時事随想

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ニュースや新聞を見て、想ったことを綴った随想・論説集

【豊洲市場】安心までの遠い道のり

 豊洲問題は、まだまだ新聞・テレビを賑わせています。小池さんも、ここまで問題が拡大するとは予想していなかったと思いますが、着地点はまだまだ見えない状態です。

 着地点を見えなくしている原因の一つは、汚染土壌の安全・安心の問題でしょう。この問題のこじれが、不安心理を増幅させ、豊洲市場に対する風評被害を及ぼし、解決への道のりを見えなくしています。

 今回は、豊洲市場の問題における安心・安全について考えたいと思います。

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1. 安心までの道のり

 安全と安心とは何でしょう?安全は科学的取り扱える問題、安心は心理的なもので人の心の中の問題です。安全だからと言って安心とは必ずしも言えません。逆に、安心していても、必ずしも安全とは言えません。後者の典型例は、原発の安全性でしょう。福島原発の事故では大地震・大津波は来ないと安心していましたが、実際には事故を起こしてしまい安全ではないことが証明されてしまいました。このように安心と安全は同じものではありません。

 さて、安全・安心の組み合わせには、どのようなものがあるでしょうか?例えば、次のようなものがあるでしょう。

  • 安全なので、安心だ。
  • 安全だけど、安心できない。
  • 安全ではないので、安心できない。

また、安全性については不明という立場で、

  • 安全性は不明なので、安心できない。

以下の場合も、一応、考えられます。

  • 安全ではないが、安心だ。
  • 安全性は不明だが、安心だ。

この場合は、「安全ではない・安全性は不明」と本音では思っているが、外部には「心配いらない」と主張する建前があるというような本音と建前がある場合でしょうか。本心で思う人はまずいないでしょう。

 さらに、問題を複雑にするのは、安全性についての科学的な信頼性や発言者の信頼性などの問題があります。

  • 科学的信頼性
    • 科学的に信頼できる        → 安心
    • 科学的に信頼できない       → 安心できない
  • 発言の信頼性
    • 発言者が信頼できる        → 安心
    • 発言者が信頼できない       → 安心できない
  • 将来的な信頼性
    • 将来的にも信頼できる       → 安心
    • 将来的には分からない       → 安心できない

 以上をまとめると、安心は、図1に示すようにいくつものハードルを乗り越えて、得られるものでしょう。

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図1: 安心を得るまでのハードル。

 ここで、科学的安全性は、高い科学的信頼性に基づき安全と言えれば、「YES」、そうでなければ「NO」としています。例えば、水道水の水質基準を満たせば、その水は安全と言ってもよいので「YES」です。

 また、過去の経緯によっては、安心は得られません。これを条件にいれると、豊洲問題の場合には、ガス工場の跡地の汚染土壌があった場所に建設している(ということが広く知られてしまった)ので、そもそも安心を得ることができないということになります。

 安心のためには、他にもいろいろなハードルがあるでしょう。また、「良く分からないけど、あの人が言っているから、安心」という安心を得るまでのバイパスもありますが、現時点では、信頼できる「あの人」がいません。

2. 豊洲問題における安全と安心

2.1 豊洲問題の炎上の経緯

 豊洲問題が特にクローズアップされたのは、小池知事の就任早々に、豊洲移転を延期するとした以降。都知事の延期発表のすぐ後に、共産党都議団が地下空洞を発見、小池知事が地下空間があることを緊急記者会見で発表、そして、大騒ぎとなりました。

主な経緯は、以下の通り。

 その後、多数の調査・報道となり、炎上状態となりました。不安を煽る報道や発言も数多くあり((特に酷いと思ったのは、日刊ゲンダイの「豊洲市場「爆発」の恐れも 地下空洞に引火性ガスの危険性」(2016/9/15)という記事。ベンゼンには引火性はありますが、爆発限界は46~230g/立法メートル。一方、豊洲市場の検査は環境基準の3μg/立法メートル以下です。爆発限界の小さい方の値をとっても、実に1000万倍以上の違いがあります。この違いを無視して、爆発の不安を煽っています。分かっている人なら、「日刊ゲンダイ」の記事ということで無視しますが、知らない人だと不安に思ってしまうのではないでしょうか。
 また、テレビに頻繁に出演しているある学者による「安全だけれども、安心できない」という趣旨の発言も、不安を煽る発言と感じました。科学的視点からは安全なので、(少なくとも自分は)心配していないと言うべきでしょう。科学者が根拠なしに不安に思てもらっては困ります。テレビ局としても、毎回、不安を煽ってくれるので、都合の良い識者なのかもしれませんが。))、不安を増幅することとなりました。

2.2 盛り土しなかったことは悪いこと?

