時事随想

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【天皇】天皇退位の判断基準

 天皇の「お気持ち」の表明以来、生前退位の議論が具体的になっています。「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」という何とも長い名前の会議体ですが、菅官房長官によれば、来年の通常国会には法案を提出したいとのこと*1。今の天皇のみの特例法となりそうですが、今回は、天皇の退位の判断基準について検討したいと思います。

1. 生前退位の判断基準の設定

 生前退位の恒久法を考えた場合、いろいろな要素を考えなければならなず、意外と難しい問題かもしれません。

 生前退位の制度設計の重要な要素の一つは、どこのタイミングで退位する・退位させるかという判断基準を作るということでしょう。現在のように死去に伴う退位であれば、医学的判断だけで済みますが、それに代わって新しい判断基準を作らなければなりません。また、退位の承認プロセスも考えなければなりません。

2. 想定される退位の状況

 退位を考えるに当たって検討すべきこととして、退位するか、退位させるかという問題があります。「退位する」は、本人の希望によるもの、「退位させる」は本人の意思に寄らないものです。

 その中にはいくつものケースが考えられるでしょう。例えば、さっと思いつくだけでも以下のような場合があります。

  • 本人の意思により退位する場合
    • 政治的意図がない場合
      • 老衰による場合(今回の場合)
      • 傷病による場合
         例えば、(雅子妃の)適応障害のような場合
      • (皇室離脱し)普通の生活を過ごすため
      • 本人のわがままによる場合
      • 本人の不祥事に伴う謝罪の念による場合
    • 政治的意図がある場合
      • 政権に抗議するため。
         例えば、戦争開始に当たって政府に抗議するため
      • 退位後、(皇室離脱し)政治的活動を行うため
  • 本人の意思に寄らず退位させる場合
     本人意思には退位を希望する場合と希望しない場合がある。
    • 政治的意図がない場合
      • 老衰による場合
      • 傷病による場合
      • 天皇としての適性・品位に欠ける場合
        • 麻薬使用、女性スキャンダルなど
        • 犯罪を犯した場合
    • 政治的意図がある場合
      • 特定の政治思想を持つ天皇を退位させるため
         例えば、以下のような場合。
        • 平和主義の天皇を退位させるため
        • 戦争賛美の天皇を退位させるため
      • 統治者の権力を示威するため

 他にもたくさんのケースが考えられそうです。制度設計の場合にはあらゆる場面を考える必要があるでしょう。

3. 客観的事実に基づく判断基準

 基本的には政治的意図がある退位を回避するように制度設計しなければなりません。これは絶対的な条件でしょう。

 政治的意図のある退位を回避するためには、客観的事実に基づく判断基準を設けることが考えられます。例えば、次のような基準です。

  • 年齢に基づく基準
    • 定年を設ける。例えば、70歳で退位する。
  • 医学的判断に基づく基準
    • 身体疾患の場合
    • 精神疾患の場合
  • 犯罪に基づく基準
    • 殺人など重大な刑法犯罪を犯した場合など

 他にも客観的な事実に基づく判断基準は設けられるかもしれません。

 身体疾患や精神疾患については、既に摂政を置く規定で示されていますので、天皇の退位についても、これを適用することになるのでしょうか。

第十六条 2 天皇が、精神若しくは身体の重患又は重大な事故により、国事に関する行為をみずからすることができないときは、皇室会議の議により、摂政を置く。
出典: 皇室典範

 摂政を置く基準の一つである第16条2項を廃止し、天皇を退位させるというように変更するのでよいかもしれません。皇室典範によれば、皇室会議で摂政を置くことができますが、天皇退位では国会承認なども必要でしょう。

 しかし、この医学的判断の場合でも、皇室会議が恣意的な判断をする(医師にさせる)可能性があるので、それをどうやって防止するかも重要です。犯罪を起こす可能性はゼロではありませんが、犯罪に基づく基準は検討から除外してもよいですかね。他国の例も参考にして、いろいろと議論をする必要があるでしょう。

 個人的に考える基準は、以下のものです。

  • 年齢に基づく基準の導入:
     死去退位の制度は廃止し、定年に達した場合に退位する(定年制の導入)
     国王に定年制を導入した国は、聞いたことがなく、反対意見も多くでそうです。
  • 医学的判断の導入:
     意識回復が見込めない身体状態になった場合(脳疾患等により意識回復しない場合を想定)

 認知症や末期癌の場合は、どうしましょう?想定しなければならないケースですが、認知症や癌は徐々に進行するので、境目の判断が難しいです。適性・品位に欠けるような場合は、退位させたくとも、退位させる客観的基準を設けることが難しいです。最低限の公務のみをさせて、あとは表に出さないようにする?

4. 退位後の処遇

 退位後は、他の皇室と同様に公務を行うことになるのでしょう。但し、退位後でも、その発言力・発信力は大きいと考えなければなりません。天皇と同じように政治的自由を与えないことが必要です。つまり、皇室離脱をさせず、天皇と同様に発言や行動の制限を継続させる必要があります。人道的とは言えないかもしれませんが、天皇制を廃止しない限り、このような制限は必須でしょう。

 今の天皇は、上皇となることを想定しているようですが、退位した天皇がすべて上皇となる制度というのも考えさせられます。皇室の中のお爺ちゃんという位置づけで、公式な地位としの「上皇」は設定しない方がよいと個人的には思います。ここも議論となりそうな点です。

5. 最後に

 天皇の生前退位について考察しました。政治的意図を排除することが絶対的条件と思いますが、国民全体が納得する基準を設けることは難しく、今回の特例法では、特に明確な判断基準は設けないと思います。特例法が成立した後は、皇室典範の改正に及ぶ本格的な議論は先送りにされ、議論が深まることはないでしょう。

(2016/11/16)

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