時事随想

時事随想

ニュースや新聞を見て、想ったことを綴った随想・論説集

政治的圧力を掛けることが国会議員の仕事か?

1. 前川氏講演への質問状

 前川喜平氏が中学校で講演を行ったことに対し、文科省が質問状を送った問題。

 自民党の文部科学部会長の赤池誠章参院議員と同部会会長代理の池田佳隆衆院議員が文科省に圧力かけて質問状を送らせたことが分かりました。

 朝日新聞の記事によれば、赤池氏は記者会見で、次のように述べました。

赤池氏は「(今回のことが)文科省への圧力になるなら、国会議員は仕事ができなくなる」と主張。

 これでは、「政治的圧力を掛けることが、国会議員の仕事」と言っているように聞こえてしまいます。

 調べてみると、確かに、国会議員として、政治的圧力を掛けることが、少なからずありました。

2. ちびまる子ちゃんの「友達に国境はな~い!」

 早速、ネット上で指摘されたのが、赤池議員が、ちびまる子ちゃんの「友達に国境はな~い!」という映画のキャッチコピーについて文科省に圧力を掛けたこと。この映画は「ちびまる子ちゃん イタリアから来た少年」で、文科省と東宝がタイアップして「国民に広く国際教育に対する理解・普及を図るため」製作したもの。

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 映画では、まる子たち日本の小学生が海外から来た小学生と交流し友情を深める姿が描かれており、国際理解の魅力・大切さを伝える内容となっています。これは、文部科学省が推進している国際教育の普及啓発の趣旨にも沿っていると考えられるものであり、本企画を通じて国際教育の趣旨を広く伝えていきたいと考えています。
文部科学省, 「映画ちびまる子ちゃん イタリアから来た少年 と国際教育」

 これに対して、赤池氏はブログで次のように述べています。

 私は、このポスターを見て、思わず仰け反りそうになりました。同省政務官時代に、国家公務員として、それも国家の継続を担う文科行政を担う矜持を持て。国際社会とは国家間の国益を巡る戦いの場であり、地球市民、世界市民のコスモポリタンでは通用しないと機会あるごとに言ってきたのに・・・

そして、次のように続きます。

  文科省の担当課に確認しました。ちびまる子ちゃんが言う分には目くじら立てる程のことはないと思ったのですが、東宝株式会社からいくつかのキャッチフレーズの提案があり、わざわざこれを文科省の担当課が選んだとか・・・ 誰も異論を挟む人はいなかったとのことでした。

 たかがキャッチフレーズ。されどキャッチフレーズ。一事が万事で、言葉に思想が表出するものです。国家意識なき教育行政を執行させられたら、日本という国家はなくなってしまいます。

文科省の担当課には、猛省を促しました。

  猛省を促すとは、要するに「こんなキャッチフレーズを付けるな」と文科省に圧力を掛けたということです。

 これが政治家の仕事なのでしょうか?


THE 独裁者 国難を呼ぶ男! 安倍晋三

古賀 茂明, 望月 衣塑子
(ベストセラーズ, 2018)

 国際会議を何度となく経験したことがありますが、「国際社会とは国家間の国益を巡る戦いの場」という面も確かにあります。しかし、会議を終われば、お友達です。スポーツの試合後みたいなもの。

 寧ろ、国際会議での戦いでは、積極的にお友達にならないといけないのです。

 国際会議は、最終的には皆の利益になるために行うもの、「友達に国境はな~い!」のコスモポリタンの世界です。でも、時に国益がぶつかることもあります。その場合には戦う。日本だけでは戦えなければ、他国と共同戦線を組む。私などは英語もろくにできないので、他国軍を前線に送り込むことも多かったです。

  独軍やポーランド軍との戦いでは単独勝利できたこともありましたが、やはり単独戦は厳しい。

  • 途中まで敵だった韓国軍と共同戦線を張り、中国軍を撃退したり
  • 物量を誇る米軍と日本軍が単独で戦うのは、無理!利益が一致する英軍と組み、英軍を前線に送り込んで、こちらが司令塔として戦ったり

と、いろいろやってきました。でも、ほとんどの場合は、争うことに利はないので、地球市民として皆と協力するのです。

 赤池氏は、ゼロサム思考になっているのではないでしょうか?どちらかが儲ければ、どちらかが損をする。ほとんどの交渉事でゼロサムやマイナスサムとなることはありません。なぜなら、片方がマイナスなら、交渉は決裂するからです。両者がプラスになって、初めて奪い合いが成立します(もっとも、圧倒的な強者と弱者では、プラスサムどころか、マイナスサムでも、弱者は奪われる一方ということもあるでしょうが)。

 また、お友達になるためには、他国への理解が必要で、母国の文化や伝統、日本に対する理解が重要であることに気付きます。そして、自分が日本人であることを強く自覚することになるのです。

 国家意識を植え付けて、排他的・排外主義的な教育を行い、国際協調のない人材を育成する教育が、日本という国家が存続する道とは到底考えられません。赤池氏はそのような教育をするつもりはないと言うかもしれませんが、私には、そのような教育が赤池氏の理想的な教育であるように聞こえます。

 自分の話が長くなってしまいましたが、続けます。

3. 教育勅語のどこがいけない?

 リテラによれば、赤池氏はWiLLという雑誌の座談会で次のように発言したそうです。

 赤池議員が教育勅語を礼賛したのに続けて、稲田議員が教育勅語を子どもたちに暗唱させる森友学園の方針をもち上げながら、文科省が新聞の取材に「教育勅語を幼稚園で教えるのは適当ではない」とコメントしたことを批判。

(赤池氏)「文科省の方に、『教育勅語のどこがいけないのか』と聞きました。すると、『教育勅語が適当ではないのではなくて、幼稚園児に丸覚えさせる教育方法自体が適当ではないという主旨だった』と逃げたのです」

と文科省に圧力をかけたことを自慢げに語っている。
リテラ, 「前川氏授業の圧力の安倍チル・赤池議員が『ちびまる子ちゃん』にも圧力!「友達には国境はな~い」のコピーに「国家意識がない」」, 2018/3/21.

「教育勅語」についても、文科省へ政治的圧力を掛けていたのです。

4. その他の事例

4.1 安倍氏らによるNHK番組への圧力問題(2001)

 当時、内閣副官房長官だった安倍晋三氏や他の自民党国会議員がNHKへの政治的圧力を掛け、慰安婦を扱ったNHKの番組を改変させたとされる事件です。政治的圧力の有無についていろいろと意見が分かれ、現在でもいろいろと物議が醸し出されます。

 この問題では、取材協力した「戦争と女性への暴力 日本ネットワーク(VAWW-NETジャパン」とNHKの間で訴訟が起こりました。しかし、圧力を掛けたとされる安倍氏やその他の国会議員が、訴訟当事者として関わった裁判ではないため、安倍氏らの不法行為を判断する裁判ではありませんでした。

 しかしながら、最高裁の判決文の中には事実関係として次の記載があります。

同副長官は,従軍慰安婦問題について持論を展開した上,Y1(NHKのこと)がとりわけ求められている公正中立の立場で報道すべきではないかと指摘した。
(中略)
番組作りは公正中立であるようにとの国会議員等の発言を必要以上に重く受け止め,その意図をそん度してできるだけ当たり障りの無いような番組とすることを考え,そのような形にすべく本件番組について直接指示したことにより,修正が繰り返されたものであって,これは当初の本件番組の趣旨とはそぐわない意図からされた編集行為であった。
最高裁判決(2008年6月12日)

 この事実関係は、政治的圧力がかかって、NHKが番組改変を行ったと受け取れる行為です。但し、不法行為を問うことができるかは別問題です。例えば、今回報道があった文科省の問題は不法行為を問うことができるほどの事案とは思えませんが、政治的圧力を加えたということができるでしょう。これと同様な意味で、NHK番組改変事件も政治的圧力が加わったと言えるでしょう。


NHKと政治権力――番組改変事件当事者の証言

永田 浩三
(岩波現代文庫, 2014)

4.2 2016年に起こった相次ぐメディアへの政治介入

NHKやテレビ朝日の幹部が自民党に呼び出され、事情聴取されるなどして、番組に政治介入を行った事案。その他、2016年にはTBSのNEWS23の岸井成格氏やテレビ朝日の報道ステーションの古舘伊知郎氏の降板などに政治圧力が加わったとの噂がありました。

5. 最後に

 自民党の文部科学部会長・副会長による文科省への質問状を強要する事件から、少なくとも自民党の一部の議員については、政治的圧力を掛けることが国会議員の仕事のようです。このような人物が自民党の要職についていることに疑問を感じます。

 もちろん、これらの議員でも、ちゃんとした政治活動をしていると信じたいですが、信じてよいのか、良く分かりません。

(2018/3/21)

A. 「友達に国境はな~い」問題のその後の報道

AERA.dotの取材に関連して、赤池氏コメントが含む報道がされています。

  • 赤池議員のブログ (2018/3/24)
    AERA dot. からの取材 映画『ちびまる子ちゃん イタリアから来た少年』ついて
    AERAからの質問に対する赤池氏の主な回答は以下の通りです。
    • 「教育行政を司る文部科学省として、子供向けとはいえ、「国境はない」という嘘を教え、誤認をさせてはいけないということです。国境は歴然としてあります。国家があってこそ、私達の平和で安全な暮らしが守られています。国家が発行するパスポートがなければ、出国もできませんし、他国へ入国することもできません。」
    • 「私なら「国境があっても、友達でいよう」と名付けたいところです。」
    • 「国民に選ばれた立法府の一員として、行政府に対して、事実確認を行い、問題提起をすることは当然の仕事だと思っています。」
  • AERAdot.: 「ちびまる子ちゃん」キャッチに抗議の自民・赤池議員「(友達に)国境はないと嘘を教えてはいけない」(2018/3/24)

(2018/3/24:追記)

【森友事件】太田理財局長の宮仕えの悲哀

 森友問題で、連日サンドバック状態で打たれまくっている太田充理財局長ですが、最近の太田さんの答弁からふと思ったことがあります。

 2018年3月19日の参議院予算委員会で、自民党の和田政宗議員が次の質問をしました。

和田議員「まさかとは思いますけども、太田理財局長は民主党政権時代の野田総理の秘書官も務めておりまして、増税派だから、アベノミクスをつぶすために、安倍政権を貶めるために、意図的に変な答弁をしているんじゃないですか?」

 これに対して、普段は冷静な太田理財局長が、珍しく感情的になり、

太田理財局長「いや、お答えを申し上げます。あの、私は、公務員としてお仕えした方に一生懸命お仕えするのが仕事なんで。それをやられるとさすがに、いくらなんでも、そんなつもりはまったくありません! それはいくらなんでも……それはいくらなんでも、ご容赦ください!」

と答弁しました。


 私は、この答弁で、太田さんの真摯な姿勢と宮仕えの辛さ・悲哀を感じたのでした。

 和田議員は、財務省や太田理財局長を貶めることを意図した質問だったのでしょうが、逆にブーメランとなって、和田議員の質問があまりに酷い質問であったと印象付けることになりました。

 これまで、政権擁護・保身ばかりの答弁をしている太田さんとは、違った側面を見ることができました。

 逆説的ですが、和田議員の質問は、良い質問でした。



森友・国有地払下げ不正の構造

小川 敏夫
(緑風出版, 2018)


(蛇足)

 私が不思議に思うのは、頼りない・情けなさそうなそうに答弁をしている太田理財局長が財務省の局長まで昇進していること。

 次のいずれなのでしょうか?

