時事随想

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ニュースや新聞を見て、想ったことを綴った随想・論説集

政務活動費の不正受給に対する刑事告発

 富山市議による政務活動費の不正受給が行われ、多数の議員が辞職する事態はいまだに続いています。富山市では定員40名に対して、ついに12名*1。富山の場合、これまで自主返還・議員辞職まででしたが、ついに、ついに富山市も刑事告発を行いました*2。今後、どうなるか、注視したいところです。

 さて、前回は政務活動費の不正受給が刑法犯罪であることについて記事にしましたが、今回は、政務活動費の不正受給に対する住民監査請求や刑事告発について調べたことをまとめます。

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1. 政務活動費の不正請求の現状と判例

1.1 各地の政務活動費の不正請求事件

 野々村事件以降、各自治体へのチェックも厳しくなっているようで、次々と問題が明らかになっています。以下に、最近、報道された事例をまとめました。

報道氏名
(議会)
金額手口返還辞任告発不正受給の釈明等
2015/11/26
((産経新聞ニュース, 「神奈川県議が政務活動費を不正受給か 広報紙代600万円計上」, 2015/11/26.))
中村省司
(神奈川県)
600万円広報費の架空計上---自民会派「会派からの脱退を促す」
2016/1/28
((神戸新聞NEXT, 「神戸市会の政活費流用、異例の展開 県警捜査へ」, 2016/1/28.))
自民党神戸
(神戸市)
3447万円架空請求--「会派の"裏金化"」
2016/5/21
((河北新報ONLINE NEWS, 「<議長政活費疑惑>安部氏857万円返還」, 2016/5/21.))
安部孝
(宮城県)
857万円事務所費・人件費支払「違法ではないが公務、政務への支障が出る」
2016/7/16
((毎日新聞Web版, 「富沢・川口市議 政務活動費返還、監査請求の108万円 /埼玉」, 2016/7/16.))
富沢太志
(川口市)
108万円論文執筆代--「論文執筆に関する支出規定がなく、返還請求は納得がいかないが、支出先から返還の申し出があったので市へ返還した」
2016/9/29
((産経WEST, 「「支持者には頑張れと言われている」政活費不正疑惑の阪南市議が"続投"宣言」, 2016/9/29.)), ((Yahoo!Japanニュース, 「政活費不正の阪南市議を刑事告発へ 「領収書偽造、66万円詐取」 大阪」, 2016/9/28.))
庄司和雄
(阪南市)
66万円偽造領収書「支払い実態はある」
2016/9/30
((MBS NEWS, 「「他の議員は悪く言わないでくれ」領収書偽造の奈良県議が辞職願」, 2016/9/30.))
上田悟
(奈良県)
76万円偽造領収書「すべて自分に責任がある」
2016/10/1
((岐阜新聞WEB, 「岐阜市議が政活費不正受給 廃業店の領収書偽造」, 2016/10/1.))
高橋正
(岐阜市)
9万円白紙領収書--「虚偽記載で、不適切な行為だった」
2016/10/3
((MBS NEWS,「政務活動費で妻も宿泊 別の市議も不正受給か」, 2016/10/3.))
見本栄次
(阪南市)
-妻の宿泊費計上---「腎臓結石を患い1人での宿泊に不安があった」
2016/10/5
((産経ニュース, 「政活費不正受給、取手の飯島市議が謝罪 2万1710円全額返還 茨城」, 2016/10/5.))
飯島悠介
(取手市)
2万円電車代架空請求-「電車でいくということが頭の中にあった」
2016/7/19
((毎日新聞Web版, 「富山県議 矢後肇氏が議員辞職 政活費不正」, 2016/7/19.)), ((西日本新聞Web版, 「政活費不正で元富山県議を告発 高岡市民31人」, 2016/10/5.))
矢後肇
(富山県)
367万円領収書偽造-

