放送を通信に置き換えても問題にならないのであれば、表現の自由が制約される放送は廃止し、通信に移行すべきです。

 その際に、現状の放送事業者は、コンテンツを配信する土管(無線局)としての役割を通信事業者に譲り、コンテンツ制作者に特化することになります。コンテンツに魅力がなければ視聴されず、その事業者は淘汰されることになりますが、致し方ないでしょう。また、コンテンツを制作せず、放送を配信する土管事業を行っているだけの放送局は存続できません。

3.3 NHKの位置づけ

 このとき、NHKはどう扱うべきでしょうか?

 「公共放送とは何か?」というNHKの存続意義についての本質的な問いに対して、合理的で納得できる回答が得られないのであれば、NHKは民間企業として他のコンテンツ事業者と同じ土俵で競争すべきでしょう。このとき、NHKに求められていた公平性の制限は不要です。コスト回収も、自助努力によってなされるべきで、現行の受信契約制度のような特別な優遇をする必要もありません。

3.4 通信事業者の位置づけ

 また、通信事業者はどう扱うべきでしょうか?

 通信事業者は、コンテンツ事業者への公平性が求められるので、コンテンツ事業は分離する必要があるでしょう。これは、現状の放送と同じように通信事業は誰もが参入できる自由度がないためです。

 通信事業者とコンテンツ事業者は分離されるべきであるという観点からすると、AT&Tのタイム・ワーナー買収*11は許可されるべきではありません。しかし、通信とコンテンツの垂直統合という流れがあるので、買収審査はどうなるのでしょうかね。垂直統合は通信設備の費用を誰が負担すべきかという問題とも関連します。垂直統合は、コンテンツ事業者が上げた収益は通信事業者には還元されないという、昔から指摘されてきたコンテンツ事業者の通信網のタダ乗り問題に対する対抗手段となり、コンテンツ事業の収益を通信設備の投資に充てる余地ができます。しかし、これは他のコンテンツ事業者の排除にも繋がります。

4. まとめ

 いずれにせよ、将来的には、放送を通信に置き換え、表現の自由が制限される放送はその歴史的役割を終え、終焉を迎えるべきです。

(2016/10/28)

*1:例えば、
朝日新聞DIGITAL, 「NHKは悲願、地方民放は試練 ネット同時配信解禁へ」, 2016/10/19.
読売新聞, 社説「ネット同時配信 公共放送の役割を吟味したい」, 2016/10/26.

*2:総務省が10月19日開催の情報通信審議会で同時配信を実現するための「「放送コンテンツの製作・流通の促進等に関する検討委員会」を設置しました。この中で、サイマルキャストについても議論されます。

*3:日刊ゲンダイDIGITAL, 「「報ステ」にまた圧力…自民党がテレ朝幹部を異例の呼び出し」, 2015/4/15.

*4:木村正人, 「「政治的公平」違反繰り返せば「電波停止も NHK・民放VS高市バトルの行方」, 2016/2/9.

*5:産経ニュース, 「古舘、岸井、国谷キャスターも… テレビ報道の顔交代 「公正」注文で及び腰?」, 2016/1/21.

*6:正確には、NHKの経営委員は国会の同意のもと内閣総理大臣が任命し、経営委員会がNHK会長を任命します。

*7:J-CASTニュース「NHK経営委員に仰天「安倍人事」 百田尚樹、長谷川三千子氏ら「保守派論客」メンバー」, 2013/10/25.

*8:日刊ゲンダイDIGITAL, 「官邸の“NHK支配”ますます加速 安倍シンパが経営委員長に」, 2016/7/2.

*9:朝日新聞DIGITAL, 「報道の自由度、日本は72位 国際NGO「問題がある」」, 2016/4/20.

*10:ラクジョブ新聞, 「携帯電話の通信速度が現在の100倍へ!第5世代移動通信(5G)で変わるゲーム開発の可能性」, 2016/6/10.
総務省, 「2020年代に向けたワイヤレスブロードバンド戦略」,2015/6/26.

*11:日経新聞Web版, 「AT&T、複合メディアに タイムワーナー買収を発表 」, 2016/10/24.

マイナス金利で楽々ご返済-国債のご利用は計画的に-

マイナス金利の国債

 最近、国債の金利がマイナスになったとよく聞くようになりました。日銀の異次元金融緩和の一つとして、日銀が国債を高値で買っているためです。

 国債の金利がマイナスといっても、表面利率はプラス金利の国債です。表面利率とは、国債の額面額に対して年間で得られる利子で、表面利率がプラス金利の国債を持っていれば、毎年利子が支払われます(通常は6カ月毎)。このため、高値で買っても同じ金額で売れれば、利子の分だけ利益が得られます(インカムゲイン)。たとえ高値で買った国債でも、さらに高値で売り抜けられれば、それでも利益を得られます(キャピタルゲイン)。逆に、安値でしか売れなければ、損失がでるかもしれません。

 国債の金利がマイナスとは、正確には、利回りがマイナスということです。マイナスの利回りでは、落札から償還まで持ち続けると損失が発生します。

表面利率と利回り

 さて、国債では、国が発行した時点の落札額で、国にとっての利回りが確定します。今年6月の10年債(第343回国債, 2016/6/20発行, 2026/6/20償還)*1を使って、利回りを計算してみます。

 直近の国債の入札では、表面利率は\alpha=0.1%、平均落札価格は額面100万円に対して落札額x=101.96万円で落札されています。このデータを用いて次の式から平均利回りrが計算できます。


r = \frac{(100+\alpha\times10)-x}{10x}=\frac{(100+0.1\times10)-101.96}{10\times101.96}=0.094\%

 上式の(100+0.1\times10)の項は、額面金額と10年間の受け取り利子の合計です。額面100万円の国債に対して、年間0.1%(0.1万円、つまり1000円)の利子が10年分もらえるので、100万円+1000円\times10年で合計101万円となります。 この国債を償還日まで持っていれば、101万円が得られます。

 一方、落札価格は101万9600円です。[償還の際に得られる金額]から[落札価格]を引くことで、10年間の損益が得られます。この場合では、10年で9600円の損失となります。年単位の損失は、9600円を1/10にした960円です。これを落札価格で割って百分率で計算すると、0.094%の損失、つまり、マイナス0.094%の利回りとなります。

 1989年からの表面金利と利回りの推移を図1に示します。表面利率と利回りは、基本的にはおおよそ一致しますが、最近はその差が大きくなっています。これは、日銀が行っているマイナス金利政策という歪んだ市場介入によるものです。日銀の市場介入がなければ、ほぼ一致するはずです。

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図1:1989年4月から2016年6月までの10年債の表面利率と平均利回の推移。
最近は、表面利率と利回りの差が大きくなっている。


日銀の歪んだ市場介入

 今年6月発行の10年債の場合、償還日まで持っていても101万円しか得られない国債ですが、101万9600円で購入する落札者がいます。101万円で購入した国債でも、最初の1年を経過すれば、1000円のキャッシュが得られます。2年、3年と保有すれば、2000円、3000円とキャッシュが貰えることになります。定期的に貰えるキャッシュは、金融機関には安定的な収入となるので、ある程度保有はしておきたい。償還日までに、購入金額から累積利子を引いた額以上で売れれば損失はでないので、買い手がいればマイナス金利となる国債でも買っておきたいということではないかと思います。マイナス利回りとなる国債に金融機関が入札をするのは、その後に、日銀がさらに高値で購入してくれるからでしょう。

 通常であれば、購入日から償還日まで持っていると、損失がでるようなマイナス金利国債は誰も購入しませんが、いまは日銀がいます。日銀が次々と高値で購入していきますので、インカムゲインのために国債を保有しておきたいとしても、キャピタルゲインでより多くの利益が得られるのであれば、金融機関は国債を売却します。国債を売ると、金融機関にはキャッシュが入ってきますので、市場に資金を投入することができます。日銀バキュームカーが金融市場を走り回って、損失がでるような国債でも次々と吸い上げ、金をばら撒いているといったところでしょうか。

 現在、日銀は年80兆円のペース*2と、国債発行総額以上の国債を購入しています(但し、借換債を除く)。このままのペースで日銀が国債を購入すると、あと数年で市場に国債はなくなります。逆にいうと、それまでは、市場に残っている国債を吸い上げて、キャッシュを落とすことで、市場に資金供給をすることができるのですが、そろそろ限界だろうと言われています。

 次に待ち受けているのは、市場を通して資金供給するのではなく、国経由で市場に資金を供給することです。所謂、ヘリコプターマネー*3。一応、日銀法によって、国債の引受は禁止されていますが*4、現状でも市場経由とは言え、国の発行額以上の国債を購入しているので、国債引受のようなものです。現在の日銀は、政権の下請けのような機関なので、本当にヘリコプターマネーを実施してしまうかもしれません。

マイナス金利国債で国の借金が減る?

 さて、ここからが本題。

 考えてみれば、マイナス金利国債は、売れば売るほど国側で利益が得られます。現在、10年以下の国債はすべて利回りがマイナスの国債で、国債の発行が国の財源になるという不思議な状態です。

 さらに、ヘリコプターマネーをやるのなら、いっそのこと表面利率もマイナスにしてしまっても、似たようなものです(どちらも日銀しか引受手はいない)。表面利率がマイナスの国債だと、国債保有者(日銀)が毎年、国に利払いをするということになるので、発行すればするほど、国の収入が増加するという摩訶不思議な現象が起こります。つまり、国債が財源になるわけです。増えた収入を債務返済に回せば、借金も同時に減らすことができます。

 今後、日銀がマイナス金利国債の損失をどうやって補填するのか知りません。日銀も昔は業績が良かったので、容易に損失補填できる方法があるのかもしれませんが、いつまでも、マイナス金利国債を購入することは無理でしょう。それとも、輪転機を持っているので、福沢諭吉さんを大量に刷って購入し続けるのでしょうか(笑えない)。

 バキュームカーに溜まりに溜まった国債も、本来であれば放出しなければなりません。しかし、バキュームカーに溜まった国債は安値でしか売れません(金利は上昇)。また、国債の放出では、今度は、市場のお金をバキュームすることになります。結局、国債はバキュームカーに入れたままにしておくことになると思います。

 表面利率がマイナスの国債の日銀引受など、ほとんど破れかぶれの金融政策ですが、ご利用が計画的でない我が国のことなので、そんな妄想も起こってしまう今日この頃です。

(2016/10/26)

関連記事

我が家上空の厚木基地の自衛隊機は違法飛行?

