時事随想

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ニュースや新聞を見て、想ったことを綴った随想・論説集

自民党憲法草案を読み解く(1):第1章~第3章

 安倍政権では、今度の臨時国会から憲法審査会を開いて憲法改正を推進するようです*1。先日のNHKの日曜討論をみていたら、自民党の憲法改正草案がベースとなる趣旨の自民党の二階幹事長の発言がありました*2。自民党草案をざっと目を通したことはあるのですが、これまで詳細に読んだことはありませんでした。今回は、自民党憲法草案を詳細に読み解いてみようと思います。

1. 自民党憲法改正草案

1.1 自民党草案の入手

 自民党草案は、自民党ホームページから入手できます *3

1.2 草案の変更点

 見ればすぐに分かりますが、基本的に現行憲法の変更です。自民党の党是 *4 は、「自主憲法の制定」と言われているので、草案はゼロから書き上げたものと予想していたのですが、現行憲法をベースとした変更でした。

 まずは、理解を容易にするための変更が全文に亘って行われています。

  • 文語調を口語調へ書き換える。
  • 各条項にタイトルを付ける。
  • 条項を移動などして、項目を整理する。
  • 表現を改める。

そして、本質的な変更として、追加・削除・変更が行われています。

  • 新しい条文を追加する。
  • 現行の条文を削除する。
  • 現行の条文を変更する。

対照表があるので、変更点は比較的分かりやすいですが、条文の移動についてはフォローが大変です。

2. 対照表を見ながら読む

 以下では、新旧の条文を対照しながら、読んでいこうと思います。コメントとして、初見の解釈・感想など、自民党Q&A、Q&Aを読んだ後の所感について述べます。筆者は法律の専門家ではなく、勉強しながらの解釈なので、理解が不十分な部分も多いとかと思いますが、よろしくお願いいたします。

(追記) その後、考えたこと・気が付いたことを【追記】として示しました。

 なお、下線は自民党草案に記載のもの、太字は筆者によるものです。各節の条項の番号・タイトルは、自民党草案に基づいています。


前文

現行憲法自民党草案
 日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
 日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
 われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。
 日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。
 日本国は、長い歴史と固有の文化を持ち、国民統合の象徴である天皇を戴く国家であって、国民主権の下、立法、行政及び司法の三権分立に基いて統治される。
 我が国は、先の大戦による荒廃や幾多の大災害を乗り越えて発展し、今や国際社会において重要な地位を占めており、平和主義の下、諸外国との友好関係を増進し、世界の平和と繁栄に貢献する。
 日本国民は、国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り、基本的人権を尊重するとともに、和を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する。
 我々は、自由と規律を重んじ、美しい国土と自然環境を守りつつ、教育や科学技術を振興し、活力ある経済活動を通じて国を成長させる。
 日本国民は、良き伝統と我々の国家を末永く子孫に継承するため、ここに、この憲法を制定する。

【初見】
 現行憲法は、戦争直後に制定されたもので、平和を希求する強い想いを感じます。ある意味、感動的な名文です。また、国政は国民に従属し、福利は国民が享受するという「人類普遍の原理」が明確に示され、各法令はもとより、憲法(の条項)さえも排除するという強い想いがあります。
 これに対して、自民党草案は、国家像と国家のための国民の義務を掲げています。草案の各センテンスを分析します。

