時事随想

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ニュースや新聞を見て、想ったことを綴った随想・論説集

テレビ放送を停波せよ!5G通信による放送の終焉

 最近、総務省がテレビ放送のネットへの同時配信を解禁するという報道がされていますが、今回の記事では、通信技術の進歩に伴う、放送と通信の役割交代について、表現の自由の観点から考えたいと思います。

1. 放送と通信によるテレビ映像の同時配信

 テレビ放送とネット通信による同時配信するサイマルキャストについて、その実現に向け総務省が検討会を設置したことから、NHKによるサイマルキャストが現実味をもってきた(解禁する)と新聞各社が報道しています*1。但し、総務省の資料を読む限りでは、NHKという個別案件には、踏み込んではいないように読み取れます*2

 個人的には、受益者負担の原則が担保されるのであれば、NHKがサイマルキャストを行うことに特に異論はありません。但し、現状のNHK放送では、NHKを見ない人にも契約を強要し、受信料を払わない人がNHKを見ることができるなど、受益者負担の原則から外れる事態となっています。アナログ放送が始まった当初であれば、仕方ない面がありました。しかし、現在は技術的に容易に解決できるにも関わらず、全く対策を取っておらず、非常に問題があると考えています。

 サイマルキャストでも、受益者負担の原則から外れて、パソコンやスマホを持っているだけで課金するというようなことは、あってはなりません。また、視聴者に費用請求する代わりに通信事業者にNHKの費用負担を要求するなどということも当然あってはなりません(通信コストは、通信網を使うコンテンツ事業者側と視聴者側で負担すべきですから、本末転倒です)。

 いずれにせよ、テレビ放送を通信を使ってブロードキャスト配信できる環境が整いつつあるということです。今回の記事では、放送における表現の自由と技術的に可能となる通信によるテレビ映像の配信について考えたいと思います。

2. 放送における表現の自由

2.1 放送における政治的公平性

 放送法では、「政治的に公平であること」(放送法第4条)を求めています。

 このように放送では、政治的公平性などが求められ、表現の自由が一部制約されるのは、電波の帯域が限られているため、誰もが自由に参入できるものではないということに起因します。これが紙媒体やインタネットであれば、公序良俗に反しない限りは、表現は自由です。不偏不党や政治的公平性は求められません。

 この政治的公平性は実際には実現不可能な理想であるため、政治的に公平でない放送が必然的に行われます。

 実際、公平というのであれば、先の東京10区の補欠選での幸福実現党の立候補者を無視すべきではないし、都知事選の候補者であるスマイル党総裁のマック赤坂も大いに取り上げるべきです。個人的にはいずれの候補者も無視してもらった方が有難いですが、それぞれの候補者を無視することが政治的に公平であるかと問われれば、公平とは言えないでしょう。選挙では、一応、政見放送という候補者が主張をできる場を提供はしていますが、あくまで公平でない放送に対する補償に過ぎません。

2.2 放送局への政治介入

 放送事業は、免許事業であるが故に、免許取消等を示唆することで、放送事業者への政治介入が行われます*3*4。脅しの効果があったのか、なかったのか、今年になって立て続けにテレビ朝日「報道ステーション」の古舘伊知郎氏、TBS「NEWS23」の岸井成格氏、NHK「クローズアップ現代」の国谷裕子氏など辛口なニュースキャスターが降板となりました*5

 個人的には、私にとっての主要3番組が見る価値がない(存在しない)ものになってしまったので、残ったのは、WBSぐらい。辛口コメントもなく、単にニュースを流しているだけなら、ネットで十分です。今では、伝統的なニュース番組よりも、寧ろ、ワイドショーの方が、深掘りや追及が激しく、余程ジャーナリズム精神に溢れているのではなかと思います(東京都のネタが尽きると、ゴシップ番組に戻る気もしますけど)。

 NHKに至っては、政治介入どころか、政権が経営陣の人事権を握っていますので*6*7*8、籾井会長曰く「政府が右と言っていることを左と言う訳にもいかない」と、公平でない放送を目指す放送局となっています。

 日本は、放送の政治介入や自主規制、政権の意を忖度した報道姿勢などが評価されてか、2016年の世界の報道自由度ランキングで、71位のタンザニアの下の72位となりました。日本以下には、レソト・アルメニア・ニカラグアが続きます*9。2010年の11位からの見事な急降下。実に不名誉なことです。

2.3 放送メディアの表現の自由の限界

 放送は、電波の帯域制限から自由な参入ができず、免許事業となります。また、自由に参入ができない免許事業であるが故に、放送には公平性が求められます。しかし、この公平性を理由に免許取消をちらつかせることで、政権に批判的な放送に政治介入をするという余地ができてしまっています。また、NHKにおいては、そもそも時の政権が経営者を選ぶので、政権の意向に沿う報道を行うことは当然と言えば当然です。

 これが、放送というメディアにおける表現の自由の現実であり、限界です。

3. 通信による放送の終焉

 さて、ここからが今回の記事の本題です。放送で表現の自由が制約され、通信では制約されないのであれば、今後10年単位のスパンで目指すべきものは、通信によって放送を終焉させることではないかと思います。過激です(笑)。