① 頭脳明晰で優秀
 国会答弁を見ていても、非常に優秀であることが分かります。
 和田議員の質問に対する反応も、もしかしたら演技?とちょっとだけ疑いましたが、さすがそこまではないでしょう。
②信頼される人物
 真摯な姿勢で仕事に取組み、上司・同僚・部下の信頼が厚く、頼れる存在である。
③上司に忠実
 頼りなさそうに見えるが、上司に忠実なので、部下にすると使い勝手が良い。
④ 実はパワハラ官僚
 ネチネチしたタイプのパワハラ上司で部下をこき使っている。

 要因は一つだけではないと思いますが、一番知りたいのは④。意外とパワハラ上司なのかもしれませんが、こればかりは内部の人でないと分からないですね(笑)。

(2018/3/20)

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【森友事件】国有地売却における疑惑の価格決定方程式

 国有地売却の森友事件は公文書の改竄事件にまで発展しましたが、本稿では、森友事件の発端である国有地売却の背任事件、特に、売却価格の決め方について考察します。

 なお、筆者は不動産鑑定士でもなく、ゴミ撤去費の積算根拠値のデータも、算出スキルもありません。しかし、森友学園のような特殊な取引の場合には、よくよく調べると、価格決定のプロセスが垣間見えてきます。

 そこで、本稿では、不動産鑑定やゴミ撤去費用の積み上げるような方法とは違った視点から、土地評価額が9.5億円となった価格決定プロセスを示します。

 以下に述べる国有地売却の価格決定の手順は、あくまで推測であり、仮説です。しかし、可能性が高い仮説と考えています。


森友・国有地払下げ不正の構造

小川 敏夫
(緑風出版, 2018)

1. 価格決定プロセスの推定

 森友事件では、9.5億円の評価額の土地を8.2億円値引きして、1.3億円で売却したとされています。そして、この8.2億円が不当な値引きではないかと疑われています。

 しかし、本稿では、豊中市に売却した隣地の土地評価額14億円を基準として、財務省・国交省・不動産鑑定士がどのように価格算定を行ったか、その価格決定のプロセスを明らかにしていきます。

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朝日新聞2017年2月9日(現在、参照不可)

2. 前提条件

 まずは、評価額・費用等の概算値と売却に関するルールについて示します。

① 国有地の評価額は14億(概算値)
 森友学園が購入しようとした土地の隣の土地は、豊中市に売却されましたが、ざっくりと、隣の土地と同等の金額、つまり14億円とします。実は、正確な見積よりもざっくりとした概算値の方が辻褄が合うのです。
② 1回目のゴミ撤去費は、1.3億円(確定値)
③ 2回目のゴミ撤去費は、8.2億円(国交省見積り)
④ 地盤対策費は、5.8億円(国交省見積り)
⑤ 国は、キャッシュアウトできない。
 国有地売却によって、キャッシュがでていくような取引はできないということ。 今回の売却では、既に1回目のゴミ撤去費として森友側に1.3億円を支払っていますので、売却額は、1.3億円以上としなければなりません。
⑥地盤対策費は、認められない。
 実際の校舎は3階建にも関わらず、8階建を前提とした地盤対策費は認められません。

 そして、最も、重要な条件は、次の条件です。

森友学園に、実質タダで国有地を売却する

 

3. 経緯

 この実質タダの条件は、2016年3月15日~2016年3月30日のどこかの時点で、ほぼ確定したと思われます。

  • 3月15日:籠池氏と理財局(田村国有財産審理室長)の会談
  • 3月16日:森友・近畿財務局・航空局の会議
  • 3月30日:森友側(籠池・業者・酒井弁護士)・近畿財務局・大阪航空局)の会議

 実質タダとする判断が、理財局の判断か、大阪側(近畿財務局・大阪航空局)の判断か、両者の合議による判断かは、不明です。

 また、「実質タダ」が、森友にとってのタダか、国側にとってのタダかは、この時点では意見対立があり*1、少なくとも5月18日の近畿財務局(池田靖国有財産統括官)との会談までには決着がついていなかったようです。

 理財局から近畿財務局への指示で、翌日2016年3月16日に近畿財務局が森友学園を訪問、それ以後土地売却交渉が行われますが、3月30日の関係者で作った「ストーリー」に基づき実質タダを前提として実作業が本格化したと考えられます*2

  • 3月30日:森友側(籠池・業者・酒井弁護士)・近畿財務局(武内良樹近畿財務局長)・大阪航空局(加藤隆司大阪航空局長)の会議*3
    • 売却の「ストーリー」作り。
    • 近畿財務局が大阪航空局にゴミ撤去費の見積りを依頼。
  • 4月1日:近畿財務局が、森友へメール
    • 「埋設されている廃棄物層、軟弱地盤関係等を適正に(不動産鑑定評価の)価格に反映させ、価格提示を行いたいと考えている」
    • 筆者注:ゴミ撤去費だけでは国有地をタダまで値引くほどの金額がでないので、地盤対策費も含めることを事前に連絡したと思われる。
  • 4月11日:森友側、試掘の結果、3.8mのゴミがあったと虚偽の報告書を提出
    • 筆者注:ストーリーに基づいて、試掘業者が虚偽報告書を作成。
      試掘業者は、大阪地検に「学園や財務省近畿財務局側から促された」「事実と違うことを書かされた」「書けと言われてしょうがなくやった」などと説明しているようであるが、3月30日の会議出席者であれば、共同謀議の一員である。
  • 4月14日:大阪航空局が、見積り結果を近畿財務局に報告
    • ゴミ撤去費(8.2億円)、地盤対策費(5.8億円)
  • 4月22日:近畿財務局が、不動産鑑定依頼
    • 不動産鑑定士にゴミ撤去費(8.2億円)と地盤対策費(5.8億円)を考慮した鑑定を依頼。
    • 不動産鑑定士は、地盤対策費を認めず。
  • 5月18日:近畿財務局(池田統括官)が、籠池氏と価格交渉(額面0円か、実質0円か)
  • 5月31日:近畿財務局が、土地評価額9.5億円の鑑定書を受領。
    • ゴミ撤去費(8.2億円)を考慮すると、1.3億円との意見価値。
  • 6月20日:国と森友が、1.3億円の売却契約を締結
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森友問題の経緯


 本稿で示した推論は、3月30日以降に行われたと思われる価格決定プロセスについての推論となります。

4. 国交省の見積り

 ゴミ撤去や地盤対策を購入側が行った場合、国有地の売却額は、土地の評価額から有益費(ゴミ撤去費や地盤対策費)を差し引いた金額となります。

売却額=土地評価額-有益費=土地評価額-ゴミ撤去費-地盤対策費

 国交省大阪航空局は有益費(ゴミ撤去費と地盤対策費)を見積ります。このときの考え方は、森友側に国有地をタダで売却する前提です。また、国有地の評価額は、豊中市への売却額とほぼ同じ14億円とします。

売却額=土地評価額(14億円)-ゴミ撤去費(8.2億円)-地盤対策費(5.8億円)=0億円

 ここでの価格見積りでは、まず、土地評価額を豊中市に売却した隣地と同程度の14億円として、有益費を同額の14億円まで積み上げることを考えます。有益費をゴミ撤去費のみで見積もると、例えば、地下のゴミが9mよりも遥かに深く埋まっているなど、疑わしい前提を置くことになりますので、ゴミ撤去費(8.2億円)と地盤対策費(5.8億円)に振り分けます。

 ここで、国交省は、⑤、⑥の条件を考慮していません。

 先に、土地評価額はざっくりと14億円とした方が辻褄が合うと述べましたが、国交省見積りの正確な値を代入して計算すると、よりはっきりします。

土地評価額=ゴミ撤去費(8億1974万円)+地盤対策費(5億8492万円)=14億466万円

 14億円を基準にすると、0.3%の差です。見積り額が「14億円」となるように依頼された人が、できるだけ14億円ちょうどとなるように生真面目に作った数字なのでしょう。

 なお、国交省のゴミ撤去費見積り8億1974万円は、国交省共通建築工事積算基準に基づいて算出した査定額4億3572万円よりも、3億8401万円過大であると指摘されています*4

 また、試掘で見つかったゴミの深さは虚偽であるとの報道があり*5、虚偽データを用いてゴミ撤去費を8.2億円と見積ったと考えられます。

5. 地盤対策費は認められない

 国交省の地盤対策費は、8階建てを前提としていますが、実際に立てる校舎は3階建て。不動産鑑定士は財務省から地盤対策費を認めるように求められましたが、これを断りました*6。このため、売却額は、次のようになります。

売却額=土地評価額(14億円)-ゴミ撤去費(8.2億円)-地盤対策費(0円)=5.8億円

 これでは、売却額を実質0円にできません。そこで、土地評価額を逆算することになります。

6. 売却額から土地評価額を逆算

 森友側は売却額は額面で0円を希望します。一方、国側はキャッシュアウトできません。つまり、売却額は実質値で0円以上にしなければなりません。そうでないと、国有地を0円で売却した上で、さらに1.3億円(1回目のゴミ撤去費)を購入側に支払うという明らかに異常な取引になってしまいます。

 この意見の相違で、籠池氏と財務省の金額交渉が難航することになりますが*7、最終的には、売却額は額面1.3億円で決着します。この決着に基づき、国有地評価額を売却額から逆算します。

土地評価額=売却額(1.3億円) + 2回目のゴミ撤去費(8.2億円)=9.5億円

 なお、交渉過程で、森友側の業者である業者がゴミの撤去費を9.6億円と見積ります*8。これは、土地評価額の大枠が9.5億円と決まった頃に売却額を額面0円にするための森友側の対抗提案と考えられます*9

7.逆算の土地評価額を出すように、不動産鑑定を依頼

 財務省は、不動産鑑定士に、土地評価額9.5億円、売却額1.3億円を回答するように国有地の評価を依頼します。

 不動産鑑定士は、地盤対策費5.8億円は認めませんでしたが、地盤の影響を土地価格の減価要因として約10%と評価します。

土地価格をXとすると、

  土地価格X - 土地減価額(0.1X) - ゴミ撤去費用(8.2億円) = 売却額(1.3億円)

よって、土地価格X = 10.6億円

  土地評価額=土地価格(10.6億円)-土地減価額(1.06億円)=9.5億円

従って、土地評価額9.5億円からゴミ撤去費を引いた金額1.3億円が売却額となります。

 14億円と9.5億円・10.6億円は乖離がありますが、不動産鑑定では、この程度の違いがあっても、ちょっと安いかなという程度のようです*10。不動産鑑定の裁量は大きいので、直ちには不合理な鑑定と断定できないと思われます。

8. 最終的な売却価格

 最終的には、不動産鑑定士の評価額に基づき、売却額を再計算します。

売却額=土地評価額(9.5億円)-2回目のゴミ撤去費(8.2億円)=1.3億円

9. 正確な数値

 これまでの金額は、概算値で示しましたが、会計検査院の報告書に正確な数値が記載されています。

  • 1回目のゴミ撤去費用=1億3176万円(4ページ
  • 2回目のゴミ撤去費用(国交省見積り)=8億1974万円(43ページ
  • 地盤対策費(国交省見積り)=5億8492万円(43ページ
  • 不動産鑑定士による土地評価額=9億5600万円(4ページ
  • 売却額=1億3400円(4ページ

 参考までに、豊中市購入の隣地と同じ単価で計算すると、森友の土地の評価額は約13億円となります。

  • 国有財産評価額=13億1476万円(筆者推定)
     豊中市に売却した土地(9492㎡で14億2300万円)と同じ単価で計算すると、森友学園の8770㎡の用地は13億1476万円となります。

10. 売却益

 実際の売却額から支出(1回目のゴミ撤去費用)を引いた金額が売却益となります。

売却益=実際の売却額(1億3400万円)-1回目のゴミ撤去費(1億3176万円)=224万円

 推定評価額約13億円の国有地の売却で、国が得られるキャッシュは224万円だけ。実質、タダです。交渉に要した人件費や諸経費を考えれば、大幅なマイナスと言えます。

11. 最後に

 森友事件における土地売却額の価格決定プロセスを推測しました。このようなプロセスで土地評価額を計算したため、約13億円の評価額の国有地が9.5億円と安い評価になったと考えられます。

 意外と的を得ている仮説ではないかと、自負しています。

(2018/3/20)

(2018/3/23:追記1)  8月23日付の夕刊フジ系の記事に「ごみの撤去費用として約8億円を値引きする方法は、土地を所有する国交省大阪航空局が近畿財務局に提案していたことが分かった。」とありました*11。筆者の見立てを裏付ける記事です。もっとも、これは、国交省主導ではなく、森友側・財務省・国交省の合議の結果だと思います。2016年3月下旬の会議の録音テープは、この合意の様子を録音したものと考えられます*12。この合議を元に、国交省見積りのために、森友側の工事業者が虚偽データを財務省に提供するなど*13、それぞれが価格決定における役割を担います。

(2018/3/23:追記2)3月20日にNHKが「森友 “ごみ撤去費用として大幅値引き” 大阪航空局が提案」と報道していました*14。新たに発見された文書は、売払決議の添付文書のようです。

