時事随想

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ニュースや新聞を見て、想ったことを綴った随想・論説集

政務活動費の不正受給は刑法犯罪

1. 富山市議による不正受給事件

 政務活動費の不正受給により、連日のように議員が辞職している富山市議会。今日も、市議会議長が議員辞職するというニュースがありました*1

1.1 不正受給の手口

 不正受給の手口はいろいろあるようですが、報道されただけでも、次のようなものがあります*2

  • 白紙領収書を用いた架空請求
  • (プリンタ印刷などで)領収書偽造による架空請求
  • 受領した領収書の支払い額の改竄による水増し請求

これらの手口によって、政務活動費を不正に受給しました。不正取得の総額は、約2373万円(毎日新聞 *3)や3268万円(産経新聞*4)。

 また、使用用途としては、政務活動費を充当する場合もあったのでしょうが、ある議員によれば、

  • 「(議員を続けるうちに)少し余裕が出てきて、つい手を出してしまった。飲み代やゴルフなど遊興費に充てた」(自民党会派前会長・中川勇氏)*5

とのことですので、私的流用している場合もあります。

1.2 市民団体、詐欺容疑で県警に告発

 これに対して、市民団体「市民が主人公の富山市政をつくる会」は、中川勇市議・谷口寿一市議を詐欺容疑で富山県警に告発しました*6。他にも刑事告発を検討している市民団体があるようです*7

2. 不正受給は刑法犯罪

 さて、政務活動費の不正受給は、違法行為と思いますが、どのような犯罪となるのでしょうか?

2.1 あの号泣議員の場合

 あの号泣議員、野々村竜太郎氏の場合には、詐欺と虚偽有印公文書作成・同行使の罪で裁判となり、懲役3年執行猶予4年の判決が下されました*8

 犯行の手口は、「344回の日帰り出張やはがき・切手代などに費やしたとする架空の書類を作成、収支報告書に添えて県議会側に出し、政務活動費913万円を詐取した」ということです。

 今回の富山事件も、野々村事件と同様に架空の領収書や偽造・改竄した領収書を作成し、政務活動費を詐取したということですので、基本的に野々村事件との差はありません。金額的にも富山事件でも数百万円単位で詐取しているので、大差ありません。

 野々村事件の判決文があれば、罪状の詳細が分かるのですが、残念ながら判決文を見つけることができませんでした。

 以下では、詐欺、偽造公文書作成・同行使と横領罪について調べ、罪状について検討しました。

2.2 詐欺罪

 詐欺罪は、刑法246条で規定されています。

(詐欺)
第二百四十六条  人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2  前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

 また、詐欺罪の構成要件は、ウィキペディア「詐欺罪」によれば、以下の通りです。

  1. 一般社会通念上、相手方を錯誤に陥らせて財物ないし財産上の利益の処分させるような行為をすること(欺罔行為又は詐欺行為)
  2. 相手方が錯誤に陥ること(錯誤)
  3. 錯誤に陥った相手方が、その意思に基づいて財物ないし財産上の利益の処分をすること(処分行為)
  4. 財物の占有又は財産上の利益が行為者ないし第三者に移転すること(占有移転、利益の移転)
  5. 上記1~4の間に因果関係が認められ、また、行為者に行為時においてその故意及び不法領得の意思があったと認められること

 富山事件について当てはめてみると、以下のようになるでしょう。

  • 構成要件1: 偽造した領収書を用いて、相手方(富山市)を錯誤に陥らせ、財物(政務活動費)を詐取した。
  • 構成要件2: 偽造した領収書により、相手方(富山市)が錯誤した。
  • 構成要件3: 錯誤に陥った相手方(富山市)が、その意思に基づき、財物(政務活動費)を処分した(交付した)。
  • 構成要件4: 財物(政務活動費)が、行為者(議員)に移転された(支払われた)。
  • 構成要件5: 上記1~4の間に因果関係が認められる。また、行為者(議員)は、故意・不法領得の意思があった(悪いことと思いつつやっていた)。

 従って、詐欺罪は成立すると考えられます。

 富山市の政務活動費の条例を読む限りでは、政務活動費の不正受給(受け取る)というよりは、不正返還(返還しない)ということと思いますので、「財物」ではなく「財産上の利益」のような気がします。適用条項が、刑法246条第1項の1項詐欺(詐欺取財罪)か第2項の2項詐欺(詐欺利得罪)の違いだけで、大差ないですが。

2.3 偽造公文書作成・同行使の罪

 偽造公文書作成は刑法156条(及び刑法155条)、偽造公文書行使は刑法158条に規定されています。

(虚偽公文書作成等)
第百五十六条  公務員が、その職務に関し、行使の目的で、虚偽の文書若しくは図画を作成し、又は文書若しくは図画を変造したときは、印章又は署名の有無により区別して、前二条の例による。

(偽造公文書行使等)
第百五十八条  第百五十四条から前条までの文書若しくは図画を行使(中略)した者は、その文書若しくは図画を偽造(中略)した者と同一の刑に処する。

 偽造した公文書は、「富山市議会政務活動費の交付に関する条例」(富山市条例第6号, 2005/4/1)の第9条に規定されている「政務活動費に係る収入及び支出の報告書(収支報告書)」でしょうか。

(収支報告書の提出等)
第9条 政務活動費の交付を受けた会派の代表者は、政務活動費に係る収入及び支出の報告書(以下「収支報告書」という。)を作成し、議長に提出しなければならない。
(中略)
4 前3項の規定により収支報告書を提出する場合においては、支出に係る領収書等の証拠書類の写しを添えなければならない。

 収支報告書の金額は詐取するため(政務活動費を返還しないため)に書かれたものであるので、虚偽であることは明らかです。従って、公文書の偽造にあたるでしょう。

 提出する「領収書等の証拠書類」の偽造は、私文書偽造になるのでしょうかね?

