時事随想

時事随想

ニュースや新聞を見て、想ったことを綴った随想・論説集

【憲法改正】合区解消?小さな県は合併したら?

1. 合区解消のための憲法改正

自民党では、憲法改正を議論しているが、その一つが選挙制度に関する改正案である。

 自民党憲法改正推進本部が選挙制度に関する改憲条文案をまとめた。

 参院選で2つの県を1つの選挙区とする「合区」を解消し、各都道府県から1人以上を選出できるようにする。衆院選では市区町村が複数の小選挙区に分割される区割りを防ぐ。
(中略)
 自民党は、合区では地方の声が国政に反映されにくいとし、現行の47都道府県を単位とする参院選挙区にこだわった。合区対象県には自民党の強固な支持基盤があるという現実を前に、党利を図っているとみられても仕方ない。
産経ニュース「合区解消の憲法改正案 無理に無理を重ねるのか」, 2018年2月21日.

2. 地方の声が国政に反映されない?

 参議院選挙区では、島根県・鳥取県と徳島県・高知県が合区となっている(総務省)。

 自民党によれば、合区からの選出では地方の声が反映されにくく、県単位の選出だと地方の声が反映されるという。意味不明である。

 単に選出された議員が選挙区の声を反映する努力をしていないということではないのか?

 同じ定数2で言えば、沖縄県の方がはるかに選挙区内の距離が離れている。他にも定数2で、それぞれの合区よりも面積でも、人口でも大きい県はある(付録)。

 要するに合区から選出された議員がどれだけ地方の声を反映するかであって、選挙区の問題ではなく、選出された議員の問題である。

3. 鳥取島根県と徳島高知県を作ればよい

 それでも、どうしても、都道府県に拘るのであれば、憲法14条が保障する法の下での平等に答えるために、人口が少ない県を統廃合すればよい。

例えば、以下のように県の廃止と新設を行えばよい。

  • 鳥取県・島根県を廃止し、鳥取島根県を新設
  • 徳島県・高知県を廃止し、徳島高知県を新設

 これで、都道府県毎に1名以上の議員を選出でき、憲法14条と矛盾しない。

 ただでさえ、今後、人口が減少し、成り立たなくなる地方自治体が多数発生すると言われる。

 県についても、小さな単位でいることが合理的でないならば、統廃合の例外とするべきではないだろう(付録B)。

 地方自治体の統廃合、特に県レベルの統廃合は、地方の歴史を無視していると言われるかもしれないが、明治維新では遥かに大胆な統廃合を行っている。出来ないという理由にはならない。


「一票の格差」違憲判断の真意
福田 博 オーラルヒストリー, 外交官としての世界観と最高裁判事の10年

福田 博, 山田隆司・嘉多山 宗(編)
(ミネルヴァ書房, 2016)

付録A:合区の人口と面積について

A.1 各県の人口と面積

A.1.1 各県の人口

 合区となっている鳥取県・島根県と高知県・徳島県の人口は、2017年の統計でそれぞれ以下の通りである(都道府県 人口ランキング)。

  • 鳥取県:565,233名
  • 島根県:684,668名
  • 高知県:713,465名
  • 徳島県:743,356名

 この4県は、47都道府県の中で最も人口が少ない県である。

 この人口を市町村の人口と比べると、次のランキングとなる(全国の市 人口ランキング)。

  • 鳥取県:25位
  • 島根県:21位
  • 高知県:20位
  • 徳島県:17位

 これには、東京23区が入っていない。東京23区には、鳥取県よりも人口が多い区(板橋区、杉並区、足立区、江戸川区、大田区、練馬区、世田谷区)が7つあり、これらを考慮すると、順位は次のようになる。

  • 鳥取県:32位
  • 島根県:25位
  • 高知県:23位
  • 徳島県:18位

 つまり、これらの4県の人口は、多少大きな市の人口にも満たない。

人口減少を推移をみると、これらの地方の県は人口減少が進み、人口ランキングはさらに下がるだろう。

A.1.2 各県の面積

4県の面積は、以下の通りである(都道府県 人口・面積・人口密度ランキング)。

  • 鳥取県:3,507 km2(41位)
  • 島根県:6,708 km2(19位)
  • 高知県:7,104 km2(18位)
  • 徳島県:4,147 km2(36位)

それぞれ単独で見ると、都道府県の中では、中程度の大きさとなっている。

A.2 合区の面積と人口

 さて、それぞれの合区の面積・人口をまとめると、次の通りである。

  • 鳥取県+島根県:10,215 km2、1,249,901名
  • 高知県+徳島県:11,251 km2、1,456,821名

 鳥取・島根合区の面積よりも、大きく、定数2の参院選挙区には、岐阜県・新潟県・長野県・福島県・岩手県がある。それぞれの人口と面積は、以下の通りである。

  • 岐阜県:10,621 km2、2,010,698名
  • 新潟県:12,584 km2、2,266,121名
  • 長野県:13,561 km2、2,076,017名
  • 福島県:13,783 km2、1,882,666名
  • 岩手県:15,275 km2、1,254,807名

 同じ定数2で比べても、鳥取・島根合区よりも、上記の5県は面積も人口も大きい。高知・徳島合区でも新潟・長野・福島の3県の方が面積・人口がともに多い。

 面積・人口が大きい県の選出の議員よりも、面積・人口ともに小さい合区選出の議員の方が、地方の声を聴けないとすれば、それは議員の問題である。

付録B. 廃藩置県と昭和・平成の大合併

 都道府県の多くは、奈良時代の律令制度に基づいて設置された行政区(令制国)に沿った形で設置されている。それでも、現在の都道府県は、必ずしも昔からの令制国に一対一で対応しているものではない。

 例えば、現在の徳島県は阿波国、高知県は土佐国で概ね令制国と一致しているが、島根県・鳥取県は、令制国で見れば、以下のように統合した結果である。

  • 島根県=石見国+出雲国+隠岐国
  • 鳥取県=因幡国+伯耆国

 平安から江戸期の令制国の数は66か国とも、68か国ともいわれるが、現在は、沖縄・北海道を入れても47の都道府県しかない。つまり、少なくとも20か国程度は明治の廃藩置県までに統廃合が行われている。

 昭和や平成の大合併では、市町村レベルでは大規模な統廃合が行われている(ウィキペディア)。

 小さな地方自治体を存続させるよりも、統廃合してより大きな地方自治体にすることは合理的な考えである。

 県であっても、同じように統廃合することが合理的と言えるのであれば、統廃合すればよい。現在の都道府県の単位を金科玉条の如く守る必要はない。

(2018/2/22)


新詳日本史―地図資料年表

(浜島書店, 1995)


(2018/4/15:追記)
産経ニュースでも、筆者と同旨の論説がありました。

 人口が50万人を割るような県では、「1県1自治体」、「1県2自治体」とするぐらいの大胆さが必要だ。さらに減るようならば、都道府県同士の合併、再編も視野に入ってくる
産経ニュース, 「地方人口の激減 「1県1自治体」の発想必要 論説委員 河合雅司」, 2018/4/15

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  • twitterに同様な主旨の投稿を行っている。

憲法9条の改正案

憲法13条を絶対神とした憲法9条の拡大解釈はすべきではない。文理解釈で理解できる、つまり、中学生でも理解できる文章で、現状に即した9条に改正すべきである。

以下は、筆者が考える具体的な憲法9条の改正案である。

第9条  日本国は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、いかなる戦力をも保持せず、あらゆる戦争、武力による威嚇、武力の行使を永久に放棄する。
 但し、我が国の防衛のための武力の行使、及び、そのために必要な最小限度内の武力の保持については、この限りではない。
  • 解釈によっては、戦争や武力行使が容認されると解釈し得る修飾句「国権の発動たる」「国際紛争を解決する手段としては」を削除し、「あらゆる」に変更することで、解釈の余地なく、全面禁止を規定する。例外は、但し書きに規定する。
  • 自衛権行使を認め、戦力不保持を保ちつつ自衛隊(実質的には軍隊)の存在と矛盾しないように規定している。このためには、「陸海空軍」は削除せざるを得ない。
  • 交戦がない武力行使、武力行使がない交戦はない。交戦権否認は、盲腸のような存在なので、これを削除した。
  • 「我が国の防衛のため」と限定することで、全面的な集団的自衛権行使は解禁しない(文案では限定的な集団的自衛権行使は容認している。個別的自衛権のみに限定する場合は若干の修正が必要である)
  • PKO/PKFについては、本案では考慮していない。今後、検討が必要である。
  • 自衛隊を記載する場合には、次の条項を追加する。
 第9条 2項 日本国は、我が国の防衛のために必要な最小限度内の武力を有する自衛組織を保持する。

いずれにせよ、現在の9条1項、2項をそのまま残すのであれば、絶対神の憲法13条による9条の拡大解釈が必要となり、解釈改憲という立憲主義に悖る状態が継続されることになる。これは正さなければならないと考える。

(2018/2/8)

なお、本記事と同様の内容は、日経ビジネスオンラインの下記の記事に対するコメントとして、2月8日付で投稿している(コメントが掲載されるかは、現時点では不明)。

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 本案は、twitter上での議論から生まれたものである。

【ニュース女子】BPO意見書への批判について

 TOKYO MXに「ニュース女子」というバラエティ番組があったそうです。番組名を聞くことはあったのですが、一回も見たことはありませんでした。BPO意見書で話題になったことから知るとことなりましたが、今回の記事では、この「ニュース女子」のBPO意見書の問題について記事にしたいと思います。

1. 「ニュース女子」に関するBPOの意見書

 TOKYO MXの番組「ニュース女子」が2017年1月2日に放送した沖縄基地問題の特集について、BPOの放送倫理検証委員会が意見書をまとめました。その要旨は以下の通りです。

当該番組はTOKYO MXが制作に関与していない“持ち込み番組”のため、放送責任のあるTOKYO MXが番組を適正に考査したかどうかを中心に審議した。
委員会は、

(1) 抗議活動を行う側に対する取材の欠如を問題としなかった、
(2)「救急車を止めた」との放送内容の裏付けを制作会社に確認しなかった、
(3)「日当」という表現の裏付けの確認をしなかった、
(4)「基地の外の」とのスーパーを放置した、
(5) 侮蔑的表現のチェックを怠った、
(6) 完パケでの考査を行わなかった、

の6点を挙げ、TOKYO MXの考査が適正に行われたとは言えないと指摘した。そして、複数の放送倫理上の問題が含まれた番組を、適正な考査を行うことなく放送した点において、TOKYO MXには重大な放送倫理違反があったと判断した。

(筆者により、改行を追加)
東京メトロポリタンテレビジョン『ニュース女子』沖縄基地問題の特集に関する意見(2017/12/14) PDF
「ニュース女子」の制作会社DHCテレビがyoutubeに公開している映像

