時事随想

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【自民党改憲案】第21条 (活動・結社の禁止) と治安維持法

 自民党改憲案の第21条に新たに追加された「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動と結社の禁止」は、「国体の変革と私有財産制度を否認することを目的とした結社」を禁止する治安維持法よりも規制対象がはるかに広いものと言えます。言ってみれば、スーパー治安維持法です。

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1. 自民党改憲案と治安維持法

 自民党改憲案の第21条2項と治安維持法第1条は次の条文となっています。

  • 自民党改憲案 第21条2項(新設)
前項の規定にかかわらず、 公益及び公の秩序を害することを目的として活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは認められない。
  • 治安維持法 第1条(制定当初の規定)
国体を変革し又は私有財産制度を否認することを目的として結社を組織し又は情を知りてこれに加入したる者は10年以下の懲役又は禁固に処す。

 治安維持法の国体を変革すること、私有財産制度を否認することは、(当時の基準で言えば)「公益及び公の秩序を害する」に含まれるでしょうが、「公益及び公の秩序を害する」の一部であって、全部ではありません。

 さらに、自民党案では、結社に限らず、「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動」を行うことが、禁止事項となります。「活動」は、集会・結社・言論活動・出版活動その他一切の表現活動に加えて、宗教活動を含むあらゆる「活動」が規制対象となりえます※。

 治安維持法では、適用範囲を広げるためには拡大解釈する必要がありましたが、自民党案では初めから治安維持法より遥かに広い範囲を規制対象としています

※ 治安維持法は、1928年の改定で「結社の目的遂行のためにする行為」(目的遂行罪)も付け加えられ規制範囲が拡大されました。治安維持法で追加された行為は、自民党案では初めから「活動」の中に含まれています。

2. 規制範囲が厳しく限定されている?

 自民党の憲法改正草案Q&Aでは、「他の個所の『公益や公の秩序に反する』という表現と異なり『公益や公の秩序を害することを目的とした』という表現を用いて、表現の自由を制限できる範囲を厳しく限定しているところです」と説明しています。

 しかし、「公益や公の秩序に反する活動を行い」であれば、既遂時点で規制対象となりますが、「~を目的とした活動を行い」では、計画段階・準備段階の活動も規制対象になりえます。明らかに、規制できる範囲を拡大しています。

3. 活動・結社を禁止する法律は憲法の要請

 自民案の第21条2項では、「認められない」ことを保障する法整備が憲法上の要請となります※。

 つまり、「公益及び公の秩序を害する」範囲を網羅し、その活動と結社を「公益及び公の秩序を害する」であっても摘発できる法律を作らなければなりません

※ 例えば、「公益及び公の秩序を害することを目的とする活動及び結社には、前項の規定は保障されない」であれば、禁止される場合もある(保障されない)という意味となり、この場合は、必ずしもそれらを禁止する法律を作る必要はありません。しかし、「~は認められない」という憲法の規定では、「認められない」ことを担保するための法律を作ることが要請されることになります。

4. 自民党改憲案 第21条2項に基づく法律案

 上記を勘案すれば、例えば、次に掲げる法律を制定することが、憲法21条2項の要請と考えられます。

  • 公益及び公の秩序を維持する法律
 公益及び公の秩序を害することを目的として活動を行い、並びにそれを目的として結社をする者は、10年以下の懲役又は禁錮に処する。

 この法律は、戦前の治安維持法を凌ぐ、スーパー治安維持法です。

(2018/10/27)

関連文献


小林節・伊藤真
自民党憲法改正草案にダメ出し食らわす!
(2013)


梓澤和幸・岩上安身・澤藤統一郎
前夜ー日本国憲法と自民党改憲案を読み解く[増補改訂版]
(2015)

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A. 追補

A.1 すべての自由が制限される

 第21条(表現の自由)の一項目として導入しているために、あたかも表現の自由の一部だけが禁止されるように感じらますが、それだけではありません。まず、憲法で保障されない自由についても同様に制限されます。

  • 第21条第2項で制限される自由
    • 表現の自由
    • 憲法で保障されない自由

 さて、第21条第2項の禁止規定の効果は、憲法の他の条項にも波及するのでしょうか?

  • 憲法の他の条項で保障された自由は、制限されるのか?

 これは、第21条第2項による禁止と、憲法の他の条項による自由のどちらが優先されるか?という問題です。

 草案では、第21条第2項と他の条項との優位性は規定していないので、最終的には司法の判断に委ねられるのでしょう。しかし、その判断がない段階では、法律の制定・執行を行っても、違憲とは言えません。

 また、現状を見る限りでは、司法が行政・立法に従属せずに適切な判断を下せるか、危ういと言わざるを得ません。

f:id:toranosuke_blog:20181031114505p:plain:w400
制限される自由は、表現の自由のみか?すべての自由か?

A.2 最初の段階では罰則なしで導入

 本文中では、罰則を設けていますが、憲法で規定されている範囲の内容について最初は罰則なしで導入されるでしょう。罰則が付く具体的な規制対象について別の条項で規定されると考えられます。

  • 公益及び公の秩序を維持する法律
第1条 何人も、公益及び公の秩序を害することを目的として活動を行い、並びにそれを目的として結社をしてはならない。
第2条 ~をした者は、10年以下の懲役又は禁錮に処する。
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