1. 前川氏講演への質問状
前川喜平氏が中学校で講演を行ったことに対し、文科省が質問状を送った問題。
自民党の文部科学部会長の赤池誠章参院議員と同部会会長代理の池田佳隆衆院議員が文科省に圧力かけて質問状を送らせたことが分かりました。
朝日新聞の記事によれば、赤池氏は記者会見で、次のように述べました。
赤池氏は「(今回のことが)文科省への圧力になるなら、国会議員は仕事ができなくなる」と主張。
これでは、「政治的圧力を掛けることが、国会議員の仕事」と言っているように聞こえてしまいます。
調べてみると、確かに、国会議員として、政治的圧力を掛けることが、少なからずありました。
2. ちびまる子ちゃんの「友達に国境はな~い!」
早速、ネット上で指摘されたのが、赤池議員が、ちびまる子ちゃんの「友達に国境はな~い!」という映画のキャッチコピーについて文科省に圧力を掛けたこと。この映画は「ちびまる子ちゃん イタリアから来た少年」で、文科省と東宝がタイアップして「国民に広く国際教育に対する理解・普及を図るため」製作したもの。
映画では、まる子たち日本の小学生が海外から来た小学生と交流し友情を深める姿が描かれており、国際理解の魅力・大切さを伝える内容となっています。これは、文部科学省が推進している国際教育の普及啓発の趣旨にも沿っていると考えられるものであり、本企画を通じて国際教育の趣旨を広く伝えていきたいと考えています。
文部科学省, 「映画ちびまる子ちゃん イタリアから来た少年 と国際教育」
これに対して、赤池氏はブログで次のように述べています。
私は、このポスターを見て、思わず仰け反りそうになりました。同省政務官時代に、国家公務員として、それも国家の継続を担う文科行政を担う矜持を持て。国際社会とは国家間の国益を巡る戦いの場であり、地球市民、世界市民のコスモポリタンでは通用しないと機会あるごとに言ってきたのに・・・
そして、次のように続きます。
文科省の担当課に確認しました。ちびまる子ちゃんが言う分には目くじら立てる程のことはないと思ったのですが、東宝株式会社からいくつかのキャッチフレーズの提案があり、わざわざこれを文科省の担当課が選んだとか・・・ 誰も異論を挟む人はいなかったとのことでした。
たかがキャッチフレーズ。されどキャッチフレーズ。一事が万事で、言葉に思想が表出するものです。国家意識なき教育行政を執行させられたら、日本という国家はなくなってしまいます。
文科省の担当課には、猛省を促しました。
猛省を促すとは、要するに「こんなキャッチフレーズを付けるな」と文科省に圧力を掛けたということです。
これが政治家の仕事なのでしょうか?
THE 独裁者 国難を呼ぶ男! 安倍晋三
古賀 茂明, 望月 衣塑子
(ベストセラーズ, 2018)
国際会議を何度となく経験したことがありますが、「国際社会とは国家間の国益を巡る戦いの場」という面も確かにあります。しかし、会議を終われば、お友達です。スポーツの試合後みたいなもの。
寧ろ、国際会議での戦いでは、積極的にお友達にならないといけないのです。
国際会議は、最終的には皆の利益になるために行うもの、「友達に国境はな~い!」のコスモポリタンの世界です。でも、時に国益がぶつかることもあります。その場合には戦う。日本だけでは戦えなければ、他国と共同戦線を組む。私などは英語もろくにできないので、他国軍を前線に送り込むことも多かったです。
独軍やポーランド軍との戦いでは単独勝利できたこともありましたが、やはり単独戦は厳しい。
- 途中まで敵だった韓国軍と共同戦線を張り、中国軍を撃退したり
- 物量を誇る米軍と日本軍が単独で戦うのは、無理!利益が一致する英軍と組み、英軍を前線に送り込んで、こちらが司令塔として戦ったり
と、いろいろやってきました。でも、ほとんどの場合は、争うことに利はないので、地球市民として皆と協力するのです。
赤池氏は、ゼロサム思考になっているのではないでしょうか?どちらかが儲ければ、どちらかが損をする。ほとんどの交渉事でゼロサムやマイナスサムとなることはありません。なぜなら、片方がマイナスなら、交渉は決裂するからです。両者がプラスになって、初めて奪い合いが成立します(もっとも、圧倒的な強者と弱者では、プラスサムどころか、マイナスサムでも、弱者は奪われる一方ということもあるでしょうが)。
また、お友達になるためには、他国への理解が必要で、母国の文化や伝統、日本に対する理解が重要であることに気付きます。そして、自分が日本人であることを強く自覚することになるのです。
国家意識を植え付けて、排他的・排外主義的な教育を行い、国際協調のない人材を育成する教育が、日本という国家が存続する道とは到底考えられません。赤池氏はそのような教育をするつもりはないと言うかもしれませんが、私には、そのような教育が赤池氏の理想的な教育であるように聞こえます。
自分の話が長くなってしまいましたが、続けます。
3. 教育勅語のどこがいけない?