1. 我が家上空の輸送機C-130Rの飛行高度は400m

 以前の記事で、我が家上空に飛行する厚木基地の輸送機C-130Rの飛行高度を推定しました。推定した飛行高度は約400m。ドローンが飛行できる高度が150mまでなので、極端に差があるわけではありません。もしかしたら、この飛行高度は違法ではないかと思って調べてみました。

2. 航空法における飛行高度に関する法規制

2.1 最低安全高度

 航空機の航行に関する法律で関わる法律は、航空法です。航空法第81条に最低安全高度についての規定があり、具体的には航空法施行規則第174条第1項で決められています。 それによれば、以下のようになっています。

  • 人口密集地は、近所の障害物の頂点から300m以上の高度
     第174条1項 イ 人又は家屋の密集している地域の上空にあつては、当該航空機を中心として水平距離六百メートルの範囲内の最も高い障害物の上端から三百メートルの高度
  • それ以外は、150m以上の高度
     第174条1項 ロ 人又は家屋のない地域及び広い水面の上空にあつては、地上又は水上の人又は物件から百五十メートル以上の距離を保つて飛行することのできる高度
     第174条1項 ハ イ及びロに規定する地域以外の地域の上空にあつては、地表面又は水面から百五十メートル以上の高度

2.2 我が家は、人口密集地?

 国交省によれば、航空法における「人又は家屋の密集している地域の上空」は国勢調査の結果による人口集中地区の上空とのこと*1。具体的には、国土地理院の地図によって確認することができます。

 我が家は周辺が田んぼなので、「人口集中地区」扱いされていませんでした。但し、1kmほど離れたところの人口密集地で3方向が囲まれているので、ほぼほぼ人口密集地といったところでしょうか。

2.3 送電鉄塔の高さ

 我が家の600m以内には送電鉄塔が3つあります。飛行機は、人口密集地の場合、その鉄塔の頂点から300m以上上空を飛行しなければなりません。そうでない場合は、その鉄塔から150m以上離れて飛行しなければなりません。鉄塔の真上を通る場合には、(鉄塔の高さ)+150mとなります。

 近所の3つの鉄塔のうち2つは紅白の送電鉄塔です。60m以上の鉄塔は、航空法で紅白に塗る必要があるので、60m以上は確実です*2

航空機の飛行高度推定の記事とほぼ同じ考えで、写真から鉄塔の高さを計算してみました。未知数を高度(距離)ではなく、対象物の長さ(鉄塔の高さ)に変更することで、鉄塔の高さを計算することができます。また、距離は、Googleマップを用いて計測しました。

 計算結果は、以下の通りです。

  • 距離195mの鉄塔:約60m
  • 距離520mの鉄塔:約90m

 90m鉄塔の方は、予想以上に高かったです。人口密集地であったとしても、高度400mの飛行であれば、ぎりぎり航空法上は違法にはなりません。

  • (人口密集地)  90m鉄塔+300m = 390m以上
  • (非人口密集地) 90m鉄塔+150m = 240m以上

我が家の場合は高さ20m~30mぐらいの避雷針が立っているので、規制値は170m~180m以上で、我が家上空であれば、違法飛行にはなりません。

3. 海上自衛隊の通達による規制

 航空法は、ヘリコプターなどの回転翼による飛行機も含む規制ですが、自衛隊では航空法よりも厳しい最低安全高度を設定しています。海上自衛隊達3号「航空機の運航に関する達」(2013/3/12改正)の第48条(最低安全高度)によれば、以下となっています。

  • 人口密集地は、近所の障害物の頂点から600m以上の高度
     第48条(1) 人又は家屋の密集した地域の上空においては、当該航空機を中心として水平距離600 メートル(2,000 フィート)の範囲内の最も高い障害物の上端から 600 メートル(2,000 フィート)(回転翼航空機にあつては 300 メートル(1,000 フィート))以上の高度
  • それ以外は、地表から300m以上の高度
     第48条(2)前号の地域以外の地域の上空においては、地表面又は水面から 300 メートル(1,000フィート)(回転翼航空機にあつては 150 メートル(500 フィート))以上の高度

 ここで、回転翼航空機とはヘリコプターなどのことです。人口密集地では600m以上、そうでない場合は、300m以上と、航空法の規制の2倍の値としています*3。P-3CやC-130Rは固定翼機で回転翼航空機には該当しませんので、人口密集地で600m以上、それ以外は300m以上となります。

 我が家は人口密集地ではないので、飛行高度400mは、ぎりぎりセーフといったところでしょうか。人口密集地だったら、アウトです。

 但し、人口密集地でもほとんど同じ高度で飛行しているように見えるので、規定違反を犯して飛行をしている疑いは残ります。

4. まとめ

 我が家上空を低空飛行する自衛隊機の飛行高度の適法性について検証しました。今回の検証では、我が家上空に限っては、適法な飛行高度となっていました。但し、人口密集地でもほぼ同程度の高度で飛行している疑いがあり、違法飛行の可能性は残ります。

 神奈川県の基地問題の苦情窓口を見つけたので、違法であったら、ちょっと「ご意見」しようかと思いましたが、適法な飛行高度でした。人口密集地にいる方で、低空飛行だなぁと思ったら、チェックしてみてください。違法飛行である可能性がありますよ。

(2016/10/24)

関連記事

*1:国土交通省, 「無人航空機の飛行の許可が必要となる空域について」.

*2:

(昼間障害標識)
第五十一条の二  昼間において航空機からの視認が困難であると認められる煙突、鉄塔その他の国土交通省令で定める物件で地表又は水面から六十メートル以上の高さのものの設置者は、国土交通省令で定めるところにより、当該物件に昼間障害標識を設置しなければならない。
出典:航空法

また、航空法施行規則 第百三十二条の三で紅白の塗装について規定しています。

*3:厳密には、自衛隊通達の回転翼航空機の規制では、「航空法第174条1項 ロ」に相当する規制についての記述がないので、海上自衛隊の規制だけに従うと、航空法を違反する場合がでてきてしまいます。
 
 原因は、基本的には、航空法の174条第1項ロ、ハの規定が不適切な規定となっているからです。特にロは、「人又は家屋のない地域」といいつつ、人又は物件から150mと規定していて、論理的におかしいです。また、人・物体から150m以上離れなさいと規定しているだけなので、実際には最低高度を規定しておらず、高度1mでも構わない規定になっています。
 
 ロが意味する地域を「人又は家屋が密集していない地域」と解すると、今度はハの規定に合致する地域がなくなり、意味が分かりません。

 航空法第174条1項ロ、ハの意図するところは、次のようなところでしょう。

  • 人又は家屋の密集していない地域の上空及び広い水面の上空にあつては、地表面又は水面から百五十メートル以上の高度で、且つ、地上又は水上の人又は物件から百五十メートル以上の距離を保つて飛行することのできる高度

 但し、この規定ですと、200m級の送電鉄塔付近(鉄塔から150mの距離)でも150mの高度で飛行してもよいことになります。これでは、危険ですので、イの規定と同じように600m以内の障害物に関する条件を加えて、次のようにすべきでしょう。

  • 人又は家屋の密集していない地域の上空及び広い水面の上空にあつては、当該航空機を中心として水平距離六百メートルの範囲内の最も高い障害物の上端から百五十メートルの高度

なぜ、上記のように単純に300mと150mとしなかったのかは謎です(山岳部などでの飛行のために、水平距離600mの規制を入れたくないということなんでしょうか。それなら、それで規定の仕方はあると思いますが、...)。

写真からの航空機の飛行高度推定

 本記事では、地上から撮影した写真を用いて航空機の飛行高度を推定する方法を説明します。以前の記事で、我が家上空に厚木基地の哨戒機P-3Cや輸送機C-130が低空飛行すると書きました。以前から、その飛行高度を知りたいと思っていたので、本記事で実際の写真を用いて計算したいと思います。

 飛翔体の大きさが分かっている場合、カメラの撮影パラメータや実際の大きさ、写真上の大きさを用いて、飛行高度を推定することができます。本稿では、対象物の形状や向きを考慮しない簡易な推定方法について説明しますが、対象物の向きを考慮すると、ここで示した方法よりもさらに低い高度となることにご注意ください。

1. 飛行高度推定の計算式

 飛翔体は棒状物体と仮定し、その長さをL、物体の中心は高度Hにあり、飛翔体はカメラ視線と直交、天頂と視線が成す平面上にあると仮定します。ここで、\alphaを天頂方向とカメラを設置してある観測点Oから対象物の視線が成す角度、dを点Oから対象物中心までの距離、\thetaを対象物の両端を観たときの視角とすると、飛翔物とカメラの位置関係は図1のようになります。

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図1: 飛翔物とカメラの位置関係。


 この位置関係では対象物の高度Hには、以下の関係があります。

 d=\frac{L}{2\tan(\theta/2)}

H=d\cos\alpha = \frac{L\cos\alpha}{2\tan(\theta/2)}.     (式1)

 従って、長さL、角度\alpha、視角\thetaを知ることができれば、高度Hを計算できます。

 ここでは、棒状物体は、天頂と視線が成す平面上にあると仮定していますが、棒状物体が視線を回転軸とした回転をした場合でも、視角\thetaは変化しません。従って、この場合でも、上式を適用できます。