(2018/3/24) 「経緯」に関する記述を大幅に加筆・修正。

(2018/3/24:追記1) 3月15日の田村室長との面会については、鴻池事務所は面会のアポ取りを断っています。昭恵夫人の口利きがあった可能性がありますが、それ以外の価格交渉に関しては昭恵夫人や政治家などの直接的な関与を疑わせる情報は私が調べた限りではありません。但し、交渉期間中も昭恵夫人は籠池夫妻と密に連絡を取り合っていたと思われます(3月15日の田村室長との面会直後に、昭恵夫人が籠池氏に電話をしている)。その事が、籠池氏に交渉材料として使われてしまったことは、否定できないでしょう。まずは事実確認が重要ですが、口利き等の事実確認ができず直接的な関与がないという前提でも、首相夫人が広告塔や交渉材料として利用された事実に対しての首相の政治的責任とは如何にあるべきかという問題は残ります。

(2018/3/24:追記2)国有地芸額譲渡の真相解明を求める弁護士・研究者の会の森友学園問題年表を見ると、2015年1月16日の時点で不動産鑑定評価額9億5600万円とされています。国土交通省が2016年4月14日だした有益費のゴミ撤去量8.2億円、地盤対策費5.8億円のうち、5.8億円が認められていたら、5.8億円を森友学園側に支払うという国有地売却になってしまいます。不動産鑑定士が2016年4月22日の鑑定依頼に対して地盤対策費を認めなかった理由は、既に2015年1月時点で9億5600万円と評価してしまっているためと理解できます。2015年1月に決定した評価額9.5億円を前提とした賃料4200万円/年が、同年4月21日に地盤対策費が必要との理由で3600万円/年に減額されています(さらに、同年5月29日の契約時では2730万円に減額)。2016年4月時点では、8.2億円に5.8億円分を足した金額(14億円)が国交省が考えていた国有地の評価額が、2015年4月21日時点では、地盤対策費を理由に4200万円(土地評価額9.5億円)から3600万円に賃料が下げられます。2015年4月の貸付時の土地評価額(賃料3600万円に相当する土地評価額)と、2016年4月に国土交通省が考えていた土地評価額(少なくとも14億円)に大きな開きがあり、いろいろと辻褄が合わないことが起こっていそうです。

(2018/4/2) 不動産鑑定における地盤対策費を0円として土地評価額を出すのではなく、会計検査院報告書にあるように減価要因10%として土地評価額を算出するように修正しました。

関連記事

*1:Harbor Business Online, 「籠池泰典氏と財務省のやり取り録音、音声データ及び文字起こしデータを全編完全公開!」, 2017/5/6.

*2:IWJ, 「「安倍夫人」の名前で恫喝する籠池夫妻とひれ伏す官僚――マスコミでは伝えられない4時間もの「録音データ」を生々しい音声つきで公開! 岩上安身が共産党・辰巳孝太郎参院議員に訊く」, 2018/2/8.

*3:国有地低額譲渡の真相解明を求める弁護士・研究者の会, 「森友学園問題年表(関連情報を含む)」, 2017/4/24.

*4:
国有地低額譲渡の真相解明を求める弁護士・研究者の会,「「近畿財務局への証拠の捜索・押収の要請書」及び「学校法人森友学園い国有地の譲渡に関する平成28年5月31日付不動産鑑定評価書の地下埋設物撤去及び処理費用の内訳書に対する鑑定意見書」を大阪地検特捜部に提出」, 2017/9/1.
平野憲司, 「学校法人森友学園に国有地の譲渡に関する平成28年5月31日付不動産鑑定評価書の「地下埋設物撤去及び処理費用」の内訳書に対する鑑定意見書」, 2017/8/30.

*5:毎日新聞, 「森友学園 国有地売却問題 ごみの深さは「虚偽」 値引き根拠 「3.8メートル書かされた」業者、大阪地検に証言」, 2018/3/16.

*6:朝日新聞DIGITAL, 「低層校舎着工「5億円、引けない」 鑑定士、要求を拒否 森友に売却の国有地」, 2017/5/22.

*7:フジテレビ・グッドディ!, 「籠池夫妻が詐欺容疑で逮捕! 森友学園国有地売却の重要音声データをFNN独自入手!」, 2017/8/1. (映像

*8:毎日新聞, 「森友学園 「ごみ撤去費は9億円」業者が見積もり」, 2017/11/16.

*9:細かいことですが、ゴミ撤去費9.6億円、土地評価額9.5億円だと、国有地の購入者(森友学園)に国が1000万円を支払うという事態が発生するので、この場合は、土地評価額を9.6億円とする必要があります。

*10:不動産実務TIPS,「森友学園(豊中市)の国有地払下げ、鑑定評価は適正だった?不動産鑑定士の関りは?」, 2018/3/11.

*11:zakzak, 「「森友」国有地問題の核心、8億円値引きは大阪航空局提案 小学校予定地と「野田中央公園」の類似性 」, 2018/3/23.

*12:東京新聞, 「森友」協議 音声データ詳報」, 2017/12/20.

*13:朝日新聞DIGITAL, 「ごみ量算出「虚偽」 業者「森友と財務局から働きかけ」」, 2018/3/17.
工事業者は、森友と財務省から働きかけれたと証言しているようですが、録音テープからすれば、森友と一緒になって、積極的に国側(財務省・国交省)に働きかけたように見えます。

*14:NHK, 「森友 “ごみ撤去費用として大幅値引き” 大阪航空局が提案」, 2018/3/20.

立憲民主党と自民党のtwitterの偽アカウント数を調べた

 先の衆議院選挙で立憲民主党のtwitterフォロワー数が急増し、SNSを活用した選挙として話題になりました。

1. 立憲民主党フォロワーの偽アカウント疑惑

その際に、立憲民主党のフォロワーには、偽アカウントが多いのではないか、という疑惑が、一部のネットユーザの中で広がりました。

BuzzFeedでは、この疑惑についての検証記事を掲載しましたが(2017年10月6日)、結論としては、「この疑惑には根拠がない」というものでした。

【検証】立憲民主党Twitter「フォロワーを購入」は本当か? 急成長で自民党を抜いたけれど…

2. いまだに流布する偽アカウント疑惑

この偽アカウント疑惑は、今だに流通しているようです。

最近でもあるtwitterの話題で、fakersのデータを引用して「立憲民主党のフォロワーの大半はインチキ」であると主張されている自民党支持者と思われる方がいました。

その時の、データは、以下の通りです(2018年3月4日現在)。

  • 偽(12%)、非アクティブ(50%)、良い(38%)

さて、このデータから「立憲民主党のフォロワーの大半はインチキ」という結論を導くことは妥当なのでしょうか?

3. fakersで現時点でのデータを自分で調べてみた

現時点では、どうなっているか、fakersで調べてみました(付録参照)。

結果は、以下の通りです。

  • 立憲民主党:偽(12%)、非アクティブ(53%)、良い(35%)
  • 自民党:偽(20%)、非アクティブ(43%)、良い(37%)

自民党も、立憲民主党も、良いについては似たり寄ったりです。偽アカウントは、むしろ、自民党の方が2倍近く多くなっています。

この結果からすると、次のような結論を導くことが妥当ではないかと思います。

  • 立憲民主党も自民党も、フォロワーの大半はインチキ

あるいは、

  • 自民党の偽アカウントは、立憲民主党のおおよそ2倍。
  • 100日間ツィートしていない人やフォロー数が250人のフォロワーが、立憲民主党や自民党のフォロワーには多い。

といったような結論でしょうか。

他の政党の調査結果もあれば、

  • 政党のフォロワー状況としては標準的なデータである

ということもできるでしょう(前掲のBuzzFeedの記事では他党も比較)。

いずれにせよ、一方だけのデータを提示して、恣意的な結論を導くことは、所謂、「印象操作」と言えるでしょう。データの使い方としては適切ではありません。

4. まとめ

あるデータを用いて導かれた結論は、そのデータが正しいか、データの提示の仕方が適切かなど、注意深くみていく必要があります。そうでないと、一見、客観的に見えるデータに騙されることになります。

客観的と思われるデータを検証する一つの方法としては、比較データを用いる方法があります。

「立憲民主党のフォロワーの大半はインチキ」と主張された方は、自民党支持者と思われますが、自民党のデータも比較した上で、その評価をした方が良かったのではないかと思います。

(2018/3/4)


付録:fakersを用いた偽アカウントの調べ方

fakersを用いて、次のような手順で偽アカウントを調べることができます。

f:id:toranosuke_blog:20180304173255j:plain:w500
  • ステップ2:「Connect to Twitter」をクリック
  • ステップ3:「連携アプリを認証」をクリック。
f:id:toranosuke_blog:20180304174103j:plain:w500

(「StatusPeople Fake Followersにアカウントの利用を許可しますか?」と出てきたときには、twitterのアカウント・パスワードでログインする。)

f:id:toranosuke_blog:20180304174142j:plain:w500
  • ステップ4:自分のデータがでてくる
f:id:toranosuke_blog:20180304175226j:plain:w500

fake(偽), inactive(非アクティブ)の定義は、以下のように100日間ツィートしていない(fake)とフォロー数が250人以下(inactive)というもののようです。

3% have not tweeted in 100 days
14% follow less than 250 people
  • ステップ5:「twitter usename...」の欄にtwitterのアカウント「CDP2017」(立憲民主党)や「jimin_koho」(自民党)などを入力して、「Search」をクリックする。
    無料でできるのは、数回だけです(確か、3回まで)。ご留意ください。
f:id:toranosuke_blog:20180304180314j:plain
(a) 立憲民主党

f:id:toranosuke_blog:20180304180321j:plain
(b) 自民党

【裁量労働】労働時間の上限規制を設けるべき

 裁量労働制の拡大は一旦が見送りになりましたが*1、柔軟で効率的な働き方という裁量労働の趣旨に沿って運用できれば、良い制度だとは思っています。

 しかし、問題は、長時間労働となりやすい、歯止めがないので使用者に悪用されるという点です。

 この改善策としては、以下の場合には、その労働者への裁量労働の適用を外すことを法律で義務付けることが必要と考えます。

① 実労働時間が、36協定の上限(月45時間、年360時間*2)を超えた場合
② 実労働時間が、みなし労働時間よりも大幅に長くなった場合
(みなし残業が月20時間程度なら、①の規制だけでもよいとは思う)

 ①の36協定の規制は健康を含めたワークライフバランスを保つ上限として設定されているので、それを超える働き方を労働者はすべきでないことは明らかです。

 ②となる原因は、いくつか考えられます。例えば、

③ みなし時間に比べて、与えられた仕事量が多い。
④ 効率的に仕事ができていない。

 効率的に仕事ができるとは、みなし時間よりも少ない時間で仕事が完了するということです*3。実労働時間がみなし時間よりも少ないことが、効率的な働き方という裁量労働制の主旨に沿った働き方なので、①や②となるのは、働き方に何らかの問題があるということです。

 いずれにせよ、①、②のいずれの場合も、裁量労働に適合した働き方ではないので、裁量労働を適用すべきではないでしょう。

 なお、①や②の運用には、実労働時間の把握が必要ですが、労働者に時間管理の裁量があることと、使用者が労働時間を把握することとは別のことなので、労働時間の把握を使用者に義務付けることに問題があると思えません。また、現在でも「健康・福祉確保措置」による勤務状況把握*4や非適用者の実時間労働管理が義務付けられていることなのでこの点でも支障はないと言えるでしょう*5

 政府・与党・野党を問わず、現行の裁量労働の問題点を踏まえて、法制度を整備することを期待します。

(2018/3/2)


ブラック企業のない社会へ――教育・福祉・医療・企業にできること

今野 晴貴, 棗 一郎, 藤田 孝典, 上西 充子, 大内 裕和, 嶋崎 量, 常見 陽平, ハリス鈴木絵美
(岩波ブックレット, 2014)

●twitterの投稿(2018/3/2)

*1:泉宏,「安倍首相、「裁量労働削除」は「蟻の一穴」か」, 東洋経済ONLINE, 2018/3/2.

*2:厚生労働省, 「時間外労働の限度に関する基準」

*3:効率的に働くとは、労働時間の短縮以外に、同じ時間でより多くの仕事量をこなす、より高い生産価値を生み出すことも挙げられます。

*4:厚生労働省, 「健康・福祉確保措置」.
入退室時刻の記録などを求めるものであって、実労働時間の把握を求めているわけではありません。

*5:2016年11月に民進党・共産党・自由党・社民党の野党4党が提出した「長時間労働規制法案」の中にて、「健康管理時間」という実質的に労働時間を記録する義務を定め、できない場合には裁量労働制を導入させないという条項を設けていますが、廃案となったようです。

【憲法改正】合区解消?小さな県は合併したら?

