抗原検査キットの薬局での販売が解禁されました*1。この根拠となる文書は、2021年9月27日の厚労省事務連絡「新型コロナウイルス感染症流行下における薬局での医療用抗原検査キットの取扱いについて」になります*2。
しかし、この事務連絡を読むと、厚労省が推奨するユースシナリオが今一つ分からなくなります。
1. 検査を使う場面
検査を使う場面は、次の二つだけです。
① 症状がある場合
② 症状がない場合
前者は(セルフケアを含む)診断のための検査、後者は社会的検査や接触者検査、安心のための検査などです。
2. 購入者のための説明文
事務連絡には、購入者向けの説明文のサンプルが添付されています。
図1. 薬局で説明される文書のサンプル。
この説明文に従うと、
① 症状がある場合
体調が悪いことを自覚した場合は、医療機関を受診しなければなりません。従って、症状がある場合に、抗原検査を使ってはなりません。
② 症状がない場合
使用は推奨されていません。
あれ?使う場面がない。
そこで導入されるユースシナリオが、
③ 体調が気になる場合等
セルフチェックとして利用する。
「体調が気になる」ときは、無症状なのでしょう。そうすると、「無症状なので抗原検査の使用は推奨されないが、安心のために使用するなら良いですよ」ということですかね。
推奨されない検査の使用方法が、推奨されるユースシナリオ?
変です。
3. 実際のユースシナリオ
抗原検査キットが身近になることは望ましいこととは思います。例えば、身近な人に感染者が発生したときの検査、宴会の直前などに感染を確認する社会的検査などのユースシナリオなどが考えれます。
他にも、病院で検査拒否を受けた場合の検査、接触者でも検査拒否された場合の検査も、今度の冬の大流行時には多発しそうなシナリオです。今回の抗原検査の薬局販売解禁は、ワクチン・検査パッケージもありますが、第5波の反省と第6波への備えなのかと思っています。
実際にもっとも多いユースシナリオは、軽い症状がでて、病院にいくのも面倒だし、ちょっと心配なので検査してみる、という使い方でしょうか。有症状で薬局に検査キットを購入しに行く人は多そうです。薬局は店舗前に自販機を容易しておいた方が良いかもしれませんが、購入者に使用方法などを説明した上に、誓約書への署名を求めるので、自販機を設置するわけにもいきません。
図2. 薬局購入時に署名を求められる誓約書。
発症すると、店舗PCRも郵送PCRも拒否されるので(郵送PCRは実質的に拒否されませんが)、病院一択です。建前上は正しいのかもしれませんが、建前すぎないですかね。軽い症状なら、病院へは行かないですから。
そもそも誓約書は必要ないと思いますが、説明・誓約書を必須とするなら、有症者を店舗に入れるわけにもいかないので、上手い方法を考える必要はあります。常備薬として、予め用意しておくのでしょうかね。
4. ワクチン・検査パッケージに使えるのか?
政府分科会が提案するワクチン・検査パッケージ*3における検査は、無症状者に対する社会的検査です。このような無症状者に対する検査に薬局販売される抗原検査キットを使用することは「推奨されません」。従って、ワクチン・検査パッケージに抗原検査キットを使ってはいけません(←嫌味です)。陰性証明は、PCR検査によって実現しましょう。
抗原検査でも、陰性なら、感染しててもそのときのウイルス排出量は少ないとは言えるので、宴会の直前に利用するなら良いとは思います。旅行前検査などには適していないと思います(それでもやらないよりはマシですが)。
5. ストレートに説明せよ
有症者は病院に行けとか、無症状者への検査は推奨されないとか、建前をいうから、「体調が気になる場合等」という購入者が必ずしも想定しないユースシナリオ、そして、国が期待しているであろう検査の役割と必ずしも一致しないであろうユースシナリオを提唱することになるのではないでしょうか?
(本来は推奨されない使い方ではあるが)無症状でも積極的に検査して欲しい、(本来なら病院に行って欲しいが無理なら)ちょっとした症状でも検査して欲しいということが検査に期待されている役割なのではないでしょうか?
もっとストレートに検査に期待している役割を説明すべきです。建前に縛られ過ぎています。
普段から積極的に検査することで感染抑止になります。ちょっとした症状だけで本当にみんなが病院に行ったら、病院キャパを越えてしまいます。
更に、抗原検査が普及していったら、偽陽性が頻発して病院資源を逼迫させることになります。これは、いいのでしょうかね?
PCR 検査であれば、「無症状では本来は推奨されない」とか、「偽陽性が多発する」ということはなくなります。
抗原検査だけではなく、PCR検査キットの薬局販売も解禁し、推進すべきです。そして、検査結果が得られるまでの時間をもっと短くして、PCR検査を第一選択として推奨すべきでしょう。
(2021/10/2)
(追記:2021/10/3)
vogelsang7さんのツイートで知りましたが、沖縄県がこんな資料を作っていました。(怒)
沖縄県が作ったビラ*4。
これでは、去年3月のコロナ患者の診療拒否、軽症者の初期治療はしない、重症化してから対応するという方針と変わらないではないですか。(怒)
(PCR検査の直接ルートは一応はあります。しかし、感染者が多い沖縄では、そのPCR検査ハードルは異常に高く、実質的にPCR検査ルートはないのでしょう)
「#4日間はうちで #うちで治そう」*5から、「#いつまでもうちで #うちで治そう」に劣化して、抗原検査で陽性になったら病院に行けるという例外を設けているだけ。なんなんですか!(怒)
こんな抗原検査キットの利用法は決して許してはならない。(怒)
この抗原検査のルートは、軽い症状の人はほっといてもなってしまうルートで、行政が指示することではないです。むしろ、行政はPCR検査や病院にいくことを推奨すべきでしょう。
「ストレートに説明せよ」は、行政や医療機関・医師向けには撤回。
彼らには、患者をもっと検査するように、病院に受け入れるように指導すべきです。彼ら(の一部)が、検査拒否・診療拒否の推進者・扇動者なのですから。
・vogelsang7さんのツイート
症状があれば抗原検査キットで陰性でも受診を!
— vogelsang7 (@vogelsang7) October 1, 2021
沖縄県、間違った抗原検査キットの使い方を推奨している。下手したら死ぬぞ。
明らかに厚労省の指針と矛盾している。
これ↓誰が医療監修した? 県議会に医療監修者を呼び出せ!
(追記:2021/10/6)
沖縄県がチャートを全面的に差し替えるようです。(現在は、沖縄県のフローチャートのビラへのアクセスはできません)
ただ今、沖縄県感染症対策課のT氏から電話をいただきました。
「ご指摘のとおりです。行動チャートは全面差し替えにします。非医療用キットの使用は推奨せず、抗原検査キットで陰性でも症状あるなら受診、という厚労省の指示に沿った表現に改めます」と。
"早期診断早期治療"を念押ししておきました。— vogelsang7 (@vogelsang7) October 5, 2021