時事随想

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ニュースや新聞を見て、想ったことを綴った随想・論説集

読売新聞の欺瞞:白紙領収書問題に関する社説

1. 読売新聞の社説

 読売新聞の2016年10月10日の朝刊に、稲田防衛相や菅官房長官の政治資金パーティーの白紙領収書問題に関する社説が掲載されていました*1。主旨は、「政治資金パーティーの領収書の扱いを適正運用せよ」ということなので、これについては、特に異議を唱えるところはありません。

 しかし、先日掲載した白紙領収書問題の記事の執筆に当たって詳細に調べていたので気が付いたのですが、普通の読者であれば気が付かない欺瞞が含まれています。欺瞞と感じているのは、記事の次の部分です。

 実際、総務省作成の手引書は、領収書に宛名がない場合も、発行者から要請がある場合を除き、領収書の受領者が追記するのは「適当ではない」と記している。
出典: 読売新聞社説「政治資金領収書 法の適正運用へ手間惜しむな」

 「発行者からの追記の要請がある場合を除き」適当ではないとしていますが、逆にいえば、「発行者からの要請がある場合」は、追記を行ってよいということになります。

 本当でしょうか?

2. 政治資金規正法上の領収書の条件

 総務省の収支報告書の手引きには、次の記載があります。

【よくあるご質問】領収書関係
Q1 法における「領収書等」は、当該支出の「目的」、「金額」、「年月日」を記載した領収書その他の支出を証すべき書面とのことですが、これらの記載すべき事項が記載されていない場合は、「領収書等」に該当しないのですか。
A1 法における「領収書等」は、当該支出の「目的」「金額」「年月日」の三事項が記載されていなければなりませんので、1つでも欠ければ、法の「領収書等」に該当しません。一般的な領収書において、「目的」とは「ただし、○○代として」など何に支出されたのかが分かるような記載を、「金額」とは当該支出の金額を、「年月日」とは当該支出の日付をいいます。
(下線・太線は筆者による。以下、同じ)
出典:総務省「国会議員関係政治団体の収支報告書の手引き III. 収支報告書等の作成」(52頁)

 つまり、政治資金規正法では、領収書に「目的」「金額」「年月日」が記載されていることを求めています(政治資金規正法第11条)。

3. 領収書に追記は可能か?

 今回の白紙領収書問題では、稲田氏や菅氏の側で、「宛名」「金額」「年月日」を白紙領収書に追記しています。

 「宛名」については、収支報告書の手引きの「よくある質問」に該当する記載があります。

【よくあるご質問】領収書関係
Q6 具体的な事例について、それぞれ「領収書等」に該当するのか教えてください。
A6 収支報告書の記載の基本的な方針を定めること等を所掌している政治資金適正化委員会において、政治資金監査における取扱いとして、次のような見解を示していますので、ご参考にして下さい。なお、「領収書等に該当」としているものであっても、支出の目的、金額及び年月日(以下「三事項」といいます。)が記載されていることが前提となっています。
(中略)
(Q) 領収書等にあて名が記載されていない場合、国会議員関係政治団体側で追記してもよいのか。
(A) 領収書等は支出を受けた者が発行するものであり、あて名についても発行者において記載すべきであることから、発行者から追記の要請がある場合を除き、国会議員関係政治団体側で追記することは適当ではありません。したがって、今後、当該国会議員関係政治団体の正式名称を発行者において記載してもらうよう助言することが適当です。
出典:総務省「国会議員関係政治団体の収支報告の手引き III. 収支報告書等の作成」(62頁)

 社説の引用は、この部分に該当します。つまり、宛名の場合、発行者から追記の要請がある場合を除き、追記してはいけません。逆に、発行者からの追記の要請がある場合は、追記が可能です。

 この「宛名」は、政治資金規正法上の領収書として必須の条件となっている三事項(「目的」「金額」「年月日」)ではありません。一方、三事項の一つ「目的」に関しては、上記のQ&Aの直前に次の記載があります。