(追記: 2016/10/25) 上式では、視線方向と機体が直交することを仮定していますが、機体が水平に飛行することを仮定することもできます。\alphaが小さいときには、影響は小さいのですが、\alphaが大きくなると、影響を無視できません。このため、機体が水平であることを仮定した場合の飛行高度の推定を付録Cに追記しました。

2. 高度推定のためのパラメータ

 高度推定のためには、前節で説明した飛翔体の長さL、角度\alpha、視角\thetaのパラメータを知る必要があります。以下では、それぞれのパラメータについて述べます。

2.1 飛翔体の長さL

 飛翔体の長さLは、文献から知ることができます。今回、撮影した飛行機はC-130R輸送機で大きさは以下の通りです*1

  • 全長:29.8m
  • 全幅:40.4m
  • 全高:11.7m

 飛行機を見上げた画像からは、飛行機の高さはほとんど分からないので、以下では全高は用いません。

2.2 角度\alpha

 角度\alphaは、計測器を用いて撮影したわけではないので精度よく知ることはできませんが、おおよその目分量で10°から30°程度です。角度\alphaは、(式1)の\cos\alphaの項に影響を与えます。 具体的には、\cos(30°) = 0.86から\cos(10°) = 0.98の範囲となるので、最大1割強の差がでることになります。以下では、\cos\alphaの上限と下限の中央値をとって、\cos\alpha=0.92とし、誤差を±0.06として取り扱います。

2.3 視角\thetaの推定

 視角\thetaについては、実際に撮影した画像から推定します。

2.3.1 カメラの焦点距離からカメラの画角を求める

 35mm判カメラの焦点距離と画角\Thetaの関係は、以下の通り(参考:ウィキペディア「画角」)。

  \Theta = 2\tan^{-1}(\frac{36.0}{2FL}).

 撮影に用いたカメラはiPhone5sですが、iPhone5sカメラの35mm換算の焦点距離をFL=29.0mmとします(付録B参照)。このとき、水平方向の画角\Thetaは、以下の通り、63.6°となります。

  \Theta = 2\tan^{-1}(\frac{36.0}{2\times29.0})=63.6°.

2.3.2 カメラの画角と画像上の長さから視角\thetaを求める

 カメラの画角\Thetaと画像上の飛翔体の長さkから、視角\thetaを求める計算式について説明します。図2に示すように、カメラモデルはピンホールカメラでカメラ歪はなく、飛翔体は小さく、画像の中心付近で撮影されると仮定すると、以下の(式2)で視角\thetaを十分な精度で近似計算できます。ここで、Kは画像の水平方向の画素数でiPhone5sの場合3264画素、cは画像中心から飛翔体の中心までの画素数です。

  \tan(\theta+\beta) = \frac{b+k}{f}
を変形すると、
  \frac{\tan\theta+\tan\beta}{1-\tan\theta\tan\beta} = \frac{b+k}{f} ~,
\tan\beta=\frac{b}{f}を代入し、
 \frac{\tan\theta+\frac{b}{f}}{1-(\tan\theta)\frac{b}{f}} = \frac{b+k}{f} ~,
  f\tan\theta+b = \left(1-\frac{b\tan\theta}{f}\right)(b+k) ~,
  f^{2}\tan\theta = kf - b (b+k)\tan\theta ~,
  (f^{2}+b^{2}+bk)\tan\theta = kf ~,
  \tan\theta = \frac{kf}{f^{2}+b^{2}+bk} ~,
従って、
   \theta = \tan ^{-1}\left(\frac{kf}{f^{2}+b^{2}+bk}\right) ~.          (式2)

ここで、
  f =\frac{K}{2\tan(\Theta/2)} ~,
  b = c-\frac{k}{2} ~.

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図2:画像上の大きさkと視角\thetaの関係。


3. 実際の写真から飛行高度を推定する

3.1 画像を用いた飛行高度の計算式

 これまでの計算式、及び、パラメータをまとめると、以下の通りです。

  • H=d\cos\alpha = \frac{L\cos\alpha}{2\tan(\theta/2)}.         (式1)
  • C-130Rの長さL
    • 全長:29.8m
    • 全幅:40.4m
  • \cos\alpha=0.92\pm0.06
  •  \theta = \tan ^{-1}\left(\frac{kf}{f^{2}+b^{2}+bk}\right) ~.          (式2)
     ここで、
       f =\frac{K}{2\tan(\Theta/2)} ~,
       b = c-\frac{k}{2} ~,
       K=3264 ~,
       \Theta = 63.6°

 従って、画像上のC-130Rの幅や長さk、画像中心からの距離cを求めれば、高度Hを計算することができます。

3.2 輸送機C-130Rの撮影画像

 iPhoneで撮影した3枚の画像を図3に示します。iPhoneでも、プロペラや尾翼などが意外と高い解像度で写ります。

f:id:toranosuke_blog:20161021200916j:plain:w400 f:id:toranosuke_blog:20160910112500j:plain
(a) 画像1
f:id:toranosuke_blog:20161021200937j:plain:w400 f:id:toranosuke_blog:20160910112511j:plain
(b) 画像2
f:id:toranosuke_blog:20161021201002j:plain:w400 f:id:toranosuke_blog:20160910114140j:plain
(c) 画像3
図3: iPhoneによって撮影した輸送機C-130R。
右側は、左側の画像から切り出したC-130Rの画像。

3.3 飛行高度の推定

 撮影した画像から画像上でのC-103Rの全幅や全長を求め、飛行高度を計算しました。

画像1 画像2 画像3
画像中心からの距離c(ピクセル)153 364 146
全長(ピクセル) 134 177 184
全長の視角(°) 2.92 3.78 4.00
全長から求めた高度(m) 537\pm35415\pm27392\pm26
全幅(ピクセル) 187 205 203
全幅の視角(°) 4.07 4.38 4.41
全幅から求めた高度(m) 523\pm34486\pm32483\pm31

 画像1から画像3は同じ機体を追いかけて撮影しているので、高度はほぼ同じと思いますが、推定値は400mから550m程度の値となりました。付録Aで説明していますが、機体が傾くと、推定される高度は、実際の高度よりも高い値となります。

 画像1は明らかに他の画像に比べても斜めからの撮影になっていますので、それに伴って、推定高度は高くなっています。いずれの写真でも、機体を斜めから撮影していますが、画像2と画像3の全長方向(機首から尾翼まで)が最も斜めの度合いが低いようです。実寸の機体の全長は29.8m、全幅は40.4mなので、全長と全幅の比は 1.35 となりますが、画像2と画像3の全長・全幅の比は、それぞれ 1.15 と 1.10 で本来の比よりも2割程度小さく、全長に比べて全幅がより短く映っていることからも判断できます。

 画像2と画像3の全長から推定した高度は、415mと392mでした。斜めに映っていることを考慮すると、それよりも若干低い高度で飛行していると思われます。

4. 最後に

 本記事では、写真から航空機の飛行高度を推定する方法を示しました。また、iPhoneで撮影したC-130R輸送機の画像から、我が家上空の飛行高度を推定したところ、400m程度の飛行高度であることが分かりました。

 この程度の高度で飛行することは頻繁にあるのですが、結構うるさいです。自衛隊さん、出来ればもう少し上空を飛行してもらえませんかね?

(2016/10/22)

付録A. 対象物の向きを考慮した推定について

 対象物の向きを考慮した場合の高度推定について説明します。

 図4に示すように機体が傾いた場合、本文で示した方法で計算される推定高度Hは、本来の高度H'よりも大きくなります。これは、実際には低空を飛行しても、機体の傾きがあれば、傾きがないものとして高度を推定してしまうからです。

 もっと分かりやすく言うと、機体(棒状物体)が傾けば、小さく見えます。同じ大きさのものでも小さく見えれば、遠くにあると思ってしまうことと同じで、傾きが大きければ大きいほど、機体は小さく見えるために、推定高度はより高くなります。

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図4: 機体が傾いた場合、推定高度Hは本来の高度H'よりも高くなる。


 棒状物体モデルの場合、遠くて傾いていない機体と近くて傾いている機体の区別ができません。このため、棒状物体モデルの場合では機体に傾きがあると推定高度に誤差を生じさせます。しかし、航空機の形状を十字形でモデル化すると、傾きを考慮した飛行高度の推定式を導くことができ、より高い精度での推定が可能となります。具体的な計算方法を示そうかと思ったのですが、専門的で長くなるので、記事に含めませんでした。

付録B. iPhone5sの35mm判換算の焦点距離

 iPhone5sの35mm判換算の焦点距離は、AppleによるiPhone5sの技術仕様では公表されておらず、別の方法で調べる必要があります。以下では、公開されている情報からiPhone5sの焦点距離を推測します。

B.1 Exifデータでの35mm換算の焦点距離

 iPhone5sのカメラの35mm換算の焦点距離は、例えば、以下の記事では30mmと言われているようです。

 これらは、JPEG画像に含まれるExifの情報を根拠にしています。記事中のExifデータは「焦点距離4.1mm, 35mm判換算の焦点距離30mm」で、私の撮影した画像では、「焦点距離4.15mm, 35mm判換算の焦点距離29mm」と異なる数字となっています。カメラモジュールの変更、あるいは、ソフトウェア的な変更などなんらかの理由で、発表時のiPhone5sと現在のiPhone5s(購入はiPhone5sの発売当初)で違いがあることが分かります。

B.2 撮像センサの仕様から計算した35mm換算の焦点距離

 以下のブログに記載の方法に従って、iPhone5sのセンササイズ(4.89mm×3.67mm)から計算してみます。

 カメラの焦点距離flは、Exif情報の4.15mmと先のBrian Klugの記事にある値である4.12mm(他の記事でもよく記載される値)を用いて、35mm判換算の焦点距離f35を計算すると、 次の値となります。ちなみに35mm判のサイズは36mm×24mmです。

  • 水平幅を基準とした35mm判換算の焦点距離:
    f35 (fl=4.15mm) = 36×4.15/4.89 = 30.55mm
    f35 (fl=4.12mm) = 36×4.12/4.89 = 30.33mm

  • 対角長を基準とした35mm判換算の焦点距離:
    f35 (fl=4.15mm) = \sqrt{36^2+24^2} \times 4.15/\sqrt{4.89^2+3.67^2} = 29.37mm
    f35 (fl=4.12mm) = \sqrt{36^2+24^2} \times 4.12/\sqrt{4.89^2+3.67^2} = 29.15mm

 ここで、水平幅と対角長の二つの基準があるのは、iPhone5sのカメラはアスペクト比4:3、35mm判カメラがアスペクト比3:2と一致せず、35mm換算の計算時に基準の取り方に選択肢があるためです。

 計算した値は、Exif情報のfl=4.15mmを使うと、水平幅基準で30.55mm、あるいは、対角長基準で29.37mmとなります。対角基準の場合は、35mm換算焦点距離29mmのExifデータと矛盾しない値となります。

 ここで示した値の最小は29.15mm、最大は30.55mmで数%程度の違いです。今回の飛行機高度の推定には十分小さな差ですので、本稿ではExif情報の29mmをiPhone5sの焦点距離として取り扱います。

B.3 焦点距離は、水平基準か、対角基準か?