1. 合区解消のための憲法改正

自民党では、憲法改正を議論しているが、その一つが選挙制度に関する改正案である。

 自民党憲法改正推進本部が選挙制度に関する改憲条文案をまとめた。

 参院選で2つの県を1つの選挙区とする「合区」を解消し、各都道府県から1人以上を選出できるようにする。衆院選では市区町村が複数の小選挙区に分割される区割りを防ぐ。
(中略)
 自民党は、合区では地方の声が国政に反映されにくいとし、現行の47都道府県を単位とする参院選挙区にこだわった。合区対象県には自民党の強固な支持基盤があるという現実を前に、党利を図っているとみられても仕方ない。
産経ニュース「合区解消の憲法改正案 無理に無理を重ねるのか」, 2018年2月21日.

2. 地方の声が国政に反映されない?

 参議院選挙区では、島根県・鳥取県と徳島県・高知県が合区となっている(総務省)。

 自民党によれば、合区からの選出では地方の声が反映されにくく、県単位の選出だと地方の声が反映されるという。意味不明である。

 単に選出された議員が選挙区の声を反映する努力をしていないということではないのか?

 同じ定数2で言えば、沖縄県の方がはるかに選挙区内の距離が離れている。他にも定数2で、それぞれの合区よりも面積でも、人口でも大きい県はある(付録)。

 要するに合区から選出された議員がどれだけ地方の声を反映するかであって、選挙区の問題ではなく、選出された議員の問題である。

3. 鳥取島根県と徳島高知県を作ればよい

 それでも、どうしても、都道府県に拘るのであれば、憲法14条が保障する法の下での平等に答えるために、人口が少ない県を統廃合すればよい。

例えば、以下のように県の廃止と新設を行えばよい。

  • 鳥取県・島根県を廃止し、鳥取島根県を新設
  • 徳島県・高知県を廃止し、徳島高知県を新設

 これで、都道府県毎に1名以上の議員を選出でき、憲法14条と矛盾しない。

 ただでさえ、今後、人口が減少し、成り立たなくなる地方自治体が多数発生すると言われる。

 県についても、小さな単位でいることが合理的でないならば、統廃合の例外とするべきではないだろう(付録B)。

 地方自治体の統廃合、特に県レベルの統廃合は、地方の歴史を無視していると言われるかもしれないが、明治維新では遥かに大胆な統廃合を行っている。出来ないという理由にはならない。


「一票の格差」違憲判断の真意
福田 博 オーラルヒストリー, 外交官としての世界観と最高裁判事の10年

福田 博, 山田隆司・嘉多山 宗(編)
(ミネルヴァ書房, 2016)

付録A:合区の人口と面積について

A.1 各県の人口と面積

A.1.1 各県の人口

 合区となっている鳥取県・島根県と高知県・徳島県の人口は、2017年の統計でそれぞれ以下の通りである(都道府県 人口ランキング)。

  • 鳥取県:565,233名
  • 島根県:684,668名
  • 高知県:713,465名
  • 徳島県:743,356名

 この4県は、47都道府県の中で最も人口が少ない県である。

 この人口を市町村の人口と比べると、次のランキングとなる(全国の市 人口ランキング)。

  • 鳥取県:25位
  • 島根県:21位
  • 高知県:20位
  • 徳島県:17位

 これには、東京23区が入っていない。東京23区には、鳥取県よりも人口が多い区(板橋区、杉並区、足立区、江戸川区、大田区、練馬区、世田谷区)が7つあり、これらを考慮すると、順位は次のようになる。

  • 鳥取県:32位
  • 島根県:25位
  • 高知県:23位
  • 徳島県:18位

 つまり、これらの4県の人口は、多少大きな市の人口にも満たない。

人口減少を推移をみると、これらの地方の県は人口減少が進み、人口ランキングはさらに下がるだろう。

A.1.2 各県の面積

4県の面積は、以下の通りである(都道府県 人口・面積・人口密度ランキング)。

  • 鳥取県:3,507 km2(41位)
  • 島根県:6,708 km2(19位)
  • 高知県:7,104 km2(18位)
  • 徳島県:4,147 km2(36位)

それぞれ単独で見ると、都道府県の中では、中程度の大きさとなっている。

A.2 合区の面積と人口

 さて、それぞれの合区の面積・人口をまとめると、次の通りである。

  • 鳥取県+島根県:10,215 km2、1,249,901名
  • 高知県+徳島県:11,251 km2、1,456,821名

 鳥取・島根合区の面積よりも、大きく、定数2の参院選挙区には、岐阜県・新潟県・長野県・福島県・岩手県がある。それぞれの人口と面積は、以下の通りである。

  • 岐阜県:10,621 km2、2,010,698名
  • 新潟県:12,584 km2、2,266,121名
  • 長野県:13,561 km2、2,076,017名
  • 福島県:13,783 km2、1,882,666名
  • 岩手県:15,275 km2、1,254,807名

 同じ定数2で比べても、鳥取・島根合区よりも、上記の5県は面積も人口も大きい。高知・徳島合区でも新潟・長野・福島の3県の方が面積・人口がともに多い。

 面積・人口が大きい県の選出の議員よりも、面積・人口ともに小さい合区選出の議員の方が、地方の声を聴けないとすれば、それは議員の問題である。

付録B. 廃藩置県と昭和・平成の大合併

 都道府県の多くは、奈良時代の律令制度に基づいて設置された行政区(令制国)に沿った形で設置されている。それでも、現在の都道府県は、必ずしも昔からの令制国に一対一で対応しているものではない。

 例えば、現在の徳島県は阿波国、高知県は土佐国で概ね令制国と一致しているが、島根県・鳥取県は、令制国で見れば、以下のように統合した結果である。

  • 島根県=石見国+出雲国+隠岐国
  • 鳥取県=因幡国+伯耆国

 平安から江戸期の令制国の数は66か国とも、68か国ともいわれるが、現在は、沖縄・北海道を入れても47の都道府県しかない。つまり、少なくとも20か国程度は明治の廃藩置県までに統廃合が行われている。

 昭和や平成の大合併では、市町村レベルでは大規模な統廃合が行われている(ウィキペディア)。

 小さな地方自治体を存続させるよりも、統廃合してより大きな地方自治体にすることは合理的な考えである。

 県であっても、同じように統廃合することが合理的と言えるのであれば、統廃合すればよい。現在の都道府県の単位を金科玉条の如く守る必要はない。

(2018/2/22)


新詳日本史―地図資料年表

(浜島書店, 1995)


(2018/4/15:追記)
産経ニュースでも、筆者と同旨の論説がありました。

 人口が50万人を割るような県では、「1県1自治体」、「1県2自治体」とするぐらいの大胆さが必要だ。さらに減るようならば、都道府県同士の合併、再編も視野に入ってくる
産経ニュース, 「地方人口の激減 「1県1自治体」の発想必要 論説委員 河合雅司」, 2018/4/15

関連記事

  • twitterに同様な主旨の投稿を行っている。

憲法9条の改正案

憲法13条を絶対神とした憲法9条の拡大解釈はすべきではない。文理解釈で理解できる、つまり、中学生でも理解できる文章で、現状に即した9条に改正すべきである。

以下は、筆者が考える具体的な憲法9条の改正案である。

第9条  日本国は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、いかなる戦力をも保持せず、あらゆる戦争、武力による威嚇、武力の行使を永久に放棄する。
 但し、我が国の防衛のための武力の行使、及び、そのために必要な最小限度内の武力の保持については、この限りではない。
  • 解釈によっては、戦争や武力行使が容認されると解釈し得る修飾句「国権の発動たる」「国際紛争を解決する手段としては」を削除し、「あらゆる」に変更することで、解釈の余地なく、全面禁止を規定する。例外は、但し書きに規定する。
  • 自衛権行使を認め、戦力不保持を保ちつつ自衛隊(実質的には軍隊)の存在と矛盾しないように規定している。このためには、「陸海空軍」は削除せざるを得ない。
  • 交戦がない武力行使、武力行使がない交戦はない。交戦権否認は、盲腸のような存在なので、これを削除した。
  • 「我が国の防衛のため」と限定することで、全面的な集団的自衛権行使は解禁しない(文案では限定的な集団的自衛権行使は容認している。個別的自衛権のみに限定する場合は若干の修正が必要である)
  • PKO/PKFについては、本案では考慮していない。今後、検討が必要である。
  • 自衛隊を記載する場合には、次の条項を追加する。
 第9条 2項 日本国は、我が国の防衛のために必要な最小限度内の武力を有する自衛組織を保持する。

いずれにせよ、現在の9条1項、2項をそのまま残すのであれば、絶対神の憲法13条による9条の拡大解釈が必要となり、解釈改憲という立憲主義に悖る状態が継続されることになる。これは正さなければならないと考える。

(2018/2/8)

なお、本記事と同様の内容は、日経ビジネスオンラインの下記の記事に対するコメントとして、2月8日付で投稿している(コメントが掲載されるかは、現時点では不明)。

関連記事

 本案は、twitter上での議論から生まれたものである。

【ニュース女子】BPO意見書への批判について

 TOKYO MXに「ニュース女子」というバラエティ番組があったそうです。番組名を聞くことはあったのですが、一回も見たことはありませんでした。BPO意見書で話題になったことから知るとことなりましたが、今回の記事では、この「ニュース女子」のBPO意見書の問題について記事にしたいと思います。

1. 「ニュース女子」に関するBPOの意見書

 TOKYO MXの番組「ニュース女子」が2017年1月2日に放送した沖縄基地問題の特集について、BPOの放送倫理検証委員会が意見書をまとめました。その要旨は以下の通りです。

当該番組はTOKYO MXが制作に関与していない“持ち込み番組”のため、放送責任のあるTOKYO MXが番組を適正に考査したかどうかを中心に審議した。
委員会は、

(1) 抗議活動を行う側に対する取材の欠如を問題としなかった、
(2)「救急車を止めた」との放送内容の裏付けを制作会社に確認しなかった、
(3)「日当」という表現の裏付けの確認をしなかった、
(4)「基地の外の」とのスーパーを放置した、
(5) 侮蔑的表現のチェックを怠った、
(6) 完パケでの考査を行わなかった、

の6点を挙げ、TOKYO MXの考査が適正に行われたとは言えないと指摘した。そして、複数の放送倫理上の問題が含まれた番組を、適正な考査を行うことなく放送した点において、TOKYO MXには重大な放送倫理違反があったと判断した。

(筆者により、改行を追加)
東京メトロポリタンテレビジョン『ニュース女子』沖縄基地問題の特集に関する意見(2017/12/14) PDF
「ニュース女子」の制作会社DHCテレビがyoutubeに公開している映像

2. アノニマスポストのBPOへの批判

 この意見書に対してネット上では、批判的な意見を多数見かけます。本記事では、そのうちの一つ、アノニマスポストの批判意見について検証したいと思います。

2.1 記事の概要

 アノニマスポストは、保守系ニュースのまとめ配信サイトです。このサイトでは、今回の「ニュース女子」に関するBPO意見書についても記事にしています。

https://anonymous-post.news/archives/1519
 アノニマスポストの記事では、「救急車を止めたことは事実」なのにBPOは「誤解」で片付けていると、BPOの意見書の次の部分を引用し、批判しています。

③抗議活動側が傷病者であった18件のうち1件について、傷病者を収容した救急車が徐行運転を開始して間もない高江橋で、抗議活動側の人が救急車に対して手を挙げて合図し、救急車に停止してもらい、誰を搬送しているのかを確認したことがあった。救急車が停止した時間は数十秒であった。この事実が「救急車を止めた」と誤解された可能性がある。
BPO意見書12ページの消防長の証言

これをBPOの「稚拙な言い訳」とし、次のように述べています。

BPOは消防署に聞き取り調査をして、実際に救急車が止められたのを知ってしまったのだろう。
しかしなんとか「ニュース女子」を悪者にしたい意図が文面からありありとわかる。
まず上記の文章から「私設検問」の実態がわかり、実際に救急車は止まっている。
例え数十秒であってもそれは活動家たちの私設検問で「止められている」のだ。
しかしそれを強引に「誤解」で片づけている
アノニマスポスト