2. アノニマスポストのBPOへの批判

 この意見書に対してネット上では、批判的な意見を多数見かけます。本記事では、そのうちの一つ、アノニマスポストの批判意見について検証したいと思います。

2.1 記事の概要

 アノニマスポストは、保守系ニュースのまとめ配信サイトです。このサイトでは、今回の「ニュース女子」に関するBPO意見書についても記事にしています。

https://anonymous-post.news/archives/1519
 アノニマスポストの記事では、「救急車を止めたことは事実」なのにBPOは「誤解」で片付けていると、BPOの意見書の次の部分を引用し、批判しています。

③抗議活動側が傷病者であった18件のうち1件について、傷病者を収容した救急車が徐行運転を開始して間もない高江橋で、抗議活動側の人が救急車に対して手を挙げて合図し、救急車に停止してもらい、誰を搬送しているのかを確認したことがあった。救急車が停止した時間は数十秒であった。この事実が「救急車を止めた」と誤解された可能性がある。
BPO意見書12ページの消防長の証言

これをBPOの「稚拙な言い訳」とし、次のように述べています。

BPOは消防署に聞き取り調査をして、実際に救急車が止められたのを知ってしまったのだろう。
しかしなんとか「ニュース女子」を悪者にしたい意図が文面からありありとわかる。
まず上記の文章から「私設検問」の実態がわかり、実際に救急車は止まっている。
例え数十秒であってもそれは活動家たちの私設検問で「止められている」のだ。
しかしそれを強引に「誤解」で片づけている
アノニマスポスト

2.2 BPO意見書の解釈

 BPOの検証委員会の役割は、まずは、放送内容が適切な取材に基づいた事実に即した報道となっているか調査し、仮に問題があるとすれば、そのような問題点を放送局がチェック(考査)していたかを検証することにあります。

 BPO意見書の4章2節の「基地建設反対派は救急車を止めたのか?」に「この事実が「救急車を止めた」と誤解された可能性がある」との記述があります。この意見書での「この事実」と「救急車を止めた」とは、次の事項を指します。

  • 「この事実」:「傷病者を収容した救急車が徐行運転を開始して間もない高江橋で、抗議活動側の人が救急車に対して手を挙げて合図し、救急車に停止してもらい、誰を搬送しているのかを確認したことがあった。救急車が停止した時間は数十秒であった。」(消防長証言)
  • 「救急車を止めた」:ニュース女子で放送された内容

「救急車を止めた」が「ニュース女子で放送された内容」であることは、BPO検証委員会の目的や文脈からすれば、当然の解釈です。BPO意見書を読んで、このように理解できないのであれば、理解能力がない、あるいは、意図的に異なる解釈をしていると言わざるを得ません。

2.3 「救急車を止めた」という放送内容

 さて、「救急車を止めた」という「ニュース女子」における放送内容について述べます。

 放送事実は、「防衛局、機動隊の人が暴力をふるわれているので、(編集によりカットあり)その救急車を止めて、現場に急行できない事態が、しばらく、ずーっと続いていたんです」です。

 編集によってカットされている部分があるので、日本語がおかしくなっていて、「その救急車」がどこに急行するのか不明確ですが、前後の文脈から、「暴力を振るわれている防衛局・機動隊の人のところに向かった救急車」と考えられます。つまり、放送内容は「防衛局・機動隊の人のところに急行しようとしている救急車を止めた」と受け止められます。

 BPOが検証したのは、「(基地反対派が)救急車を止めた」ではなく、放送内容である「(基地反対派が)防衛局・機動隊の人のところに急行しようとしている救急車を止めた」です。消防長の証言は、「(基地反対派が)救急車を止めた」ことの裏付けにはなりますが、放送内容である救急車の停止についての裏付けにはなりません。従って、BPO意見書では以下と結論付けています。

「防衛局、機動隊の人が暴力をふるわれているので、その救急車を止めて、現場に急行できない事態が、しばらく、ずーっと続いていたんです」という放送内容については、裏付けとなりうる事実の存在が認められない

 裏付けがない放送内容をBPOは問題視しているのです。

2.4 アノニマスポストの主張

 基地反対派が大挙して道路にいるのは、救急車搬送の邪魔であったことは確かでしょう。また、迷惑に感じていた地元住民も少なからずいたのかもしれません。

 そして、アノニマスポストとしては、「基地反対派が行っている私設検問は問題であり、BPOもその問題を指摘するべきだ」と主張したいのだと思います。

 しかし、「取材対象者の行為の是非」について論ずることは、BPO委員会の検証対象外の事項です。むしろ取材対象者の行為の是非を論ずべきではないと思います*1。「放送内容が事実に基づくか」「事実の裏付けは十分か」「侮蔑表現などがないか」等を調査・検証し、放送局の問題点を意見として答申することが委員会の目的でしょう。

 もっとも、放送局が、取材対象者の行為の是非を論ずることは、極端な偏向がない範囲では構わないと思います。但し、そこに虚偽やねつ造があってはなりません。

3. 最後に

 BPO意見書では、「裏付けとなりうる事実の存在が認められない」という穏当な表現をしています。しかし、放送された番組と意見書を見る限りでは、「ニュース女子」の放送内容は、「過剰な演出」どころか「ねつ造」と呼ぶべきものであることが、分かります。

 放送された内容は、予め用意していたシナリオに合わせるように、映像を撮影するというもので、報道と呼べるレベルのものではありません。また、そのシナリオがネット上に流布する噂話に基づくので、放送内容が「事実をねつ造する」ことになったのでしょう。また、放送局が行った放送内容のチェックもネット上の情報に多くを頼っていた点も問題でした。

 バラエティ番組と言えども、ねつ造した内容を放送することは許されるべきではないでしょう。

 主張したいことのために、事実を曲解したり、捏造したりすることはあるでしょう。「ニュース女子」も、その代表的な事例です。

 虚実が入り混じるネットの世界ではフェイクニュースが溢れています。見極める目が必要です。

(2017/12/21)

追記(2017/12/22)

 救急車問題の最初の発信者とされる筒井清隆さんの最初の発信と、ニュース女子に地元住民として出演した依田啓示さんのBPO意見書に関するコメントをfacebookで見つけましたので、引用します。

筒井清隆 北部の救急医療を預かる者です。
事実は、北部の救急医療に携わる我々が、その実情を知っています。
事実だけを述べると、救急車も反対派の方々に止められています。なかには、患者さんを乗せて救急搬送している途中の救急車を止められ、勝手にドアを開けられ、携帯で撮影しながら「誰を乗せているか⁉︎」と無断で車内に入ろうとされました。
搬送されている患者さんの気持ち、考えた事あるんでしょうか…
(facebookの依田啓示さんの投稿に対するコメント。下線は筆者による)

 但し、数日後には、筒井さんは、上記のコメントは伝聞である旨、投稿しています。

今回の高江で起こっている事案に対し、私が他の方へコメントをいたしました「救急車を停止させ、勝手にドアを開けた」件に関して、関係者様に多大なるご迷惑をお掛けしている事に関して謝罪を申し上げます。 本コメント内容は、「聞いた話」であり、コメントに書いた内容では言葉が足りず、実体験に捉えられ、誤解を招いてしまいました。
また、本件は事実確認は出来ません
この為、関係者に事実確認の連絡が多く寄せられていると聞き、胸を痛めております。
私の軽はずみなコメントで、皆様に誤解を与えた事を痛切に反省いたします。重ねて、申し訳ありませんでした。
筒井清隆さんの投稿(2016/10/6)
さて、BPOによる、いわゆる「救急車デマ検証」のビックリする事は、ニュース女子に全く使用されていない「尾道消防」のボコボコになった救急車の画像が「デマの根拠」として挙げられ、「ニュース女子」が、過激派がまるで救急車を襲ったかのような表現をしたと結論付けています。
しかも、「ニュース女子」とは全く関係がないMBS「大阪毎日放送」の斉加記者の番組で紹介された悪意ある「捏造」をそのまま引用しています。この番組で、僕はとんでもない「デマ発信源」に仕立てあげられています。

 BPO意見書には、「「尾道消防」のボコボコになった救急車の画像が「デマの根拠」として挙げられ」に該当する記述はありません。また、「MBS「大阪毎日放送」の斉加記者の番組で紹介された悪意ある「捏造」をそのまま引用しています」については、「捏造」の意味が不明確なので良く分かりませんが、引用に相当する記載はBPO意見書にはないように思います。

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基地反対運動に関するドキュメンタリー。ニュース女子についても言及しています。

+ DHCテレビ「ニュース女子~マスコミが報道しない沖縄(続編)~」

「ニュース女子」による反論番組。

関連書籍

*1:例えば、「その一部は政治団体によって動員された集団が、路上を占拠し、交通を妨害し、道交法に違反した場合、BPOは是非を論じるべきでしょうか?例えば、このような集団このような集団の違法行為をBPOは違法であると非難すべきでしょうか?

【NHK】NHKの改革案

先日、最高裁判決がありましたが、日頃思っているNHKの改革案についてまとめます。

改革① NHK訪問員の廃止

 NHKの最大の問題の一つは、訪問員を使って脅迫的に受信契約を迫る点です。

 変な輩が家の周りをうろついて訪問することだけは止めて頂きたいです。私が住んでいたマンションでは、マンション関係者と郵便・新聞の配達などの合理的な理由がある人を除き、立ち入ることを禁止してます。それは、マンション敷地入り口にも掲示されています。つまり、押し売り・勧誘・NHKなどはお断りです。その敷地内に侵入しているのですから、不法侵入の犯罪行為を犯していることは明らかです。オートロックのマンションにまで侵入してくるは、言語道断です。

 訪問員を各家庭に訪問させて、脅迫的に受信契約を迫るという時点で、NHKは社会的に失格です。それだけで、存在させてはいけない組織と言えます。

 訪問員を使って契約させる方法は即刻廃止して、新しい方法を検討すべきです。

改革② 世帯単位からBCASカード単位の受信契約へ

 世帯単位の契約というのも古い考え方です。例えば、同じ世帯でも、不仲の家庭内別居夫婦がそれぞれテレビを持っていた場合、いずれに、NHK受信契約の義務があるか、不明でトラブルになるかもしれません*1。親子であっても同じです。子が成人していれば、親は子のテレビの受信料を子供に負担させたいかもしれません。

 また、テレビを複数台持っている大家族の世帯と1台しか持っていない世帯で同じ受信料という点も問題です。1台しか持っていない世帯としては、不公平さを感じる契約です。世帯で1契約とすることに、特に合理性はありません。

 現在のテレビは、(ワンセグ携帯など一部を除き)BCASカードを用いてテレビを視聴できるような仕組みにしています。このカードがなければ、基本的にテレビを映すことはできません。また、このカードを用いたスクランブル化も可能です。

 このBCASカードを契約単位とし、受信契約がない場合には、受信できないようにすればよいでしょう。実質的には、NHK放送のスクランブル化となります。NHKの契約がない場合には、民放も含めてBCASカードが有効化できないようにすれば、NHKのみのスクランブル化を回避できます(この場合、再度、憲法上の問題が発生する可能性があるでしょうが)。

 また、テレビはあっても、BCASカードを有効化しなければ、NHKとの受信契約の義務を負うことはないので、テレビをパソコンやゲームのモニターとして使っても無駄に受信料を払う必要はなくなります。

