時事随想

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時事随想

ニュースや新聞を見て、想ったことを綴った随想・論説集

【豊洲市場】地下空洞の水はいずこから

 豊洲市場の問題がニュースを賑わせています。本ブログでも、豊洲市場に関する問題を取り上げます。

 豊洲市場については、さまざまな視点から問題点が指摘されていますが、ここでは、テレビや新聞では、現在調査中のためか、あまり詳細には報道されていない地下空洞の汚染水の由来について考察します。また、汚染対策について検討したいと思います。

1. 地下空洞の水はいずこから

1.1 汚染水の起源に関する諸説のまとめ

 汚染水の起源について調べてみると、本ブログ末尾の参考記事に示すように様々な記事があり、諸説語られています。以下で、個人的な見解を含めて、整理します。

 汚染物質については、強アルカリ性となる原因物質、シアン化合物、六価クロム、ヒ素、ベンゼンについてまとめます。地下空洞の水が強アルカリ性となる原因物質は、水酸化カルシウムCa(OH)2((テクノクリート・施工研究会, 「コンクリートの中性化」.))と思われますが、現在のところ、水質検査の結果に関する記事は見つけられませんでした。以下では、汚染水の水の起源と汚染物質の起源についてまとめます。

 水の起源については、雨水あるいは地下水と言われています。

  • 水の起源
    • 雨水説: 隙間からコンクリート壁を伝って雨水が浸入する。
    • 地下水説: 地下空洞底面の砕石層を通して、地下水が浸入する。

 有害汚染物質については、それぞれの物質ごとに諸説あります。

  • 汚染物質の起源
    • 強アルカリ性となる原因物質
      • コンクリート説(雨水あるいは地下水により水酸化カルシウムが溶出)
      • 地下水説(東京ガスの工場で燃やした石炭の灰)
         汚染水の詳細な成分分析やコンクリートがない別の場所の砕石層における水質検査などを行うことで、コンクリート由来か、地下水由来か識別ができるでしょう。現時点での情報だけではどちらがの由来が判断することは難しいです。
    • 六価クロム(自然界に存在せず)
      • コンクリート説(コンクリートは六価クロムを含有する)
      • 地下水説(汚染土壌により汚染)
         強アルカリ性物質と同様に詳細分析等により判別できるかもしれませんが、検出限界に近い含有量なので、判別は困難でしょう。
    • ヒ素(自然界に存在)
      • 地下水説(自然界レベル)
      • 地下水説(汚染土壌により汚染)
         六価クロムと同様に検出限界に近い含有量なので、判別は困難でしょう。
    • シアン化合物(自然界に存在せず)
      • 地下水説(汚染土壌により汚染)
         自然界には存在しないので、汚染土壌の影響と考えられます。
    • ベンゼン(都心の大気レベル)
      • 大気環境説(自動車やガソリンスタンドなどから排出されるベンゼン)
      • 汚染土壌説(汚染土壌から揮発)
         豊洲市場の施設内のベンゼン濃度は、大気環境と同程度なので、施設内については、大気由来と考えても不自然ではありません。汚染土壌由来もあるかもしれませんが、判別することは困難でしょう。閉鎖空間である地下空洞の場合には、高濃度でベンゼンが検出される可能性がありますが、この場合は、汚染土壌が原因と考えられます。

 地下空洞の水が、雨水・地下水のいずれか一つのみが要因と仮定とすると、汚染の説明としては次のいずれかになるでしょう。

  • 雨水説1: 「地上の雨水が(重機搬入用の開口部など)構造物にある隙間からコンクリート壁を伝って、地下に溜まる。」
     強アルカリ性となる物質・六価クロムは、コンクリート成分が雨水により溶出したと考える。しかし、シアン化合物・ヒ素の検出については、この仮説では説明ができません。
  • 雨水説2: 「雨水が盛り土に浸透し、(コンクリート壁の隙間、あるいは、砕石層経由で)コンクリート構造の地下空間に溜まる。」
     強アルカリ性となる物質はコンクリート成分、六価クロムはコンクリートあるいは"汚染された"盛り土由来。ヒ素は"汚染された"盛り土由来、あるいは、"自然界レベルでヒ素を含有した"盛り土から溶出したと考える。シアン化合物は"汚染された"盛り土由来。
  • 地下水説: 「砕石層よりも下、不透水層の上の帯水層が汚染されている。このため、地下水も汚染され、砕石層を通じて地下空洞に溜まる。」
     強アルカリ性となる物質・六価クロムは、コンクリート成分あるいは汚染土壌に由来する。ヒ素は汚染土壌あるいは"自然界レベルでヒ素を含有した"土壌由来。シアン化合物は汚染土壌由来、

 強アルカリ性物質・六価クロム・ヒ素は、コンクリートに含有されていたり、自然界に存在し、検出量も微量なので、汚染源を特定する決め手には、なりそうにありません。鍵となる有害物質は、シアン化合物でしょうか?

