NHKの受信料の義務化が、しばしば話題になります。最近でもワンセグ裁判で契約が義務ないとの判決がでており、関連して「支払義務化」についての記事も見かけるようになりました。本記事では、NHKの受信料義務化に伴う影響について、未払い受信料が債権であるという観点から考えたいと思います。
受信料の義務化とは
NHKの義務化については、特に去年の自民党「放送法の改正に関する小委員会」が昨年9月に「受信料の支払義務化」の提言をまとめたことから、ニュースや新聞でいろいろと取り上げられました*1。ワンセグ裁判や同時配信などの報道でも、受信料の義務化が話題になっています*2。
NHKの受信料義務化について簡単に説明します。NHKの受信料の支払は、(1)NHKとの受信契約を行った後に、(2)受信契約に基づきNHKへの支払いを行うという流れになります。現在、法律(放送法64条1項)で、視聴者に義務付けられているのは、(1)のNHKとの受信契約です。受信料支払については義務付けられていません。しかし、(2)のNHK受信規約に基づきNHKと受信契約を結ぶと、受信料の支払義務が発生します。
受信料の支払義務化とは、法律を変更して、(1)の放送法の段階で受信料の支払を義務化するというものです。
受信契約をしていない人はどうなるか?
受信料を義務化すると、現在、受信契約をしていない人でも、NHKへの受信料支払義務が発生します。そのままの状態を継続すれば、NHKへ支払うべき受信料債務が発生します。一方、NHK側から見れば、NHKが回収すべき債権が発生します。
つまり、受信料未払いの視聴者は、債務者となり、NHKは債権者となります。
現在、受信契約をしている世帯が全体の80%程度です*3。具体的には、2015年度末で、対象世帯数4652万世帯のうち、契約世帯数は3671万件で79%、世帯支払い数は3564万件で77%となっています。
義務化をすれば、受信料を支払わない視聴者は、いきなり債務者になります。受信契約率が同じであれば、未払い世帯数は、現在の107万世帯から1088万世帯となり、一挙に10倍の世帯が債務者となります。
現状でも、未契約者は契約した時点で過去に遡った受信料債務を抱えることになります。つまり、表面に現れないだけで、NHKは多額の隠れ債権を持っています。未契約世帯の大部分がテレビ設置から10年を超えると考えられるので、現在、NHKは数兆円規模の隠れ債権を持っていると容易に推測することができます。
NHKは国内最大の消費者債権を保有
NHKの支払をしなかった場合の債務は、NHK放送受信規約第12条の2(支払いの延滞)によれば1期(2カ月)毎に、2.0%の延滞遅延金が発生します。これが単利なのか複利なのか良く分かりませんでしたが、単利計算であれば、年率12%の延滞利息、複利計算であれば、1年で1.026=1.1262なので年率12.62%の利息となります。消費者金融並みの利息です。
仮に地上契約(月額1310円)で5年以上不払いを続けると、次の債務額となります。
- 支払うべき受信料(元本相当):1,310円×12カ月×5年=78,600円
- 延滞遅延金を含む債務(単利計算):101,394円
- 延滞遅延金を含む債務(複利計算):106,288円
5年以上の不払いでも5年で計算しているのは、受信料債務の時効が5年であるため*4。
仮に2015年度末の未払い世帯数と同じ1088万世帯が5年分の未払い債務を抱えるとすると、以下の債権をNHKが持つことになります。
- 106,288円×1088万件=1.15兆円(複利計算)
つまり、NHKは、消費者金融最大手のプロミスの貸付金残高1.02兆円を超える債権を持つことになります*5。
1088万世帯がそれぞれ13年間滞納すれば、NHKは1088万件×482,881円=5.3兆円(複利計算)の債権を持つことになります(時効は裁判を経ないと適用できない)。年利12.62%なので、年間約6600億円の債権が増加します。延滞遅延金を取り立てるだけで、現在の受信料収入と同額となりますので、NHK受信料の無料化が実現できます(笑)。
現在でも、NHKは107万世帯の債務者(未払い世帯)の多額の債権を持っています。NHK財務諸表(2015)によれば、170億円の受信料未収金があります。実際の額面上の債権総額は良く分かりませんが、年間170億円の新規債権が発生していると仮定すると、単純に5倍すると850億円となります。このため、NHKは、現在でも、額面ベースで1000億円前後の債権を持っているのではないかと推察できます。
