コロナ対応のために多額の補助金が病院に交付されているそうです。
財務諸表が公開されているいくつかの公的な病院について調べてみました。コロナ対応のための使い切れないほどの補助金が交付され、コロナ禍でも、増収、そして大幅な増益です。
まさに補助金バブルです。
1. 調査対象
以下の病院グループについて調べました。
- 新型インフルエンザ特措法の指定公共機関の5法人*1
- 独立行政法人:国立病院機構、地域医療機能推進機構(JCHO)、労働者健康安全機構(労災病院)、国立国際医療研究センター
- 公共的機関:日本赤十字社
- 東京都病院事業(都立病院)、神奈川県立病院機構
それぞれの法人の財務諸表はネット上に公開されています。
- 国立病院機構:https://nho.hosp.go.jp/about/cnt1-0_000014.html
- 地域医療機能推進機構:https://www.jcho.go.jp/財務諸表/
- 労働者健康安全機構:https://www.johas.go.jp/jyoho/tabid/536/Default.aspx
- 国立国際医療研究センター:https://www.ncgm.go.jp/disclosure/030/010/zaimusyohyo.html
- 日本赤十字社:https://www.jrc.or.jp/about/financialresult/
- 東京都病院事業:https://www.byouin.metro.tokyo.lg.jp/about/jigyou/soshiki_gaiyou/kessan/
- 神奈川県立病院機構:https://kanagawa-pho.jp/disclosure/conventionreport.html
他の公的病院や民間病院もいくつか調べてみたのですが、財務諸表を公表していないところが多いようです。
2. 財務状況
2.1 財務状況の推移
2014年度~2020年度までの財務諸表から、補助金、経常利益、純利益、経常収益を抜き出した結果が以下の表です。
表1. 2014年度~2020年度の補助金・収益・利益の推移。
注1:日本赤十字社は2015年度以降の決算をネット公開。また、2019年度に会計報告の形式が変更されています。このため、2019年度・2020年度と同じ基準の2015年度~2018年度の補助金は不明となっています。
注2:法人によっては、本業以外の会計処理などが経常利益に影響を与えることがあるため注意が必要です。例えば、日本十字社の場合、2020年度の経常利益(日赤の会計では「当期経常増減額」)は、年金資産運用利回りや退職一時金の会計変更が反映され、548億円の経常費用減少で経常利益の増益要因となっています*2。労働者健康安全機構の場合、2016年度の退職給付費用が、前後の年度に対して30億円~110億円の変動要因となっています。その他の法人についても、特殊要因によって大きく増減している可能性があります(特に純利益は、本業以外の特殊要因の影響を受けます)。
経常収益に対する補助金率と経常利益率の年次推移を図1、図2に示します。図からも明らかなように、2020年にコロナ対策のために多額の補助金が交付され、その影響を受けて、経常利益が大幅に上昇していることが分かります。
図1. 補助金率の推移。
図2. 経常利益率の推移。
2.2 コロナ補助金3231億円、増収1682億円
表2に経常収益とコロナ補助金についてまとめました。ここで、コロナ補助金は、2020年度補助金から、2014年度から2019年の6年間の補助金平均を引いた値から推定しています。
国立病院機構の場合、この計算方法で推定した補助金額は1139億円、財務諸表のコロナの名称が付いた補助金の積み上げで計算した補助金は1118億円となり、21億円、2%の過大推定になっています。神奈川県立病院機構の場合、推定値は78.9億円、積上げ値は77.0~77.5億円で、2%の過大推定です(神奈川県立病院機構の積み上げ値の下限値はコロナの名称が付いた補助金額、上限値は下限値にコロナ関連と思われる補助金を加えた金額)。他の法人については、必ずしも補助金明細が開示されていない、開示されていても分別が困難なことが多いため、積み上げ値を算出していません。また、2019年度にもコロナ関連の補助金が交付されている場合がありますが、僅かな額で、推定値に与える影響は1%未満と思われます。
表2. 2020年度の経常収益の増減額(対前年度)。
図3. 2020年度の経常収益の増減額(対前年度)。
表2を見ると、①の経常収益(病院の収入)は、国立国際医療研究センターを除く各法人は大幅減収ですが、②のコロナ補助金により、大幅な増収になっています。7法人全体では、補助金なしでは減収1549億円ですが、コロナ補助金3231億円の収入によって1682億円の増収となっています。
2.3 増益2461億円
表3に経常利益の増減についてまとめました。前年度の経常利益は、国立病院機構、地域医療機能推進機構、国立国際医療研究センターが黒字、残り4法人は赤字です。7法人合計額では、194億円の経常赤字です。一方、2020年度の経常利益は2267億円の黒字、前年度の194億円の赤字から2461億円の増益となっています。但し、コロナ補助金が無ければ、770億円の減益、964億円の経常赤字です。コロナ補助金によって、大幅な黒字決算となりました。
日本赤十字社の特殊要因による利益増548億円を除くと、2461億円の経常利益の増益ではなく、1913億円の増益となります。その他の法人についても特殊要因の利益や損失があると思いますが、極端に大きなものはないと思います。
表3. 2020年度の経常利益の増減額(対前年度)
注:2020年度の日本赤十字社の経常利益は、退職給付会計の会計処理による548億円の増益要因の影響を受けている。
3. 余った補助金は返納すべき
コロナへの対応のための補助金として、2020年度に3000億円を超えるコロナ補助金が7法人に支出されています。国としては、公的病院にコロナ対応を担って貰いたいから、「お金のことは心配せずにやってくれ!」と多額の補助金を交付したのでしょう。必要な費用の見積もりは難しい状況でしたので、多めに補助金を交付することは、それはそれで構わないと思います。
しかし、コロナ対応の補助金によって約2000億円の増益になり、利益を法人資産に算入することは適正と言えるのでしょうか?
余った多額の補助金は返納すべきです。
(2021/9/17)
(2021/9/24 追記)
AERAにJCHOの財務諸表に基づく記事がでました(私の記事じゃない)。
・吉崎洋夫「【独自】尾身理事長の医療法人がコロナ補助金などで311億円以上の収益増、有価証券運用は130億円も増加」AERAdot. (2021.9.24).
(2021/10/11 追記)
日経新聞がコロナ補助金での病院黒字を報じました。財務省の分析です。
・日本経済新聞「コロナ補助金で病院黒字拡大 効果検証にデータ不足の声」(2021.10.11).
関連記事
・【コロナ】国立病院機構は火事場泥棒してないか? - 時事随想
付録:各法人の補助金と経常利益の推移
各法人の補助金と経常利益の推移をグラフにしました。
コロナ前は、都立病院(東京都病院事業)や神奈川県立病院機構の補助金率0.15~0.29%と非常に補助金率が低い法人から、地域医療機能推進機構の補助金率0.31~0.51%、国立病院機構の補助金率0.41~1.16%、国立国際医療研究センターの補助金率1.55~3.0%(2014年度のみ0.05%)、労働者健康安全機構の補助金率3.16~3.95%と様々です(表1参照)。
しかし、コロナ禍の2020年度は、経常収益の9.34~16.85%の補助金を得ることになります。その大部分は、コロナ対応のための補助金です。