 さて、専門家会議や技術会議が提案した盛り土を建物地下に設置しなかったことに、問題はあるのでしょうか?専門家会議や技術会議は、恐らく東京都の単なる諮問機関、つまり、東京都が意見を求め(諮問し)、その求め(諮問)に対して回答する機関でしょう。その回答は尊重されるべきでしょうが、回答が間違っていると思えば、都は必ずしも従う必要はありません。

 つまり、専門家会議や技術会議で提案された盛り土は行わなくても、各種法規(土壌汚染対策法や環境に関する各種法律など)に従っていれば、別の方法で汚染対策を行っても法的には問題はないはずです。

 問題なのは、盛り土をしないことが「段階的に空気の中で決まり」(いつの間にか無責任に決まり)((産経ニュース, 「豊洲市場の盛り土問題「段階的に空気の中で決まった」「最も大きな要因は責任感の欠如」」, 2016/9/30.))、それを公表せずに、隠していたこと、虚偽説明・不都合な事実の非公表など、安心を得るためのショートカットをしようとしたことでしょう。問題発覚後も、数々の虚偽説明・情報の非開示などにより、東京都の全ての発言や資料は信頼できず、すべて疑うことが必要となりました。

 安心のための土台が瓦解したのです。

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図2: 虚偽説明による安心へのショートカット。

2.3 ついに出てしまった汚染物質、これは致命的

 これまで都が実施した7回の地下水のモニタリングで水質検査では、基準値以上の汚染物質はありませんでしたが、第8回の調査でついに基準値以上のベンゼン・ヒ素が検出されてしまいました((東京都, 「豊洲市場用地における地下水のモニタリング(第8回)の結果について(速報)」.))((懐疑論的には、過去7回の水質検査には不正があり、有害物質の検出が隠蔽されたという考えもあります。謀略論的には、過去7回の結果は正しく、8回目の水質検査でも有害物質が検出されなかったが、小池知事を陥れるために、結果を改ざんしたという考えもあるでしょう。このような考えが生じてしまう背景は、東京都のいうことは信頼できないということがあります。))。

 第8回の地下水モニタリング調査は、これまで都議が行ってきた水質調査とは違い、土壌汚染対策法に基づく調査です。この調査により「地下水汚染が生じない状態が2年間継続すること」を確認しなければなりませんが、これが確認できなかったということになります((ハフィントンポスト日本版, 「築地市場の豊洲移転問題」, 2016/8/29.))。

(三 遮水工封じ込め) ト ハにより埋め戻された場所にある地下水の下流側の当該場所の周縁に一以上の観測井を設け、一年に四回以上定期的に地下水を採取し、当該地下水に含まれる特定有害物質の量を第六条第二項第二号の環境大臣が定める方法により測定し、地下水汚染が生じていない状態が二年間継続することを確認すること
出典:土壌汚染対策法施行規則別表6(第40条関係)

 これにより、科学的な安全性(法的な安全性)が否定されてしまいました。但し、基準値を超えたとはいっても僅かで、飲むわけでもないので実質的には安全と個人的には考えています。しかし、安心を得るための必須条件が満たされなかったので、不安心理を打ち消すことは容易ではないでしょう。

3. 今後の展望

 市場関係者は豊洲移転問題で大損害を被っています。築地からの行き場も、怒りの行き場もなくて、苦しい想いをしていることと思います。また、数千億円規模の設備が、月単位や年単位で稼働が遅れるということは、それだけでも大損失です。豊洲市場が、市場として使えず、他の施設への転換を余儀なくされるということになれば、都民への負担は計り知れないものになります。

 現在は、科学的安全性もなく、発言者の信頼性もなく、将来的にも不安です。風評被害をなくすためには、安心が必要ですが、この状態から安心を得るのは至難の業でしょう。どうやって、この問題を解決するか、小池知事の力量が問われるところです。

 今後の展望はつらいものとなるでしょう。再度、汚染対策を行っても、安心して使える豊洲市場として開場することは、まずできません。(1) 安心を犠牲にして(風評被害を受け入れて)豊洲市場を開場するか、(2) 豊洲市場への移転そのものを中止するかの2つの選択を迫られるに違いありません。いずれもつらい選択です。

(2016/10/8)

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