 この制度変更により、テレビを見たい視聴者がNHKと契約を行うことになるので、現状のようなNHK訪問員を使った非効率でトラブルが多い受信契約方法を無くすことができます。また、徴収業務のための経費を大幅に削減することができます。

改革③ NHKの分割

 NHKは「公共の福祉のために、あまねく日本全国において受信できるように豊かで、かつ、良質な放送番組」を行うことを目的としていますが(放送法15条)、民放が充実し、インタネット放送も普及している現在、その役割を終えているでしょう。

 このため、NHKを、次の3つに分割すべきと考えます。

  • 公共放送NHK:不偏不党・公正中立が求められる放送のみを行い、受信料収入によってその費用を賄う。放送は、ニュース、ニュース解説、国会中継、討論番組などに限定する。
  • 国営放送NHK:教育番組などを担当する。
  • 民営放送NHK:公共放送・教育放送を除く、娯楽番組やスポーツ中継などの放送を担う。朝ドラ・大河ドラマ・映画、紅白歌合戦、相撲や野球などのスポーツ中継、オリンピック中継などの娯楽番組は民営NHKが担う。BS放送も、ほとんどが娯楽番組なので、民営NHKが担当する。運営費は、広告モデル・視聴料モデルなどあるが、いずれにせよ、受信料や税金は投入しない。

 受信契約の義務と費用負担が発生するのは、公共放送NHKのみです。現在の支出構成を良く知りませんので推測になりますが、受信料は現在の半分程度、つまり、世帯単位で月500円程度で賄うことができると思います。また、BCASカードベースで課金するとすれば、1世帯の平均テレビ保有数は約2台*2なので、1台あたり月250円程度の負担となるでしょう。

改革④ NHKの監督機能の強化

 報道対象となる政府・政治家の関与を弱めるべく、より独立した機関によるNHKの監督が必要です。現状でも形式的には第3者によるガバナンスが行われていますがが*3、経営委員会の委員を総理大臣が任命し、国会が予算案を承認するため、政府・国会の影響力は強いと言わざるを得ません。

 この点については、英国BBCが参考になると言われますが、日本では、公共放送は国民のものであるという意識が低く、政治家関与を許さないという気概を持っているわけではないので、英国のようなガバナンスができるかは不明です。

 現状、視聴者は、NHKガバナンスについては実質的に何ら権限がない状態です。少なくとも、視聴者は、株主ぐらいの権限は持ってしかるべきと思います。例えば、最終的な予算案の承認権、人事承認権です。少なくとも、NHK会長については、(任期途中で)信任投票を行う制度があれば、あまりにも不適格な会長を任命することはなくなるでしょう。

最後に

 放送法制定から70年近く経っています。その間、デジタル化・インタネットの普及に伴ってメディアの役割が大きく変わっています。NHKや受信料制度について根本的に見直す時期に来ているのではないでしょうか。

(2017/12/10)

関連記事

*1:先の最高裁判決(最高裁判決文。PDFの20ページ目7行目以降を参照))の鬼丸かおる裁判官の補足意見でも、「受信契約を締結する義務が世帯のうちいずれの者にあるかについて規定を置いていない。(中略)家族のあり方や居住態様が多様化している今日,世帯が受信契約の単位であるとの規定は,直ちに1戸の家屋に所在する誰かを締結義務者であると確定することにならない場合もあると思われる。」など、現在の世帯単位の契約についての問題点が指摘されています。

*2:カラーテレビの普及率現状をグラフ化してみる(2017年)(最新) - ガベージニュース

*3:総務省, 「我が国及び諸外国の国営放送」, 2006/1.

核シェルター普及率は、信じてよいのか?

北朝鮮有事などもあり、核シェルターについての関心も高まっています。今回の記事では、核シェルターの普及率について書きたいと思います。

1. 核シェルターの普及率

1.1 日本核シェルター協会の普及率

 日本核シェルター協会は、核シェルターの普及率を発表しています。これによると、スイス100%、イスラエル100%、ノルウェー98%、アメリカ82%、ロシア78%、イギリス67%、シンガポール54%、日本0.02%とのことです。

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 私が調べた限りでは、国内はもとより、海外を含めても、国際的な核シェルターの普及率を比較した報告はこれだけです。

 米国の首都ワシントンDCに住んでいたことがあります。ワシントンDCの地下鉄は核シェルターとの噂がありますが*1、ワシントンDCの首都圏数百万人を収容できるとは思えません。また、通っていた大学、住んでいたアパートメント、映画館、ショッピングモール、身近な人の住居などで、核シェルターを備えているという話を一度も聞くことはありませんでした。

 米国の普及率が82%という数字は、本当に信じてよいのでしょうか?私は、このデータを信じることはできませんでした。

1.2 日本核シェルター協会と織部精機製作所

 国家機関や大手の調査会社などの統計データであれば、ある程度信頼はおけますが、よく知らない団体が発表している場合には、まずその団体がどういう組織であるか確認することが重要です。特にデータの信憑性に疑いを抱いた場合には、必須と言えるでしょう。

 そこで、核シェルター普及率を発表している日本核シェルター協会というNPO法人を調べました。すると、その協会の第1号会員として織部精機製作所という会社もでてきます。

 日本核シェルター協会と織部精機製作所は、所在地が同一です。また、協会の代表者が織部信子氏(織部精機製作所の5代目社長)で、設立時の理事長が織部健二氏(織部精機製作所の6代目社長)ということが分かります。

 さらに、NPO法人の事業報告書を見ると、収支は5万円~10万円程度となっています。

 このNPO法人の主な収入源は会員からの年会費です。2014年度の年会費収入は2万円。定款によれば、会員の年会費は1万円ですので、2014年度の会費を支払っている会員数は2名となります。2名の会員のうち、1名は織部精機製作所、もう1名は代表の織部氏(信子氏あるいは健二氏)と思われます。つまり、法人会員を除くと、1名だけのNPO法人と考えられます。

 また、このNPO法人は、定款で理事を3名以上、監事を1名以上置くことになっていますが、2014年度はこの条件を満たしていません。

 2015年度・2016年度でも、年会費が5万円で、理事・監事の計4名と法人会員1団体しかいないNPO法人ではないかと思います。

 NPO法人の認証の基準の一つに「10人以上の社員を有するものであること」(社員とは会員のこと)という条件があります。現在、このNPO法人はこの基準を満たしてないと思われます。NPO法人の認定は取り消されるべきでしょう(※追記参照) *2

  • 日本核シェルター協会(NPO法人)
    • ホームページ: http://www.j-shelter.com/
    • 内閣府NPO法人の登録情報(事業報告書・定款などの資料あり)
      • 所在地:兵庫県神戸市垂水区天ノ下町6番地22号
      • 代表者:織部信子
      • 認証日:2003年2月3日
      • 目的:「この法人は、一般市民に対して放射能の危険性についての研修会を開催し、又放射能についての知識を高めて、放射能の利用や核シェルター等の監視を行い、地球環境の保全を図ることを目的とする。」
      • 設立時の役員:織部健二(理事長)、岡部紀世美(副理事長)、菅野建六(理事)、仙波雅敏(監事)
      • 収支(事業報告書より引用)
        収入支出
        2014年度60,140円 (内、年会費2万円)61,529円
        2015年度50,140円 (内、年会費5万円)80,866円
        2016年度50,007円 (内、年会費5万円)104,583円
  • 織部精機製作所
    • ホームページ:http://www.oribe-seiki.co.jp/index.html
    • 所在地:兵庫県神戸市垂水区天ノ下町6番22号
    • 社長(6代目):織部健二
       (5代目社長は、日本核シェルター協会の代表の織部信子氏)

 このようなNPO法人が発表するデータを信じるか・信じないかは、読者の判断にお任せします。

2. 核シェルターに関する報道と政策

2.1 核シェルターの報道と拡散する普及率

北朝鮮有事などもあり、核シェルターについての報道が多くなっています。

ハフィントンポスト, 「核シェルター、日本で販売急増「4月だけで2016年超えた」 1ついくら?」, 2017/4/27.
毎日新聞, 「核シェルター「日本からの注文急増」米の製造会社」, 2017/8/4.
DIAMOND online, 「危機の時代の新常識 核シェルターの値段、知ってますか?【前編】」, 2017/8/28.
DIAMOND online, 「危機の時代の新常識 核シェルターの値段、知ってますか?【後編】」, 2017/8/29.
ITメディア, 「核シェルターが売れているのに、なぜ業者は憂うつなのか」,2017/9/7.
zakzak, 「北の水爆実験で『核シェルター』に問い合わせ殺到、日本も「安全と水はタダ」は昔話… 」, 2017/9/16.
読売オンライン, 「核シェルターに問い合わせ殺到、空気浄化装置も」, 2017/9/16.
産経ニュース, 「ミサイル発射・核実験…北の暴挙続き 日本政府、シェルター補助を検討!?」, 2017/9/15.
産経ニュース, 「核シェルターに熱視線 地下型、家庭型…北朝鮮の挑発で変わる国民意識」, 2017/10/9.
朝日新聞, 「核シェルター、日本からの注文「勢い止まらない」」, 2017/10/4.

 上記のうち、産経ニュース、ITメディア、zakzakについては、日本核シェルター協会の普及率を参照しています*3

 ネット上では、日本核シェルター協会の普及率を用いた記事が溢れており、「日本人は平和ボケ」「日本の普及率は低い」などと言及されています。

 また、ネット上だけではなく、ウィキペディアや石破茂氏の論評、自治体の資料にも、この普及率が用いられています。

ウィキペディア,「シェルター」
石破茂, 「ICBMなど」, ハフィントンポスト, 2017/5/19.
朝日新聞, 「シェルター少ない日本「北朝鮮が撃とうかと…」 石破氏」, 2017/12/7.
● 愛知県が公開する資料(愛知県国際交流協会,「私たちの地球と未来ースイス連邦ー」, 2011/3.

 日本核シェルター協会の核シェルター普及率は、ネット上のみならず、大手メディアや大物政治家、自治体資料にも用いられるという状況です。

2.2 核シェルターについての自民党の取り組み

 自民党の衆院選挙の選挙公約にも「地下シェルター」の整備を公約に掲げ、自民党国土強靭化推進本部にて検討を進めています。

 このような政策が信頼できる統計データに基づいて議論されることを期待しています。

3. 最後に

 会社で、信頼性が低い統計データに基づいて、事業計画などのプレゼンをしようものなら、ボロクソに言ってダメ出しします(営業部門は嬉々として使うでしょうが)。

 信頼性が低いデータを怪しいと思わないのか、怪しいと思っても調べないのか、調査能力がないのか?はたまた、信頼性が低いと知っていて使うのか。

 ネット上には数多くの信頼性の低いデータが出回っています。注意が必要です。

(2017/12/9)

(追記:2017/12/13)

神戸市が日本核シェルター協会に確認したところ、2017年12月現在、会費を改定しており、10名以上の会員がいるとのことした。

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 結構、いいお値段です。放射性物質をフィルタで除去するエアコンは少々お安い(笑)。

 核物質除去エアコンを、福島の原発周辺の病院や老人ホームに設置しておけば、もしかしたら、慌てて批難する必要はなかったのかもしれません。

 しかし、全国的に公共機関・病院・老人ホームなどに核シェルターを設置するとなると、何兆円かかるのでしょうか?1兆円?10兆円?100兆円?まさかの1000兆円?

