時事随想

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ニュースや新聞を見て、想ったことを綴った随想・論説集

【裁量労働】労働時間の上限規制を設けるべき

 裁量労働制の拡大は一旦が見送りになりましたが*1、柔軟で効率的な働き方という裁量労働の趣旨に沿って運用できれば、良い制度だとは思っています。

 しかし、問題は、長時間労働となりやすい、歯止めがないので使用者に悪用されるという点です。

 この改善策としては、以下の場合には、その労働者への裁量労働の適用を外すことを法律で義務付けることが必要と考えます。

① 実労働時間が、36協定の上限(月45時間、年360時間*2)を超えた場合
② 実労働時間が、みなし労働時間よりも大幅に長くなった場合
(みなし残業が月20時間程度なら、①の規制だけでもよいとは思う)

 ①の36協定の規制は健康を含めたワークライフバランスを保つ上限として設定されているので、それを超える働き方を労働者はすべきでないことは明らかです。

 ②となる原因は、いくつか考えられます。例えば、

③ みなし時間に比べて、与えられた仕事量が多い。
④ 効率的に仕事ができていない。

 効率的に仕事ができるとは、みなし時間よりも少ない時間で仕事が完了するということです*3。実労働時間がみなし時間よりも少ないことが、効率的な働き方という裁量労働制の主旨に沿った働き方なので、①や②となるのは、働き方に何らかの問題があるということです。

 いずれにせよ、①、②のいずれの場合も、裁量労働に適合した働き方ではないので、裁量労働を適用すべきではないでしょう。

 なお、①や②の運用には、実労働時間の把握が必要ですが、労働者に時間管理の裁量があることと、使用者が労働時間を把握することとは別のことなので、労働時間の把握を使用者に義務付けることに問題があると思えません。また、現在でも「健康・福祉確保措置」による勤務状況把握*4や非適用者の実時間労働管理が義務付けられていることなのでこの点でも支障はないと言えるでしょう*5

 政府・与党・野党を問わず、現行の裁量労働の問題点を踏まえて、法制度を整備することを期待します。

(2018/3/2)


ブラック企業のない社会へ――教育・福祉・医療・企業にできること

今野 晴貴, 棗 一郎, 藤田 孝典, 上西 充子, 大内 裕和, 嶋崎 量, 常見 陽平, ハリス鈴木絵美
(岩波ブックレット, 2014)

●twitterの投稿(2018/3/2)

*1:泉宏,「安倍首相、「裁量労働削除」は「蟻の一穴」か」, 東洋経済ONLINE, 2018/3/2.

*2:厚生労働省, 「時間外労働の限度に関する基準」

*3:効率的に働くとは、労働時間の短縮以外に、同じ時間でより多くの仕事量をこなす、より高い生産価値を生み出すことも挙げられます。

*4:厚生労働省, 「健康・福祉確保措置」.
入退室時刻の記録などを求めるものであって、実労働時間の把握を求めているわけではありません。

*5:2016年11月に民進党・共産党・自由党・社民党の野党4党が提出した「長時間労働規制法案」の中にて、「健康管理時間」という実質的に労働時間を記録する義務を定め、できない場合には裁量労働制を導入させないという条項を設けていますが、廃案となったようです。

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