 Exifの規格*2では、アスペクト比が3:2でない場合の35mm換算の焦点距離の計算方法は規定されていないようです。このため、iPhone5sのExif情報の焦点距離29mmが、水平幅基準、あるいは、対角基準のいずれに基づいて計算されているのか分かりません。

 前記ソニックムーブのブログでは、iPhone5は水平基準で計算されていると推定されることから、本稿でもiPhone5sの場合も同様に水平基準から計算されているものと仮定します。

B.4 本稿で採用する焦点距離

 結論として、本稿では、iPhone5sの35mm判換算の焦点距離は、水平基準で計算された29mmとします。但し、推測誤差は5パーセント程度。

 5%程度の誤差であれば、自分で計測しても得られそうな精度ですね。

付録C. 飛翔体の水平を仮定した場合の飛行高度推定

C.1 高度推定式の導出

 図5の位置関係を仮定します。本文の仮定との違いは、飛翔体が水平であることと、天頂からの角度\alphaを飛翔体の中心ではなく、近い方の端に設けている点です。\thetaが小さい場合には大きな影響はありません。また、もともとの\alphaは目分量で決めているので、誤差が大きいので、無視できる範囲です(気になるのであれば、\theta程度のバイアスを\alphaに加えて補正すればよいでしょう)。

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図5:飛翔体が水平航行することを仮定した場合の位置関係。


 このとき、次の関係式が得られます。

  \tan(\theta+\alpha) = \frac{L+s}{H}
  \tan\alpha = \frac{s}{H}

 第2式から得られるs=H\tan\alphaを第1式に代入し、Hを求めると、次式となります。

  H= \frac{L}{\tan(\theta+\alpha)-\tan\alpha}

C.2 推定結果

 飛翔体が水平と仮定して計算した結果は、以下の通りです。全体的に30~40m程度、推定高度が低くなります。

画像1 画像2 画像3
全長から求めた高度(m)(本文の方法) 537\pm35415\pm27392\pm26
全長から求めた高度(m)(水平を仮定) 493\pm68379\pm53358\pm51
全幅から求めた高度(m)(本文の方法) 523\pm34486\pm32483\pm31
全幅から求めた高度(m)(水平を仮定) 475\pm68442\pm63439\pm63

 この方法では、天頂方向と視線が方向がなす平面上に棒状物体がある必要がありますが、本文の方法では、その制限はありません。基本的に天頂から視線方向に棒状を見た場合には棒が小さく見えますので、そういう場合には、ここでの方法がより近い推定となり、一方、天頂方向と視線がなす平面に棒状物体が直交する場合には、水平飛行であっても大きさは変化しませんので、本文の方がより適切な推定方式となります。

 飛行機を十字形と考えると、真上に飛行機がある場合を除いて、本文の仮定(視線方向と全長・全幅の方向が直交する)と、ここでの仮定(水平飛行と物体の向きの仮定)が同時に成立することはありません(真上に来た時には2つの仮定が同時に成立し得る)。このため、本文の推定とここでの推定は、おおよその目安と思うことが必要です。

 より正確に推定するためには、機体の向きについての仮定を緩めて、推定式を導く必要があります。

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10年前のゼロ金利予測と今後10年の金利予測

外国為替保証金取引

 外国為替保証金取引(所謂FX)をしていますが、為替や金利の動向は気になります。筆者の場合は、数日の変動ではなく、月単位・年単位の変動を特に考えています。毎日毎日、為替動向を気にしているのは面倒で、仕事をしながら常時チェックしているのは無理、ということもあります。年単位で長期的に保有するつもりで建玉を持っているので、長期的な金利動向は重要になります。

 10年前(2005年頃)であれば、今後10年間は円はゼロ金利で、ロング建玉を多めに持っても、長期的には金利(スワップポイント)で相当な部分はカバーできると予想できました。そのため、時価評価ベースで多少損失がでていても、ほとんど気にしていませんでした。

 最近は、どこの国も低金利で、かつてのNXドル・豪ドルなどの高金利通貨も、現在では年2-3%ほどの金利にしかなりません。さすが、この金利では時価評価ベースの損失が大きいと金利でカバーするのは難しくなります。外国通貨が高くなったときには、慎重に対応する必要があります。

 それでも、FXを始めてから、リーマンショックの年以外は、常に簿価ベースの利益は上げていて、リーマンショック後の年利回りは平均17%と好成績(但し、税金は考慮せず)。日銀の金利政策の影響が多いとはいえ、それを除いても好成績です。もともとの金額がリーマンショック後のショックで少額投資からの再スタートだったのですが、ここで勝負していれば、今頃は億万長者(笑)。

いつまで、ゼロ金利が続くのか?

 さて、FXでそれなりに稼いでいると気になるのは、いつまでFXで儲けられるのか、ということ。基本的に長期の建玉を持つ取引スタイルなので、スワップポイントの影響を大きく受けます。過去の10年は、10年後も金利はゼロ、浮き沈みはあっても、大幅にレンジから外れなければ、10年単位で見れば、そのうち戻すという安心感がありました。

 しかし、今後の日本の10年後の金利は、かなり高い金利になっていると予想できます。理由は簡単で日本国債を買うための原資なくなり、国債がダブついてしまうからです。これまでは、個人資産があるから日本国債は大丈夫と言われていましたが、今後は団塊の世代の貯蓄が消費され、少子高齢化で社会保障費も引き上げられ、若い世代は貯蓄する余裕がなくなります。今もその傾向がでていますが、所謂2025年問題*1が顕在化するころにはどうなることやら。

 もっとも、国債の引き受け先がないことを避けるために、異次元の日銀国債引き受け(要するに財政ファイナンス)を行う可能性は高いですが、さすがにそれをやると極端な円安とハイパーインフレを招きそうです*2

悪い金利上昇が起こり始める時期はいつか?

 今は、インフレ期待でお金を回るようにするために、年2%程度のインフレターゲットに基づく金融政策を行っていますが、インフレターゲットに従って金利が動いている範囲であれば、ある意味良い金利上昇です。しかし、金利が制御できない状態になると、悪い金利上昇と言えます。

 少なくとも10年後には訪れるであろう悪い金利上昇が、いつ起こるのか?2020年の東京オリンピックまでは、景気は上昇傾向にあると思いますが、オリンピックが終わった後の景気後退*3が契機になるのではないかと予想しています。つまり、5~6年後。政府は財政出動しますが、返す当てもなくさらに借金を積み上げるという状態になり、円の信用はなくなります。

FXからの卒業

 円の金利が上昇するとロング建玉が成立しないので、数年後には、FX取引からは卒業です。将来を予測して、今から次を考えていないといけませんが、真面目に働くこと以外には思いつきません。残念。

(2016/10/20)

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【米大統領選】クリントン支持率が高いと円安?

猥褻問題のトランプ氏、それでもめげない

 猥褻問題でTIME誌曰くTotal Meltdownしてしまったトランプ氏。支持率も6ポイントぐらい差を開けられましたが、それでも6ポイントと小さな差とも言えます。米国の大手メディアは、あまりに差がつかないためか、いろいろと反トランプキャンペーンを組んでいるように見えます。インテリ層には受け入れられない候補でしょうが、そうでない層にとっては猥褻問題も大した問題ではないかもしれません。

 これまでも、共和党予備選では泡沫候補視されたトランプ氏が圧勝し、英国のまさかのEU離脱(所謂、BREXIT)と、ここのところ専門家の予測は当てになりません。11月の大統領選で勝つ可能性は、0%ではなく、まだまだ残っているのではないかと思います。さすが筆者も、アメリカ国民が、"下品な大統領"ではなく、"好きになれない大統領"を選ぶとは思いますが、頭の片隅にはそうでないケースも想定しています(個人投資家なので(笑))。

支持率と円ドルレートの相関

 ここのところのクリントン氏の支持率向上に影響があったのは、第1回テレビ討論会(9月27日)、第2回テレビ討論会(10月11日)とその直前のバスの中の会話が記録されていた猥褻発言ビデオとその後続く過去の猥褻問題。その前の9月中は、トランプ氏の目立った失点がなく、"好きになれない"クリントン氏がじりじりと支持率を下げたといったところでしょうか。

 ここ2カ月ほどの円ドルレートを見ていると、どうも大統領選と連動しているように感じました。アメリカの政策金利も据え置きで、地政学的・政治的に大きなイベントはなく、円ドルはクリントン氏とトランプ氏の支持率と相関が強くなっているようです。図1に、ここ2カ月のクリントン氏の支持率とトランプ氏の支持率の差と、円ドルレートの推移を示しました。8月26日から8月29日の円安局面は、米国雇用統計と年内の政策金利の利上げの思惑による変動ですが、それを除くと、支持率と円ドルレートの相関があるように見えます。図2に8月31日から10月17日の間の相関散布図を図2に示しました。確かに相関があります。

