時事随想

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マイナス金利で楽々ご返済-国債のご利用は計画的に-

マイナス金利の国債

 最近、国債の金利がマイナスになったとよく聞くようになりました。日銀の異次元金融緩和の一つとして、日銀が国債を高値で買っているためです。

 国債の金利がマイナスといっても、表面利率はプラス金利の国債です。表面利率とは、国債の額面額に対して年間で得られる利子で、表面利率がプラス金利の国債を持っていれば、毎年利子が支払われます(通常は6カ月毎)。このため、高値で買っても同じ金額で売れれば、利子の分だけ利益が得られます(インカムゲイン)。たとえ高値で買った国債でも、さらに高値で売り抜けられれば、それでも利益を得られます(キャピタルゲイン)。逆に、安値でしか売れなければ、損失がでるかもしれません。

 国債の金利がマイナスとは、正確には、利回りがマイナスということです。マイナスの利回りでは、落札から償還まで持ち続けると損失が発生します。

表面利率と利回り

 さて、国債では、国が発行した時点の落札額で、国にとっての利回りが確定します。今年6月の10年債(第343回国債, 2016/6/20発行, 2026/6/20償還)*1を使って、利回りを計算してみます。

 直近の国債の入札では、表面利率は\alpha=0.1%、平均落札価格は額面100万円に対して落札額x=101.96万円で落札されています。このデータを用いて次の式から平均利回りrが計算できます。


r = \frac{(100+\alpha\times10)-x}{10x}=\frac{(100+0.1\times10)-101.96}{10\times101.96}=0.094\%

 上式の(100+0.1\times10)の項は、額面金額と10年間の受け取り利子の合計です。額面100万円の国債に対して、年間0.1%(0.1万円、つまり1000円)の利子が10年分もらえるので、100万円+1000円\times10年で合計101万円となります。 この国債を償還日まで持っていれば、101万円が得られます。

 一方、落札価格は101万9600円です。[償還の際に得られる金額]から[落札価格]を引くことで、10年間の損益が得られます。この場合では、10年で9600円の損失となります。年単位の損失は、9600円を1/10にした960円です。これを落札価格で割って百分率で計算すると、0.094%の損失、つまり、マイナス0.094%の利回りとなります。

 1989年からの表面金利と利回りの推移を図1に示します。表面利率と利回りは、基本的にはおおよそ一致しますが、最近はその差が大きくなっています。これは、日銀が行っているマイナス金利政策という歪んだ市場介入によるものです。日銀の市場介入がなければ、ほぼ一致するはずです。

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図1:1989年4月から2016年6月までの10年債の表面利率と平均利回の推移。
最近は、表面利率と利回りの差が大きくなっている。


日銀の歪んだ市場介入

 今年6月発行の10年債の場合、償還日まで持っていても101万円しか得られない国債ですが、101万9600円で購入する落札者がいます。101万円で購入した国債でも、最初の1年を経過すれば、1000円のキャッシュが得られます。2年、3年と保有すれば、2000円、3000円とキャッシュが貰えることになります。定期的に貰えるキャッシュは、金融機関には安定的な収入となるので、ある程度保有はしておきたい。償還日までに、購入金額から累積利子を引いた額以上で売れれば損失はでないので、買い手がいればマイナス金利となる国債でも買っておきたいということではないかと思います。マイナス利回りとなる国債に金融機関が入札をするのは、その後に、日銀がさらに高値で購入してくれるからでしょう。

 通常であれば、購入日から償還日まで持っていると、損失がでるようなマイナス金利国債は誰も購入しませんが、いまは日銀がいます。日銀が次々と高値で購入していきますので、インカムゲインのために国債を保有しておきたいとしても、キャピタルゲインでより多くの利益が得られるのであれば、金融機関は国債を売却します。国債を売ると、金融機関にはキャッシュが入ってきますので、市場に資金を投入することができます。日銀バキュームカーが金融市場を走り回って、損失がでるような国債でも次々と吸い上げ、金をばら撒いているといったところでしょうか。

 現在、日銀は年80兆円のペース*2と、国債発行総額以上の国債を購入しています(但し、借換債を除く)。このままのペースで日銀が国債を購入すると、あと数年で市場に国債はなくなります。逆にいうと、それまでは、市場に残っている国債を吸い上げて、キャッシュを落とすことで、市場に資金供給をすることができるのですが、そろそろ限界だろうと言われています。

 次に待ち受けているのは、市場を通して資金供給するのではなく、国経由で市場に資金を供給することです。所謂、ヘリコプターマネー*3。一応、日銀法によって、国債の引受は禁止されていますが*4、現状でも市場経由とは言え、国の発行額以上の国債を購入しているので、国債引受のようなものです。現在の日銀は、政権の下請けのような機関なので、本当にヘリコプターマネーを実施してしまうかもしれません。

マイナス金利国債で国の借金が減る?

 さて、ここからが本題。

 考えてみれば、マイナス金利国債は、売れば売るほど国側で利益が得られます。現在、10年以下の国債はすべて利回りがマイナスの国債で、国債の発行が国の財源になるという不思議な状態です。

 さらに、ヘリコプターマネーをやるのなら、いっそのこと表面利率もマイナスにしてしまっても、似たようなものです(どちらも日銀しか引受手はいない)。表面利率がマイナスの国債だと、国債保有者(日銀)が毎年、国に利払いをするということになるので、発行すればするほど、国の収入が増加するという摩訶不思議な現象が起こります。つまり、国債が財源になるわけです。増えた収入を債務返済に回せば、借金も同時に減らすことができます。

 今後、日銀がマイナス金利国債の損失をどうやって補填するのか知りません。日銀も昔は業績が良かったので、容易に損失補填できる方法があるのかもしれませんが、いつまでも、マイナス金利国債を購入することは無理でしょう。それとも、輪転機を持っているので、福沢諭吉さんを大量に刷って購入し続けるのでしょうか(笑えない)。

 バキュームカーに溜まりに溜まった国債も、本来であれば放出しなければなりません。しかし、バキュームカーに溜まった国債は安値でしか売れません(金利は上昇)。また、国債の放出では、今度は、市場のお金をバキュームすることになります。結局、国債はバキュームカーに入れたままにしておくことになると思います。

 表面利率がマイナスの国債の日銀引受など、ほとんど破れかぶれの金融政策ですが、ご利用が計画的でない我が国のことなので、そんな妄想も起こってしまう今日この頃です。

(2016/10/26)

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