2.2 BPO意見書の解釈

 BPOの検証委員会の役割は、まずは、放送内容が適切な取材に基づいた事実に即した報道となっているか調査し、仮に問題があるとすれば、そのような問題点を放送局がチェック(考査)していたかを検証することにあります。

 BPO意見書の4章2節の「基地建設反対派は救急車を止めたのか?」に「この事実が「救急車を止めた」と誤解された可能性がある」との記述があります。この意見書での「この事実」と「救急車を止めた」とは、次の事項を指します。

  • 「この事実」:「傷病者を収容した救急車が徐行運転を開始して間もない高江橋で、抗議活動側の人が救急車に対して手を挙げて合図し、救急車に停止してもらい、誰を搬送しているのかを確認したことがあった。救急車が停止した時間は数十秒であった。」(消防長証言)
  • 「救急車を止めた」:ニュース女子で放送された内容

「救急車を止めた」が「ニュース女子で放送された内容」であることは、BPO検証委員会の目的や文脈からすれば、当然の解釈です。BPO意見書を読んで、このように理解できないのであれば、理解能力がない、あるいは、意図的に異なる解釈をしていると言わざるを得ません。

2.3 「救急車を止めた」という放送内容

 さて、「救急車を止めた」という「ニュース女子」における放送内容について述べます。

 放送事実は、「防衛局、機動隊の人が暴力をふるわれているので、(編集によりカットあり)その救急車を止めて、現場に急行できない事態が、しばらく、ずーっと続いていたんです」です。

 編集によってカットされている部分があるので、日本語がおかしくなっていて、「その救急車」がどこに急行するのか不明確ですが、前後の文脈から、「暴力を振るわれている防衛局・機動隊の人のところに向かった救急車」と考えられます。つまり、放送内容は「防衛局・機動隊の人のところに急行しようとしている救急車を止めた」と受け止められます。

 BPOが検証したのは、「(基地反対派が)救急車を止めた」ではなく、放送内容である「(基地反対派が)防衛局・機動隊の人のところに急行しようとしている救急車を止めた」です。消防長の証言は、「(基地反対派が)救急車を止めた」ことの裏付けにはなりますが、放送内容である救急車の停止についての裏付けにはなりません。従って、BPO意見書では以下と結論付けています。

「防衛局、機動隊の人が暴力をふるわれているので、その救急車を止めて、現場に急行できない事態が、しばらく、ずーっと続いていたんです」という放送内容については、裏付けとなりうる事実の存在が認められない

 裏付けがない放送内容をBPOは問題視しているのです。

2.4 アノニマスポストの主張

 基地反対派が大挙して道路にいるのは、救急車搬送の邪魔であったことは確かでしょう。また、迷惑に感じていた地元住民も少なからずいたのかもしれません。

 そして、アノニマスポストとしては、「基地反対派が行っている私設検問は問題であり、BPOもその問題を指摘するべきだ」と主張したいのだと思います。

 しかし、「取材対象者の行為の是非」について論ずることは、BPO委員会の検証対象外の事項です。むしろ取材対象者の行為の是非を論ずべきではないと思います*1。「放送内容が事実に基づくか」「事実の裏付けは十分か」「侮蔑表現などがないか」等を調査・検証し、放送局の問題点を意見として答申することが委員会の目的でしょう。

 もっとも、放送局が、取材対象者の行為の是非を論ずることは、極端な偏向がない範囲では構わないと思います。但し、そこに虚偽やねつ造があってはなりません。

3. 最後に

 BPO意見書では、「裏付けとなりうる事実の存在が認められない」という穏当な表現をしています。しかし、放送された番組と意見書を見る限りでは、「ニュース女子」の放送内容は、「過剰な演出」どころか「ねつ造」と呼ぶべきものであることが、分かります。

 放送された内容は、予め用意していたシナリオに合わせるように、映像を撮影するというもので、報道と呼べるレベルのものではありません。また、そのシナリオがネット上に流布する噂話に基づくので、放送内容が「事実をねつ造する」ことになったのでしょう。また、放送局が行った放送内容のチェックもネット上の情報に多くを頼っていた点も問題でした。

 バラエティ番組と言えども、ねつ造した内容を放送することは許されるべきではないでしょう。

 主張したいことのために、事実を曲解したり、捏造したりすることはあるでしょう。「ニュース女子」も、その代表的な事例です。

 虚実が入り混じるネットの世界ではフェイクニュースが溢れています。見極める目が必要です。

(2017/12/21)

追記(2017/12/22)

 救急車問題の最初の発信者とされる筒井清隆さんの最初の発信と、ニュース女子に地元住民として出演した依田啓示さんのBPO意見書に関するコメントをfacebookで見つけましたので、引用します。

筒井清隆 北部の救急医療を預かる者です。
事実は、北部の救急医療に携わる我々が、その実情を知っています。
事実だけを述べると、救急車も反対派の方々に止められています。なかには、患者さんを乗せて救急搬送している途中の救急車を止められ、勝手にドアを開けられ、携帯で撮影しながら「誰を乗せているか⁉︎」と無断で車内に入ろうとされました。
搬送されている患者さんの気持ち、考えた事あるんでしょうか…
(facebookの依田啓示さんの投稿に対するコメント。下線は筆者による)

 但し、数日後には、筒井さんは、上記のコメントは伝聞である旨、投稿しています。

今回の高江で起こっている事案に対し、私が他の方へコメントをいたしました「救急車を停止させ、勝手にドアを開けた」件に関して、関係者様に多大なるご迷惑をお掛けしている事に関して謝罪を申し上げます。 本コメント内容は、「聞いた話」であり、コメントに書いた内容では言葉が足りず、実体験に捉えられ、誤解を招いてしまいました。
また、本件は事実確認は出来ません
この為、関係者に事実確認の連絡が多く寄せられていると聞き、胸を痛めております。
私の軽はずみなコメントで、皆様に誤解を与えた事を痛切に反省いたします。重ねて、申し訳ありませんでした。
筒井清隆さんの投稿(2016/10/6)
さて、BPOによる、いわゆる「救急車デマ検証」のビックリする事は、ニュース女子に全く使用されていない「尾道消防」のボコボコになった救急車の画像が「デマの根拠」として挙げられ、「ニュース女子」が、過激派がまるで救急車を襲ったかのような表現をしたと結論付けています。
しかも、「ニュース女子」とは全く関係がないMBS「大阪毎日放送」の斉加記者の番組で紹介された悪意ある「捏造」をそのまま引用しています。この番組で、僕はとんでもない「デマ発信源」に仕立てあげられています。

 BPO意見書には、「「尾道消防」のボコボコになった救急車の画像が「デマの根拠」として挙げられ」に該当する記述はありません。また、「MBS「大阪毎日放送」の斉加記者の番組で紹介された悪意ある「捏造」をそのまま引用しています」については、「捏造」の意味が不明確なので良く分かりませんが、引用に相当する記載はBPO意見書にはないように思います。

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基地反対運動に関するドキュメンタリー。ニュース女子についても言及しています。

+ DHCテレビ「ニュース女子~マスコミが報道しない沖縄(続編)~」

「ニュース女子」による反論番組。

関連書籍

*1:例えば、「その一部は政治団体によって動員された集団が、路上を占拠し、交通を妨害し、道交法に違反した場合、BPOは是非を論じるべきでしょうか?例えば、このような集団このような集団の違法行為をBPOは違法であると非難すべきでしょうか?

【NHK】NHKの改革案

先日、最高裁判決がありましたが、日頃思っているNHKの改革案についてまとめます。

改革① NHK訪問員の廃止

 NHKの最大の問題の一つは、訪問員を使って脅迫的に受信契約を迫る点です。

 変な輩が家の周りをうろついて訪問することだけは止めて頂きたいです。私が住んでいたマンションでは、マンション関係者と郵便・新聞の配達などの合理的な理由がある人を除き、立ち入ることを禁止してます。それは、マンション敷地入り口にも掲示されています。つまり、押し売り・勧誘・NHKなどはお断りです。その敷地内に侵入しているのですから、不法侵入の犯罪行為を犯していることは明らかです。オートロックのマンションにまで侵入してくるは、言語道断です。

 訪問員を各家庭に訪問させて、脅迫的に受信契約を迫るという時点で、NHKは社会的に失格です。それだけで、存在させてはいけない組織と言えます。

 訪問員を使って契約させる方法は即刻廃止して、新しい方法を検討すべきです。

改革② 世帯単位からBCASカード単位の受信契約へ

 世帯単位の契約というのも古い考え方です。例えば、同じ世帯でも、不仲の家庭内別居夫婦がそれぞれテレビを持っていた場合、いずれに、NHK受信契約の義務があるか、不明でトラブルになるかもしれません*1。親子であっても同じです。子が成人していれば、親は子のテレビの受信料を子供に負担させたいかもしれません。

 また、テレビを複数台持っている大家族の世帯と1台しか持っていない世帯で同じ受信料という点も問題です。1台しか持っていない世帯としては、不公平さを感じる契約です。世帯で1契約とすることに、特に合理性はありません。

 現在のテレビは、(ワンセグ携帯など一部を除き)BCASカードを用いてテレビを視聴できるような仕組みにしています。このカードがなければ、基本的にテレビを映すことはできません。また、このカードを用いたスクランブル化も可能です。

 このBCASカードを契約単位とし、受信契約がない場合には、受信できないようにすればよいでしょう。実質的には、NHK放送のスクランブル化となります。NHKの契約がない場合には、民放も含めてBCASカードが有効化できないようにすれば、NHKのみのスクランブル化を回避できます(この場合、再度、憲法上の問題が発生する可能性があるでしょうが)。

 また、テレビはあっても、BCASカードを有効化しなければ、NHKとの受信契約の義務を負うことはないので、テレビをパソコンやゲームのモニターとして使っても無駄に受信料を払う必要はなくなります。

 この制度変更により、テレビを見たい視聴者がNHKと契約を行うことになるので、現状のようなNHK訪問員を使った非効率でトラブルが多い受信契約方法を無くすことができます。また、徴収業務のための経費を大幅に削減することができます。

改革③ NHKの分割

 NHKは「公共の福祉のために、あまねく日本全国において受信できるように豊かで、かつ、良質な放送番組」を行うことを目的としていますが(放送法15条)、民放が充実し、インタネット放送も普及している現在、その役割を終えているでしょう。

 このため、NHKを、次の3つに分割すべきと考えます。

  • 公共放送NHK:不偏不党・公正中立が求められる放送のみを行い、受信料収入によってその費用を賄う。放送は、ニュース、ニュース解説、国会中継、討論番組などに限定する。
  • 国営放送NHK:教育番組などを担当する。
  • 民営放送NHK:公共放送・教育放送を除く、娯楽番組やスポーツ中継などの放送を担う。朝ドラ・大河ドラマ・映画、紅白歌合戦、相撲や野球などのスポーツ中継、オリンピック中継などの娯楽番組は民営NHKが担う。BS放送も、ほとんどが娯楽番組なので、民営NHKが担当する。運営費は、広告モデル・視聴料モデルなどあるが、いずれにせよ、受信料や税金は投入しない。

 受信契約の義務と費用負担が発生するのは、公共放送NHKのみです。現在の支出構成を良く知りませんので推測になりますが、受信料は現在の半分程度、つまり、世帯単位で月500円程度で賄うことができると思います。また、BCASカードベースで課金するとすれば、1世帯の平均テレビ保有数は約2台*2なので、1台あたり月250円程度の負担となるでしょう。

改革④ NHKの監督機能の強化

 報道対象となる政府・政治家の関与を弱めるべく、より独立した機関によるNHKの監督が必要です。現状でも形式的には第3者によるガバナンスが行われていますがが*3、経営委員会の委員を総理大臣が任命し、国会が予算案を承認するため、政府・国会の影響力は強いと言わざるを得ません。

 この点については、英国BBCが参考になると言われますが、日本では、公共放送は国民のものであるという意識が低く、政治家関与を許さないという気概を持っているわけではないので、英国のようなガバナンスができるかは不明です。

 現状、視聴者は、NHKガバナンスについては実質的に何ら権限がない状態です。少なくとも、視聴者は、株主ぐらいの権限は持ってしかるべきと思います。例えば、最終的な予算案の承認権、人事承認権です。少なくとも、NHK会長については、(任期途中で)信任投票を行う制度があれば、あまりにも不適格な会長を任命することはなくなるでしょう。

最後に

 放送法制定から70年近く経っています。その間、デジタル化・インタネットの普及に伴ってメディアの役割が大きく変わっています。NHKや受信料制度について根本的に見直す時期に来ているのではないでしょうか。

(2017/12/10)

関連記事

*1:先の最高裁判決(最高裁判決文。PDFの20ページ目7行目以降を参照))の鬼丸かおる裁判官の補足意見でも、「受信契約を締結する義務が世帯のうちいずれの者にあるかについて規定を置いていない。(中略)家族のあり方や居住態様が多様化している今日,世帯が受信契約の単位であるとの規定は,直ちに1戸の家屋に所在する誰かを締結義務者であると確定することにならない場合もあると思われる。」など、現在の世帯単位の契約についての問題点が指摘されています。

*2:カラーテレビの普及率現状をグラフ化してみる(2017年)(最新) - ガベージニュース

*3:総務省, 「我が国及び諸外国の国営放送」, 2006/1.