3.1 5G時代の通信速度

 現在のインタネットの通信速度は、おおよそ光ファイバー回線で1Gbps、現状のLTE通信で100Mbps。これが2020年頃に導入され始める5G通信となると現状の約100倍の10Gbpsの通信速度となります*10。通信速度が100倍になったとしても、基本的には、通信費は100倍にならず、現状と同程度、許容される通信のデータ総量も100倍程度になると思います。現状での通信量制限はほぼ撤廃され、映像を5G回線で好きなだけ自由に視聴できるようになるでしょう。

 但し、2020年の段階では、無線通信で各世帯が現状のテレビのように視聴したら通信容量オーバーとなる可能性はありますが、さらに10年も経てば、それも問題とならないでしょう。有線通信ならば、徐々に移行するのであれば、現状でも、十分、通信負荷に耐えられると思います。また、映像の配信をユニキャストではなく、マルチキャストで実現するのであれば、通信網への負荷を大幅に低減できます。

 なお、放送を通信に置き換えたとしても、テレビのユーザインタフェースは、現状のテレビと変わらないように作ることはできるので、「パソコンを使わなきゃいけないの?」と心配する必要はありません。現状でも、最近のテレビであれば、AmazonビデオやU-NEXT、Netflix、Huluなど普通に見られます(通信回線とコンテンツ事業者との契約は必要)。

3.2 放送から通信への移行

 放送では参入制限から表現の自由は制限されますが、通信では、表現の自由は担保されます(されるべきです)。今後、技術的に放送を通信に置き換えても問題にならないのであれば、表現の自由が制約される放送は廃止し、通信に移行すべきです。

 その際に、現状の放送事業者は、コンテンツを配信する土管(無線局)としての役割を通信事業者に譲り、コンテンツ制作者に特化することになります。コンテンツに魅力がなければ視聴されず、その事業者は淘汰されることになりますが、致し方ないでしょう。また、コンテンツを制作せず、放送を配信する土管事業を行っているだけの放送局は存続できません。

3.3 NHKの位置づけ

 このとき、NHKはどう扱うべきでしょうか?

 「公共放送とは何か?」というNHKの存続意義についての本質的な問いに対して、合理的で納得できる回答が得られないのであれば、NHKは民間企業として他のコンテンツ事業者と同じ土俵で競争すべきでしょう。このとき、NHKに求められていた公平性の制限は不要です。コスト回収も、自助努力によってなされるべきで、現行の受信契約制度のような特別な優遇をする必要もありません。

3.4 通信事業者の位置づけ

 また、通信事業者はどう扱うべきでしょうか?

 通信事業者は、コンテンツ事業者への公平性が求められるので、コンテンツ事業は分離する必要があるでしょう。これは、現状の放送と同じように通信事業は誰もが参入できる自由度がないためです。

 通信事業者とコンテンツ事業者は分離されるべきであるという観点からすると、AT&Tのタイム・ワーナー買収*11は許可されるべきではありません。しかし、通信とコンテンツの垂直統合という流れがあるので、買収審査はどうなるのでしょうかね。垂直統合は通信設備の費用を誰が負担すべきかという問題とも関連します。垂直統合は、コンテンツ事業者が上げた収益は通信事業者には還元されないという、昔から指摘されてきたコンテンツ事業者の通信網のタダ乗り問題に対する対抗手段となり、コンテンツ事業の収益を通信設備の投資に充てる余地ができます。しかし、これは他のコンテンツ事業者の排除にも繋がります。

4. まとめ

 いずれにせよ、将来的には、放送を通信に置き換え、表現の自由が制限される放送はその歴史的役割を終え、終焉を迎えるべきです。

(2016/10/28)

*1:例えば、
朝日新聞DIGITAL, 「NHKは悲願、地方民放は試練 ネット同時配信解禁へ」, 2016/10/19.
読売新聞, 社説「ネット同時配信 公共放送の役割を吟味したい」, 2016/10/26.

*2:総務省が10月19日開催の情報通信審議会で同時配信を実現するための「「放送コンテンツの製作・流通の促進等に関する検討委員会」を設置しました。この中で、サイマルキャストについても議論されます。

*3:日刊ゲンダイDIGITAL, 「「報ステ」にまた圧力…自民党がテレ朝幹部を異例の呼び出し」, 2015/4/15.

*4:木村正人, 「「政治的公平」違反繰り返せば「電波停止も NHK・民放VS高市バトルの行方」, 2016/2/9.

*5:産経ニュース, 「古舘、岸井、国谷キャスターも… テレビ報道の顔交代 「公正」注文で及び腰?」, 2016/1/21.

*6:正確には、NHKの経営委員は国会の同意のもと内閣総理大臣が任命し、経営委員会がNHK会長を任命します。

*7:J-CASTニュース「NHK経営委員に仰天「安倍人事」 百田尚樹、長谷川三千子氏ら「保守派論客」メンバー」, 2013/10/25.

*8:日刊ゲンダイDIGITAL, 「官邸の“NHK支配”ますます加速 安倍シンパが経営委員長に」, 2016/7/2.

*9:朝日新聞DIGITAL, 「報道の自由度、日本は72位 国際NGO「問題がある」」, 2016/4/20.

*10:ラクジョブ新聞, 「携帯電話の通信速度が現在の100倍へ!第5世代移動通信(5G)で変わるゲーム開発の可能性」, 2016/6/10.
総務省, 「2020年代に向けたワイヤレスブロードバンド戦略」,2015/6/26.

*11:日経新聞Web版, 「AT&T、複合メディアに タイムワーナー買収を発表 」, 2016/10/24.

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