時事随想

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ニュースや新聞を見て、想ったことを綴った随想・論説集

中国による尖閣諸島の占拠を許してはいけない

 中国は経済大国・軍事大国になるにつれ、経済的にも、軍事的にも海外進出を強めています。現在も、大国アメリカや大国ロシアは、他国へ軍隊を送り、戦争することを厭いません。中国も同じよう戦争を厭わない軍事大国になるでしょう。現在の南シナ海や尖閣諸島への進出も、アジアにおける軍事的・経済的覇権をアメリカから奪うための行動の一環ととらえることができます。これまで幾多の戦争を行ってきた中国としては、本格的な戦争は避けるとしても、多少の軍事衝突は厭わないでしょう。

 日本としても、中国が尖閣諸島を占拠することを想定しなければなりません。本稿では、中国の尖閣諸島の占拠について考察します。

1. 中国の海洋進出と尖閣諸島の現状

 強硬姿勢を緩めない中国の海洋進出ですが、南沙諸島(スプラトリー諸島)、西沙諸島(パラセル諸島)の埋め立て・軍事基地化に加えて、スカボロー礁も埋め立てて軍事拠点を作りそうな状況です((時事通信, 「中国、スカボロー礁にしゅんせつ船か=埋め立て準備の可能性-比」, 2016/9/4.))。これが完成すれば、南シナ海における戦略的トライアングルができて、南シナ海における軍事的プレゼンスが格段に高まります((Yahoo! JAPANニュース, 「「民進党」の皆さん、中国が南シナ海で構築中の「戦略的トライアングル」って知ってますか?」, 2016/3/18.))。

 日本も無関係ではなく、尖閣諸島への中国の実効支配化を進めようとしています。日中関係は、2010年の尖閣諸島中国船衝突事件、2012年の尖閣諸島国有化で非常に悪化しましたが、いまは小康状態を保っているといったところでしょうか。とはいっても、中国の尖閣諸島進出の勢いは止まらないどころか、さらに激しくなっています。図1は、海洋保安庁が公開している中国公船による領海侵入数((海上保安庁, 「尖閣諸島周辺海域における中国公船等の動向と我が国の対処」.))を表していますが、国有化を契機に定常的に領海侵犯を行っています。今年に入ってからは、中国漁船300隻を引き連れて、尖閣諸島に侵入してきました((ニューズウィーク日本版, 「中国漁船300隻が尖閣来襲、「異例」の事態の「意外」な背景」, 2016/8/12.))。

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図1: 中国公船等による尖閣諸島周辺の領海侵入数。
海上保安庁「尖閣諸島周辺海域における中国公船等の動向と我が国の対処」に基づき筆者作成

2. 自衛隊の離島奪還訓練

 自衛隊では、離島奪還訓練という名で、主に中国の離島占拠を想定したと思われる軍事訓練を行っています。

 自衛隊による離島奪還訓練は、2013年から開始されました((中央日報, 「日本自衛隊が離島奪還訓練…過去最大規模」, 2013/11/2.))((琉球新報, 「離島奪還 危機あおる訓練は迷惑だ」, 2013/10/25.))。その後も、継続して訓練が行われ、今年も離島奪還訓練が行われています((産経ニュース, 「離島奪還想定、陸海空統合訓練を公開 最新鋭の10式戦車など登場 輸送防護車の初展示も」, 2016/8/28.))。また、与那国島の陸自部隊隊も、今年3月に発足し、レーダーを使った沿岸監視などを行います((産経フォト, 「与那国島で陸自部隊発足 中国にらみ南西防衛強化」, 2016/3/28.))。確かに、与那国にレーダー基地を配備することは必要でしょう。尖閣諸島が中国に占拠されてしまったときに、本気で奪還するとすれば、奪還作戦も必要でしょう。そういう準備をすることで、一定の抑止力にもなると思います。

 しかし、中国による尖閣諸島の占拠を回避できるかは、少々疑問です。

3. 韓国による竹島の実効支配の歴史

 尖閣諸島の中国による実効支配を予測するに当たって、参考になるのは、韓国による竹島の占拠と実効支配です。前回記事に韓国による竹島占拠までのイベントを時系列でまとめています。

 1953年の当初は、日本も韓国も、竹島周辺に巡視船等を常時停留させたり、竹島に常駐することはできず、どちらの国も実効支配しているという状況ではありませんでした。

 1953年に日本側が韓国漁民を発見、韓国漁民を退去させますが、その後の日本側の対応は、巡視船を巡回させ、竹島が日本であることを示す標柱を立て、漁民の不法操業・不法上陸を止めさせるように韓国政府に抗議するというものでした。竹島の主権を主張している韓国としては、この抗議を受け入れることは当然ありません。韓国側は、1953年7月には、漁民とともに、自動小銃や拳銃を持った警官を伴って、竹島に上陸しています。巡視船「へくら」上での日韓の会談後、銃撃を受けますが、銃撃を伴った争いは、この年はこの一回のみで、日本側の被害は、巡視船「へくら」が銃弾2発を受けた程度で極わずかの被害です。

 1953年の間は、日韓ともに竹島に人が常駐しているわけではないので、韓国漁民がときどき竹島に寄っていったり、日本の巡視船や試験船が上陸したりしていた程度で、日韓の衝突や漁民の拿捕ということはなく、年表を見る限りでは高い緊張状態にはなかったようです。せいぜいあったのは、標柱・標石の撤去や再設置ぐらいでした。

