1. 我が家上空の輸送機C-130Rの飛行高度は400m
以前の記事で、我が家上空に飛行する厚木基地の輸送機C-130Rの飛行高度を推定しました。推定した飛行高度は約400m。ドローンが飛行できる高度が150mまでなので、極端に差があるわけではありません。もしかしたら、この飛行高度は違法ではないかと思って調べてみました。
2. 航空法における飛行高度に関する法規制
2.1 最低安全高度
航空機の航行に関する法律で関わる法律は、航空法です。航空法第81条に最低安全高度についての規定があり、具体的には航空法施行規則第174条第1項で決められています。 それによれば、以下のようになっています。
- 人口密集地は、近所の障害物の頂点から300m以上の高度
第174条1項 イ 人又は家屋の密集している地域の上空にあつては、当該航空機を中心として水平距離六百メートルの範囲内の最も高い障害物の上端から三百メートルの高度 - それ以外は、150m以上の高度
第174条1項 ロ 人又は家屋のない地域及び広い水面の上空にあつては、地上又は水上の人又は物件から百五十メートル以上の距離を保つて飛行することのできる高度
第174条1項 ハ イ及びロに規定する地域以外の地域の上空にあつては、地表面又は水面から百五十メートル以上の高度
2.2 我が家は、人口密集地?
国交省によれば、航空法における「人又は家屋の密集している地域の上空」は国勢調査の結果による人口集中地区の上空とのこと*1。具体的には、国土地理院の地図によって確認することができます。
我が家は周辺が田んぼなので、「人口集中地区」扱いされていませんでした。但し、1kmほど離れたところの人口密集地で3方向が囲まれているので、ほぼほぼ人口密集地といったところでしょうか。
2.3 送電鉄塔の高さ
我が家の600m以内には送電鉄塔が3つあります。飛行機は、人口密集地の場合、その鉄塔の頂点から300m以上上空を飛行しなければなりません。そうでない場合は、その鉄塔から150m以上離れて飛行しなければなりません。鉄塔の真上を通る場合には、(鉄塔の高さ)+150mとなります。
近所の3つの鉄塔のうち2つは紅白の送電鉄塔です。60m以上の鉄塔は、航空法で紅白に塗る必要があるので、60m以上は確実です*2。
航空機の飛行高度推定の記事とほぼ同じ考えで、写真から鉄塔の高さを計算してみました。未知数を高度(距離)ではなく、対象物の長さ(鉄塔の高さ)に変更することで、鉄塔の高さを計算することができます。また、距離は、Googleマップを用いて計測しました。
計算結果は、以下の通りです。
- 距離195mの鉄塔:約60m
- 距離520mの鉄塔:約90m
90m鉄塔の方は、予想以上に高かったです。人口密集地であったとしても、高度400mの飛行であれば、ぎりぎり航空法上は違法にはなりません。
- (人口密集地) 90m鉄塔+300m = 390m以上
- (非人口密集地) 90m鉄塔+150m = 240m以上
我が家の場合は高さ20m~30mぐらいの避雷針が立っているので、規制値は170m~180m以上で、我が家上空であれば、違法飛行にはなりません。
3. 海上自衛隊の通達による規制
航空法は、ヘリコプターなどの回転翼による飛行機も含む規制ですが、自衛隊では航空法よりも厳しい最低安全高度を設定しています。海上自衛隊達3号「航空機の運航に関する達」(2013/3/12改正)の第48条(最低安全高度)によれば、以下となっています。
- 人口密集地は、近所の障害物の頂点から600m以上の高度
第48条(1) 人又は家屋の密集した地域の上空においては、当該航空機を中心として水平距離600 メートル(2,000 フィート)の範囲内の最も高い障害物の上端から 600 メートル(2,000 フィート)(回転翼航空機にあつては 300 メートル(1,000 フィート))以上の高度 - それ以外は、地表から300m以上の高度
第48条(2)前号の地域以外の地域の上空においては、地表面又は水面から 300 メートル(1,000フィート)(回転翼航空機にあつては 150 メートル(500 フィート))以上の高度
ここで、回転翼航空機とはヘリコプターなどのことです。人口密集地では600m以上、そうでない場合は、300m以上と、航空法の規制の2倍の値としています*3。P-3CやC-130Rは固定翼機で回転翼航空機には該当しませんので、人口密集地で600m以上、それ以外は300m以上となります。
我が家は人口密集地ではないので、飛行高度400mは、ぎりぎりセーフといったところでしょうか。人口密集地だったら、アウトです。
但し、人口密集地でもほとんど同じ高度で飛行しているように見えるので、規定違反を犯して飛行をしている疑いは残ります。
4. まとめ
我が家上空を低空飛行する自衛隊機の飛行高度の適法性について検証しました。今回の検証では、我が家上空に限っては、適法な飛行高度となっていました。但し、人口密集地でもほぼ同程度の高度で飛行している疑いがあり、違法飛行の可能性は残ります。
神奈川県の基地問題の苦情窓口を見つけたので、違法であったら、ちょっと「ご意見」しようかと思いましたが、適法な飛行高度でした。人口密集地にいる方で、低空飛行だなぁと思ったら、チェックしてみてください。違法飛行である可能性がありますよ。
(2016/10/24)
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*1:国土交通省, 「無人航空機の飛行の許可が必要となる空域について」.
*2:
(昼間障害標識)
第五十一条の二 昼間において航空機からの視認が困難であると認められる煙突、鉄塔その他の国土交通省令で定める物件で地表又は水面から六十メートル以上の高さのものの設置者は、国土交通省令で定めるところにより、当該物件に昼間障害標識を設置しなければならない。
出典:航空法
また、航空法施行規則 第百三十二条の三で紅白の塗装について規定しています。
*3:厳密には、自衛隊通達の回転翼航空機の規制では、「航空法第174条1項 ロ」に相当する規制についての記述がないので、海上自衛隊の規制だけに従うと、航空法を違反する場合がでてきてしまいます。
原因は、基本的には、航空法の174条第1項ロ、ハの規定が不適切な規定となっているからです。特にロは、「人又は家屋のない地域」といいつつ、人又は物件から150mと規定していて、論理的におかしいです。また、人・物体から150m以上離れなさいと規定しているだけなので、実際には最低高度を規定しておらず、高度1mでも構わない規定になっています。
ロが意味する地域を「人又は家屋が密集していない地域」と解すると、今度はハの規定に合致する地域がなくなり、意味が分かりません。
航空法第174条1項ロ、ハの意図するところは、次のようなところでしょう。
- 人又は家屋の密集していない地域の上空及び広い水面の上空にあつては、地表面又は水面から百五十メートル以上の高度で、且つ、地上又は水上の人又は物件から百五十メートル以上の距離を保つて飛行することのできる高度
但し、この規定ですと、200m級の送電鉄塔付近(鉄塔から150mの距離)でも150mの高度で飛行してもよいことになります。これでは、危険ですので、イの規定と同じように600m以内の障害物に関する条件を加えて、次のようにすべきでしょう。
- 人又は家屋の密集していない地域の上空及び広い水面の上空にあつては、当該航空機を中心として水平距離六百メートルの範囲内の最も高い障害物の上端から百五十メートルの高度
なぜ、上記のように単純に300mと150mとしなかったのかは謎です(山岳部などでの飛行のために、水平距離600mの規制を入れたくないということなんでしょうか。それなら、それで規定の仕方はあると思いますが、...)。