核シェルター普及率は、信じてよいのか?

北朝鮮有事などもあり、核シェルターについての関心も高まっています。今回の記事では、核シェルターの普及率について書きたいと思います。

1. 核シェルターの普及率

1.1 日本核シェルター協会の普及率

 日本核シェルター協会は、核シェルターの普及率を発表しています。これによると、スイス100%、イスラエル100%、ノルウェー98%、アメリカ82%、ロシア78%、イギリス67%、シンガポール54%、日本0.02%とのことです。

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 私が調べた限りでは、国内はもとより、海外を含めても、国際的な核シェルターの普及率を比較した報告はこれだけです。

 米国の首都ワシントンDCに住んでいたことがあります。ワシントンDCの地下鉄は核シェルターとの噂がありますが*1、ワシントンDCの首都圏数百万人を収容できるとは思えません。また、通っていた大学、住んでいたアパートメント、映画館、ショッピングモール、身近な人の住居などで、核シェルターを備えているという話を一度も聞くことはありませんでした。

 米国の普及率が82%という数字は、本当に信じてよいのでしょうか?私は、このデータを信じることはできませんでした。

1.2 日本核シェルター協会と織部精機製作所

 国家機関や大手の調査会社などの統計データであれば、ある程度信頼はおけますが、よく知らない団体が発表している場合には、まずその団体がどういう組織であるか確認することが重要です。特にデータの信憑性に疑いを抱いた場合には、必須と言えるでしょう。

 そこで、核シェルター普及率を発表している日本核シェルター協会というNPO法人を調べました。すると、その協会の第1号会員として織部精機製作所という会社もでてきます。

 日本核シェルター協会と織部精機製作所は、所在地が同一です。また、協会の代表者が織部信子氏(織部精機製作所の5代目社長)で、設立時の理事長が織部健二氏(織部精機製作所の6代目社長)ということが分かります。

 さらに、NPO法人の事業報告書を見ると、収支は5万円~10万円程度となっています。

 このNPO法人の主な収入源は会員からの年会費です。2014年度の年会費収入は2万円。定款によれば、会員の年会費は1万円ですので、2014年度の会費を支払っている会員数は2名となります。2名の会員のうち、1名は織部精機製作所、もう1名は代表の織部氏(信子氏あるいは健二氏)と思われます。つまり、法人会員を除くと、1名だけのNPO法人と考えられます。

 また、このNPO法人は、定款で理事を3名以上、監事を1名以上置くことになっていますが、2014年度はこの条件を満たしていません。

 2015年度・2016年度でも、年会費が5万円で、理事・監事の計4名と法人会員1団体しかいないNPO法人ではないかと思います。

 NPO法人の認証の基準の一つに「10人以上の社員を有するものであること」(社員とは会員のこと)という条件があります。現在、このNPO法人はこの基準を満たしてないと思われます。NPO法人の認定は取り消されるべきでしょう(※追記参照) *2

  • 日本核シェルター協会(NPO法人)
    • ホームページ: http://www.j-shelter.com/
    • 内閣府NPO法人の登録情報(事業報告書・定款などの資料あり)
      • 所在地:兵庫県神戸市垂水区天ノ下町6番地22号
      • 代表者:織部信子
      • 認証日:2003年2月3日
      • 目的:「この法人は、一般市民に対して放射能の危険性についての研修会を開催し、又放射能についての知識を高めて、放射能の利用や核シェルター等の監視を行い、地球環境の保全を図ることを目的とする。」
      • 設立時の役員:織部健二(理事長)、岡部紀世美(副理事長)、菅野建六(理事)、仙波雅敏(監事)
      • 収支(事業報告書より引用)
        収入支出
        2014年度60,140円 (内、年会費2万円)61,529円
        2015年度50,140円 (内、年会費5万円)80,866円
        2016年度50,007円 (内、年会費5万円)104,583円
  • 織部精機製作所
    • ホームページ:http://www.oribe-seiki.co.jp/index.html
    • 所在地:兵庫県神戸市垂水区天ノ下町6番22号
    • 社長(6代目):織部健二
       (5代目社長は、日本核シェルター協会の代表の織部信子氏)

 このようなNPO法人が発表するデータを信じるか・信じないかは、読者の判断にお任せします。

2. 核シェルターに関する報道と政策

2.1 核シェルターの報道と拡散する普及率

北朝鮮有事などもあり、核シェルターについての報道が多くなっています。

ハフィントンポスト, 「核シェルター、日本で販売急増「4月だけで2016年超えた」 1ついくら?」, 2017/4/27.
毎日新聞, 「核シェルター「日本からの注文急増」米の製造会社」, 2017/8/4.
DIAMOND online, 「危機の時代の新常識 核シェルターの値段、知ってますか?【前編】」, 2017/8/28.
DIAMOND online, 「危機の時代の新常識 核シェルターの値段、知ってますか?【後編】」, 2017/8/29.
ITメディア, 「核シェルターが売れているのに、なぜ業者は憂うつなのか」,2017/9/7.
zakzak, 「北の水爆実験で『核シェルター』に問い合わせ殺到、日本も「安全と水はタダ」は昔話… 」, 2017/9/16.
読売オンライン, 「核シェルターに問い合わせ殺到、空気浄化装置も」, 2017/9/16.
産経ニュース, 「ミサイル発射・核実験…北の暴挙続き 日本政府、シェルター補助を検討!?」, 2017/9/15.
産経ニュース, 「核シェルターに熱視線 地下型、家庭型…北朝鮮の挑発で変わる国民意識」, 2017/10/9.
朝日新聞, 「核シェルター、日本からの注文「勢い止まらない」」, 2017/10/4.

 上記のうち、産経ニュース、ITメディア、zakzakについては、日本核シェルター協会の普及率を参照しています*3

 ネット上では、日本核シェルター協会の普及率を用いた記事が溢れており、「日本人は平和ボケ」「日本の普及率は低い」などと言及されています。

 また、ネット上だけではなく、ウィキペディアや石破茂氏の論評、自治体の資料にも、この普及率が用いられています。

ウィキペディア,「シェルター」
石破茂, 「ICBMなど」, ハフィントンポスト, 2017/5/19.
朝日新聞, 「シェルター少ない日本「北朝鮮が撃とうかと…」 石破氏」, 2017/12/7.
● 愛知県が公開する資料(愛知県国際交流協会,「私たちの地球と未来ースイス連邦ー」, 2011/3.

 日本核シェルター協会の核シェルター普及率は、ネット上のみならず、大手メディアや大物政治家、自治体資料にも用いられるという状況です。

2.2 核シェルターについての自民党の取り組み

 自民党の衆院選挙の選挙公約にも「地下シェルター」の整備を公約に掲げ、自民党国土強靭化推進本部にて検討を進めています。

 このような政策が信頼できる統計データに基づいて議論されることを期待しています。

3. 最後に

 会社で、信頼性が低い統計データに基づいて、事業計画などのプレゼンをしようものなら、ボロクソに言ってダメ出しします(営業部門は嬉々として使うでしょうが)。

 信頼性が低いデータを怪しいと思わないのか、怪しいと思っても調べないのか、調査能力がないのか?はたまた、信頼性が低いと知っていて使うのか。

 ネット上には数多くの信頼性の低いデータが出回っています。注意が必要です。

(2017/12/9)

(追記:2017/12/13)

神戸市が日本核シェルター協会に確認したところ、2017年12月現在、会費を改定しており、10名以上の会員がいるとのことした。

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 結構、いいお値段です。放射性物質をフィルタで除去するエアコンは少々お安い(笑)。

 核物質除去エアコンを、福島の原発周辺の病院や老人ホームに設置しておけば、もしかしたら、慌てて批難する必要はなかったのかもしれません。

 しかし、全国的に公共機関・病院・老人ホームなどに核シェルターを設置するとなると、何兆円かかるのでしょうか?1兆円?10兆円?100兆円?まさかの1000兆円?

*1:ワシントンの地下鉄が深い訳|ワシントン通信 3.0~地方公務員から転身した国際公務員のblog

*2:
内閣府ホームページ, 「認証制度について」
内閣府NPOホームページ, 「認定の取消」
他にも、運営に当たっては「理事を3名以上、監事を1名以上置く」という条件がありますが、2014年度は満たしていません。2015年度・2016年度については、この条件を満たすべく、会員数を4名(法人会員を除く)としていると思われます。

*3:朝日新聞については、「国内普及率、02年で0・…」までは確認できましたが、それ以降は有料記事のため確認していません。

【税制】給与所得控除は、一律、20万円で十分!

1. 基礎控除額の拡大と給与控除額の縮小

 政府・与党が基礎控除の増額を検討しているとの報道があった。

 要旨は、以下の通り。

  • 基礎控除を10万円~15万円引き上げる。
  • 但し、年収2300万円程度から減額し、2500万円超で控除額は0円とする。
  • 原資は、給与所得控除の減額により確保する。
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 この税制変更は、会社員・パートなどの給与所得者の給与所得控除の減額(増税)を原資に、全ての人が対象の基礎控除の増額(減税)するということになり、給与所得者全体としては、増税になる(但し、給与所得控除の減額幅と基礎控除の増額幅の調整により、低所得者では減税になるように制度設計する)。

 さて、本記事では、ここで原資となっている給与所得控除について考えてみたいと思う。

2. 過大な給与所得控除

 給与所得控除は、会社員やパートなどの給与所得者が個人で支払った、通勤費、研修費、資格取得費、図書費、衣服費等の必要経費を見做し額で控除するものである*1。給与所得額によって、控除額は異なるが、162万5000円以下の給与所得者で65万円、1000万円超で220万円である*2

 103万円の収入のうち、必要経費で65万円支払って、実質手取りが38万円というパートなどいるはずがない*3。年収1000万円で220万円もおかしな数字だ。大手企業で言えば、課長クラスは、1000万円程度の年収となると思うが、220万円も経費に使っている人は見たことがない。

 このような過大な給与所得控除は、その恩恵を受けられない個人事業主などに対して圧倒的に有利な制度である。例えば、フリーランスで働く人は、痛切に感じる不公平さではないだろうか?

3. 必要経費は確定申告すればよい 

 このような問題を適正化するために、次の税制を提案する*4

  • 給与所得者の給与所得控除は、一律とする(例えば、20万円)。
  • 給与所得者が、この控除額を超えた場合には、確定申告により、控除を申請できる。

 徴税コスト(税務署の事務負担)を考えると、見做しの給与所得控除は残しておく必要がある。20万円と例示した額は、その金額以上の経費を支払っている人があまりいないであろうという値として設けた*5。自己負担の通勤費や研修・資格取得などを行った際の費用は、この枠を超えることもあると思うが、その場合には、確定申告をすればよい。

 なお、これに併せて、青色申告の事業者における特別控除や専従者控除なども見直した方がよいかもしれない。

4. 税負担のリバランス

 給与所得控除を大幅に減額すると、実質的に大幅増税となる。この増税分を基礎控除の拡大や、所得税減税の原資として、リバランスすれば、増減税に中立にすることはできる。

 給与所得控除の大幅縮小により、どの程度の財源が得られ、どの程度、基礎控除の拡大や減税に回すことができるかは、税収の基礎データがないとシミュレーションできないが、データを持っている財務省やデータを入手可能な政府・国会議員には、是非とも検討して頂きたい(あるいは、データを公開して頂きたい)。

5. 高額所得者の基礎控除の減額

 政府・与党の検討案では、2300万円超の高額所得者に対して、基礎控除を減額する案となっている。2300万円以上の給与所得者が極わずかであることを考えれば、税収増にはほとんど寄与しない。

 高所得者に対する国民の妬み意識に対する政治的パフォーマンスに過ぎない。

 従って、税の仕組みはシンプルであるべきということを考えれば、わざわざ複雑な制度にする必要はないだろう。

5. 最後に

 現在の給与所得控除は、必要な経費とすると見なすには、異常なほど過大な額が設定されて、歪んだ税制度となっている。本来の主旨である「必要な経費」を控除するように制度を改めることが必要である。

(2017/11/27)

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*1:国税庁, 「タックスアンサー No. 1415 給与所得者の特定支出控除」.