  • 第1センテンス:
    • 「日本国は、」
      • 「長い歴史と固有の文化を持ち、」(日本国の特徴)
      • 「国民統合の象徴である天皇を戴く国家であって、」(日本国は、天皇を元首とする)
      • 「国民主権の下、立法、行政及び司法の三権分立に基づいて統治される。」(日本国の統治方法)
  • 第2センテンス:
    • 「我が国は、」
      • 「先の大戦による荒廃や幾多の大災害を乗り越えて発展し、今や国際社会において重要な地位を占めており、」(日本国の状況)
      • 「世界の平和と繁栄に貢献する。」(日本国の貢献)
  • 第3センテンス:
    • 「日本国民は、」
      • 「国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り、」(国民の義務)
      • 「基本的人権を尊重するとともに、」(国民の義務)
      • 「和を尊び、」(国民の義務)
      • 「家族や社会全体が互いに助け合って」(国民の義務)
      • 「国家を形成する。」(日本国は、日本国民により形成される)
  • 第4センテンス:
    • 「我々は、」
      • 「自由と規律を重んじ、」(国民の義務)
      • 「美しい国土と自然環境を守りつつ、」(国民の義務)
      • 「教育や科学技術を振興し、活力ある経済活動を通じて」(国を成長させるための方法)
      • 「国を成長させる。」(日本国民の目標)
  • 第5センテンス:
    • 「日本国民は、」
      • 「良き伝統と我々の国家を末永く子孫に継承するため、」(憲法制定の目的)
      • 「ここに、この憲法を制定する。」(憲法制定の宣言)

 このように各センテンスを分解して考えると、憲法制定の目的は、「国家を末永く子孫に継承するため」という「国家」を中心とする考えに基づいていることがよく分かります。現行憲法が「国民の福利(国民の幸福と利益)」を中心に据え、その福利を享受することを目的として憲法を制定し、国政は国民に従属するという視点で、自民党草案との違いは明確です。

【自民党Q&A】
Q3:「前文」を改めた理由は何ですか?また、新しい「前文」には、どのようなことが盛り込まれたのですか?

(前文を改めた理由)
 現行憲法の前文は、全体が翻訳調でつづられており、日本語として違和感があります。そして、その内容にも問題があります。
 
 前文は、我が国の歴史・伝統・文化を踏まえた文章であるべきですが、現行憲法の前文には、そうした点が現れていません。
 
 また、前文は、いわば憲法の「顔」として、その基本原理を簡潔に述べるべきものです。現行憲法の前文には、憲法の三大原則のうち「主権在民」と「平和主義」はありますが、「基本的人権の尊重」はありません。
 
 特に問題なのは、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」という部分です。これは、ユートピア的発想による自衛権の放棄にほかなりません。
 
 こうしたことを踏まえ、今回、現行憲法の前文を全面的に書き換えることとしました。
 
(前文の内容)
 第一段落では、我が国は、長い歴史と固有の文化を持ち、国民統合の象徴である天皇を戴く国家であることを明らかにし、また、主権在民の下、三権分立に基づいて統治されることをうたいました。
 
 第二段落では、戦後の歴史に触れた上で、平和主義の下、世界の平和と繁栄のために貢献することをうたいました。
 
 第三段落では、国民は国と郷土を自ら守り、家族や社会が助け合って国家を形成する自助、共助の精神をうたいました。その中で、基本的人権を尊重することを求めました。党内議論の中で「和の精神は、聖徳太子以来の我が国の徳性である。」という意見があり、ここに「和を尊び」という文言を入れました。
 
 第四段落では、自民党の綱領の精神である「自由」を掲げるとともに、自由には規律を伴うものであることを明らかにした上で、国土と環境を守り、教育と科学技術を振興し、活力ある経済活動を通じて国を成長させることをうたいました。
 
 第五段落では、伝統ある我が国を末永く子孫に継承することをうたい、新憲法を制定することを宣言しました。

【所感】

  • 現行憲法の前文は、細かくいうと問題はあると思いますが、現行憲法と草案では、国家を中心とした憲法と、人を中心とした憲法という点で基本的がポジションが全く異なることには変わりません。筆者は、国家中心主義には違和感を感じます。
  • ユートピア的発想は別に構わないのではないかな。目指す世界観ですから。また、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」が自衛権放棄を意味しているとは読み取れません。
  • 現行憲法には、基本的人権は確かに抜けていますね。第2段落の第1センテンスに挿入することで反映できそうです。
日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、基本的人権を尊重し、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。
【自民党Q&A】
Q4:自民党の憲法改正草案は、立憲主義を否定しているのではないですか?