 状況が急変したのは、1954年になってから韓国政府が竹島に沿岸警備隊の駐留部隊を派遣したところからでしょう。前年に朝鮮戦争が休戦となったので、軍事的に余裕がでてきたということもあったのかもしれません。この後は、韓国に常駐のための施設を設置され、1954年11月の巡視船「へくら」への竹島からの大砲の砲撃と、それに対して軍事的対抗措置手段を行わないことで、韓国の竹島占拠が完了、現在まで実効支配されています。

 日本は国際司法裁判所への付託を提案するも、韓国はこれを拒否しており、有効な解決手段とはなりませんでした。その後も、外交交渉は行われていますが、いまだに成果は上げられていません。

4. そもそも占拠されてはいけない

 竹島の実効支配の歴史を振り返ると、そもそも、韓国の常駐を防がなかったことが問題でした。韓国による常駐を防ぐためには、日本が先に常駐すればよかったのです。1953年時点でそれを行わなかったことが最大の問題でしょう。

 今年に入って、中国は大量の漁船を引き連れて、尖閣諸島に迫っています。この大船団を相手に、海上保安庁の高々十数隻の巡視船で守りきることは困難でしょう((山田吉彦, 「迫る 海保の能力を超えた危機」.))。大船団の中には、民兵が乗船しています((SAPIO11月号, 「尖閣諸島を襲う中国漁船に乗船する「海上民兵」の正体」, 2016/10/13.))((産経ニュース, 「尖閣奪取に海上民兵 中国は本気だ!「軍事力」への警戒強めよ」, 2016/8/18.))。

 筆者が予想する中国による尖閣諸島の実効支配のシナリオは、以下の通りです。

 (a) 中国公船を伴った大船団が尖閣諸島に領海侵犯を行う(今年8月と同じ)。
 (b) 次に、民兵組織が尖閣諸島に上陸・常駐し、中国主権を主張する。
  大船団で襲撃されては、海上保安庁の能力では、上陸を阻止できません。
 (c) 日本は中国に抗議する。中国は、日本の抗議を受け入れない(竹島の場合と同じ)。
 (d) 中国軍が、尖閣諸島に常駐のための施設を整備し、常駐する(竹島の場合と同じ)。

(b)あるいは(d)の段階で、日本が実力行使によって、民兵組織の排除や中国軍の施設整備を阻止できなければ、竹島と同じく、中国によって尖閣は実効支配されます。

 民兵組織の排除であれば、人数にもよりますが、警察力、つまり、海上保安庁によって執行することになるでしょう。海上には、中国海監や中国海軍が待ち受ける中、海上保安庁の巡視船が出航することになります。その先には、(民兵に指揮された)漁船団が待ち受けています。これらを蹴散らして、尖閣諸島に上陸し、民兵の逮捕を行います。民兵逮捕に当たっては、銃撃戦となるでしょう。海上保安庁の巡視船を阻止するために、中国海軍が実力行使することも考えられます。後方支援として海上自衛隊が控えることとなるでしょうが、自衛隊が巡視船保護のため武力行使すれば、中国側と交戦するということになり、軍事紛争に発展します。

 米国はこのときどうするでしょうか?一義的には日本の問題ですので、(情報収集など自衛隊の後方支援はあるかもしれませんが)基本的に何もしません、というよりも、何もしてはいけません。日本が日米安保条約に基づき要請するとしても、あくまで後方支援でしょう。最前線にでるのは、日本であり、民兵排除や尖閣奪還は、日本人が行わなければならないのです(米国人は血を流さない)。

 現状は竹島占拠のときと同様に、海上保安庁任せ。いざ中国が占拠するつもりであれば、容易に尖閣は占拠されます。尖閣諸島の実効支配を避けるには、そもそも離島を占拠されないことが、重要です。そのためには、小火器や重火器を保有し銃撃戦を行える日本人が常駐することが必要となると思います。フィリピンでは、中国の海洋進出に対抗するため、10名程度の海兵隊員が難破船シエラマドレ号に常駐しています((朝日新聞DIGITAL, 「対立の海 中国の海洋進出 2章 最前線の難破船」.))。無人であれば、単に「自国領土」に上陸するだけですが、既に常駐している兵士がいれば、これを排除しなければなりません。中国としても、容易には上陸することはできないでしょう。

 日本がすぐに軍事行動を起こすことはなく、また、米軍も、尖閣の地域紛争では出てくることはないと中国は踏んでいるでしょう。いつでも中国が尖閣占拠する可能性があります。中国により尖閣が占拠された場合、中国の実効支配を許すか、尖閣諸島を奪還するために中国との戦争を起こすか、の2つの選択肢しか日本には残されません。

 現在は、竹島のときとは違って、日本は軍隊(自衛隊)を保有し、領土紛争(国際紛争)に対しても武力行使・戦争を行うことが可能です。いざ、中国が尖閣を占拠するということになれば、国論は分かれることになると思いますが、戦争という選択を国民自身がする可能性も少なくありません。

 戦争は絶対に避けなければなりません。そのためには、尖閣占拠を阻止する有効な方法を考え、早急に実施する必要があります。

(2016/10/15)

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