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図1:円ドルと支持率の推移 (2016/8/15-2016/10/17)。
左縦軸は、クリントン氏とトランプ氏の支持率の差。
(RealClearPoliticsの支持率データに基づき筆者作成)

 

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図2:円ドルと支持率の相関散布図(2016/8/31-2016/10/17)。
支持率と円ドルレートには相関関係がある。

大統領選、今後も目が離せません

 この相関を考えると、大統領選までは、クリントン氏が徐々に支持率を上げていけば、それに合わせて徐々に円安となりそうです。大統領選1週間後の円ドルレートは、クリントン大統領で安心のドル買いが起こって、2-3円の円安で105-108円といったところでしょうか。逆に、トランプ大統領サプライズならば、どこまで円高が進むのか、見当がつきませんが、個人的には1週間程度で10円弱の円高で90円台前半、一回反発するも、長期的には円高トレンドで、1ドル80円台になると予想しています。

(2016/10/18) (2016/12/12:追記) 思いっきり外しました(笑)。

【天皇】日本は世界最長の王国

世界最長在位のプミポン国王

 先日、タイのプミポン国王が亡くなられました。世界で最も長い在位の国王だったそうです。

 タイではクーデターがしばしば起きましたが、その度にプミポン国王の調停によって酷い内戦のような事態には発展しませんでした。国王の権威と国王への尊敬が、そのようなことを可能とさせたのでしょう。

日本の天皇家

 日本の天皇も、日本の君主として、長い間、存在し、現在も象徴君主として存在しています。始まりを神武天皇の即位とすると、紀元前660年(弥生時代)になってしまうので、実際にはその何世紀も後のことになりますが、少なくとも、飛鳥時代には天皇は神話の世界ではなく、歴史上の君主として在位しています。つまり、天皇家には実に1400年以上もの歴史があります。

 考えてみると、1400年もの長きに亘って、現在まで存続している王家がいるのは、日本ぐらいではないでしょうか。さらに、天皇の場合、先祖を遡ると、天照大神などの神様に遡ることができるという点でも、稀有な存在です。もちろん、天照大神や神武天皇は神話の世界で、天皇の正統性を確保し、権威を与えるために、日本書紀や古事記に記されたものです。この神から続くという神話が天皇を長い間存続させている理由の一つではないかと思います。

征夷大将軍と朝廷

 天皇家の統治は、平安時代の後期に崩れ、そして、鎌倉時代に終わりました。しかし、武士統治の時代になっても、武士の棟梁である征夷大将軍は、あくまで朝廷の家臣という位置づけになります。

 武士の統治者として最初に征夷大将軍となったのは、源頼朝です。しかし、源頼朝は、平治の乱で敗北し、伊豆に流刑となった身。日本を軍事的に平定したとはいえ、権威はありません。源頼朝は、朝廷から征夷大将軍という官職を得ることで、「天皇の代理として」、日本を統治するという権威を得たということになるでしょう。西洋の王権神授説に近いかもしれません。王権神授説の「王の権力は、神から付託されたものである」という代わりに、「征夷大将軍の権力は天皇という現人神から付託されたものである」という訳です。

明治維新と終戦と象徴天皇

 明治維新により、天皇は近代国家の君主という形で復権します。いくら軍事力はあるとはいえ、薩摩や長州などの田舎侍が日本を統治するためには権威が必要で、その権威を得るために天皇を利用したということです。鳥羽・伏見の戦いや戊辰戦争で掲げられた錦の御旗は、薩長軍に正統性を与えるものでした。その後、薩長が中心となって作った明治政府・明治憲法により、立憲君主制とはいえ、「天皇は神聖にして侵すべからず」存在として復権を果たすことになります。

 日本が第二次世界大戦に敗れ、天皇制の存廃を検討する際にも、天皇制を廃止すれば、日本統治が困難となるとの理由で、天皇制を存続させました。そして、現行憲法での象徴天皇制という形で残ることになりました。

日本は世界最長の王国

 天皇家は、日本の歴史が始まる時点から現在まで、(実質的統治の有無はあるにせよ)国家君主として存続し、ついには世界最長の王家となりました。そういった意味で、日本は世界最長の王国ということができます。

(2016/10/17)

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魚釣島奪還作戦~ある一つのシナリオ~

魚釣島奪還作戦

 それは、一隻の漁船の遭難から始まった。

 201x年8月、台風16号の影響で東シナ海は荒れていた。尖閣諸島周辺で鰹漁をしていた中国船籍の漁船が遭難信号を発した。東シナ海を管轄する海上保安庁第十一管区海上保安部は、中国漁船の救助要請に応じ、魚釣島への寄港を認めた。漁船の乗組員は、魚釣島に上陸し、台風が過ぎ去るのを待った。

 予てから尖閣諸島は中国固有の領土と信じ、反日感情をもっていた漁船の船員達は、中国国旗とともに「這裡是中國的領土(ここは中国の領土だ)」と書かれた垂れ幕を魚釣島に掲げた。

 日本政府は、これを示威活動とみなし、船員達への対応を、海難救助活動から、不法入国者への警備活動として対処することを決定した。この決定に基づき、海上保安庁は、船員達を逮捕・拘束するため、巡視船いしがきを魚釣島へ派遣した。

 中国政府は日本政府に強く抗議したが、日本政府は決定を撤回しなかった。日本の対応に対し、中国政府は、自国領土「釣魚島」における自国民保護の立場から、船員達を「救助する」ことを決定し、中国国家海洋局の海監を派遣した。さらに、公海上には人民解放軍の艦隊を待機させた。この中には上陸作戦を行う海軍陸戦隊の揚陸艦も含まれていた。日本政府も、石垣島・宮古島所属の全ての巡視船を追加派遣し、海上自衛隊の護衛艦・揚陸艦を尖閣諸島沖に待機させた。

 尖閣諸島は、日本と中国の一触即発の緊張状態となった。日本政府は外交ルートを通じて、海監及び海軍艦隊の退去を要請したが、中国政府はこれを受け入れなかった。中国海監が魚釣島に接近する中で、巡視船いしがきは海監に対して威嚇射撃を行った。中国海監は、これを攻撃と見做し、いしがきに反撃・撃沈した。中国海監は魚釣島に上陸、占拠した。漁船の船員達は、中国海監に保護された。いしがき乗船の海上保安官も保護されたが、不法行為者として拘禁された。

 この事態に際し、日本政府は、海上自衛隊に防衛出動命令、すなわち、中国海監への攻撃命令を下すことはなかった。中国との軍事紛争となることは明白だったからである。日本政府は、国際社会に向けて中国に対する非難声明を発し、欧米各国・アジア各国もこれに賛同、国連安保理に提起した中国への非難決議案にも、理事国14カ国が賛成した。しかし、非難決議案は、当然ながら中国の拒否権行使により否決された。国際社会の非難にも拘わらず、中国は魚釣島の占拠を続け、実行支配を強めていった。

 日本の国内世論は、防衛出動命令を出さなかった政府に対し、強烈な批判を浴びせた。内閣は総辞職し、新内閣が発足した。新内閣の首相は、これで3度目の任命である。

 新政府は、魚釣島奪還作戦を計画、世論は熱狂的に支持した。そして、日本は、魚釣島奪還作戦を決行した。

 美しい国の樹立である。

(2015/9/16)

解説

 この記事は、尖閣諸島の占拠と奪還についてのシナリオについて、1年ほど前に執筆しました。

 このシナリオでは、漁船の難破から物語を始めましたが、いま書くなら、大量の漁船団の襲撃というシナリオとなります。また、事件は首相の2度目の任期中に起こりそうな予感がします。

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(再掲:2016/10/16)

中国による尖閣諸島の占拠を許してはいけない

 中国は経済大国・軍事大国になるにつれ、経済的にも、軍事的にも海外進出を強めています。現在も、大国アメリカや大国ロシアは、他国へ軍隊を送り、戦争することを厭いません。中国も同じよう戦争を厭わない軍事大国になるでしょう。現在の南シナ海や尖閣諸島への進出も、アジアにおける軍事的・経済的覇権をアメリカから奪うための行動の一環ととらえることができます。これまで幾多の戦争を行ってきた中国としては、本格的な戦争は避けるとしても、多少の軍事衝突は厭わないでしょう。

 日本としても、中国が尖閣諸島を占拠することを想定しなければなりません。本稿では、中国の尖閣諸島の占拠について考察します。

1. 中国の海洋進出と尖閣諸島の現状

 強硬姿勢を緩めない中国の海洋進出ですが、南沙諸島(スプラトリー諸島)、西沙諸島(パラセル諸島)の埋め立て・軍事基地化に加えて、スカボロー礁も埋め立てて軍事拠点を作りそうな状況です((時事通信, 「中国、スカボロー礁にしゅんせつ船か=埋め立て準備の可能性-比」, 2016/9/4.))。これが完成すれば、南シナ海における戦略的トライアングルができて、南シナ海における軍事的プレゼンスが格段に高まります((Yahoo! JAPANニュース, 「「民進党」の皆さん、中国が南シナ海で構築中の「戦略的トライアングル」って知ってますか?」, 2016/3/18.))。

 日本も無関係ではなく、尖閣諸島への中国の実効支配化を進めようとしています。日中関係は、2010年の尖閣諸島中国船衝突事件、2012年の尖閣諸島国有化で非常に悪化しましたが、いまは小康状態を保っているといったところでしょうか。とはいっても、中国の尖閣諸島進出の勢いは止まらないどころか、さらに激しくなっています。図1は、海洋保安庁が公開している中国公船による領海侵入数((海上保安庁, 「尖閣諸島周辺海域における中国公船等の動向と我が国の対処」.))を表していますが、国有化を契機に定常的に領海侵犯を行っています。今年に入ってからは、中国漁船300隻を引き連れて、尖閣諸島に侵入してきました((ニューズウィーク日本版, 「中国漁船300隻が尖閣来襲、「異例」の事態の「意外」な背景」, 2016/8/12.))。