(私文書偽造等)
第百五十九条  行使の目的で、①他人の印章若しくは署名を使用して(略)事実証明に関する文書若しくは図画を偽造し、又は②偽造した他人の印章若しくは署名を使用して(略)事実証明に関する文書若しくは図画を偽造した者は、三月以上五年以下の懲役に処する。
2  ③他人が押印し又は署名した(略)事実証明に関する文書又は図画を変造した者も、前項と同様とする。
3  前二項に規定するもののほか、④(略)事実証明に関する文書又は図画を偽造し、又は変造した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
(①、②、③、④は筆者の追記)

(偽造私文書等行使)
第百六十一条  前二条の文書又は図画を行使した者は、その文書若しくは図画を偽造し、若しくは変造し、又は虚偽の記載をした者と同一の刑に処する。

 刑罰は、偽造公文書作成が懲役1年以上10年以下、私文書偽造も3カ月以上5年以下とかなり重い罪です。詐欺罪は10年以下で下限がありませんが、文書偽造だと下限が設定されていて、それだけ重罪ということですね。

(追記:2016/10/6) 富山市が、中川市議・谷口市議を「有印私文書偽造・同行使」の容疑で刑事告発しました*9。「領収書の偽造や改ざん」ということなので、「領収書等の証拠書類」の偽造は、私文書偽造でよさそうです。

(追記:2016/10/24) 各犯行手口は、それぞれ以下の私文書偽造①~④に該当します。
+ 白紙領収書を用いた架空請求            → ①、③あるいは④
+ (プリンタ印刷などで)領収書偽造による架空請求  → ②あるいは④
+ 受領した領収書の支払い額の改竄による水増し請求  → ③

2.4 横領罪

 政務活動費は、議員活動のためなら、比較的自由に使えるお金なので*10飲み代飲食を伴った会合やゴルフなどの遊興交流を通じた住民からの意見・要望の聴取などの議員活動のためなら刑法上の違法性を問うことは難しいでしょう*11

 しかしながら、中川議員のように「飲み代やゴルフなど遊興費に充てた」ということであれば、横領罪(横領あるいは業務上横領)に当たるのではないでしょうか。

第三十八章 横領の罪

(横領)
第二百五十二条  自己の占有する他人の物を横領した者は、五年以下の懲役に処する。

(業務上横領)
第二百五十三条  業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の懲役に処する。

 舛添さんのクレヨンしんちゃんや美術品も、どう考えてもアウト。一般人ならほぼ確実に横領罪です。

3. まとめ

 政務活動費を不正に受給した議員は、野々村事件と同様に詐欺罪や偽造公文書作成罪などの刑法犯罪を犯していることは明らかです。刑法に基づき適切に処罰されるべきです。

 おまけ:富山市の条例によれば、富山市議の政務活動費は1カ月当たり15万円。私が住んでいる市の政務活動費は月2万円でした(2万円というのも、これはこれで問題があるような...。地方議員にはほとんど政治献金はないでしょうし、これで議員活動ができるのでしょうか?)

  富山市議、政活費とて悪びれず、生活のため騙し取るかな

(2016/9/21)

関連記事

*1:毎日新聞Web版, 「富山市議会 新たに議長ら3市議が辞職願 計9人に」, 2016/9/20.

*2:毎日新聞Web版, 「富山市議会 政活費不正、ずさん請求満載」, 2016/9/19.

*3:毎日新聞Web版, 「政活費不正:市議補選へ 富山、6人目が辞意」, 2016/9/15.

*4:産経新聞, 「【富山市議政活費不正】「詐欺の片棒担いでしまった」領収書偽造の富山市議 辞職願提出も後悔の念 不審感じつつ先輩に遠慮も」, 2016/9/21.

*5:毎日新聞Web版, 「政活費不正 市議補選へ 富山、6人目が辞意」, 2016/9/15.

*6:産経West, 「7人目、54歳市議が20日に辞職願」, 2016/9/15.

*7:日刊ゲンダイDigital, 「不正発覚で辞職ドミノ 富山市議"芋づる逮捕"は時間の問題」, 2016/9/15.

*8:朝日新聞Digital, 「野々村元県議に懲役3年執行猶予4年の判決 政活費詐取」, 2016/7/6.

*9:時事通信, 「政活費不正、元市議2人告発=有印私文書偽造容疑-富山市」, 2016/10/6.

*10:政務活動費は、地方自治法第100条14に規定され、地方自治体の条例により、「政務活動費を充てることができる経費の範囲」を決めることになっています。 富山市の政務活動費に関する条例では、政務活動費は、「議員の調査研究その他の活動に資するため必要な経費の一部」として交付され(第1条)、その経費の範囲が規定されています(第8条)。

*11:住民監査請求等により、不適切な支出であると、監査請求を行うことはできると思います。政務活動費の不正受給に対する刑事告発 - 時事随想で、住民監査請求について記事を書きましたので、参考にしてください。

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