時事随想

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日本国憲法における自衛権行使の制限

 本稿では、新しくできた無人島の領土問題を例に日本国憲法における自衛権行使の制限について考察する。

1. 国際紛争を解決するための武力行使であって、且つ、自衛のための武力行使であることはありうるか?

 「国際紛争を解決するための武力行使であって、且つ、自衛のための武力行使であることはあり得るか?」

 この命題に対する答えは、真、あり得る、である。

 以下、証明する。

 この命題が真であることを証明するためには、一例をあげれば十分である。この一例として領土問題を取り上げる。以下の領土問題のシナリオを考える。


 新しくできた無人島X※に、P国、Q国がともに領有権を主張すると仮定する。

 この領土問題は、国際紛争である。

  • ➀ P国が島Xを占拠する(Q国にとってはP国の行為は侵略行為である)。
  • ➁ Q国は、このP国の侵略に対して自衛権を行使する(武力行使q)。
  • ③ 同様に、Q国の自衛権行使は、P国にとっては侵略行為である。
  • ④ P国は、このQ国の侵略に対して、自衛権を行使する(武力行使p)。

 よって、P国、Q国は、それぞれ「国際紛争を解決する手段として」、「自衛権に基づき」、武力行使p,武力行使qをしたことになる。

 つまり、武力行使p,qは、「国際紛争を解決するための手段としての武力行使であって、且つ、自衛のための武力行使である」。

(証明終)

 さて、国際紛争解決のための武力行使の禁止と、自衛権の行使では、どちらが優先されるのであろうか?この問いについては、次節にて、検討する。

※ 新しくできる島の候補としては、例えば、南日吉海山という海底火山がある。

2.日本国憲法は、すべての自衛権行使を容認しているか?

2.1 日本国憲法における自衛権行使の制限

 自衛権は、自国対する急迫不正の侵害を排除するために、武力を持って必要な行為を行う権利である。主権を持つ領土への侵入・占拠なども、自国に対する不正侵害であるため、自衛権行使の対象となり得る。

 さて、第9条において武力行使を全面禁止している日本国憲法において、自衛権行使ができると解釈する根拠は、第13条の国民の生命、自由、幸福追求の権利(幸福追求権)が第9条の武力の全面禁止より優位と考えるからである。

 つまり、例外となる武力行使は、国民の幸福追求権を侵害された場合の自衛権行使のみであり(自衛権行使の基準S)、無人島の占拠のような主権侵害では自衛権を行使することはできない。

 先の無人島の例では、主権侵害はあるものの、無人島Xには国民が居住しておらず、国民の幸福追求権が侵害されることはないので、自衛のための武力行使はできない。武力を用いない平和的な方法で問題解決を図ることとなる。

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2.2 自衛権行使基準の相違

 P国、Q国が自衛権行使基準Sに従えば、少なくとも先に挙げた無人島の領土問題では、武力衝突が発生しない。

 しかし、実際には各国の自衛権行使基準は異なる。このため、次のようなケースが発生する。

➀ P国も、Q国も基準Sに従い、自衛権を行使すれば、武力衝突は発生しない。
➁ P国が基準Sに必ず従い、Q国は通常の基準で行使すれば、Q国は武力衝突なしに島Xを実行支配できる。
③ P国も、Q国も、自衛権を必ず行使するのであれば、武力衝突が発生する。

 日本国憲法の理念は➀である。しかし、現在では、➁を望まないために、③を選択するというように日本人の意識が変化しているのだろう。時代の変革期にきている。

 なお、領土を実効支配し、且つ、国民がその領土にいれば、国民の幸福追求権が侵害されることになるため、自衛権行使は可能となる。しかし、実効支配し、領土となった場合でも、無人島では国民の幸福追求権が侵害されるわけではないので、武力行使はできず、平和的に解決する必要がある。

3.最後に

 「(第12条を自衛権行使の根拠とした場合)日本国憲法における自衛権行使は、幸福追求権が侵害される場合に限定される」という憲法解釈は他に例はないと思うが、こういう解釈もありうるということを理解して頂けると幸いである。

(2017/11/17)

(追記)

 「日本国憲法における自衛権行使は、幸福追求権が侵害される場合に限定される」という憲法解釈の考え方は、昭和47年見解と言われる内閣法制局長官の集団的自衛権を否定する答弁書の中に現れる。このため、他の国会論議や憲法学の見解にも示されているものと推測できる。  但し、無人島に対する自衛権行使については、この答弁で取り扱っている問題ではないので、自衛権行使ができるとも、できないとも言っていない。

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