 雨水説1では、シアン化合物の検出が説明できませんので、この説は排除されます。雨水説2の場合は、盛り土が汚染されていると考える必要があります。地下水説では、帯水層の土壌が汚染されていると考えます。

 実際には、雨水と地下水が混合しているのかもしれませんが、シアン化合物の由来については、「盛り土の汚染」か「帯水層土壌の汚染」のいずれかの選択肢しかありません((シアンが構造物などに含有されているのであれば、盛り土汚染や帯水層土壌の汚染以外の可能性もあります。))。

1.2 シアン化合物は、盛り土由来か、帯水層由来か

 東京都発行のパンフレットや技術会議資料では、盛り土は汚染されていない土壌を用い、東京ガスの工場操業時の地盤である帯水層は汚染されていたため、土壌汚染対策工事により浄化したことになっています。東京都発行のパンフレット「豊洲新市場 土壌汚染対策工事の概要」((東京都, 「豊洲新市場 土壌汚染対策工事の概要」.))より「土壌汚染対策の工事の進め方」の説明図を図1に引用します。この図から分かるように、工場操業時の地盤である帯水層は、汚染されていることを前提に、汚染が見つかった場合には浄化処理した後に埋め戻されます。また、盛り土地盤は、「新規購入土」や「他工事の発生土」と、「既に盛ってあった盛り土」によって作られます。

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図1: 土壌汚染対策の工事の進め方(東京都パンフレットより引用)


 豊洲市場の盛り土には、ガス工場操業時の地盤の土壌は含まれておらず、「新規購入土」や「他工事の発生土」も汚染されていなければ、盛り土は汚染されていないと思われるので、「盛り土の汚染」の可能性は少ないのではないかと思います(但し、東京都のパンフレットが信頼できると仮定する)。従って、雨水説2も、可能性が低いのではないかと思います。

 一方、帯水層の土壌は、ガス工場操業時に汚染されているため、除染が必要な土壌と、不必要な土壌に選別され、除染が必要な土壌についてのみ浄化処理します。また、除染が必要な土壌は浄化処理を行った上で、帯水層に埋め戻されます。このため、除染が必要な土壌とそうでない土壌の選別の時に選別誤りが発生する可能性や、浄化処理が十分でなかった可能性が残ります。特に前者では、汚染土壌の見落としが多く発生するのではないかと思います。

 また、地下水浄化も調査点での汚染が確認された場合のみなされるので、調査漏れがあれば、汚染地下水が土壌に残留することになります。

 よって、シアン化合物の由来は、帯水層土壌が汚染されており、汚染地下水が砕石層を経由して、地下空洞のたまり水となった(あるいは、たまり水を汚染した)と考えるのが最も妥当でしょう。

2. 地下水の汚染対策

2.1 そもそも、地下水は汚染されることを想定

 豊洲市場には「地下水管理システム」が設置されています。技術会議資料((第18回豊洲新市場予定地の土壌汚染対策工事に関する技術会議, 「地下水管理システムに関する説明資料」, 2014/11/27.))から引用した図2に示すように、このシステムには「浄化施設」があり、「水質モニタリング機能、浄化機能、自動制御機能」を有して、「自動で水質分析を行い、下水排除基準を超過している場合には必要な浄化を実施」します。

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図2: 地下水管理システムの概要(技術会議資料より引用)


 この浄化施設では、図3に示すように「ベンゼン」や「シアン化合物・重金属等」を分離し、汚染水を浄化します。

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(a)「地下水管理システム」の浄化施設における浄化処理方法(技術会議資料より引用)

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(b) 土壌対策工事における地下水処理プラントの流れ(東京都パンフレットより引用)
図3:地下水管理システムにおける浄化処理方法
注:図2(b)は、土壌汚染対策工事における仮設の「地下水処理プラント」の説明図ですので、恒久的な「地下水管理システムの浄化施設」との違いがあるかもしれませんが、技術会議資料は専門的で分かりにくい説明図のため、東京都パンフレットにある仮設プラントの説明図も引用しました。


 つまり、地下水管理システムにおける浄化施設は、地下水が環境基準以上にベンゼン・シアン化合物をはじめとした各種有害物質に汚染されること(あるいは、汚染される可能性があること)を想定して設計・建設されています。

2.2 地下空洞の汚染対策は必要か?