*1:ワシントンの地下鉄が深い訳|ワシントン通信 3.0~地方公務員から転身した国際公務員のblog

*2:
内閣府ホームページ, 「認証制度について」
内閣府NPOホームページ, 「認定の取消」
他にも、運営に当たっては「理事を3名以上、監事を1名以上置く」という条件がありますが、2014年度は満たしていません。2015年度・2016年度については、この条件を満たすべく、会員数を4名(法人会員を除く)としていると思われます。

*3:朝日新聞については、「国内普及率、02年で0・…」までは確認できましたが、それ以降は有料記事のため確認していません。

【税制】給与所得控除は、一律、20万円で十分!

1. 基礎控除額の拡大と給与控除額の縮小

 政府・与党が基礎控除の増額を検討しているとの報道があった。

 要旨は、以下の通り。

  • 基礎控除を10万円~15万円引き上げる。
  • 但し、年収2300万円程度から減額し、2500万円超で控除額は0円とする。
  • 原資は、給与所得控除の減額により確保する。
f:id:toranosuke_blog:20171127123011j:plain:w400

 
 この税制変更は、会社員・パートなどの給与所得者の給与所得控除の減額(増税)を原資に、全ての人が対象の基礎控除の増額(減税)するということになり、給与所得者全体としては、増税になる(但し、給与所得控除の減額幅と基礎控除の増額幅の調整により、低所得者では減税になるように制度設計する)。

 さて、本記事では、ここで原資となっている給与所得控除について考えてみたいと思う。

2. 過大な給与所得控除

 給与所得控除は、会社員やパートなどの給与所得者が個人で支払った、通勤費、研修費、資格取得費、図書費、衣服費等の必要経費を見做し額で控除するものである*1。給与所得額によって、控除額は異なるが、162万5000円以下の給与所得者で65万円、1000万円超で220万円である*2

 103万円の収入のうち、必要経費で65万円支払って、実質手取りが38万円というパートなどいるはずがない*3。年収1000万円で220万円もおかしな数字だ。大手企業で言えば、課長クラスは、1000万円程度の年収となると思うが、220万円も経費に使っている人は見たことがない。

 このような過大な給与所得控除は、その恩恵を受けられない個人事業主などに対して圧倒的に有利な制度である。例えば、フリーランスで働く人は、痛切に感じる不公平さではないだろうか?

3. 必要経費は確定申告すればよい 

 このような問題を適正化するために、次の税制を提案する*4

  • 給与所得者の給与所得控除は、一律とする(例えば、20万円)。
  • 給与所得者が、この控除額を超えた場合には、確定申告により、控除を申請できる。

 徴税コスト(税務署の事務負担)を考えると、見做しの給与所得控除は残しておく必要がある。20万円と例示した額は、その金額以上の経費を支払っている人があまりいないであろうという値として設けた*5。自己負担の通勤費や研修・資格取得などを行った際の費用は、この枠を超えることもあると思うが、その場合には、確定申告をすればよい。

 なお、これに併せて、青色申告の事業者における特別控除や専従者控除なども見直した方がよいかもしれない。

4. 税負担のリバランス

 給与所得控除を大幅に減額すると、実質的に大幅増税となる。この増税分を基礎控除の拡大や、所得税減税の原資として、リバランスすれば、増減税に中立にすることはできる。

 給与所得控除の大幅縮小により、どの程度の財源が得られ、どの程度、基礎控除の拡大や減税に回すことができるかは、税収の基礎データがないとシミュレーションできないが、データを持っている財務省やデータを入手可能な政府・国会議員には、是非とも検討して頂きたい(あるいは、データを公開して頂きたい)。

5. 高額所得者の基礎控除の減額

 政府・与党の検討案では、2300万円超の高額所得者に対して、基礎控除を減額する案となっている。2300万円以上の給与所得者が極わずかであることを考えれば、税収増にはほとんど寄与しない。

 高所得者に対する国民の妬み意識に対する政治的パフォーマンスに過ぎない。

 従って、税の仕組みはシンプルであるべきということを考えれば、わざわざ複雑な制度にする必要はないだろう。

5. 最後に

 現在の給与所得控除は、必要な経費とすると見なすには、異常なほど過大な額が設定されて、歪んだ税制度となっている。本来の主旨である「必要な経費」を控除するように制度を改めることが必要である。

(2017/11/27)

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*1:国税庁, 「タックスアンサー No. 1415 給与所得者の特定支出控除」.

*2:国税庁, 「タックスアンサー No.1410 給与所得控除」.

*3:103万円までの給与所得の場合、給与所得控除65万円と基礎控除38万円が控除されるため、課税対象となる所得は0となる。このため、所得税を支払う必要はない

*4:ここで提案する税制変更は、既存制度の数値パラメータの変更に過ぎないので、新しい仕組みを組み入れているわけではない。

*5:住宅ローン減税や医療費控除のため、確定申告をしている人は多いと思うが、恐らく、20万円以上の経費支出がある会社員は、それよりも少ないかと思う

日本国憲法における自衛権行使の制限

 本稿では、新しくできた無人島の領土問題を例に日本国憲法における自衛権行使の制限について考察する。

1. 国際紛争を解決するための武力行使であって、且つ、自衛のための武力行使であることはありうるか?

 「国際紛争を解決するための武力行使であって、且つ、自衛のための武力行使であることはあり得るか?」

 この命題に対する答えは、真、あり得る、である。

 以下、証明する。

 この命題が真であることを証明するためには、一例をあげれば十分である。この一例として領土問題を取り上げる。以下の領土問題のシナリオを考える。


 新しくできた無人島X※に、P国、Q国がともに領有権を主張すると仮定する。

 この領土問題は、国際紛争である。

  • ➀ P国が島Xを占拠する(Q国にとってはP国の行為は侵略行為である)。
  • ➁ Q国は、このP国の侵略に対して自衛権を行使する(武力行使q)。
  • ③ 同様に、Q国の自衛権行使は、P国にとっては侵略行為である。
  • ④ P国は、このQ国の侵略に対して、自衛権を行使する(武力行使p)。

 よって、P国、Q国は、それぞれ「国際紛争を解決する手段として」、「自衛権に基づき」、武力行使p,武力行使qをしたことになる。

 つまり、武力行使p,qは、「国際紛争を解決するための手段としての武力行使であって、且つ、自衛のための武力行使である」。

(証明終)

 さて、国際紛争解決のための武力行使の禁止と、自衛権の行使では、どちらが優先されるのであろうか?この問いについては、次節にて、検討する。

※ 新しくできる島の候補としては、例えば、南日吉海山という海底火山がある。

2.日本国憲法は、すべての自衛権行使を容認しているか?

2.1 日本国憲法における自衛権行使の制限

 自衛権は、自国対する急迫不正の侵害を排除するために、武力を持って必要な行為を行う権利である。主権を持つ領土への侵入・占拠なども、自国に対する不正侵害であるため、自衛権行使の対象となり得る。

 さて、第9条において武力行使を全面禁止している日本国憲法において、自衛権行使ができると解釈する根拠は、第13条の国民の生命、自由、幸福追求の権利(幸福追求権)が第9条の武力の全面禁止より優位と考えるからである。

 つまり、例外となる武力行使は、国民の幸福追求権を侵害された場合の自衛権行使のみであり(自衛権行使の基準S)、無人島の占拠のような主権侵害では自衛権を行使することはできない。

 先の無人島の例では、主権侵害はあるものの、無人島Xには国民が居住しておらず、国民の幸福追求権が侵害されることはないので、自衛のための武力行使はできない。武力を用いない平和的な方法で問題解決を図ることとなる。

f:id:toranosuke_blog:20171117115749j:plain

2.2 自衛権行使基準の相違

 P国、Q国が自衛権行使基準Sに従えば、少なくとも先に挙げた無人島の領土問題では、武力衝突が発生しない。

 しかし、実際には各国の自衛権行使基準は異なる。このため、次のようなケースが発生する。

➀ P国も、Q国も基準Sに従い、自衛権を行使すれば、武力衝突は発生しない。
➁ P国が基準Sに必ず従い、Q国は通常の基準で行使すれば、Q国は武力衝突なしに島Xを実行支配できる。
③ P国も、Q国も、自衛権を必ず行使するのであれば、武力衝突が発生する。

 日本国憲法の理念は➀である。しかし、現在では、➁を望まないために、③を選択するというように日本人の意識が変化しているのだろう。時代の変革期にきている。

 なお、領土を実効支配し、且つ、国民がその領土にいれば、国民の幸福追求権が侵害されることになるため、自衛権行使は可能となる。しかし、実効支配し、領土となった場合でも、無人島では国民の幸福追求権が侵害されるわけではないので、武力行使はできず、平和的に解決する必要がある。

3.最後に

 「(第12条を自衛権行使の根拠とした場合)日本国憲法における自衛権行使は、幸福追求権が侵害される場合に限定される」という憲法解釈は他に例はないと思うが、こういう解釈もありうるということを理解して頂けると幸いである。

(2017/11/17)

(追記)

 「日本国憲法における自衛権行使は、幸福追求権が侵害される場合に限定される」という憲法解釈の考え方は、昭和47年見解と言われる内閣法制局長官の集団的自衛権を否定する答弁書の中に現れる。このため、他の国会論議や憲法学の見解にも示されているものと推測できる。  但し、無人島に対する自衛権行使については、この答弁で取り扱っている問題ではないので、自衛権行使ができるとも、できないとも言っていない。

PDF版は、こちらから

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  • 本稿はツィッター上での議論から派生した記事である。ツィッターでの議論も参考にされたい。

【尖閣有事】小部隊駐留を想定した奪還作戦の損失

 尖閣諸島は、竹島のようなパターンで、中国が占拠し、実行支配する可能性がある。これを防ぐために尖閣諸島に小部隊を常駐させておくことが、占拠を防ぐための一つの方法であろう。

 本記事では、中国が尖閣を占拠するという尖閣有事における損失について、駐留の簡単シナリオと確率を用いてモデル化し、シナリオの与える影響について検討する。

1. 尖閣有事のシナリオ

 尖閣有事のシナリオとして、次の二つのシナリオを考える。

  • シナリオ1:日本が小部隊を駐留→中国が小部隊を排除・占拠する→日本が奪還する
  • シナリオ2:中国が占拠する→日本が奪還する

 なお、小部隊として想定しているのは、自衛隊に限らず、海上保安庁・警察などの武器使用が可能な実力組織である*1

 また、以下を仮定する。

  • 仮定1:中国の占拠作戦は、小部隊の有無に関らず、必ず成功する
  • 仮定2:日本は、中国占拠に対して、必ず奪還作戦を行う
  • 仮定3:日本の奪還作戦は、必ず成功する(奪還するまで戦う)