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図1: 中国公船等による尖閣諸島周辺の領海侵入数。
海上保安庁「尖閣諸島周辺海域における中国公船等の動向と我が国の対処」に基づき筆者作成

2. 自衛隊の離島奪還訓練

 自衛隊では、離島奪還訓練という名で、主に中国の離島占拠を想定したと思われる軍事訓練を行っています。

 自衛隊による離島奪還訓練は、2013年から開始されました((中央日報, 「日本自衛隊が離島奪還訓練…過去最大規模」, 2013/11/2.))((琉球新報, 「離島奪還 危機あおる訓練は迷惑だ」, 2013/10/25.))。その後も、継続して訓練が行われ、今年も離島奪還訓練が行われています((産経ニュース, 「離島奪還想定、陸海空統合訓練を公開 最新鋭の10式戦車など登場 輸送防護車の初展示も」, 2016/8/28.))。また、与那国島の陸自部隊隊も、今年3月に発足し、レーダーを使った沿岸監視などを行います((産経フォト, 「与那国島で陸自部隊発足 中国にらみ南西防衛強化」, 2016/3/28.))。確かに、与那国にレーダー基地を配備することは必要でしょう。尖閣諸島が中国に占拠されてしまったときに、本気で奪還するとすれば、奪還作戦も必要でしょう。そういう準備をすることで、一定の抑止力にもなると思います。

 しかし、中国による尖閣諸島の占拠を回避できるかは、少々疑問です。

3. 韓国による竹島の実効支配の歴史

 尖閣諸島の中国による実効支配を予測するに当たって、参考になるのは、韓国による竹島の占拠と実効支配です。前回記事に韓国による竹島占拠までのイベントを時系列でまとめています。

 1953年の当初は、日本も韓国も、竹島周辺に巡視船等を常時停留させたり、竹島に常駐することはできず、どちらの国も実効支配しているという状況ではありませんでした。

 1953年に日本側が韓国漁民を発見、韓国漁民を退去させますが、その後の日本側の対応は、巡視船を巡回させ、竹島が日本であることを示す標柱を立て、漁民の不法操業・不法上陸を止めさせるように韓国政府に抗議するというものでした。竹島の主権を主張している韓国としては、この抗議を受け入れることは当然ありません。韓国側は、1953年7月には、漁民とともに、自動小銃や拳銃を持った警官を伴って、竹島に上陸しています。巡視船「へくら」上での日韓の会談後、銃撃を受けますが、銃撃を伴った争いは、この年はこの一回のみで、日本側の被害は、巡視船「へくら」が銃弾2発を受けた程度で極わずかの被害です。

 1953年の間は、日韓ともに竹島に人が常駐しているわけではないので、韓国漁民がときどき竹島に寄っていったり、日本の巡視船や試験船が上陸したりしていた程度で、日韓の衝突や漁民の拿捕ということはなく、年表を見る限りでは高い緊張状態にはなかったようです。せいぜいあったのは、標柱・標石の撤去や再設置ぐらいでした。

 状況が急変したのは、1954年になってから韓国政府が竹島に沿岸警備隊の駐留部隊を派遣したところからでしょう。前年に朝鮮戦争が休戦となったので、軍事的に余裕がでてきたということもあったのかもしれません。この後は、韓国に常駐のための施設を設置され、1954年11月の巡視船「へくら」への竹島からの大砲の砲撃と、それに対して軍事的対抗措置手段を行わないことで、韓国の竹島占拠が完了、現在まで実効支配されています。

 日本は国際司法裁判所への付託を提案するも、韓国はこれを拒否しており、有効な解決手段とはなりませんでした。その後も、外交交渉は行われていますが、いまだに成果は上げられていません。

4. そもそも占拠されてはいけない

 竹島の実効支配の歴史を振り返ると、そもそも、韓国の常駐を防がなかったことが問題でした。韓国による常駐を防ぐためには、日本が先に常駐すればよかったのです。1953年時点でそれを行わなかったことが最大の問題でしょう。

 今年に入って、中国は大量の漁船を引き連れて、尖閣諸島に迫っています。この大船団を相手に、海上保安庁の高々十数隻の巡視船で守りきることは困難でしょう((山田吉彦, 「迫る 海保の能力を超えた危機」.))。大船団の中には、民兵が乗船しています((SAPIO11月号, 「尖閣諸島を襲う中国漁船に乗船する「海上民兵」の正体」, 2016/10/13.))((産経ニュース, 「尖閣奪取に海上民兵 中国は本気だ!「軍事力」への警戒強めよ」, 2016/8/18.))。

 筆者が予想する中国による尖閣諸島の実効支配のシナリオは、以下の通りです。

 (a) 中国公船を伴った大船団が尖閣諸島に領海侵犯を行う(今年8月と同じ)。
 (b) 次に、民兵組織が尖閣諸島に上陸・常駐し、中国主権を主張する。
  大船団で襲撃されては、海上保安庁の能力では、上陸を阻止できません。
 (c) 日本は中国に抗議する。中国は、日本の抗議を受け入れない(竹島の場合と同じ)。
 (d) 中国軍が、尖閣諸島に常駐のための施設を整備し、常駐する(竹島の場合と同じ)。

(b)あるいは(d)の段階で、日本が実力行使によって、民兵組織の排除や中国軍の施設整備を阻止できなければ、竹島と同じく、中国によって尖閣は実効支配されます。

 民兵組織の排除であれば、人数にもよりますが、警察力、つまり、海上保安庁によって執行することになるでしょう。海上には、中国海監や中国海軍が待ち受ける中、海上保安庁の巡視船が出航することになります。その先には、(民兵に指揮された)漁船団が待ち受けています。これらを蹴散らして、尖閣諸島に上陸し、民兵の逮捕を行います。民兵逮捕に当たっては、銃撃戦となるでしょう。海上保安庁の巡視船を阻止するために、中国海軍が実力行使することも考えられます。後方支援として海上自衛隊が控えることとなるでしょうが、自衛隊が巡視船保護のため武力行使すれば、中国側と交戦するということになり、軍事紛争に発展します。

 米国はこのときどうするでしょうか?一義的には日本の問題ですので、(情報収集など自衛隊の後方支援はあるかもしれませんが)基本的に何もしません、というよりも、何もしてはいけません。日本が日米安保条約に基づき要請するとしても、あくまで後方支援でしょう。最前線にでるのは、日本であり、民兵排除や尖閣奪還は、日本人が行わなければならないのです(米国人は血を流さない)。

 現状は竹島占拠のときと同様に、海上保安庁任せ。いざ中国が占拠するつもりであれば、容易に尖閣は占拠されます。尖閣諸島の実効支配を避けるには、そもそも離島を占拠されないことが、重要です。そのためには、小火器や重火器を保有し銃撃戦を行える日本人が常駐することが必要となると思います。フィリピンでは、中国の海洋進出に対抗するため、10名程度の海兵隊員が難破船シエラマドレ号に常駐しています((朝日新聞DIGITAL, 「対立の海 中国の海洋進出 2章 最前線の難破船」.))。無人であれば、単に「自国領土」に上陸するだけですが、既に常駐している兵士がいれば、これを排除しなければなりません。中国としても、容易には上陸することはできないでしょう。

 日本がすぐに軍事行動を起こすことはなく、また、米軍も、尖閣の地域紛争では出てくることはないと中国は踏んでいるでしょう。いつでも中国が尖閣占拠する可能性があります。中国により尖閣が占拠された場合、中国の実効支配を許すか、尖閣諸島を奪還するために中国との戦争を起こすか、の2つの選択肢しか日本には残されません。

 現在は、竹島のときとは違って、日本は軍隊(自衛隊)を保有し、領土紛争(国際紛争)に対しても武力行使・戦争を行うことが可能です。いざ、中国が尖閣を占拠するということになれば、国論は分かれることになると思いますが、戦争という選択を国民自身がする可能性も少なくありません。

 戦争は絶対に避けなければなりません。そのためには、尖閣占拠を阻止する有効な方法を考え、早急に実施する必要があります。

(2016/10/15)

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韓国による竹島占拠までの年表

 韓国による竹島占拠までの年表を作成しました。韓国の実効支配は、韓国警備員の常駐と1954年11月21日の海上保安庁巡視船「へくら」への砲撃、及び、それに対して日本側が対抗措置を行わないことで、ほぼ確立しました。この記事では、日本側の資料を中心に、1952年5月28日の韓国漁民の発見から1954年11月21日の巡視船「へくら」砲撃までの間のイベントを時系列でまとめました。

1. 参照資料

1.1 採用した資料

 入手した資料のうち、次の資料を採用して、年表を作成しました。

1.2 採用しなかった資料

独島義勇守備隊に関する資料

 一部の資料では、竹島占拠においては、独島義勇守備隊が活躍したとされます。しかし、日本側の資料との齟齬が多く、独島義勇守備隊が活躍したとの記述については信憑性が低いと判断しました。また、韓国メディアトゥデイ(資料11)も、独島義勇守備隊の活躍については疑問視しています。

 独島義勇守備隊の活躍に関する資料には、以下のものがあります(他にも多数あります)。

 これらの資料については、年表作成に当たって採用しませんでした。各資料の信憑性に関する検証は付録で述べます。

2. 竹島の占拠までの年表

 1952年1月18日の李承晩ラインの設定から、1954年11月21日の巡視船「へくら」への砲撃までを時系列でまとめています。主に、資料1(外交防衛調査室の論文)と資料2(海上保安庁の竹島巡視記録)をベースに他の資料の情報を追記しています。