リテラによれば、赤池氏はWiLLという雑誌の座談会で次のように発言したそうです。
赤池議員が教育勅語を礼賛したのに続けて、稲田議員が教育勅語を子どもたちに暗唱させる森友学園の方針をもち上げながら、文科省が新聞の取材に「教育勅語を幼稚園で教えるのは適当ではない」とコメントしたことを批判。
(赤池氏)「文科省の方に、『教育勅語のどこがいけないのか』と聞きました。すると、『教育勅語が適当ではないのではなくて、幼稚園児に丸覚えさせる教育方法自体が適当ではないという主旨だった』と逃げたのです」
と文科省に圧力をかけたことを自慢げに語っている。
リテラ, 「前川氏授業の圧力の安倍チル・赤池議員が『ちびまる子ちゃん』にも圧力!「友達には国境はな~い」のコピーに「国家意識がない」」, 2018/3/21.
「教育勅語」についても、文科省へ政治的圧力を掛けていたのです。
4. その他の事例
4.1 安倍氏らによるNHK番組への圧力問題(2001)
当時、内閣副官房長官だった安倍晋三氏や他の自民党国会議員がNHKへの政治的圧力を掛け、慰安婦を扱ったNHKの番組を改変させたとされる事件です。政治的圧力の有無についていろいろと意見が分かれ、現在でもいろいろと物議が醸し出されます。
この問題では、取材協力した「戦争と女性への暴力 日本ネットワーク(VAWW-NETジャパン」とNHKの間で訴訟が起こりました。しかし、圧力を掛けたとされる安倍氏やその他の国会議員が、訴訟当事者として関わった裁判ではないため、安倍氏らの不法行為を判断する裁判ではありませんでした。
しかしながら、最高裁の判決文の中には事実関係として次の記載があります。
同副長官は,従軍慰安婦問題について持論を展開した上,Y1(NHKのこと)がとりわけ求められている公正中立の立場で報道すべきではないかと指摘した。
(中略)
番組作りは公正中立であるようにとの国会議員等の発言を必要以上に重く受け止め,その意図をそん度してできるだけ当たり障りの無いような番組とすることを考え,そのような形にすべく本件番組について直接指示したことにより,修正が繰り返されたものであって,これは当初の本件番組の趣旨とはそぐわない意図からされた編集行為であった。
最高裁判決(2008年6月12日)
この事実関係は、政治的圧力がかかって、NHKが番組改変を行ったと受け取れる行為です。但し、不法行為を問うことができるかは別問題です。例えば、今回報道があった文科省の問題は不法行為を問うことができるほどの事案とは思えませんが、政治的圧力を加えたということができるでしょう。これと同様な意味で、NHK番組改変事件も政治的圧力が加わったと言えるでしょう。
NHKと政治権力――番組改変事件当事者の証言
永田 浩三
(岩波現代文庫, 2014)
4.2 2016年に起こった相次ぐメディアへの政治介入
NHKやテレビ朝日の幹部が自民党に呼び出され、事情聴取されるなどして、番組に政治介入を行った事案。その他、2016年にはTBSのNEWS23の岸井成格氏やテレビ朝日の報道ステーションの古舘伊知郎氏の降板などに政治圧力が加わったとの噂がありました。
5. 最後に
自民党の文部科学部会長・副会長による文科省への質問状を強要する事件から、少なくとも自民党の一部の議員については、政治的圧力を掛けることが国会議員の仕事のようです。このような人物が自民党の要職についていることに疑問を感じます。
もちろん、これらの議員でも、ちゃんとした政治活動をしていると信じたいですが、信じてよいのか、良く分かりません。
(2018/3/21)
A. 「友達に国境はな~い」問題のその後の報道
AERA.dotの取材に関連して、赤池氏コメントが含む報道がされています。
- 赤池議員のブログ (2018/3/24)
AERA dot. からの取材 映画『ちびまる子ちゃん イタリアから来た少年』ついて
AERAからの質問に対する赤池氏の主な回答は以下の通りです。- 「教育行政を司る文部科学省として、子供向けとはいえ、「国境はない」という嘘を教え、誤認をさせてはいけないということです。国境は歴然としてあります。国家があってこそ、私達の平和で安全な暮らしが守られています。国家が発行するパスポートがなければ、出国もできませんし、他国へ入国することもできません。」
- 「私なら「国境があっても、友達でいよう」と名付けたいところです。」
- 「国民に選ばれた立法府の一員として、行政府に対して、事実確認を行い、問題提起をすることは当然の仕事だと思っています。」
- AERAdot.: 「ちびまる子ちゃん」キャッチに抗議の自民・赤池議員「(友達に)国境はないと嘘を教えてはいけない」(2018/3/24)
(2018/3/24:追記)