 それぞれの事象の発生確率を以下のように表記する。

  •  p_1:小部隊をおいたときの中国が占拠する確率
  •  p_2:小部隊をおかないときに中国が占拠する確率
  •  L_1:小部隊の排除時の日本側の損失
  •  L_2:奪還作戦による日本側の損失

 ここで、損失は、各種指標を用いて総合的に評価することが必要であるが、最も簡単な指標の一つは死傷者数であり、それを損失としてイメージしてもらうと分かりやすいだろう。

2. 小部隊設置時の紛争リスクを考慮しない場合

  • シナリオ1の損失期待値  E_1 = p_1(L_1 +L_2)
  • シナリオ2の損失期待値  E_2 = p_2L_2

 E_1 - E_2 = p_1 (L_1+L_2) - p_2L_2  = p_1L_1 + (p_1-p_2)L_2

 小部隊が駐留すると、中国は小部隊を排除することが必要となり、血を見ることを覚悟せねばならない。特に、死者が発生した場合、日中関係は極度の緊張状態となるので、中国としては占拠作戦を実施することがより困難となる。このため、 p_1 \lt p_2 と考えられる。従って、 L_1 \ll L_2 であれば、第1項は無視できるので、 E_1 \lt E_2 となる。

 つまり、シナリオ1の方が損失は小さい*2。つまり、小部隊を駐留させた方がよい。

3. 小部隊設置時の紛争リスクを考慮する場合。

 小部隊を駐留させようとすると、日中間の緊張状態が高まり、小部隊をおいたときの中国の占拠の確率 p_1が大きくなり、 p_1 \gt p_2となるだろう。

 E_1 - E_2 = p_1L_1+(p_1-p_2)L_2

 p_1\gt p_2 なので、 E_1 \gt E_2 で、シナリオ2の方が損失は小さい。つまり、小部隊を駐留させない方がよい。

4. 最後に

 このモデルから分かることは、小部隊を設置した時に紛争が発生しなければ、その後は、日本の損失は小さくなるということである。このため、小部隊の設置のみを考えれば、小部隊の設置が紛争に発展しないタイミングで小部隊を設置することが望ましいと言える(数式を用いてはいるが、得られる結果は当たり前の話である)。

 しかし、当然のことながら、小部隊の設置は日中関係を悪化させるので、大局的には日本の損失(及び中国の損失)が大きくなる。それでも、中国が尖閣占拠を行ってしまった場合の損失に比較すれば、損失は遥かに小さいだろう。

 また、小部隊は最前線で楯となる役割を担うことになるので、より危険な任務となることは言うまでもない。

 今思えば、日中関係が最悪だった安倍政権の発足当初に部隊の駐留をしておけばよかったのかもしれない。当面は、部隊を駐留させるチャンスはないと思う。

(2017/11/16)

関連記事

*1:駐留場所は、魚釣島となるだろうが、尖閣諸島は5つの島と3つの岩礁から構成されることを考慮すると、他の部分の防護も考えると、海上保安庁の巡視船を常駐するということも考えられるだろう。

*2:
 厳密には、

 E_1 = E_2 となるのは、

 p_1 L_1 + (p_1-p_2) L_2  = 0
 p_1 = p_2\frac{ L_2}{L_1+L_2}

であるので、

  •  p_1 \lt p_2\frac{L_2}{L_1+L_2}の場合に、シナリオ1の損失が小さい
  •  p_1 \gt p_2\frac{L2}{L1+L2}の場合に、シナリオ1の損失が大きい

となる。

座間連続殺人事件に垣間見るGPS情報を用いた犯罪捜査

 座間市で発生した連続殺人事件について、連日報道されています。残忍な事件の犠牲となった被害者のご冥福をお祈りいたします。

 さて、この事件でちょっと気になったことがあります。警察が被害者の身元の特定で携帯電話のGPS位置履歴を用いた点です。過去に遡ってGPS位置情報が警察に把握されるのは、気持ちわるいなぁと。

 さて、今回は、携帯電話のGPS位置情報における規制を中心に調べたので、記事にまとめます。

(追記:GPS位置情報を用いている点、過去に遡って位置を取得したとする点の本質的なところの2点に誤りがありました。携帯電話会社の位置情報管理は適切に行われていたと思われます。詳細は、末尾に記載します)

1. 警察が携帯電話のGPS位置情報を利用

 昔から、携帯電話の位置情報は犯罪捜査に利用されていたと思いますが、それは基地局を用いた測位でかなり精度が荒いものだったと思います。犯行発覚以前の過去のGPS位置情報が犯罪捜査に利用されたのは、有名事件では恐らく今回が初めてではないかと思います。

警視庁によりますと、6人のうち5人は部屋からキャッシュカードや診察券などが見つかり、2人については携帯電話のGPS機能から現場周辺で足取りが途絶えているのが確認されているということです。

 警察は携帯電話のGPS位置情報をどのようにしてどこから入手したのかという疑問がありますが、ニュース報道でははっきりしません。GPS位置情報の入手先としては、以下の可能性があります。

  • 携帯電話会社のGPS位置情報を含む通信履歴
  • AppleやGoogleなどのスマホのOSベンダ
    • 「iPhoneを探す」「端末を探す」などの機能を利用した場合
    • その他のケース*1
  • スマホアプリの利用でサーバ側に保存されたデータ
    • SNS(twitterなどに位置情報を付き投稿、位置情報付きの写真投稿など)
    • ナビゲーションアプリ
    • 通信アプリ(LINE, Skypeなど)
    • その他のGPS利用アプリ
  • スマホアプリで端末内部に保存したデータ
    • iPhoneのOS機能の一部として保存しているデータ*2
    • GPS位置情報付きの写真
    • ライフログなどのアプリを用いて保存したデータ
    • その他、GPS利用アプリ

 いろいろと入手先の可能性がありますが、過去の犯罪捜査では、携帯電話会社から提供された位置情報を用いたケースが多いようです。今回も、まずは、携帯電話会社から位置情報が提供されたと仮定して、個人情報保護の観点から検討したいと思います。

2. 携帯電話会社が位置情報を取得できる場合

 携帯電話会社の位置情報の取得は、大きく分けて本人同意のもと取得する場合と本人の同意なく取得する場合があります。本人の同意のもとの取得は、例えばドコモのイマドコサーチのようなGPS位置情報を用いたサービスを利用した場合です。また、本人の同意なく携帯電話会社が利用者の位置情報を取得できるのは、裁判所の令状に基づく場合と、緊急に救助が必要な人を捜索する場合に限られます。

 以下では、個人情報の観点から特に問題となる、本人同意がない場合の携帯電話会社のGPS位置情報の取得・犯罪捜査への利用について考えたいと思います。

 総務省告示の「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン」*3では、携帯電話会社が利用者の位置情報を取得できるケースを第35条において規定しています。 そのうち、捜査に関するものは、第35条4項の規定です。

第35条4 電気通信事業者は、捜査機関からの要請により位置情報の取得を求められた場合においては、裁判官の発付した令状に従うときに限り、当該位置情報を取得することが できる。
引用元:ガイドラインの第35条(告示297号,2017年9月14日)

 つまり、携帯電話会社は、令状がない場合には、位置情報を取得することはできません。

 携帯電話会社によって取得された情報は、裁判官の令状がある場合には、捜査機関(警察)が入手可能となります(第32条2項)。

第32条2 電気通信事業者は、利用者の同意がある場合、裁判官の発付した令状に従う場合、正当防衛又は緊急避難に該当する場合その他の違法性阻却事由がある場合を除いて は、通信履歴を他人に提供してはならない。
引用元:ガイドラインの第32条(告示297号,2017年9月14日)

 結局のところ、裁判官からの令状がない限り、携帯電話会社はGPS位置情報を取得してはならないし、捜査機関へ提供もしてはなりません。

3. GPS位置情報の記録は過去に遡れるか?

 犯罪捜査が始まってから初めて令状は発付されますので、前節で述べたガイドラインに従えば、過去のGPS位置情報は携帯電話会社では記録されておらず、捜査機関は、捜査開始以前の記録は入手できないはずです。

 しかし、今回の事件では、「足取りが途絶える」という捜査開始以前の過去の位置情報が捜査に用いられています。つまり、携帯電話会社からGPS情報を入手していると仮定した場合、携帯電話会社では、ガイドラインに従わないGPS情報の取得・保存が行われているとういことになります。

 総務省告示のガイドラインが法律の施行を補完するための規定で、法律の一部と考えられるのであれば、携帯電話会社の行為は違法行為、ガイドラインは単なる目安として発行されているのであれば、守らなくても違法行為にはならないと理解しています。筆者は、違法か否かは判断できませんが、いずれにせよ、携帯電話会社はガイドラインに従わない不適切なGPS位置情報の管理を行っていると言えます。

 但し、これは、本人同意がないケースの話であり、本人同意のもとに携帯電話会社がGPS位置情報を取得・保存している場合や、そもそも携帯電話会社以外のルートで位置情報を入手している場合であれば、携帯電話会社に不適切な管理があるとは言えません。

4. 本人通知なしにGPS情報を取得できるスマホ

 2015年以前のガイドラインでは、本人への通知なしにGPS位置情報を取得することは許されていませんでした。これでは、犯罪捜査していることを容疑者に知らせることになってしまうため、犯罪捜査には利用しにくいという問題点がありました。

 このため、2015年のガイドライン改正時に本人通知なしにGPS位置情報を取得することができるように変更しています*4

 しかし、ガイドラインの改正はあっても、対応したAndroid端末やソフト修正が必要となるようです*5。また、iPhoneでは、携帯電話会社の位置取得はできないようになっているとのことです。

 今回の事件の被害者がこのような対応端末を利用していたという仮説は、少々、疑った方が良さそうです。技術的に別の方法で携帯電話会社が端末のGPS情報を取得しているか、そもそも、警察は携帯電話会社以外のルートではなく、端末内部の解析やアプリ提供元の通信履歴などから、GPS情報を得ているのかもしれません。

5. まとめ

 座間の事件では、警察は捜査開始以前の携帯電話のGPS位置情報を用いていることが分かりました。

 GPS情報の入手ルートが明らかにされておらず、現状では、断定できませんが、仮に携帯電話会社が捜査開始以前の位置情報を収集・記録しいたと仮定すると、「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン」を逸脱する不適切な情報管理をしていたということが言えます。

(2017/11/6)

追記 (2017/11/9)

 11月9日の毎日新聞に今回の携帯電話の位置情報の捜査に関する報道がありました*6

 要点は以下の通り。

  • 「9人は8月22日~10月23日にかけて行方不明になった。家族らは翌日から1週間以内に神奈川、群馬、埼玉、福島の各県警と警視庁に行方不明者届を出していた。」
    • 事件発覚後から捜査が始まるのではなく、行方不明届後に捜査は開始されていた。
  • 「イチタンは、警察が裁判所の令状を示して通信事業者から位置情報を取得する捜査手法で、各地に点在するアンテナの半径500メートル~1キロの範囲で位置を把握できる。」
    • 行方不明届に基づき裁判所令状をとり、携帯電話会社から位置情報を入手した。
    • GPS機能に基づく測位ではなく、基地局に基づいて測位した位置情報である。
    • NHK報道の「携帯電話のGPS機能から...」という報道は、誤報と思われる。

 このことから、携帯電話会社は、総務省告示のガイドラインに違反することなく、適切に位置情報の取得・管理を行っていたと思われます。

*1:Greg Kumparak, 「これは不気味―iPhoneには過去の位置情報が逐一記録されていることが判明」,TechCrunch, 2011/4/21.