注:表の中の"-"は、記事に記載がなかっただけで、実際には自主返還されていたり、刑事告発されているものもあります。また、自主返還を拒否している事例もあります。

1.2 不正請求に関する裁判事例

 これまで、政務活動費の不正受給については、自主的な返還も行われてきましたが、住民訴訟や裁判によって返還命令が下される例も稀ではなくなりました((全国市民オンブズマン連絡会議, 「政務調査費・政務活動費特設ページ」.))。最近の事例では、以下のような裁判があります。

報道氏名
(議会)
金額訴訟・罪名等求刑又は判決備考
2015/12/25
((朝日新聞DIGITAL, 「愛知県議会の政調費「目的外」8100万円 高裁が認定」, 2015/12/25.))
愛知県議会8100万円住民訴訟8100万円返還命令
(名古屋高裁)
事務所家賃・自動車リース代等
2016/3/30
((東京新聞Web版, 「飲食OK「甘すぎ」 千代田区議会の政活費判決確定「改善見守る」」, 2016/3/30.))
千代田区議会1130万円住民訴訟390万円返還命令
(東京地裁)
飲食費は5,000円以内ならOK
2016/5/19
((産経WEST, 「“美しすぎる”市議を大阪・堺市がついに提訴 政活費の返還求める」, 2016/5/19.)),((宮武嶺, 「堺市がついに大阪維新の小林由佳市議に政務活動費の返還訴訟を提起。舛添知事より金に汚い維新。」, 2016/5/19.))
小林由佳
(堺市)
635万円市による提訴大阪地裁に提訴した段階秘書人件費・ホームページ作成費
2016/7/6
((朝日新聞DIGITAL, 「野々村元県議に懲役3年執行猶予4年の判決 政活費詐取」, 2016/7/6.))
野々村竜太郎
(兵庫県)
913万円詐欺, 虚偽有印公文書作成・同行使懲役3年執行猶予4年
(神戸地裁)
あの"号泣議員"
2016/8/4
((鎌倉おやじのブログ, 「中村県議政治活動費返還訴訟 鎌倉市民(原告)全面勝利」, 2016/8/4.))
中村省司
(神奈川県)
518万円住民訴訟518万円返還命令
(横浜地裁)
架空請求, 辞職なし, 刑事告発済
2016/9/13
((産経WEST, 「元徳島県議に懲役1年6月求刑 政活費560万円超詐取、認める」, 2016/9/13.))
児島勝
(徳島県議)
566万円虚偽有印公文書作成・同行使懲役1年6カ月求刑
(徳島地裁)
返還・辞職済

2. 不正受給に対する住民監査請求・刑事告発

2.1 不正受給への対応

 これまでの事例からすると、不正請求への対応として以下のものがあります。議員自ら行うものと、住民等による行政訴訟など、刑事事件となるものに大別できます。

  • 議員自ら行う対応
    • 謝罪
    • 政務活動費の自主返還
    • 議員辞職
  • 行政訴訟など
    • 住民による監査請求
    • 住民などを原告とする政務活動費の返還を求める住民訴訟
    • 市などを原告とする政務活動費の返還を求める訴訟
  • 刑事事件
    • 虚偽有印公文書作成・同行使
    • 有印私文書偽造・同行使
    • 詐欺罪

 富山市議会の場合、議員が非を認め、謝罪し、政務活動費の自主返還、議員辞職という流れとなっています。それだけで、ある程度は社会的制裁が与えられているとはいえ、これだけでいいというのは納得がいかないところです。

 行政訴訟は、基本的に政務活動費の返還を求めるだけに過ぎないので、本人が否認した違法行為を法廷の場で証明し、返還を要求するに過ぎません。そもそも、返還済みであると、行政訴訟も起こせないのではないかと思います(既に返還してしまっているため、返還を要求できない)。

 政務活動費の利用基準から外れても、政治活動費として使われているのであれば、まだ許せるのですが、私的流用をしていたり、飲食代代やゴルフ代に消えていくような裏金づくりであれば、自主返納で無罪放免というのはあまりにも納得の行かないところです。

 百万円規模の詐欺であれば、一般人であれば刑事事件として逮捕・立件されるような事例です。

2.2 個人でもできそうな意義申し立て

 政務活動費への意義申し立てとして、市民オンブズマンによって、住民訴訟などが行われていますが、裁判は敷居が高く、とても個人では対応できそうにありませんね。ここでは、個人でも頑張ればなんとかできそうな住民による監査請求と刑事告発について調べてみました。

