前回記事の室内空気の検査方法に引き続き、社会的検査のための低価格な集団検査法について述べます。
プール法という検体を混ぜて検査する方法がありますが、今回のアイデアは、個別検体の陽性判定を諦めることで、採取時点で検体を混ぜ合せて(プールし)、採取の簡便化・低価格化を図ろうとするものです。
例えば、学校の生徒の唾液採取の例で説明します。
1. 唾液のプール採取
① 生徒に唾液吸収パッドを配布し、各自で唾液を採取する。
例えば、次のものを用いる。
- 脱脂綿ロール
(メディコムのコットンロールの場合、直径10mm×30mm, 0.75円/個)
- Oasis Diagnostics社のPureSAL*1の吸収パッド部の素材のもの
② 吸収パッドを集める。
吸収パッドを収集袋や収集ボックスに入れる。
③ 集めたパッドをまとめて、圧搾機で唾液を抽出し、検体とする。
- (冷蔵保存・冷蔵輸送が可能な場合)この工程は、検査機関で行う。
- 検体に薬品を入れてから輸送する場合、学校側で行う必要がある。
④ 唾液検体をPCR検査する。
検査機関において、PCR検査する。
2. 唾液プール法の精度
例えば、32名の生徒の検体をまとめてPCR検査すると、一人当たり 1/32=1/25 のウィルス濃度となります。この濃度で検査すると、PCRのCt 値が+5しないと検出できないことになります。陽性判定のCt値が40であるとすれば、もともとの陽性者がCt=35で検出できるウィルス量があれば、プール検体でも陽性となることが期待できます。
3. 検査コスト
- 吸収パッド:脱脂綿ロールの場合、1個1円程度なので、32名で50円未満。
- 配送料:5000円~10,000円程度*2
- PCR検査費:2,000円(+圧搾費用)
従って、一人当たりの検査単価は、220円~380円となり、一人ひとり一般的なPCR検査を行う場合を10,000円とすると1/30~1/50程度の費用、唾液PCRの2000円と比較すると1/5~1/10程度の費用となります。 (学校全体で一括配送できる場合、学校規模によりますが、約100円程度のコストとなることが期待できます)
4. 留意点
- 圧搾機の開発、及び、衛生管理が必要
Oasis社の場合は、1検体のみなので、注射器のように唾液を圧搾抽出するが、これを複数検体で行えるようにする。
Oasis社PureSalの唾液の圧搾抽出
大きな注射器
調理用圧搾機の例
- コットンロールを飲み込むなどの事故を起こすような被験者(高齢者、幼児)には、介助者が必要。
5. まとめ
唾液プール採取による低価格な集団ウィルス検査法について考えました。
- 検査コストは、一般的なPCR検査に比較して、最大で1/100まで低減の可能性。
- 室内空気検査法に比べると、
- ウィルス検出精度は高い。
- 被験者を特定できる(室内空気検査では在室者の特定が難しい)。
- 被験者一人ひとりの唾液を採取・収集するので手間がかかる。
- 抗原検査で発生する偽陽性問題は、基本的に発生しない。
社会的検査が、実質的に陽性者が存在しないことを確認する検査となっていれば、このようなプール検体採取でも十分と思います。但し、集団検査で陽性となった場合には、ここの被験者の検体の再採取が必要となります。
(2020/11/5)
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・【コロナ】室内空気のウィルス検査による定期的な社会的検査 - 時事随想
やはり、学校での感染も多い。
— 天祐虎之助@防疫体制を強化せよ (@TenyuToranosuke) 2020年11月8日
コットンロール唾液プールのPCR検査とか、できんのかね。
超低コストで、あまり面倒くさくないので、頻回検査ができると思うのだが...。 https://t.co/kcFOx2zQcQ
(2021/9/18 追記) 1年経ってドイツでキャンディ方式が試験実施されました。ほとんど唾液プール法と同じですかね。
2021.9.18 週刊ワールドニュース
— エアボーン空気感染#COVIDisAirborne#covidCO2#bettermasks (@AirborneKanki) 2021年9月18日
🇩🇪ドイツ
【子供のPCR検査】
『キャンディー方式』
「30秒間、綿棒をなめます。1週間に2回行います。鼻に綿棒を入れるよりずっと快適です」
「ベルリンの30の施設が、今回の試験的なプロジェクトに参加しています」
1/ pic.twitter.com/nl3N7qSafZ
*1:Oasis Diagnostics PureSal Oral Specimen Collection Kit.
*2:ソフトバンクグループのPCR検査センターの場合、6,000円~10,000円程度。