厳しい取立てが可能なNHK
消費者金融は、昔はサラ金と呼ばれていました。サラ金といえば、厳しい取り立て。これが社会問題となり、現在では、貸金業法により、厳しい取立ては禁止されています。例えば、以下のような規制があります。
貸金業法・貸金業法施行規則で規制される違法な取り立ての例*6
●「午後9時~午前8時以外の時間に債務者に電話をかけたり、FAXを送ったり、自宅を訪問すること」(貸金業法第21条の1)
●「債務者から、訪問に対して退去するように意思表示されたにもかかわらず、退去しないこと」(貸金業法第21の4)
一方、NHKは貸金業をしているわけではないので、この規制は適用されません。このため、NHK集金人は貸金業法で禁止されているような行為を日常的に行います。また、貸金業法では、上記のような取立てを行えば、業務停止命令を受けるなどの処分が下される場合がありますが、NHKの場合には、NHK集金人が貸金業法で違法となるような取立て(契約活動)を行っても、処罰を受けることはありません(NHKの場合は、合法ですから)。
NHKは国内最大のサラ金へ
今後、受信料を義務化すれば、NHKは1兆円規模の債権を保有し、国内最大の債権者を抱える組織となります。つまり、NHKは、貸金業法で違法となるような厳しい取立てをすることができる国内最大の"サラ金"となると言えます。
また、NHKは債権回収(契約業務)を外部委託しているので、債権回収の業者は繁盛しますが、人手不足で、今よりもさらに悪質な集金・取立が行われ、多数の視聴者がその被害を被ることになるでしょう。
まとめ
受信料義務化に伴い、NHKは国内最大の消費者債権を持つ巨大組織となります。この消費者債権を持つNHKは、貸金業法に基づく規制が適用されず、合法的に貸金業法で禁止されるような悪質な取立てが行えます。これまでよりも、多くの視聴者が被害を受けることが予想されます。
現状でも、多数の被害者が出ています。少なくとも、金融業法で禁止されているような行為を禁止し、違反すれば、NHKに対する業務停止を含む改善命令を下せるように法改正をすべきです。
また、義務化をするのであれば、集金人を使うというような時代遅れでトラブルが多い方法で契約・債権回収をするのではなく、トラブルが発生しない方法をセットで考えるべきでしょう。
スクランブル化は、視聴者間の不公平感もなく、NHK被害者が少なくなる最も良い方法ではないかと思います。また、スクランブル化によって、受信料収入の増加も期待できるので、NHKの経営によっても良い施策ではないでしょうか。NHKは良質なコンテンツを作る能力はあるのですから、減収を心配する必要など全くないでしょう。
いずれにせよ、NHK集金人による横暴で悪質な取立ての被害者を増すことがないよう施策を講じる必要があります。
(2016/10/30)
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*1:産経ニュース, 「NHK受信料の「支払い義務化」は、是か非か?」, 2015/10/18.
*2:東洋経済ONLINE, 「NHKの受信料、「支払い義務化」はできるのか「ワンセグ携帯裁判」では契約義務なし判決」, 2016/10/24.
*3:NHK, 「受信料・受信契約数に関するデータ」.
NHK, 「受信料・受信契約数に関するデータ(契約率・支払い率)」(2015年度末)
*4:
Q. 受信料に時効はあるのか?
A. 受信料の消滅時効は5年になります。
※受信料のお支払いが滞っている分については、これまでどおり全額請求させていただき、時効の申し出があった場合には、時効を5年として取り扱います。
出典:NHK, 「お支払いに関するQ&A(受信料に時効はあるのか)」
以下によれば、裁判となるまでは、基本的にNHKに5年時効を申し出ない方がよいようです。
NHKが最高裁で時効5年と判決された意味と対策3-1 - YouTube (立花孝志)
*5:Next Web Search, 「大手消費者金融一覧」
SMBCコンシューマファイナンス, 「2016年3月期決算説明資料」, 2016/5/13..SMBCコンシューマファイナンスは、プロミスの運営会社。
*6:お金を学べる情報ポータル・ファイグー, 「借金督促(取り立て)の9ルール。これに違反していたらすぐに警察へ」, 2016/10/25(最終更新日)