*2:iPhone Mania,「あなたの行動、実は記録されています!iPhoneの「行動履歴」の見方と削除方法」, 2016/2/25.

*3:総務省, 「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン」, 平成29年9月14日総務省告示第297号.

*4:
毎日新聞, 「<通信事業者指針>改正へ 携帯位置情報を通知なく捜査利用」, 2015/5/25.

ガイドラインの具体的な変更点は、以下の下線部分の削除です。

平成25年9月9日総務省告示第340号
第26条3 電気通信事業者は、第4条の規定にかかわらず、捜査機関からの要請により位置情報の取得を求められた場合において、当該位置情報が取得されていることを利用者が知ることができるときであって、裁判官の発付した令状に従うときに限り、当該位置情報を取得するものとする。
平成27年6月24日総務省告示第216号
第26条3 電気通信事業者は、第4条の規定にかかわらず、捜査機関からの要請により位置情報の取得を求められた場合において、裁判官の発付した令状に従うときに限り、当該 位置情報を取得するものとする。

*5:iPhone Mania, 「スマホの位置情報、警察が本人通知なしで取得可能に!」, 2016/5/17.

*6:毎日新聞, 「9人全員不明届 事件、警察捜索及ばず 携帯電話の位置情報、追跡に限界」, 2017/11/9.

【憲法改正】首相の解散権は制限すべき

 立憲民主党の枝野代表が首相の解散権の制限について述べているが*1、筆者も、行政府(首相)が制限なく立法府(衆議院)を解散できるという現状は、改善されるべきと思う。

現行憲法は、解散権の帰属を明示していない

 現行憲法では、解散権の帰属が曖昧で、明確には規定されていない*2。解散に関連する記述は、第7条と第69条にある。第69条は、不信任決議案が可決(あるいは信任決議案が否決)された場合の解散規定であり、これについては現状の解釈に異論はないだろう。しかし、第7条に基づく解散には問題がある。

 今回のような理由なき解散ができる根拠は、憲法第7条第3号に基づく。しかし、憲法第7条は、天皇の国事行為を定めるものであって、内閣の権限を規定したものではない。

 天皇の行為は、憲法第4条において国事行為のみ制限されている。この国事行為を憲法第7条は示しており、普通に読めば、第7条第3号を根拠として、内閣に衆議院の解散権があるとは言えない*3。仮に、第7条第3号を根拠に衆議院を解散できるとすれば、同様に第7条第1号を根拠に内閣は憲法改正や立法ができることになる*4

 第69条にしても「衆議院が解散されない限り」と、衆議院を「誰が解散するか」を明示していない。現状では「内閣によって衆議院が解散されない限り」と解釈しているが、解散権は衆議院に帰属するという前提で読めば、「衆議院によって衆議院が解散されない限り」と解釈することができる。

解散権の帰属先を明示した憲法改正案

 このように、現行憲法では、衆議院を解散できる条件が不明確であり、解散条件や解散権の帰属先を明確にすることが必要である。

 例えば、解散権は、➀不信任案が可決されたときに内閣に与える、➁衆議院に与える、と言ったところが妥当ではないだろうか。

➀不信任案が可決されたときに内閣に解散権を与える。

  • (現行) 第69条 内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、10日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。
  • (改正) 第69条 内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、10日以内に衆議院を解散しない限り、総辞職をしなければならない。     第69条2 内閣は、前項の場合を除いては、衆議院を解散することはできない。

     第69条の記述では、衆議院を誰が解散するか不明確である。改正案では、解散する主語が内閣であることから、内閣に解散権があることが分かる。第69条2項により、内閣は第1項の対抗的解散以外には解散権を持たないことを明示する。本来、7条解散が違憲であることが予め確認できていれば、第2項は不要である*5

➁衆議院に解散権を与える
 衆議院が自らを解散する権限を有さないのは不自然であり、権限が付与されて当然であるように思う。

 内閣総理大臣が辞職することができるという憲法の規定はないが、実際には辞職しているし、辞職することに異論はないだろう。しかし、憲法には内閣総理大臣が自ら辞職することに関する記述はなく、憲法上、辞職する権利があるか不明確である*6。一方、衆議院については、内閣総理大臣と同様に憲法上に規定はないにも拘わらず、自ら解散する権利はないと考えられている。衆議院の解散は、内閣の総辞職に繋がるものではあるが、衆議院が自ら国民に信を問うことができる権利は留保されるべきではないだろうか?

  • (現行) なし
  • (改正) 第X条 衆議院で解散決議案を可決した場合、衆議院を解散する。

     過半数で可決とすれば、実質的には与党が解散権を持つことなる。2/3以上とすれば、多くの場合は、解散には与野党の合意が必要となる。

 内閣への解散権の付与については議論を要するところではあるが*7、党利党略による理由なき解散や内閣の短命化の原因になっており、個人的には現状では権限を制限する必要があると考えている。なお、諸外国の状況等については、以下の記事なども参照されたい。

(2017/10/26)

第四条 天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。

第七条 天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
 一 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
 三 衆議院を解散すること。

第六十九条 内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。
日本国憲法(e-Gov:法令検索)

*1:
産経ニュース, 「立民・枝野幸男代表「9条改正論議応じる。代わりに解散権制約も」, 2017/10/24.
中島岳志, 「7条解散の恣意が問題 改憲議論は具体的に」, 中日新聞, 2017/4/25.

*2:ウィキペディア, 「衆議院解散」.

*3:第7条第3項の違憲性について苫米地事件で争われたが、最高裁は統治行為論により、憲法判断を避けている。

*4:「第7条解散の問題点」, https://www.naturalright.org/.

*5:7条解散が違憲であることを何らかの形で確認しておく必要がある。最高裁が第7条解散は違憲であると判断することが最も明快であるが、そうでない場合でも、第7条解散が憲法解釈として誤りであることを国会決議等で示す必要がある。

*6:。憲法規定がなくとも有する権利か、規定されることで初めて保有できる権利かの問題である。天皇には、自ら退位する権限はない。天皇の場合と同様に、内閣には自ら辞任する権限はなく、「不信任決議されたとき」(第69条)、「内閣総理大臣が欠けたとき」(第70条)のみ内閣の辞職は限定されると解釈できなくもない。但し、第69条・第70条はともに義務規定であるので、内閣総理大臣自らの解散を禁じているというわけではない。

*7:7条解散と同様にいつでも解散できるようにするには、次の条文を加えればよいだろう。「第X条 内閣は、衆議院を解散することができる。」

【内部留保課税】二重課税=ダメ?

二重課税=ダメ?

 内部留保課税に関連し、「二重課税だからダメ」という意見*1を散見するが、本当に「二重課税=ダメ」なのだろうか。

 合理性に欠け、公平公正でない二重課税がダメなだけで、単純に「二重課税=ダメ」というわけではないと筆者は考える。

 確かに、二つの国から所得税が課せられる国際的二重課税などは二重課税がダメな典型例として分かりやすい。生命保険金における相続税と所得税の二重課税の問題も分かりにくいが、理解はできる*2

二重課税の定義として、以下の例がある。

二重課税(Double Taxation)は、「二重税」や「重複課税」とも呼ばれ、同一の課税物件(同一の納税者や取引・事実)に対して、同一または同種の租税が重複して課税されることをいいます。
二重課税とは|金融知識ガイド

 この定義であれば、所得税と住民税の所得割は、同一の課税物件である所得に課される二つの同種の税であるので、二重課税ではないだろうか?その昔、高額所得者の所得税率が75%という時代があったが、高額所得者だからと25%以上の住民税を課すことになれば、著しく理不尽な事態が発生する。まさに、二重課税の弊害である。

 しかしながら、住民税は「二重課税であるからダメ」という意見は聞いたことがない。これは、所得税と住民税は合理性がある課税体系であると認知され、受け入れられているからである。

 利益剰余金に課税する内部留保課税についても、法人税と二重課税であるという理由では、直ちにダメということは言えないだろう*3

内部留保課税は、そもそも二重課税?

 また、利益剰余金に対するフロー課税とストック課税の両方を徴収することを考えたとき、これは、二重課税となるのであろうか?ここで、利益剰余金に対するフロー課税とは、利益剰余金の増分に課す税(実質的には法人税)であり、ストック課税は利益剰余金の保有に課す税、所謂、内部留保税である。

 先に挙げた二重課税の定義を採用した場合、フロー課税とストック課税が同種と見做せば二重課税、同種と見做さなければ二重課税ではない。フロー課税とストック課税は同種の種類の課税だろうか、別種の課税だろうか?

 自動車を何台もストックする場合を考えると、ストックの増分(取得)に対しては自動車取得税が課せられる。また、ストックの保有に対しては、自動車税が課せられる。「自動車取得税と消費税は二重課税」という指摘や、「自動車税と自動車重量税は二重課税」という指摘はあるが、自動車取得税と自動車税が二重課税という指摘は聞いたことがない。フロー課税とストック課税は、別種の課税と考えられているからではなかろうか?

 同様に不動産については、フロー段階で不動産取得税、ストック段階で固定資産税が課せられる。この二つも、一般的には二重課税という指摘を受けることはない*4

 これらの例が二重課税でなく、フロー課税とストック課税は別種の課税と考えられるのであれば、内部留保課税は二重課税ではないと帰結できる。

 いずれにせよ、フロー課税とストック課税が二重課税であるか否かは実は問題ではなく、問題は課税体系の合理性であり、公平公正であるかという点であろう。

(2017/10/24)

関連記事

*1:
産経ニュース,「希望の党公約の内部留保課税は「二重課税」 麻生太郎財務相」, 2017/10/6.
週刊ダイヤモンド編集部,「小池新党「内部留保課税」を課税推進派の財務省さえ見放す理由」, DIAMOND online, 2017/10/17.

*2:
「二重課税」, ウィキペディア.
河野敏鑑, 「相続税と所得税の二重課税が与える波紋」, 2010/7/15.

*3: 例えば、国内法人は、法人税と内部留保税の両方を支払う必要があり、国内で活動する海外法人は、法人税のみでよいということが発生するのであれば、「公平性に欠く課税のため、内部留保課税はダメ」ということは理解できる。しかし、仮に国内法人だけの競争環境であれば、法人税と内部留保課税の徴収が二重課税であっても、直ちにダメとはならないのではないか。

*4:筆者は税制の専門家でないので、詳しいことは分からないが、フロー税(流通税)とストック税(資産税)の考え方については、租税論としては、いろいろ考え方があるらしい。石村耕治, 「二重課税とは何か」, 獨協法学第94号(2014年8月).