 現在、地下空洞の水や大気の調査が行われていると思いますが、現時点の調査で有害物質が環境基準以下であればよいかというと、そうとは言えないでしょう。やはり、地下水が汚染されることを想定して地下空洞の汚染対策を施す必要があると思います。

 経時変化や地震の影響などにより、将来的に有害物質が環境基準以上に上昇することを想定しなければなりません。豊洲市場の運用が始まってから、環境基準以上になった場合には、混乱や影響は現在の比ではありません。対策が完了するまで、一旦、市場を休場するというような事態に発展すれば、影響は甚大です。

 また、汚染する可能性が最も高い場所はどこかというと、1,000倍以上の汚染物質を多数の調査点で検出した6街区、つまり、水産仲卸売場棟の真下です(図4)。本来、最も土壌汚染対策がされるべき場所に、土壌汚染対策(盛り土)を行わず、汚染が相対的に少なく除染の必要性が低い建物の周辺に土壌汚染対策を行うというチグハグな状態となっています。

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(a) 高濃度汚染の分布状況((東京都ホームページ, 「豊洲新市場予定地の土壌汚染はどうするの?」.))
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(b) 施設概要((東京都ホームページ, 「豊洲市場について:施設概要」.))
図4: 高濃度汚染された場所と施設の場所(東京都ホームページより引用)

2.3 どういう対策が必要か?

 地下空洞に対してどういう対策をすべきかは、将来的に専門家会議などで議論され、対策案が提示されると思いますが、ここでは、筆者の素人考えを述べます。

 まず、最低限必要なのは、現状、本格稼働していない地下水管理システムを正常に稼働させ、地下水位を制御することです。実は、この地下水管理システムそのものが、正常稼働しない可能性も否定できませんが、ここでは、正常に稼働すると仮定します。

 東京都の技術系職員は、地下空洞を「モニタリング空間」と呼んで設計仕様書にも記載していたようです((TBS News-i, 「豊洲新市場問題、と発注の仕様書に「モニタリング空間」」, 2016/9/24.
朝日新聞Digital, 「豊洲市場、地下は「モニタリング空間」元担当者が証言」, 2016/9/19.))。この「モニタリング空間」により、地下水管理システムが正常に稼働しておらず、地下水汚染をモニタリングすることができたという皮肉な結果となりました。さらに"東京都の風土汚染"もモニタリングすることができました(苦笑)。

 地下水位が正常にコントロールできるのであれば、空洞中に放出されるベンゼンなどの揮発物質の対策を行えばよいでしょう。

2.4 現状のベンゼン濃度

 東京都によれば、豊洲市場施設内のベンゼンを測定しています((東京都, 「豊洲市場に関するさまざまな疑問にお答えします!Q10. 豊洲市場の建物内で、ベンゼンが検出されているが大丈夫なのか。」.))。各施設内のベンゼンの測定結果の平均値は、青果棟(5街区)が1立法メートル当たり1.9μg、水産仲卸売場棟(6街区)が1.2μg、水産卸売場棟(7街区)が0.5μgと、環境基準の年平均3μg以下で、特に問題ないレベルと思います。また、東京都では、いろいろな地点で定期的にベンゼンの大気モニタリングを行っていますが((東京都環境局, 「有害大気汚染物質のモニタリング調査」.))、図5に示すように一般環境で1.1μg、沿道で1.3μgなので、施設内の濃度と大差はありません。なお、大気中のベンゼンの主な排出源はガソリンですので、ガソリンスタンドの近辺よりはずっとベンゼン濃度は低いでしょう。

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図5: ベンゼン年平均濃度(東京都環境局のホームページより引用)


