1. 合区解消のための憲法改正
自民党では、憲法改正を議論しているが、その一つが選挙制度に関する改正案である。
自民党憲法改正推進本部が選挙制度に関する改憲条文案をまとめた。
参院選で2つの県を1つの選挙区とする「合区」を解消し、各都道府県から1人以上を選出できるようにする。衆院選では市区町村が複数の小選挙区に分割される区割りを防ぐ。
(中略)
自民党は、合区では地方の声が国政に反映されにくいとし、現行の47都道府県を単位とする参院選挙区にこだわった。合区対象県には自民党の強固な支持基盤があるという現実を前に、党利を図っているとみられても仕方ない。
産経ニュース「合区解消の憲法改正案 無理に無理を重ねるのか」, 2018年2月21日.
2. 地方の声が国政に反映されない?
参議院選挙区では、島根県・鳥取県と徳島県・高知県が合区となっている(総務省)。
自民党によれば、合区からの選出では地方の声が反映されにくく、県単位の選出だと地方の声が反映されるという。意味不明である。
単に選出された議員が選挙区の声を反映する努力をしていないということではないのか?
同じ定数2で言えば、沖縄県の方がはるかに選挙区内の距離が離れている。他にも定数2で、それぞれの合区よりも面積でも、人口でも大きい県はある(付録)。
要するに合区から選出された議員がどれだけ地方の声を反映するかであって、選挙区の問題ではなく、選出された議員の問題である。
3. 鳥取島根県と徳島高知県を作ればよい
それでも、どうしても、都道府県に拘るのであれば、憲法14条が保障する法の下での平等に答えるために、人口が少ない県を統廃合すればよい。
例えば、以下のように県の廃止と新設を行えばよい。
- 鳥取県・島根県を廃止し、鳥取島根県を新設
- 徳島県・高知県を廃止し、徳島高知県を新設
これで、都道府県毎に1名以上の議員を選出でき、憲法14条と矛盾しない。
ただでさえ、今後、人口が減少し、成り立たなくなる地方自治体が多数発生すると言われる。
県についても、小さな単位でいることが合理的でないならば、統廃合の例外とするべきではないだろう(付録B)。
地方自治体の統廃合、特に県レベルの統廃合は、地方の歴史を無視していると言われるかもしれないが、明治維新では遥かに大胆な統廃合を行っている。出来ないという理由にはならない。
「一票の格差」違憲判断の真意
福田 博 オーラルヒストリー, 外交官としての世界観と最高裁判事の10年
福田 博, 山田隆司・嘉多山 宗(編)
(ミネルヴァ書房, 2016)
付録A:合区の人口と面積について
A.1 各県の人口と面積
A.1.1 各県の人口
合区となっている鳥取県・島根県と高知県・徳島県の人口は、2017年の統計でそれぞれ以下の通りである(都道府県 人口ランキング)。
- 鳥取県:565,233名
- 島根県:684,668名
- 高知県:713,465名
- 徳島県:743,356名
この4県は、47都道府県の中で最も人口が少ない県である。
この人口を市町村の人口と比べると、次のランキングとなる(全国の市 人口ランキング)。
- 鳥取県:25位
- 島根県:21位
- 高知県:20位
- 徳島県:17位
これには、東京23区が入っていない。東京23区には、鳥取県よりも人口が多い区(板橋区、杉並区、足立区、江戸川区、大田区、練馬区、世田谷区)が7つあり、これらを考慮すると、順位は次のようになる。
- 鳥取県:32位
- 島根県:25位
- 高知県:23位
- 徳島県:18位
つまり、これらの4県の人口は、多少大きな市の人口にも満たない。
人口減少を推移をみると、これらの地方の県は人口減少が進み、人口ランキングはさらに下がるだろう。
A.1.2 各県の面積
4県の面積は、以下の通りである(都道府県 人口・面積・人口密度ランキング)。
- 鳥取県:3,507 km2(41位)
- 島根県:6,708 km2(19位)
- 高知県:7,104 km2(18位)
- 徳島県:4,147 km2(36位)
それぞれ単独で見ると、都道府県の中では、中程度の大きさとなっている。
A.2 合区の面積と人口
さて、それぞれの合区の面積・人口をまとめると、次の通りである。
- 鳥取県+島根県:10,215 km2、1,249,901名
- 高知県+徳島県:11,251 km2、1,456,821名
鳥取・島根合区の面積よりも、大きく、定数2の参院選挙区には、岐阜県・新潟県・長野県・福島県・岩手県がある。それぞれの人口と面積は、以下の通りである。
- 岐阜県:10,621 km2、2,010,698名
- 新潟県:12,584 km2、2,266,121名
- 長野県:13,561 km2、2,076,017名
- 福島県:13,783 km2、1,882,666名
- 岩手県:15,275 km2、1,254,807名
同じ定数2で比べても、鳥取・島根合区よりも、上記の5県は面積も人口も大きい。高知・徳島合区でも新潟・長野・福島の3県の方が面積・人口がともに多い。
面積・人口が大きい県の選出の議員よりも、面積・人口ともに小さい合区選出の議員の方が、地方の声を聴けないとすれば、それは議員の問題である。
付録B. 廃藩置県と昭和・平成の大合併
都道府県の多くは、奈良時代の律令制度に基づいて設置された行政区(令制国)に沿った形で設置されている。それでも、現在の都道府県は、必ずしも昔からの令制国に一対一で対応しているものではない。
例えば、現在の徳島県は阿波国、高知県は土佐国で概ね令制国と一致しているが、島根県・鳥取県は、令制国で見れば、以下のように統合した結果である。
- 島根県=石見国+出雲国+隠岐国
- 鳥取県=因幡国+伯耆国
平安から江戸期の令制国の数は66か国とも、68か国ともいわれるが、現在は、沖縄・北海道を入れても47の都道府県しかない。つまり、少なくとも20か国程度は明治の廃藩置県までに統廃合が行われている。
昭和や平成の大合併では、市町村レベルでは大規模な統廃合が行われている(ウィキペディア)。
小さな地方自治体を存続させるよりも、統廃合してより大きな地方自治体にすることは合理的な考えである。
県であっても、同じように統廃合することが合理的と言えるのであれば、統廃合すればよい。現在の都道府県の単位を金科玉条の如く守る必要はない。
(2018/2/22)
(2018/4/15:追記)
産経ニュースでも、筆者と同旨の論説がありました。
人口が50万人を割るような県では、「1県1自治体」、「1県2自治体」とするぐらいの大胆さが必要だ。さらに減るようならば、都道府県同士の合併、再編も視野に入ってくる。
産経ニュース, 「地方人口の激減 「1県1自治体」の発想必要 論説委員 河合雅司」, 2018/4/15
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廃県して新しく「鳥取島根県」と「徳島高知県」を作れば、自民党改正案と憲法14条は矛盾しない。https://t.co/fSIKuO3UEO @Sankei_newsさんから
— 天祐虎之助 (@TenyuToranosuke) 2018年2月22日