民進党のリベラル派が新党を作る必要はあるのか?

 お騒がせな小池劇場ですね。ちょっと一言を言いたくなって、久しぶりにブログを書いています。

 前原民進党では、全員一緒に小池新党・希望の党に合流しましょうと、両院議員総会で全会一致で決議しました。

 小池氏は、小池新党に全員合流するという民進党の方針を受け入れず、リベラル派を排除するとのこと。これはこれで、保守党を作るという小池氏としては当然の意思表明でしょう。

 さて、前原氏のいう通りの全員一緒での参加ができず、小池新党から排除されるメンバがでてくるというのならば、

  • 衆議院議員・公認候補は、全員、民進党を離党する。
  • 民進党を離党した上で、全員一致で小池新党に入党する。

という両院議員総会の決議は反故・リセットしてもよいのでしょう。

 さて、小池新党に参加しない・小池新党から排除される民進党議員は、新党を作るとか、無所属で立候補するというような報道がされていますが、なぜ、そのような話がでてくるか、不思議です。

 単に、民進党を離党せず、そのまま民進党で立候補すればよいのではないでしょうか?できれば、民進党をリベラル的な立場の党として、もともとの党名である民主党に戻して、リベラル派の党として再定義すればよいでしょう。

 リベラル民主党は、嘗ての社会党のような道を歩む可能性も高いですが、このまま、タカ派の保守2党で、リベラル派がいない日本となるのはいかがなものでしょうか。


(蛇足1:選挙予測)

  • 選挙としては、リベラル民主党は共産党他と選挙協力をして、保守2党(自民党・小池新党+維新)とリベラル派の三極で選挙を戦う。
  • 選挙結果は、自公で過半数確保、小池新党の大躍進(旧民進党との比較でも増加)、リベラル派はそこそこ(リベラル民主党は大幅減、共産党の増、その他は変わらず)といったような結果?
    小池新党の純増分の大部分は、自民党の議席を奪い取った形(リベラル民主党は、小さすぎるので奪い取っても大した数にならない)
  • いまのままで、リベラル派の議員が無所属で立候補すれば、比例復活がなくなるので、ごく一部を除いて落選。リベラル派は全部合わせても40議席も得られず、数パーセント(30議席ぐらい?)

(蛇足2: 選挙後の保守勢力)

  • 自公・維新・小池新党が保守。民進党の隠れ保守・ノンポリな人たちが、小池新党で保守転向するので、衆院全体としては9割超が保守となるのでしょう。
  • 公明党が保守かといわれると、ちょっと違うと思うけど、現状では自民党の補完勢力なので、保守扱いです。

(蛇足2:資金)

  • 民進党の資金は、どこに移すのが良いのでしょかね。リベラル派と小池派に分党をしてからならば、資金も素直に分割すればよいのでしょう。
  • しかし、慌てて、集団離党してしまうと、どこに所属するのやら。いまのところ、資金も持っていくようですが、小池派が離党した後で、資金を持っていくことは可能?
  • 一人残る前原氏が調整に当たるというのは、約束を守らず、民進党を実質解体し、リベラル派を排除した、前原氏を党首から解任・除名するということもありそうです。資金はそのまま民進党(リベラル派+参議院議員)にプールされるという筋書きです。

(蛇足3)

  • 蛇足2の筋書きがあるので、民進党所属で希望の党からの立候補という話があったのでしょうかね?

(蛇足4)

  • リベラル派民主党と小池派に分かれると、地方組織や連合はどうなるのやら。選挙結果を受けて、勝ち組(小池新党)につくのでしょうか。

(17/10/1)

予想は大外れし、ドタバタ劇の末、安倍大勝、小池完敗、枝野健闘となりました。結果を見てからの判断ではあるけど、立憲民主党の創設は正しかったようです。選挙後は、与党・共産党を除く勢力が4極(立民・民進・希望・無所属)となりました。立民ができない場合は3極(民進・希望・無所属)で、無所属も民進に戻る道がありましたが、立民では合流しにくい人も多い。4極がリベラル系・保守系の2極に収斂するには時間が掛かりそうです。希望の党は、小池さんがいなくなれば、無所属の保守系の人たちも多少は合流しやすくなるでしょう(どちらも、ほとんど、元民進党だし。逆に元民進党だから理念ではなく、確執のため再合流しにくいという可能性も大ですが)。

(17/10/24)

【NHK】ワンセグ携帯に受信契約の必要あり?ー水戸地裁判決ー

1. 水戸地裁の判決:「携帯」は「設置」に含まれる

ワンセグ付携帯電話についてNHKとの受信契約が必要があるかどうか、水戸地裁で新たな司法判断が下されました*1

2016年8月のさいたま地裁の判決では、受信契約の必要はないということでしたが、今回は必要ありとの判決です。

争点は、基本的には、さいたま地裁の場合と同様で、放送法64条1項の「設置」に「携帯」が含まれるか否かでした。

放送法64条1項では、「協会の放送を受信できる受信設備を設置した者」はNHKと受信契約することを義務付けていますが、「携帯」もこの「設置」に該当するか否かということです。

さいたま地裁の判決では「設置」には「携帯」は含まれないとして、受信契約の必要性はないとの判断でしたが、水戸地裁では、「携帯」の概念も含まれるという解釈で、受信契約の必要はあるという判決でした。

判決理由で河田泰常裁判長は64条の「設置」は「放送を受信することのできる受信設備を使用できる状態におくことをいう」と指摘。「一般的にいう『携帯』の概念をも包含すると解するのが相当」として、男性の主張を退けた。(日経新聞)

2. 判決のポイント

ワンセグ裁判については、さいたま地裁判決の際に記事にまとめましたが、この中で逆転敗訴の可能性について言及しました。

 今回の判決はNHK敗訴でしたが、判決文を読む限りでは、今後のワンセグ裁判で、NHK勝訴となる可能性もありそうです。

 争点となりそうなポイントは、法解釈の安定性です。

●一般的な法解釈として、「設置」の概念に、「携帯」を含むと解釈できること。
●放送法のH21/H22改正で「携帯」の用語が導入されたが、それ以前の放送法64条に基づく放送受信規約では、長年、携帯用受信機も含まれ、ポータブルテレビの時代から契約対象と解釈されていたこと。
●総務大臣及び総務省も、携帯用受信機(ポータブルテレビ・ワンセグ携帯)を受信契約の対象と解釈してきたこと。

 法解釈は安定的であるべきという観点からすれば、H21/H22改正で、放送法2条14号に「携帯」の用語が導入されても、従来通り放送法64条の「設置」の概念には「携帯」が含まれると解釈すべき、という考えもあると思います。
引用:【NHK】ワンセグ携帯で受信契約は必要か?-ワンセグ受信料裁判- - 時事随想

 判決文は手元にありませんが、立花氏の動画*2を見る限りでは、以下のポイントで判決がなされているようです。

  • 「設置」に「移動体」なども含まれる法律もあり、「設置」に「携帯」が含まれるか否かは、一般用語として判断すべきではなく、法律の成立経緯や主旨などを考慮して判断されるべきである。
  • 昭和25年(1950年)放送法制定当時に既に携帯ラジオが存在していたが、「設置」の用語が使われていること。
    放送法の「設置」は戦前の無線電信法に使われている「施設」の置き換えであるが、無線電信法では携帯無線機についても「施設」として取り扱っているため、「設置」には「携帯」の概念が含まれると考えられる。また、放送法制定時の参議院における質疑からも携帯機器を含むことは明らかである。
  • H21/H22の法改正で「携帯」の用語が導入されたが、第64条1項の「設置」については議論されておらず、「設置」が「携帯」を含んだ概念のまま継続していると考えられる。
     (筆者注:H21/H22年法改正で「携帯」の用語が導入された第2条14号は、所謂マルチメディア放送のための条項。マルチメディア放送としては、NOTTVが有名。)

 個人的な感想としては、さいたま地裁の判決よりは、水戸地裁の判決の方が論理的に整合性が取れているように思います。さいたま地裁の判決は、H21/H22の法改正(第2条14号)で「携帯」の用語が導入され、「携帯」と「設置」が区別されたので、(自動的に)第64条1項の「設置」の概念から「携帯」の概念がなくなるという解釈かと思いますが、少し無理があるようです。

3. 今後

 ワンセグ裁判は、これ以外にもいくつもあるようですが、今回の水戸地裁判決がスタンダードな判決になるのではないかと予想しています。

 ワンセグ携帯のテレビは、携帯電話のオマケ機能です。テレビ視聴が目的の地デジ放送と同じ料金体系というのは、納得感がありません(そもそも、NHKを見ない人には、地デジだろうがワンセグだろうがそもそも納得感はありませんが)。放送法の改正でワンセグ携帯の取扱いを明示する、NHK放送受信規約で安い受信料を設定する、ラジオと同様に受信契約免除とするなど、ワンセグ携帯のようなオマケテレビに対する対策は必要ではないでしょうか。

 現行のNHK受信規約が世帯という概念で受信契約が規定されています。テレビや端末を複数所有したり、世帯の在り方も変わっているので、契約単位は世帯単位から視聴端末単位の契約に変更する必要があると思っています。そうすれば、携帯端末単位の課金やB-CASカード単位の課金が可能となります。携帯電話の場合は、NHK受信機能をONにした場合には、受信料を電話料金と一緒に徴収するという仕組みにすれば、変で怖い人たちと顔を合わせなくて済みます(笑)。
 全世帯の契約について一斉に変更することは難しいと思いますが、端末単位の課金は、ワンセグ携帯には導入しやすい制度でしょう。

関連記事

(2017/6/14)

【NHK】ネット同時配信で受信料はどうなるの?

1. NHKのネット同時配信に関する各社報道

 12月26日開催の総務省「第14回放送を巡る諸課題に関する検討会」を受けて、NHKのネット同時配信について新聞各紙で報道されています。

 議事要旨・配布資料が現時点ではアップロードされていないので、詳細は不明ですが、今回の検討会は、民放キー局からのヒアリングで、12月13日のNHKと民放連・新聞協会に引き続くものです。新聞報道の概要をまとめると、以下の通りです。

  • 放送法は、NHKがネットで番組を24時間配信する「常時の同時配信」を認めておらず、実施には法改正が必要(読売)
  • イタリアの事例、テレビ設置の申告制・罰則導入案(産経)
  • ネット視聴の場合の受信料(産経)
  • 民放は批判的な意見(朝日, 読売, 時事) (民放各社の意見は付録参照)

 NHKは、東京オリンピックに向けて2019年までに同時配信を常時化したい意向ですが、民放各社は慎重というか、積極的には進めたくないといった印象です。

  • 注:ネット配信するのは、サービス開始時点では地上波のみ。衛星放送はスポーツ中継が多く放送権の確保等が必要なため、現時点では実施できる環境にはない(12月13日の有識者会議のNHK資料)。

2. ネット配信で受信料はどうなるの?