*2:国税庁, 「タックスアンサー No.1410 給与所得控除」.

*3:103万円までの給与所得の場合、給与所得控除65万円と基礎控除38万円が控除されるため、課税対象となる所得は0となる。このため、所得税を支払う必要はない

*4:ここで提案する税制変更は、既存制度の数値パラメータの変更に過ぎないので、新しい仕組みを組み入れているわけではない。

*5:住宅ローン減税や医療費控除のため、確定申告をしている人は多いと思うが、恐らく、20万円以上の経費支出がある会社員は、それよりも少ないかと思う

日本国憲法における自衛権行使の制限

 本稿では、新しくできた無人島の領土問題を例に日本国憲法における自衛権行使の制限について考察する。

1. 国際紛争を解決するための武力行使であって、且つ、自衛のための武力行使であることはありうるか?

 「国際紛争を解決するための武力行使であって、且つ、自衛のための武力行使であることはあり得るか?」

 この命題に対する答えは、真、あり得る、である。

 以下、証明する。

 この命題が真であることを証明するためには、一例をあげれば十分である。この一例として領土問題を取り上げる。以下の領土問題のシナリオを考える。


 新しくできた無人島X※に、P国、Q国がともに領有権を主張すると仮定する。

 この領土問題は、国際紛争である。

  • ➀ P国が島Xを占拠する(Q国にとってはP国の行為は侵略行為である)。
  • ➁ Q国は、このP国の侵略に対して自衛権を行使する(武力行使q)。
  • ③ 同様に、Q国の自衛権行使は、P国にとっては侵略行為である。
  • ④ P国は、このQ国の侵略に対して、自衛権を行使する(武力行使p)。

 よって、P国、Q国は、それぞれ「国際紛争を解決する手段として」、「自衛権に基づき」、武力行使p,武力行使qをしたことになる。

 つまり、武力行使p,qは、「国際紛争を解決するための手段としての武力行使であって、且つ、自衛のための武力行使である」。

(証明終)

 さて、国際紛争解決のための武力行使の禁止と、自衛権の行使では、どちらが優先されるのであろうか?この問いについては、次節にて、検討する。

※ 新しくできる島の候補としては、例えば、南日吉海山という海底火山がある。

2.日本国憲法は、すべての自衛権行使を容認しているか?

2.1 日本国憲法における自衛権行使の制限

 自衛権は、自国対する急迫不正の侵害を排除するために、武力を持って必要な行為を行う権利である。主権を持つ領土への侵入・占拠なども、自国に対する不正侵害であるため、自衛権行使の対象となり得る。

 さて、第9条において武力行使を全面禁止している日本国憲法において、自衛権行使ができると解釈する根拠は、第13条の国民の生命、自由、幸福追求の権利(幸福追求権)が第9条の武力の全面禁止より優位と考えるからである。

 つまり、例外となる武力行使は、国民の幸福追求権を侵害された場合の自衛権行使のみであり(自衛権行使の基準S)、無人島の占拠のような主権侵害では自衛権を行使することはできない。

 先の無人島の例では、主権侵害はあるものの、無人島Xには国民が居住しておらず、国民の幸福追求権が侵害されることはないので、自衛のための武力行使はできない。武力を用いない平和的な方法で問題解決を図ることとなる。

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2.2 自衛権行使基準の相違

 P国、Q国が自衛権行使基準Sに従えば、少なくとも先に挙げた無人島の領土問題では、武力衝突が発生しない。

 しかし、実際には各国の自衛権行使基準は異なる。このため、次のようなケースが発生する。

➀ P国も、Q国も基準Sに従い、自衛権を行使すれば、武力衝突は発生しない。
➁ P国が基準Sに必ず従い、Q国は通常の基準で行使すれば、Q国は武力衝突なしに島Xを実行支配できる。
③ P国も、Q国も、自衛権を必ず行使するのであれば、武力衝突が発生する。

 日本国憲法の理念は➀である。しかし、現在では、➁を望まないために、③を選択するというように日本人の意識が変化しているのだろう。時代の変革期にきている。

 なお、領土を実効支配し、且つ、国民がその領土にいれば、国民の幸福追求権が侵害されることになるため、自衛権行使は可能となる。しかし、実効支配し、領土となった場合でも、無人島では国民の幸福追求権が侵害されるわけではないので、武力行使はできず、平和的に解決する必要がある。

3.最後に

 「(第12条を自衛権行使の根拠とした場合)日本国憲法における自衛権行使は、幸福追求権が侵害される場合に限定される」という憲法解釈は他に例はないと思うが、こういう解釈もありうるということを理解して頂けると幸いである。

(2017/11/17)

(追記)

 「日本国憲法における自衛権行使は、幸福追求権が侵害される場合に限定される」という憲法解釈の考え方は、昭和47年見解と言われる内閣法制局長官の集団的自衛権を否定する答弁書の中に現れる。このため、他の国会論議や憲法学の見解にも示されているものと推測できる。  但し、無人島に対する自衛権行使については、この答弁で取り扱っている問題ではないので、自衛権行使ができるとも、できないとも言っていない。

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  • 本稿はツィッター上での議論から派生した記事である。ツィッターでの議論も参考にされたい。

【尖閣有事】小部隊駐留を想定した奪還作戦の損失

 尖閣諸島は、竹島のようなパターンで、中国が占拠し、実行支配する可能性がある。これを防ぐために尖閣諸島に小部隊を常駐させておくことが、占拠を防ぐための一つの方法であろう。

 本記事では、中国が尖閣を占拠するという尖閣有事における損失について、駐留の簡単シナリオと確率を用いてモデル化し、シナリオの与える影響について検討する。

1. 尖閣有事のシナリオ

 尖閣有事のシナリオとして、次の二つのシナリオを考える。

  • シナリオ1:日本が小部隊を駐留→中国が小部隊を排除・占拠する→日本が奪還する
  • シナリオ2:中国が占拠する→日本が奪還する

 なお、小部隊として想定しているのは、自衛隊に限らず、海上保安庁・警察などの武器使用が可能な実力組織である*1

 また、以下を仮定する。

  • 仮定1:中国の占拠作戦は、小部隊の有無に関らず、必ず成功する
  • 仮定2:日本は、中国占拠に対して、必ず奪還作戦を行う
  • 仮定3:日本の奪還作戦は、必ず成功する(奪還するまで戦う)

 それぞれの事象の発生確率を以下のように表記する。

  •  p_1:小部隊をおいたときの中国が占拠する確率
  •  p_2:小部隊をおかないときに中国が占拠する確率
  •  L_1:小部隊の排除時の日本側の損失
  •  L_2:奪還作戦による日本側の損失

 ここで、損失は、各種指標を用いて総合的に評価することが必要であるが、最も簡単な指標の一つは死傷者数であり、それを損失としてイメージしてもらうと分かりやすいだろう。

2. 小部隊設置時の紛争リスクを考慮しない場合

  • シナリオ1の損失期待値  E_1 = p_1(L_1 +L_2)
  • シナリオ2の損失期待値  E_2 = p_2L_2

 E_1 - E_2 = p_1 (L_1+L_2) - p_2L_2  = p_1L_1 + (p_1-p_2)L_2

 小部隊が駐留すると、中国は小部隊を排除することが必要となり、血を見ることを覚悟せねばならない。特に、死者が発生した場合、日中関係は極度の緊張状態となるので、中国としては占拠作戦を実施することがより困難となる。このため、 p_1 \lt p_2 と考えられる。従って、 L_1 \ll L_2 であれば、第1項は無視できるので、 E_1 \lt E_2 となる。

 つまり、シナリオ1の方が損失は小さい*2。つまり、小部隊を駐留させた方がよい。

3. 小部隊設置時の紛争リスクを考慮する場合。

 小部隊を駐留させようとすると、日中間の緊張状態が高まり、小部隊をおいたときの中国の占拠の確率 p_1が大きくなり、 p_1 \gt p_2となるだろう。

 E_1 - E_2 = p_1L_1+(p_1-p_2)L_2

 p_1\gt p_2 なので、 E_1 \gt E_2 で、シナリオ2の方が損失は小さい。つまり、小部隊を駐留させない方がよい。

4. 最後に

 このモデルから分かることは、小部隊を設置した時に紛争が発生しなければ、その後は、日本の損失は小さくなるということである。このため、小部隊の設置のみを考えれば、小部隊の設置が紛争に発展しないタイミングで小部隊を設置することが望ましいと言える(数式を用いてはいるが、得られる結果は当たり前の話である)。

 しかし、当然のことながら、小部隊の設置は日中関係を悪化させるので、大局的には日本の損失(及び中国の損失)が大きくなる。それでも、中国が尖閣占拠を行ってしまった場合の損失に比較すれば、損失は遥かに小さいだろう。

 また、小部隊は最前線で楯となる役割を担うことになるので、より危険な任務となることは言うまでもない。

 今思えば、日中関係が最悪だった安倍政権の発足当初に部隊の駐留をしておけばよかったのかもしれない。当面は、部隊を駐留させるチャンスはないと思う。

(2017/11/16)

関連記事

*1:駐留場所は、魚釣島となるだろうが、尖閣諸島は5つの島と3つの岩礁から構成されることを考慮すると、他の部分の防護も考えると、海上保安庁の巡視船を常駐するということも考えられるだろう。

*2:
 厳密には、

 E_1 = E_2 となるのは、

 p_1 L_1 + (p_1-p_2) L_2  = 0
 p_1 = p_2\frac{ L_2}{L_1+L_2}

であるので、

  •  p_1 \lt p_2\frac{L_2}{L_1+L_2}の場合に、シナリオ1の損失が小さい
  •  p_1 \gt p_2\frac{L2}{L1+L2}の場合に、シナリオ1の損失が大きい

となる。

座間連続殺人事件に垣間見るGPS情報を用いた犯罪捜査

 座間市で発生した連続殺人事件について、連日報道されています。残忍な事件の犠牲となった被害者のご冥福をお祈りいたします。

 さて、この事件でちょっと気になったことがあります。警察が被害者の身元の特定で携帯電話のGPS位置履歴を用いた点です。過去に遡ってGPS位置情報が警察に把握されるのは、気持ちわるいなぁと。

 さて、今回は、携帯電話のGPS位置情報における規制を中心に調べたので、記事にまとめます。

(追記:GPS位置情報を用いている点、過去に遡って位置を取得したとする点の本質的なところの2点に誤りがありました。携帯電話会社の位置情報管理は適切に行われていたと思われます。詳細は、末尾に記載します)

1. 警察が携帯電話のGPS位置情報を利用

 昔から、携帯電話の位置情報は犯罪捜査に利用されていたと思いますが、それは基地局を用いた測位でかなり精度が荒いものだったと思います。犯行発覚以前の過去のGPS位置情報が犯罪捜査に利用されたのは、有名事件では恐らく今回が初めてではないかと思います。

警視庁によりますと、6人のうち5人は部屋からキャッシュカードや診察券などが見つかり、2人については携帯電話のGPS機能から現場周辺で足取りが途絶えているのが確認されているということです。

 警察は携帯電話のGPS位置情報をどのようにしてどこから入手したのかという疑問がありますが、ニュース報道でははっきりしません。GPS位置情報の入手先としては、以下の可能性があります。

  • 携帯電話会社のGPS位置情報を含む通信履歴
  • AppleやGoogleなどのスマホのOSベンダ
    • 「iPhoneを探す」「端末を探す」などの機能を利用した場合
    • その他のケース*1
  • スマホアプリの利用でサーバ側に保存されたデータ
    • SNS(twitterなどに位置情報を付き投稿、位置情報付きの写真投稿など)
    • ナビゲーションアプリ
    • 通信アプリ(LINE, Skypeなど)
    • その他のGPS利用アプリ
  • スマホアプリで端末内部に保存したデータ
    • iPhoneのOS機能の一部として保存しているデータ*2
    • GPS位置情報付きの写真
    • ライフログなどのアプリを用いて保存したデータ
    • その他、GPS利用アプリ