日付イベント
1952/1/18 - 李承晩大統領による「海洋主権宣言」(「李承晩ライン」の設定)
1952/4/28 - サンフランシスコ平和条約が発効。
1952/7/26 - 日米合同委員会で在日米軍の爆撃訓練区域に指定。
1953/1/12 韓国政府 李承晩ライン内に出漁した日本漁船の徹底拿捕を指示。
1953/2/4 - 第一大邦丸事件が発生。韓国海軍によって、福岡の漁船「第一大邦丸」「第二大邦丸」が銃撃・拿捕され、その際に船員1名が死亡。
1953/3/19 - 日米合同委員会で在日米軍の爆撃訓練区域からの解除。
1953/5/28 島根丸 韓国漁民の操業活動をはじめて発見。島根県水産試験船「島根丸」が、竹島沖3海里において韓国旗を掲げた動力船6隻、伝馬船6隻にて海藻や貝殻の採取を確認。漁民は約30名(あるいは約60名)。「船を近づけて来た韓国漁民と交歓」(資料6)
1953/6/15-16島根丸 竹島に韓国人を確認。(資料3)
1953/6/17 海保本部 「竹島周辺海域の密航密漁取締りの強化」を決定。
1953/6/22 日本政府 日本が韓国代理部に対して、韓国漁民の不法上陸・不法操業等を抗議。
1953/6/25 鵬丸 毎日新聞記者、隠岐高校水産科の練習船「鵬丸」で竹島上陸。毎日新聞記事「問題の竹島現地レポ-まだいた韓国漁夫-アシカ料理で歓待>」(資料6)
1953/6/26 美保丸 (朝日新聞記者)漁船「美穂丸」にて、竹島上陸。6月28日の朝日新聞島根版「“日本に行きたい”‐広谷氏語る‐竹島の韓国人哀願」は「竹島のアシカ狩りに8年間の経験を持つ西郷町の漁業者広谷元次郎氏(64)が急に竹島が恋しくなり、25日夜所有する「美保丸」(15トン)に船員4人と乗り組み、26日昼頃竹島に到着した。丁度昼食時分で、島にいた韓国人達がアシカ料理や魚介類を食っていた。「鬱陵島と連絡がとれぬので米がない。」とこぼしていたので米6升を置いてきた。帰ろうとすると船に24、5才と34、5才の男が乗り込んできて「どうか日本へ連れて行ってくれ」と泣かんばかりに頼んできたため、隠岐に帰って相談してみるとし、26日午後2時頃竹島を離れた」という主旨の記事。(資料6)
1953/6/26韓国政府 韓国が「竹島は韓国領土の一部である」旨の回答(6/22の日本の抗議に対する回答)。
1953/6/27 海保上陸 海保「おき」「くずりゅう」にて、島根県職員2名、島根県警察官3名、海上保安官25名が竹島に上陸。竹島で6名の韓国漁民を発見。標柱を設置(以下、「設標」)。このときの標柱は「島根県穏地郡五箇村」「不法漁業を禁止」の二つ。(資料1)
 漁民は鬱陵島在住で6月9日に来島して海草を採取していたが、時化で母船が来ないため食料が無くなって困っていた。鬱陵島に送ってほしいと希望したが、母船が到着し次第、退去するように勧告。(資料5)
1953/7/1-2 海保上陸 海保「ながら」。竹島及び周辺に人、船舶がいないことを確認
1953/7/2 韓国政府 韓国外務部スポークスマン、日本側が竹島で韓国の漁船及び漁民を捕えたのでこれを保護するため韓国海軍船艇を竹島に派遣すると発表した。(資料6)
1953/7/8 韓国国会 6/27の海保上陸について日本政府に厳重抗議することを求める建議文を採択。主権侵害を防止するための「積極的な措置」をとることを求める。(資料5)
1953/7/9 海保100m 海保「おき」。竹島及び周辺に人、船舶がいないことを確認
1953/7/12 海保700m 海保「へくら」、日本側の標柱撤去を確認。韓国漁民、漁船が多数来島しているのを確認。韓国動力船3隻、伝馬船1隻、韓国人約40名(内、警察官7名)。警察官は自動小銃2丁の他、拳銃を携行。韓国警官が巡視船「へくら」に来船し、退去を要請。「へくら」離島時に数十発の銃撃を受け、うち2発が命中(資料2,6)
朝日新聞全国版「韓国側から発砲‐竹島で保安庁巡視船撃つ」(1953/7/14):前日の朝巡視船「へくら」が竹島付近をパトロール中、韓国漁船3隻が自動小銃を持った韓国警官7、8人に囲まれて漁業活動をしているのを発見した。巡視船はボートを下ろし、島に上陸しようとしたところ韓国警官2人が通訳を連れて漕ぎ寄せ「ここは韓国の領域だから引揚げろ」と要求した。日本側のボートは巡視船に引揚げ、船に乗り移った途端、韓国警官はいきなり数十発を発砲、うち2発が「へくら」に命中したが人に被害はなかった。(資料6)
朝日グラフ「日韓の係争地『竹島』」(1953/9/16日刊):韓国船が護衛されながら漁をしている海域で「へくら」が停船すると3人の韓国人が小舟で近づき「へくら」に乗り込んで来て、「へくら」の責任者柏博次境海上保安部副部長と会話した。それぞれが竹島は自国の島と応酬した後韓国人3人は自分達の舟に帰り、「へくら」も動き出そうとした時、銃声が聞こえ2発が「へくら」に命中したとしている。(資料6)
1953/7/13 日本政府 在日韓国代表部に銃撃について抗議。(資料6)
1953/8/3 海保上陸 海保「へくら」、竹島及び周辺に人、船舶がいないことを確認。
1953/8/4 韓国政府 日本側による「韓国領土 竹島」への不法侵入(6/23,6/27,7/9,7/12)について抗議。日本側は8/8にこれに反論する口上書を在日韓国代表部に送付。(資料6)
1953/8/7 海保上陸 海保「へくら」、竹島及び周辺に人、船舶がいないことを確認。設標。
1953/8/21 海保上陸 海保「ながら」竹島及び周辺に人、船舶がいないことを確認。
1953/8/31 海保3海里 海保「へくら」
1953/9/3 海保1海里 海保「おき」
1953/9/17 島根丸 竹島へ上陸。韓国漁民おらず、アシカと戯れる。(資料6)
1953/10/6 海保上陸 海保「へくら」「ながら」、竹島及び周辺に人、船舶がいないことを確認。日本側の標柱撤去を確認。「島根県穏地郡五箇村」の標柱を東島・西島に設置
1953/10/13海保3海里 海保「へくら」
1953/10/15韓国 韓国山嶽会が標石を設置。日本の標柱を撤去。(資料10)
1953/10/17海保300m 海保「ながら」。日本側の標柱撤去を確認。東島に旗竿2本、西島付近の小島に測量竿を確認。
1953/10/21島根丸 竹島へ上陸。韓国漁民と交流。(資料6)
1953/10/23海保上陸 海保「ながら」「のしろ」。設標。韓国側の標石、旗竿を撤去。
1953/11/15海保200m 海保「ながら」
1953/12/6 海保5海里 海保「へくら」
1953/12/19海保3海里 海保「へくら」
1954/1/7 海保200m 海保「ながら」
1954/1/16 海保上陸 海保「おき」、竹島及び周辺に人、船舶がいないことを確認。
1954/1/27 海保200m 海保「へくら」「ながら」
1954/2/28 海保3海里 海保「へくら」
1954/3/23 島根丸 竹島へ上陸。韓国漁民と交流。(資料6)
1954/3/28 海保3海里 海保「へくら」
1954/4/24 海保3海里 海保「へくら」
1954/5/3 海保上陸 海保「つがる」「おき」「へくら」「ながら」「くずりゅう」、日本漁船わかめ漁実施。日本側の標柱を確認
1954/5/3 韓国政府 「ペク総理は鬱陵島島民の独島自衛隊を積極的に後援するように指示」「韓国の領土である独島の主権を確保するために鬱陵島道民が決起大会を開いて独島自衛隊を組織することにした、その決議が立派なことであり意味深いものと指摘して、積極的に協力するように要望」(朝鮮日報,1954/5/6付)(資料11)
1954/5/23 海保1km 海保「つがる」、日本側の標柱撤去を確認。韓国の動力船3隻・伝馬船4隻、30名以上の漁民が操業中であることを確認。
1954/5/29 - 韓国の動力船1隻・伝馬船3隻、50名程度の漁民が操業中であることを確認。
1954/6/16 海保1km 海保「つがる」、韓国の動力船2隻・伝馬船2隻、25名程度の漁民が操業中であることを確認。
1954/6/17 - 韓国内務部が沿岸警備隊の駐留部隊を派遣したと発表(ソウル発UP電)
1954/7/8 海保3海里 海保「へくら」、動力船1隻・伝馬船1隻停留を確認。
1954/7/28 海保ボートで至近 海保「くずりゅう」。伝馬船1隻。西島に天幕を張り、韓国警備員6名が作業中を確認。西島北側の岩に「7月25日大韓民国民~号警備隊」の文字あり。
1954/8/23 海保700m 巡視船「おき」を銃撃。発射段数約400発。うち1弾被弾。東島突端に高さ約6mの灯台設置。韓国旗掲揚中。
1954/8/26 - 日本が韓国側の発砲による被弾について抗議
1954/8/30 - 韓国が日本の巡視船の接近に対して抗議
1954/9/25 - 日本が韓国に対し、国際司法裁判所付託を提議。
1954/10/2 海保1.5海里海保「おき」「ながら」、東島頂上に高さ約10mの無線柱2本新設を確認。東島の突端に大砲設置。警備員7名おり、砲口を巡視船に向ける。
1954/10/28- 韓国が国際司法裁判所付託を拒否
1954/11/20- 日本側が島上東方に砲らしきものが据えられてあるのを確認。
1954/11/21海保3海里 海保「へくら」「おき」山小屋風の建物2棟を確認。巡視船「へくら」より約1海里に砲弾5発落下。無線柱付近に14~15名の警備員。韓国国旗の掲揚を確認。