 しかしながら、施設内測定は、比較的開かれた空間での測定と思いますので、地下空洞のような閉鎖空間では高い濃度となる可能性も否定的できません。地下空洞内の雰囲気調査(大気調査)が必要です。

 この調査によってベンゼン濃度が低かったとしても、地下空洞内の空気の汚染物質対策は必要でしょう。なぜならば、地下水は汚染されるという想定があるからです。

2.5 有害揮発物質の対策

 地下水はコントロールされる前提では、地下空洞の有害揮発物質を排出するための排気設備(換気扇と排気ダクトみたいなもの?)をつけて、大気中に放出するだけでよいと個人的には思います。それというのも、ベンゼンが地下水から空気中に出ていくとしても、濃度は非常に低く、換気を常に行っていれば、大気環境と同レベルであろうと推測できるからです。

 また、別の観点からも換気設備は必要と考えられます。地下空洞では酸素が少なくなり、作業者が地下空洞に入ると、酸素欠乏症(や炭酸ガス中毒など)となる可能性があります。これは地下空洞の地下水に微生物を繁殖させる栄養分があれば、微生物が酸素を消費し、炭酸ガスを排出するからです。他にも地下水由来の炭酸ガスやメタンガスが発生するかもしれません。地下は配管のためのパイプスペースになっており、メンテナンスのために作業者が入ることはあるでしょう。酸欠になる恐れがあることは、既に東京都では認識しているので((

「階段を下りていくと泥の臭いがしてきた。「地下ピットに入る場合は原則2名以上とする」。酸欠や閉じ込めへの注意を促す触れ書きを横目にドアをくぐると、青果棟の地下に広大な暗闇が目の前に広がった」
出典:DIAMOND online, 「小池知事が豊洲騒動で見せた巧みな情報操作術とは?」, 2016/9/23

))、作業者を立ち入らせることを想定しているのであれば、労働安全衛生法上も排気設備は必要ではないでしょうか((

(立入禁止等)
第五百八十五条  事業者は、次の場所には、関係者以外の者が立ち入ることを禁止し、かつ、その旨を見やすい箇所に表示しなければならない。
四  炭酸ガス濃度が一・五パーセントを超える場所、酸素濃度が十八パーセントに満たない場所又は硫化水素濃度が百万分の十を超える場所
出典:「労働安全規則」
 
(換気)
第五条 事業者は、酸素欠乏危険作業に労働者を従事させる場合は、当該作業を行う場所の空気中の酸素の濃度を十八パーセント以上(第二種酸素欠乏危険作業に係る場所にあつては、空気中の酸素の濃度を 十八パーセント以上、かつ、硫化水素の濃度を百万分の十以下)に保つように換気しなければならない。ただし、爆発、酸化等を防止するため換気することができない場合又は作業の性質上換気することが著 しく困難な場合は、この限りでない。
出典:「酸素欠乏等防止規則」 ))。

 但し、これだけだと空洞中のベンゼン濃度によっては、環境規制に違反してしまうかもしれません(可能性は低いと思いますが)。その場合には、図3に示すような浄化システムに通す必要があるでしょう(気体だけなので、活性炭フィルタを通せばよい?)。

 さらに対策するのであれば、地下空洞への地下水浸入を抑制するために、底面にコンクリートを打って防水処理を施すのでしょうか。この場合、工期も長く、工事費も増えてしまいますが、このくらいやらないと世間は納得しない状態になっていますかね(この場合、建築基準法などいろいろとクリアしなければならない規制が増えるような気がします)。

3. 最後に

 豊洲市場の地下空洞の汚染水について考察しました。改めて調べてみると、土壌汚染は深刻なものではないという印象です。

 但し、本来、豊洲市場の設備は、地下水が汚染されていることを想定して作られているものであり、そのための対策がなされるべきです。しかし、実際には、最も汚染され、最も対策を講じなければならない施設の直下が、(合理的な理由と正当な手続きなしに)汚染対策されていないということが最も大きな問題なのでしょう。

 次から次へと隠された事実が発覚するなど、不祥事におけるリスクマネジメントとして最低最悪な対応をしている東京都を叩くことはスカッとするし、犯人探しはワイドショー的にも面白いのですが、何千億円も費やしている設備で多くの市場関係者に影響を与える問題なので、冷静な対応も必要ではないかと思います。

 よりよい解決を祈願します。

(2016/9/24)

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