 いろいろと入手先の可能性がありますが、過去の犯罪捜査では、携帯電話会社から提供された位置情報を用いたケースが多いようです。今回も、まずは、携帯電話会社から位置情報が提供されたと仮定して、個人情報保護の観点から検討したいと思います。

2. 携帯電話会社が位置情報を取得できる場合

 携帯電話会社の位置情報の取得は、大きく分けて本人同意のもと取得する場合と本人の同意なく取得する場合があります。本人の同意のもとの取得は、例えばドコモのイマドコサーチのようなGPS位置情報を用いたサービスを利用した場合です。また、本人の同意なく携帯電話会社が利用者の位置情報を取得できるのは、裁判所の令状に基づく場合と、緊急に救助が必要な人を捜索する場合に限られます。

 以下では、個人情報の観点から特に問題となる、本人同意がない場合の携帯電話会社のGPS位置情報の取得・犯罪捜査への利用について考えたいと思います。

 総務省告示の「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン」*3では、携帯電話会社が利用者の位置情報を取得できるケースを第35条において規定しています。 そのうち、捜査に関するものは、第35条4項の規定です。

第35条4 電気通信事業者は、捜査機関からの要請により位置情報の取得を求められた場合においては、裁判官の発付した令状に従うときに限り、当該位置情報を取得することが できる。
引用元:ガイドラインの第35条(告示297号,2017年9月14日)

 つまり、携帯電話会社は、令状がない場合には、位置情報を取得することはできません。

 携帯電話会社によって取得された情報は、裁判官の令状がある場合には、捜査機関(警察)が入手可能となります(第32条2項)。

第32条2 電気通信事業者は、利用者の同意がある場合、裁判官の発付した令状に従う場合、正当防衛又は緊急避難に該当する場合その他の違法性阻却事由がある場合を除いて は、通信履歴を他人に提供してはならない。
引用元:ガイドラインの第32条(告示297号,2017年9月14日)

 結局のところ、裁判官からの令状がない限り、携帯電話会社はGPS位置情報を取得してはならないし、捜査機関へ提供もしてはなりません。

3. GPS位置情報の記録は過去に遡れるか?

 犯罪捜査が始まってから初めて令状は発付されますので、前節で述べたガイドラインに従えば、過去のGPS位置情報は携帯電話会社では記録されておらず、捜査機関は、捜査開始以前の記録は入手できないはずです。

 しかし、今回の事件では、「足取りが途絶える」という捜査開始以前の過去の位置情報が捜査に用いられています。つまり、携帯電話会社からGPS情報を入手していると仮定した場合、携帯電話会社では、ガイドラインに従わないGPS情報の取得・保存が行われているとういことになります。

 総務省告示のガイドラインが法律の施行を補完するための規定で、法律の一部と考えられるのであれば、携帯電話会社の行為は違法行為、ガイドラインは単なる目安として発行されているのであれば、守らなくても違法行為にはならないと理解しています。筆者は、違法か否かは判断できませんが、いずれにせよ、携帯電話会社はガイドラインに従わない不適切なGPS位置情報の管理を行っていると言えます。

 但し、これは、本人同意がないケースの話であり、本人同意のもとに携帯電話会社がGPS位置情報を取得・保存している場合や、そもそも携帯電話会社以外のルートで位置情報を入手している場合であれば、携帯電話会社に不適切な管理があるとは言えません。

4. 本人通知なしにGPS情報を取得できるスマホ

 2015年以前のガイドラインでは、本人への通知なしにGPS位置情報を取得することは許されていませんでした。これでは、犯罪捜査していることを容疑者に知らせることになってしまうため、犯罪捜査には利用しにくいという問題点がありました。

 このため、2015年のガイドライン改正時に本人通知なしにGPS位置情報を取得することができるように変更しています*4

 しかし、ガイドラインの改正はあっても、対応したAndroid端末やソフト修正が必要となるようです*5。また、iPhoneでは、携帯電話会社の位置取得はできないようになっているとのことです。

 今回の事件の被害者がこのような対応端末を利用していたという仮説は、少々、疑った方が良さそうです。技術的に別の方法で携帯電話会社が端末のGPS情報を取得しているか、そもそも、警察は携帯電話会社以外のルートではなく、端末内部の解析やアプリ提供元の通信履歴などから、GPS情報を得ているのかもしれません。

5. まとめ

 座間の事件では、警察は捜査開始以前の携帯電話のGPS位置情報を用いていることが分かりました。

 GPS情報の入手ルートが明らかにされておらず、現状では、断定できませんが、仮に携帯電話会社が捜査開始以前の位置情報を収集・記録しいたと仮定すると、「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン」を逸脱する不適切な情報管理をしていたということが言えます。

(2017/11/6)

追記 (2017/11/9)

 11月9日の毎日新聞に今回の携帯電話の位置情報の捜査に関する報道がありました*6

 要点は以下の通り。

  • 「9人は8月22日~10月23日にかけて行方不明になった。家族らは翌日から1週間以内に神奈川、群馬、埼玉、福島の各県警と警視庁に行方不明者届を出していた。」
    • 事件発覚後から捜査が始まるのではなく、行方不明届後に捜査は開始されていた。
  • 「イチタンは、警察が裁判所の令状を示して通信事業者から位置情報を取得する捜査手法で、各地に点在するアンテナの半径500メートル~1キロの範囲で位置を把握できる。」
    • 行方不明届に基づき裁判所令状をとり、携帯電話会社から位置情報を入手した。
    • GPS機能に基づく測位ではなく、基地局に基づいて測位した位置情報である。
    • NHK報道の「携帯電話のGPS機能から...」という報道は、誤報と思われる。

 このことから、携帯電話会社は、総務省告示のガイドラインに違反することなく、適切に位置情報の取得・管理を行っていたと思われます。

*1:Greg Kumparak, 「これは不気味―iPhoneには過去の位置情報が逐一記録されていることが判明」,TechCrunch, 2011/4/21.

*2:iPhone Mania,「あなたの行動、実は記録されています!iPhoneの「行動履歴」の見方と削除方法」, 2016/2/25.

*3:総務省, 「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン」, 平成29年9月14日総務省告示第297号.

*4:
毎日新聞, 「<通信事業者指針>改正へ 携帯位置情報を通知なく捜査利用」, 2015/5/25.

ガイドラインの具体的な変更点は、以下の下線部分の削除です。

平成25年9月9日総務省告示第340号
第26条3 電気通信事業者は、第4条の規定にかかわらず、捜査機関からの要請により位置情報の取得を求められた場合において、当該位置情報が取得されていることを利用者が知ることができるときであって、裁判官の発付した令状に従うときに限り、当該位置情報を取得するものとする。
平成27年6月24日総務省告示第216号
第26条3 電気通信事業者は、第4条の規定にかかわらず、捜査機関からの要請により位置情報の取得を求められた場合において、裁判官の発付した令状に従うときに限り、当該 位置情報を取得するものとする。

*5:iPhone Mania, 「スマホの位置情報、警察が本人通知なしで取得可能に!」, 2016/5/17.

*6:毎日新聞, 「9人全員不明届 事件、警察捜索及ばず 携帯電話の位置情報、追跡に限界」, 2017/11/9.

【憲法改正】首相の解散権は制限すべき

 立憲民主党の枝野代表が首相の解散権の制限について述べているが*1、筆者も、行政府(首相)が制限なく立法府(衆議院)を解散できるという現状は、改善されるべきと思う。

現行憲法は、解散権の帰属を明示していない

 現行憲法では、解散権の帰属が曖昧で、明確には規定されていない*2。解散に関連する記述は、第7条と第69条にある。第69条は、不信任決議案が可決(あるいは信任決議案が否決)された場合の解散規定であり、これについては現状の解釈に異論はないだろう。しかし、第7条に基づく解散には問題がある。

 今回のような理由なき解散ができる根拠は、憲法第7条第3号に基づく。しかし、憲法第7条は、天皇の国事行為を定めるものであって、内閣の権限を規定したものではない。

 天皇の行為は、憲法第4条において国事行為のみ制限されている。この国事行為を憲法第7条は示しており、普通に読めば、第7条第3号を根拠として、内閣に衆議院の解散権があるとは言えない*3。仮に、第7条第3号を根拠に衆議院を解散できるとすれば、同様に第7条第1号を根拠に内閣は憲法改正や立法ができることになる*4

 第69条にしても「衆議院が解散されない限り」と、衆議院を「誰が解散するか」を明示していない。現状では「内閣によって衆議院が解散されない限り」と解釈しているが、解散権は衆議院に帰属するという前提で読めば、「衆議院によって衆議院が解散されない限り」と解釈することができる。

解散権の帰属先を明示した憲法改正案

 このように、現行憲法では、衆議院を解散できる条件が不明確であり、解散条件や解散権の帰属先を明確にすることが必要である。

 例えば、解散権は、➀不信任案が可決されたときに内閣に与える、➁衆議院に与える、と言ったところが妥当ではないだろうか。

➀不信任案が可決されたときに内閣に解散権を与える。

  • (現行) 第69条 内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、10日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。
  • (改正) 第69条 内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、10日以内に衆議院を解散しない限り、総辞職をしなければならない。     第69条2 内閣は、前項の場合を除いては、衆議院を解散することはできない。

     第69条の記述では、衆議院を誰が解散するか不明確である。改正案では、解散する主語が内閣であることから、内閣に解散権があることが分かる。第69条2項により、内閣は第1項の対抗的解散以外には解散権を持たないことを明示する。本来、7条解散が違憲であることが予め確認できていれば、第2項は不要である*5

➁衆議院に解散権を与える
 衆議院が自らを解散する権限を有さないのは不自然であり、権限が付与されて当然であるように思う。

 内閣総理大臣が辞職することができるという憲法の規定はないが、実際には辞職しているし、辞職することに異論はないだろう。しかし、憲法には内閣総理大臣が自ら辞職することに関する記述はなく、憲法上、辞職する権利があるか不明確である*6。一方、衆議院については、内閣総理大臣と同様に憲法上に規定はないにも拘わらず、自ら解散する権利はないと考えられている。衆議院の解散は、内閣の総辞職に繋がるものではあるが、衆議院が自ら国民に信を問うことができる権利は留保されるべきではないだろうか?

  • (現行) なし
  • (改正) 第X条 衆議院で解散決議案を可決した場合、衆議院を解散する。

     過半数で可決とすれば、実質的には与党が解散権を持つことなる。2/3以上とすれば、多くの場合は、解散には与野党の合意が必要となる。

 内閣への解散権の付与については議論を要するところではあるが*7、党利党略による理由なき解散や内閣の短命化の原因になっており、個人的には現状では権限を制限する必要があると考えている。なお、諸外国の状況等については、以下の記事なども参照されたい。

(2017/10/26)

第四条 天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。

第七条 天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
 一 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
 三 衆議院を解散すること。

第六十九条 内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。
日本国憲法(e-Gov:法令検索)

*1:
産経ニュース, 「立民・枝野幸男代表「9条改正論議応じる。代わりに解散権制約も」, 2017/10/24.
中島岳志, 「7条解散の恣意が問題 改憲議論は具体的に」, 中日新聞, 2017/4/25.

*2:ウィキペディア, 「衆議院解散」.

*3:第7条第3項の違憲性について苫米地事件で争われたが、最高裁は統治行為論により、憲法判断を避けている。

*4:「第7条解散の問題点」, https://www.naturalright.org/.

*5:7条解散が違憲であることを何らかの形で確認しておく必要がある。最高裁が第7条解散は違憲であると判断することが最も明快であるが、そうでない場合でも、第7条解散が憲法解釈として誤りであることを国会決議等で示す必要がある。

*6:。憲法規定がなくとも有する権利か、規定されることで初めて保有できる権利かの問題である。天皇には、自ら退位する権限はない。天皇の場合と同様に、内閣には自ら辞任する権限はなく、「不信任決議されたとき」(第69条)、「内閣総理大臣が欠けたとき」(第70条)のみ内閣の辞職は限定されると解釈できなくもない。但し、第69条・第70条はともに義務規定であるので、内閣総理大臣自らの解散を禁じているというわけではない。

*7:7条解散と同様にいつでも解散できるようにするには、次の条文を加えればよいだろう。「第X条 内閣は、衆議院を解散することができる。」

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