 一般の視聴者として気になるのは、産経ニュースが報じているように受信料のことですね。以下では、有識者会議の過去の資料に基づいて説明したいと思います。

2.1 受信料の義務化はどうなる?

 産経ニュースが報道しているイタリア公共放送の事例は、テレビ設置状況を申告制にして、申告なき場合にはテレビ設置ありと見なし、電力料金と合わせて受信料を徴収するというものです。また、申告に虚偽があった場合には罰則を科します。詳細については、既に12月13日の検討会で資料が提出されていますので、引用します。

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出典:NHK, 「放送を巡る諸課題に関する検討会議(第13回) ヒアリングご説明資料資料」, 資料13-2, 2016/12/13.


 この資料を見る限りでは、産経ニュースの「NHKが提示した案」というほどの具体性はなく、海外事例紹介の位置づけに留まります。但し、NHKとしては、現状の「受信契約の義務」よりも強い拘束力で受信料支払の義務化をするように法改正をして欲しいという要望を持っています。

 引越したら、NHKの受信料支払から逃れられるということが昔はあったそうですが、資料の13ページを見ると、今は、住民票を取り寄せて、新住所を追跡しているようです。

2.2 スマホ・パソコンの所持で受信料支払の義務はある?

 今のところ、NHKとしてはスマホ・パソコンを持っているだけで、受信料を取るということは考えていないようです(資料の8ページ)。

  • (a)「「適切な負担」については、NHKのテレビ放送の常時同時配信を実際に「視聴しうる環境」を作った人に負担をお願いするのが適当と考える」
  • (b)「単にパソコン・スマートフォン等のネット接続機器を持っているだけで負担をお願いする、ということは考えていない」
  • (c)「テレビを持ち、すでに受信契約を結んでいただいている世帯の構成員には、追加負担なしで常時同時配信をご利用いただくのが妥当と考える」

(a)については、検討会の質疑応答で、NHKは以下のように説明しています。

Q. 「視聴環境を作った人」というのはどういう意味か?
A. パソコンやスマホなどのネット接続機器を持っているだけであり、放送受信のためにもっているわけではないような方にまで負担を求めることは想定していないという意味である。どのような技術的手段をとるのかは検討していないが、ネット上でのなんらかの手続を経た方にのみ負担いただくことを考えている。
出典:放送を巡る諸課題に関する検討会(第13回)議事要旨, 2016/12/13.

2.3 同時配信コストをどうやって調達する?

 まず、(a)のネット配信利用者が負担するという条件を除いて考えると、以下のような資金調達になるでしょう。

 (c)のように追加負担(受信料の値上げ)がないとすれば、増収、つまり、受信契約の増加がないと、ランニングコストの年間数十億円~100億円(資料の9ページ)が支払えないということになります。年間100億円の費用回収が必要とすれば、現状の受信料が月1,260円として逆算すると、約66万件の新規受信契約が必要となります。

  • 必要な新規受信契約 = 100億円÷(1,260円×12) = 約66万件

 2015年度から2017年度までの経営計画によれば、年間61万件の契約数の増加を計画しているので、達成できそうな数値です。また、衛星契約は2,230円程度なので、66万件よりも少ない新規契約でも大丈夫そうです。

2.4 同時配信には、受信料支払義務の強化が必須

 しかし、(a)のネット配信利用者の負担と(c)の追加負担なし(値上げなし)を同時に成り立たせるとなると話は変わってきます。

 (a)によれば、「視聴しうる環境」を作った場合(ネット利用申請した場合)、同時配信コストを負担するため、ネット利用しない人との受信料の差額(ネット利用料)が発生します。一方、(c)によれば、既契約者では追加負担なしでネット利用できるとのことです。従って、ネット利用しないのであれば、既契約者であったとしてもネット利用料を支払う必要はないので、ネット利用料分の受信料を値下げする必要があります。

 つまり、ネット利用者は現状の受信料、ネットを利用しない人には、受信料を値下げしなければなりません。この値下げのための原資には、以下に示すように受信契約を増やす必要があります。

 ネット利用料で同時配信のコスト(100億円)を賄うので、

  • ネット利用料 = 100億円/ネット利用者数

となります。例えば、1000万件のネット契約で年1,000円(月額約83円)の利用料となります。ネット利用料分だけ既契約者の受信料値下げをするとなると、既存契約を約4000万世帯として年1,000円の値下げに必要な原資は400億円、新規契約数換算で260万件の新規契約が必要となります。

 月額83円ならば、とりあえず契約しておくといった世帯も多いと思いますが、約1000万世帯のネット契約が必要で、厳しい目標ではないかと思います。月額166円で500万世帯のネット契約であれば、達成できそうな数字ですが、今度は月額166円の値下げ原資(新規契約換算で520万件)が必要となります。

 受信料の義務化を強化し、現状の契約率80%を契約率90%強に増加すれば、520万件の新規契約は達成できるので、値下げ原資の確保もできます。このため、(a)と(c)を両立させるためには、支払義務の強化が必須と考えられます。

  • 注1:上記の計算には、世帯数や同時配信コスト等が推定値であることの他に、計算モデルにも近似が入っていますので、あくまで概算です。
  • 注2:既存の契約者を全てネット利用者にできれば、前節で説明した66万件程度の新規契約で済みます。(c)を深読みすると、「(利用しないことを申請をしなければ)既存の契約者はすべてネット利用者と見なす」という意味なのかもしれません。

3. まとめ

 有識者会議の現状の議論から分かることは、以下の通りです。

  • NHKは2019年までに常時同時配信を実施したい。そのため、放送法の改正が必要。
  • 同時配信は、NHK受信契約者のみにサービスするのであって、パソコン・スマホを持っているだけで課金するわけではない。
  • ネット配信に掛かる費用は新規契約の増加によって賄うと思われる。
    • NHKの主張通りに、ネット利用者に配信コストを負担させつつ、既存の受信契約者に追加負担をさせないためには、大幅な新規契約が必要で、受信料支払の義務化が必須。

 NHKはリオオリンピックでも同時配信を試験的に行っていますが*1、東京オリンピックの際には、常時化して実運用したいということです。オリンピックまでに実現するか否かは微妙なところで、法改正・システム開発等の問題からリオに引き続き東京でも試験的な位置づけになると個人的には思っています。

(2016/12/27)

付録:民放各社の意見

 報道されている12月26日の有識者会議での民放のコメントは以下の通りです。

  • 多額の投資が必要な配信システム作りのためNHKと民放が共同で進めるべき。
  • ネット配信で広告収入増は見通せない。
  • 民業圧迫。
  • 民放連(木村信哉専務理事)
    • 「NHKは独占的な受信料収入で運営されており、民放への目配りは欠かせない。NHKが業務拡大を続けることにならないようにしなければならない」
  • 日本テレビ(石沢顕常務執行役員)
    • 「強固な財務基盤のNHKに対し、民放はコストを最小限に抑える必要がある」
  • テレビ朝日(藤ノ木正哉専務)
    • 「多額のコストを回収するビジネスモデルに見通しが立たない」
    • 「ローカル局には視聴率の低下などの影響がでるのでは」
  • フジテレビ(大多亮常務)
    • 「テレビの将来のため(同時配信に)チャレンジしなければ(と考えている)」
    • 「民放は受信料を使えるNHKのように赤字を垂れ流せない」
    • 「(配信の)プラットフォーム構築をNHKと民放が一緒にやっていくべきだ」
    • 「ニーズがあるのかという意見もある」
    • 「NHKが先行してルールを決めることを危惧している」
  • テレビ東京
    • 「事業的に成り立つほどニーズがあると判断していない」


働き方に中立な税制・社会保障制度の改革 (8) 税額シミュレータ

 配偶者控除の適用範囲の拡大が自民党・公明党の2017年度与党税制改正大綱*1にて決定しました。内容は表1となっています。また、2016年度の配偶者控除・配偶者特別控除を表2にまとめます。

 複雑なので、税額シミュレータを作ってみました。


■■■ 税額シミュレーション(2017) ■■■

夫の給与所得  社会保険料  その他の控除
妻の給与所得  社会保険料  その他の控除
単位(円)

A. 給与
0円
0円
B. 所得額 (=A-給与所得控除)
0円
0円
C. 配偶者控除額
0円
0円
D. 配偶者控除後の所得額 (=B-C)
0円
0円
E. 基礎・社保料控除後の所得額 (=D-(基礎+社保料))
0円
0円
F. 課税対象所得額 (=E-その他の控除,千円未満切捨)
0円
0円
G. 課税額 (=F×税率)
0円
0円

※:所得額Bは、給与所得控除額(2017)の計算式で算出しているため、所得税法の給与額控除後の金額表の正式値と若干異なる。
※:配偶者控除は、夫・妻のうち、給与額が高い方から控除する。
※:基礎控除額は、38万円。
※:税率は、国税庁のホームページを参照。

表1. 配偶者控除・配偶者特別控除の早見表(2017年度与党税制改正大綱版)。
世帯主の合計所得(給与所得)
900万円以下
(~1120万円)
900万円超950万円以下
(1120万円~1170万円)
950万円超1000万円以下
(1170万円~1220万円)
配偶者の
合計所得
(給与所得)
38万円以下
(~103万円以下)
382613
38万円超85万円以下
(103万円~150万円以下)
382613
85万円超90万円以下
(150万円~155万円以下)
362412
90万円超95万円以下
(155万円~160万円以下)
312111
95万円超100万円以下
(160万円~166.8万円未満)
26189
100万円超105万円以下
(166.8万円~175.2万円未満)
21147
105万円超110万円以下
(175.2万円~183.2万円未満)
16116
110万円超115万円以下
(183.2万円~190.4万円未満)
118 4
115万円超120万円以下
(190.4万円~197.2万円未満)
6 4 2
120万円超123万円以下
(197.2万円~201.6万円未満)
3 2 1
123万円超
(201.6万円~)
0 0 0
出典:与党税制改正大綱(2017), 年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表(所得税法,2016), 給与所得控除額(2017)より作成。世帯主の給与所得は2017改正(給与所得控除の上限額が230万円から220万円)を反映。


表2. 配偶者控除・配偶者特別控除の早見表(2016年度)。
配偶者の合計所得 (給与所得) 控除額
38万円以下 (~103万円以下) 38万円
38万円以上40万円未満(103万円~105万円未満)38万円
40万円以上45万円未満(105万円~110万円未満)36万円
45万円以上50万円未満(110万円~115万円未満)31万円
50万円以上55万円未満(115万円~120万円未満)26万円
55万円以上60万円未満(120万円~125万円未満)21万円
60万円以上65万円未満(125万円~130万円未満)16万円
65万円以上70万円未満(130万円~135万円未満)11万円
70万円以上75万円未満(135万円~140万円未満)6万円
75万円以上76万円未満(140万円~141万円未満)3万円
76万円以上 (141万円~) 0円
出典:国税庁ホームページ(配偶者控除, 配偶者特別控除)


もう少し改良して、2016年度との差を計算しようと思います。

(2016/12/11) 

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