2.2.1 住民監査請求

 住民監査請求は、違法・不当な支出等について、地方公共団体の監査委員に対して監査を請求する制度です((総務省, 「住民監査請求・住民訴訟制度について」.))。住民であれば、一人でも行うことができるので、ある意味、手軽な方法です。

(住民監査請求)
第二百四十二条  普通地方公共団体の住民は、当該普通地方公共団体の長若しくは委員会若しくは委員又は当該普通地方公共団体の職員について、違法若しくは不当な公金の支出(中略)があると認めるときは、これらを証する書面を添え、監査委員に対し、監査を求め、当該行為を防止し、若しくは是正し、若しくは当該怠る事実を改め、又は当該行為若しくは怠る事実によつて当該普通地方公共団体のこうむつた損害を補填するために必要な措置を講ずべきことを請求することができる
出典:地方自治法第242条

 福岡市の監査事務局は、分かりやすいマニュアルを作成していて、それに従っていけば、住民監査請求を行うことができそうです。

 問題は、住民監査請求の請求書(職員措置請求書)の書き方。これについては、市民オンブズマンによる職員措置請求書が公開されているので、参考になるかもしれません。

 上記の長崎市と神戸市の職員措置請求書は、かなり詳細に書かれていて、分量も多いので相当苦労しそうですが、栃木県の例は、2~3ページ程度なので、個人でも書ける範囲です。

 但し、既に返還されている場合には、住民監査請求によって政務活動費の返還を請求することができませんので、効果はいま一つです。富山事件の事例では、既に返還されているので、適用できません。住民監査請求では、返還すれば、無罪放免ということに変わりありません。

2.2.2 刑事告発

 刑事告発は、特に該当する地域の住民でなくとも、誰でも行うことができます。

第二百三十九条  何人でも、犯罪があると思料するときは、告発をすることができる。
出典:刑事訴訟法第239条

 そうは言っても、実際には、警察は必ずしも告発状を受理しなければらなないというわけではないようなので((刑事告訴・告発支援センター, 「告訴・告発の方法」.))、住民の方がよいでしょう。

 政務活動費の告発状の例は見つかりませんでしたが、政治資金規正法(及び政務活動費の不正受給)についての告発状がありました。

 この告発状を参考にすれば、大変だと思いますが、書けないことはない範囲です。

 但し、政務活動費に対する刑事告発は、いろいろされているようですが、その後、起訴されている事例は、いまのところ、野々村事件と徳島事件以外には見つかりませんでした。いずれの場合も、告発状があったから、起訴したのか、警察・検察が社会的影響が大きい事件を放置してはおけないので、告発状の有無に係らず、事件化するつもりだったのか分かりません。いずれせよ、立件した事件の数は少ないです。

 政治案件は警察・検察ともに及び腰になるのでしょうかね。

2.2.3 実際にやるのなら...

 実際に住民監査請求や刑事告発を行うのであれば、市民オンブズマンの助けを借りるのがよいのでしょう。

 市民オンブズマンの連絡先は、以下のサイトにあります。

3. まとめ

 住民監査請求や刑事告発について調べました。監査請求書や告発状を書くことは、想像していたよりは敷居が低いものでした。告発状を多数受け取った案件では、警察・検察も動かざるをえなくなるのではないかと思います。皆で訴えれば、...と思ってはいても、いざ自分がやるかというと、相当に怒り心頭とならない限りやらないですかね。

(2016/10/6)

(追記: 2016/10/12) 徳島事件の判決がでました((ロイター, 「政活費詐取、元県議に有罪判決 」, 2016/10/12.))。詐欺、虚偽有印公文書作成・同行使で、懲役1年6カ月、執行猶予5年です。

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  • [http://www.toranosuke.xyz/entry/2016-0921_toyama:title=時事随想:政務活動費の不正受給は刑法犯罪] (2016/9/21)
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