3. 韓国の竹島占拠までの流れ

 年表に示すように、おおよそ以下のような流れで韓国に竹島を占拠されます。

  • 島根県水産試験場の「島根丸」が海洋資源調査に際し、1953年5月28日に竹島の漁民を見つけました。その後、定期的に海上保安庁の巡視船が竹島を監視していましたが、常時監視というわけではなく、数日おき、数週間おきの監視でした。
  • 韓国は、巡視船の巡回や漁民の退去勧告などに対抗するため、武装した警察官を竹島に派遣、1953年7月12日の海保巡視船「へくら」への銃撃となりました。
  • 但し、1953年の間は、日本も韓国も、竹島に常駐しているわけではないので、標柱の設置や撤去を繰り返していたというような状況でした。そんな中でも、島根県水産試験場の「島根丸」は、韓国漁民と交流しているので(1953/10/21,1954/3/23)、高い緊張状態にあったというわけではないようです。
  • 対立がエスカレートしたのは、1954年5月3日にペク総理による独島主権確保の号令をかけたころからでしょうか。海保は1954年5月3日を最後に、竹島上陸の記録がありません。
  • 6月には韓国沿岸警備隊の駐留部隊を派遣(1954年6月17日)、常駐のための施設の設営を開始しました。
  • 1954年8月23日迄には高さ6mの灯台の設置完了、1954年10月2日迄には無線柱2本と大砲の設置を完了しました。
  • そして、1954年11月21日の巡視船「へくら」への砲撃となりました。

 韓国の実効支配に対して、日本は強硬手段は取っていません。外交的手段による解決を重視していたようです。当時は、正規の軍隊組織を持っておらず、憲法9条の制約もあったためでしょう。国会における議論の概要が資料1に記載されています。

 韓国の強硬的な手段に対し、7月 15 日(筆者注:1953年7月15日)の参議院本会議では「竹島周辺における韓国漁船発砲事件並びに竹島の帰属に関する緊急質問」が行われるなど、国会ではその対応について激しい議論が交わされた。(中略) 韓国に対抗し、日本も強硬な姿勢を取るべきだとの議論もされたが、政府は、「竹島に韓国人が来ることは、日本領土に対する不法入国の問題であり、不法入国の取締りの警察権を発動して一向かまわない。…ただ、日本として慎まなければならないことは、領土権の紛争、領土権問題という国際問題を解決するために武力を行使するということは、憲法9条で、国際紛争の解決のために武力を行使しないということが規定されている」と答えている。
出典: 外交防衛委員会調査室, 「竹島問題の発端 ~韓国による竹島占拠の開始時における国会議論を中心に振り返る~」

 韓国が実際に拠点の設営を開始したのは、1954年6月頃からで、この議論が行われた1953年の時点では、特に拠点の設営は行っていませんでした。日本政府は外交的に解決するということを基本としていたのですが、1953年の時点で日本が常駐できるように施設を作り、常駐していれば、日本が竹島を実効支配できたと思います。

4. 最後に

 本記事では、韓国による竹島実効支配までの主なイベントを年表としてまとめました。

 韓国による竹島占拠までの流れは、現在の中国による尖閣進出への流れと共通点を感じます。当時も今も外交的努力を重ねるということを主眼としてますが、これには実質的な効果は期待できないでしょう。また、当時との大きな違いは、日本が軍隊(自衛隊)を持ち、尖閣諸島が占拠されれば自衛権を発動できるという点です。

 そもそも占拠されないように、尖閣諸島に少なくとも小火器あるいは重火器を使える組織を常駐させることが必要に思います。

付録1. 独島義勇守備隊の活躍に関する考察

 独島義勇守備隊に関する情報は検索すると多数見つけることができますが、懐疑的意見も多く、例えば、韓国メディアトゥデイ(資料11)や以下の資料でも、独島義勇守備隊の活躍を疑問視しています。

 ここでは、独島義勇守備隊の活躍について記述した以下の資料について、日本側の資料と比較することで、資料の信憑性について検証したいと思います。

  • 資料12:中央日報「常習的に侵犯する日本人を決死阻止した独島義勇守備隊」(2012/8/19)
  • 資料13:ウィキペディア「独島義勇守備隊」
  • 資料8:ウィキペディア「竹島 (島根県)」(独島義勇守備隊に関する記述)

付録1.1 資料12(中央日報)

 この記事は、主に、独島義勇守備隊の隊長ホン・スンチルの自伝「この地がどこの地なのか」を引用していると思われます。

 1954年11月21日明け方、日本の海上保安庁の艦艇3隻が独島(トクト、日本名・竹島)に接近した。1000トン級PS-9、PS-10、PS-16艦は、左右と中央から島を包囲した。日本の航空機も旋回した。600メートル前。拳銃の音とともに一斉射撃が始まった。M-1小銃が火を吹いた。迫撃砲弾はPS-9艦の甲板に当たった。PS-10艦も暗雲のような煙を吐き東に逃げた。(ホン・スンチル『この地がどこの地なのか』)  
 53~54年に入り独島を侵した日本は痛手を負った。死者数は16人。
 
恐れを知らずに銃と大砲を海上保安庁の艦艇に撃ちまくった彼らは独島義勇守備隊だった。日本人の山座円次郞が独島を飲み込もうとする陰湿で凶悪な計略を出して50年余り、体で独島を死守した彼らが義勇守備隊だ。

 日本側の記録(資料2)では、1954年11月21日に海上保安庁巡視船「へくら」「おき」の3海里(約5.5km)にいたところ、「へくら」から約1海里(約1.8km)の地点に砲弾5発が落下したということです。従って、迫撃砲弾が当たり、煙を吐き逃げたということはありません。また、1953年5月28日から1954年11月21日までの死傷者が発生したという記録はありません。

義勇守備隊は6月24日に日本の水産高校の実習船を西島の150メートル前で捕まえ、「独島は韓国領」であることを周知させ解放した。

 1953年6月25日に毎日新聞記者から依頼され、隠岐高校水産科の練習船「鵬丸」が竹島に渡航しています。6月27日付の毎日新聞島根版「問題の竹島現地レポ-まだいた韓国漁夫-アシカの料理で歓待」の記事があり(資料6)、拿捕・解放ということではなかったようです。

 7月12日午前5時、日本のPS-9の侵犯時は真価を発揮した。艦艇の90メートル前から軽機関銃で200発を打ち込んだ。

 1953年7月12日の発砲事件については、以下の日本側の記録があります。

  • 海保「へくら」、日本側の標柱撤去を確認。韓国漁民、漁船が多数来島しているのを確認。韓国動力船3隻、韓国人約40名(内、警察官7名)。韓国警官が巡視船「へくら」に来船し、退去を要請。「へくら」離島時に数十発の銃撃を受ける。(資料2,6)
     
  • 朝日新聞全国版「韓国側から発砲-竹島で保安庁巡視船を撃つ」(1953/7/14):前日の朝巡視船「へくら」が竹島付近をパトロール中、韓国漁船3隻が自動小銃を持った韓国警官7、8人に囲まれて漁業活動をしているのを発見した。巡視船はボートを下ろし、島に上陸しようとしたところ韓国警官2人が通訳を連れて漕ぎ寄せ「ここは韓国の領域だから引揚げろ」と要求した。日本側のボートは巡視船に引揚げ、船に乗り移った途端、韓国警官はいきなり数十発を発砲、うち2発が「へくら」に命中したが人に被害はなかった。(資料6)
     
  • 朝日グラフ「日韓の係争地『竹島』」(1953/9/16日刊):韓国船が護衛されながら漁をしている海域で「へくら」が停船すると3人の韓国人が小舟で近づき「へくら」に乗り込んで来て、「へくら」の責任者柏博次境海上保安部副部長と会話した。それぞれが竹島は自国の島と応酬した後韓国人3人は自分達の舟に帰り、「へくら」も動き出そうとした時、銃声が聞こえ2発が「へくら」に命中したとしている。(資料6)

 日本側資料にある「韓国警官」が、独島義勇守備隊かは判然としません。

 基本的に中央日報の記事は、もともとの自伝を鵜呑みにし、独島義勇守備隊を英雄視する論調で記事が書かれており、信憑性は低いと考えられます。

付録1.2 資料13(ウィキペディア「独島義勇守備隊」)

 独島義勇守備隊は1953年4月20日、初めて竹島に駐在した。常駐ではなく、定期的な駐在である。同年6月27日、日本の巡視船2隻が来島して6人いた守備隊員を島から追い出し、日本領の標識を立てている。

 資料2によれば、1953年6月27日に日本の巡視船2隻「おき」「くずりゅう」が、韓国人6名の退去を勧告し、標柱を設置しています。資料7によれば、6名はワカメを採取する韓国人で、「島根県の報告書に残る彼らの名簿に独島義勇守備隊員の名前はない」とのこと。

 1954年4月21日日本の巡視船が来島したため交戦状態が発生し、巡視船1隻を撃沈したと主張しており、日本側の記録でも巡視船が発砲を受けて損害を蒙ったことは確認できるが、撃沈は確認できない。また日本側は発砲した組織を韓国「官憲」と認識していた。隊員が何らかの制服を着用していたためだろう。また守備隊はその後も日本巡視船との交戦があったと主張し、日本側記録でも1954年11月30日に日本巡視船が竹島から砲撃を受けたとする。

 1954年4月21日、1954年11月30日の交戦については、日本側の記録を見つけられませんでした。

 また、参考文献として、資料12(中央日報)を挙げていますが、かなり参考にしていると思われます。

付録1.3 資料8(ウィキペディア「竹島 (島根県)」)

 同年4月20日(筆者注:1953年4月20日)には韓国の独島義勇守備隊が、竹島に初めて駐屯。6月24日、日本の水産高校の船舶が独島義勇軍守備隊に拿捕される[27]。(中略) すると、7月12日に竹島に上陸していた韓国の獨島守備隊が日本の海上保安庁巡視船「へくら」(PS-9[27]) に90mの距離から機関銃弾200発を撃ち込む事件が起きる[27]。

 [27]の文献は、資料12(中央日報)で信憑性が低いです。

(2016/10/14)

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