(Q) 領収書等に支出の目的が記載されていない場合、国会議員関係政治団体側で追記してもよいのか。
(A) 領収書等は支出を受けた者が発行するものであり、支出の目的についても発行者において記載すべきであり、国会議員関係政治団体側で追記することは適当ではありません。したがって、会計責任者等において発行者に対し記載の追加や再発行を要請することが適当です。
出典:総務省「国会議員関係政治団体の収支報告の手引き III. 収支報告書等の作成」(62頁)

 「宛名」の場合には、「発行者からの追記の要請がある場合」には追記することができますが、「目的」の場合にはできません。領収書の発行者に追記や再発行を要請することが適当です。要請しても領収書が得られない場合には、「領収書等を徴し難かつた支出の明細書」(徴難明細書)を作成しなければなりません(政治資金規正法第12条)。また、「金額」を追記するなど論外でしょう。

4. なぜ、社説では、金額の追記に関する総務省見解を載せないのか?

 「金額」の追記に収支報告書の手引きのQ&Aにはありませんが、三事項に該当する「金額」「年月日」も、領収書の発行者に追記や再発行を要請することが適当な事項となると容易に推測できます。「金額を追記は可能か?」という質問が掲載されていないのは、「よくある質問」ではないだけです(金額の記載がない領収書は想定の範囲外)。総務省に問い合わせれば、公式見解を確認することができるでしょう。

 社説で引用した部分は、「発行者からの追記の要請がある場合を除き、領収書の受領者が追記するのは「適当ではない」」としていますが、逆にいえば、「発行者からの要請がある場合」は、追記を行ってよいということになります。これは、稲田・菅・高市各氏の「主催者側の了解のもと(いわば「委託」)であれば、法律上問題ない」という発言を擁護することになります。

 一方、金額の追記は、総務省見解が得られれば、「追記」してはいけない事項となるでしょう。つまり、「法律上の問題がある」ということになります。

 全く、逆の意味になります。これは重要な相違点です。

 では、なぜ、「金額」の追記について記載せず、「宛名」の追記について記載したのでしょうか?理由としては、以下のものが考えられます。

(a) 収支報告書の手引きに直接の記載があったのは「宛名」だけだったから。
(b) 金額に対する総務省見解を問合せなかった、若しくは、回答が得られなかったから。
  現在は、高市総務相と異なる見解となるため、総務省から回答が得られないかもしれません。
(c) 稲田防衛相・菅官房長官・高市総務相の見解を擁護するため。

(a)は、あまりに考えがなさすぎます。(b)は、あり得ます。但し、総務省見解が得られないのであれば、「宛名」のみの引用が不適切であることは理解できるはずです。それでも、結果として引用してしまっているので、(a)と同じく考えが足らなかったのでしょう。

 読売新聞の社説を執筆する記者が、(a),(b)のようにレベルが低いとは思いません。

 残るは(c)です。稲田・菅・高市の各氏を擁護するために意図的に引用したということです。もし、そうであれば、これは読者を欺く、欺瞞と言わざるを得ません。

(2016/10/11)

(追記:2016/10/13)

 各社の社説から、該当部分の記述を引用します。

  • 朝日新聞(2016/10/8) (総務省の手引きを引用した記述なし)
  • 毎日新聞社説(2016/10/8)「総務省の手引は、支払う側が領収書に支出目的を記入することは適当でないと指摘している。金額の記入など論外という前提だろう。」
  • 産経新聞社説(2016/10/12)「総務省の手引では受領者側が領収書に追記するのは不適当としている。」
  • 東京新聞(2016/10/13)「総務省の手引には領収書は支出を受けた者が発行し、宛名も発行者が記載すべき旨の記述がある。日付や金額も同様だ。空欄に後から書き込む行為も「適当でない」とする。」

各社とも、「総務省手引では、~不適当」というように条件なしの不適当で、「発行者からの追記の要請がある場合を除き」という条件付きではありませんでした。

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