(立憲主義を否定したものではない)
 自民党の「日本国憲法改正草案」は、人権を保障するために権力を制限するという、立憲主義の考え方を何ら否定するものではありません。
 自民党の草案においては、権力分立の構造は変わりありませんし、「基本的人権の尊重」が、「主権在民」「平和主義」とともに日本国憲法の三大原則の一つであることも全く変わりはありません。むしろ、前文においては、現行憲法で上記三大原則のうち唯一記載の欠けていた「基本的人権の尊重」を明確に盛り込んだところです。
 
(立憲主義は、国民の義務規定を憲法に設けることを否定しない)
 立憲主義の観点からすれば、憲法は権力の行使を制限する「制限規範」が中心となるべきものですが、同時に、立憲主義は、憲法に国民の義務規定を設けることを否定するものではありません。
 実際、現行憲法でも「教育を受けさせる義務」「勤労の義務」「納税の義務」が規定されており、これは、国家・社会を成り立たせるために国民が一定の役割を果たすべき基本的事項については、国民の義務として憲法に規定されるべきであるとの考え方です。
 この点は、他の多くの立憲国家においても、国防義務や憲法擁護義務といったものが国民の義務規定として憲法に盛り込まれていることからも明らかです。 (例:イタリア憲法 52 条 1 項(祖国防衛義務)、同 54 条(共和国への忠誠義務)、ドイツ基本法 12a 条(兵役義務)など)

【所感】

  • 前文を読む限りは、「人権を保障するために権力を制限するという立憲主義の考え方」を否定はしていないのですが、肯定もしていません。
  • 「基本的人権の尊重」は確かに現行憲法で抜けているのですが(問題であれば、現行憲法に追加可)、草案で追加した「基本的の人権の尊重」は、国の義務ではなく、国民の義務であったりします。
  • 国民の義務規定を憲法で設けてもよいことには同意、というか現行憲法でも書いてある。

【追記】

  • 草案前文の第4センテンス「我々は、(中略)、活力ある経済活動を通じて国を成長させる。」
     日本は少子高齢化のため、企業の成長のためには海外進出が必要となっています。同様に「国を成長させる」ためには、「活力ある経済活動」が必要ですが、これには海外進出が不可欠です。「国を成長させる」という成長主義から脱しないと、国益同士のぶつかり合いの戦場で戦うことが必須となります。過去の歴史からすれば、経済戦争は、実際の戦争へ向かう序章でしょう。「国の成長」を目標に掲げるのではなく、「国民の幸福」「国民の豊かさ」などを目標に据えた方がよいのではないでしょうか。

第一章 天皇

第1条 (天皇)

現行憲法自民党草案
 
第一条 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつてこの地位は、主権の存する日本国民の総意に基く
(天皇)
第一条 天皇は、日本国の元首であり、日本国及び日本国民統合の象徴であってその地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく

【初見】

  •  天皇を国家元首とする規定への変更です。そもそも、元首の定義を正確には知らなかったので調べてみると、いろいろあります(ウィキペディア, 「元首」)。スターリンも元首ですし、明治天皇も元首(大日本帝国憲法第4条, 「天皇は、国の元首であって、統治権を総攬し、この憲法の条規により、これを行う」)です。
  •  草案第5条(現行憲法第4条)で、天皇の機能は限定されていますが、明確に「元首」は象徴であることを示すように限定修飾で記載した方が、拡大解釈されないのでよいのではないでしょうか。
  •  この草案条項だけを読むと、「天皇」は「専制君主制国家の元首」のようにも読めます(どのような元首なのかの限定がない)。天皇は、現行憲法では象徴君主制のもとでの元首で、既に「象徴」として定着しているので、わざわざ変更する必要はないように思います。「元首」という言葉に拘る意図が分かりません。明治天皇のような位置づけに変更したいわけではないでしょうし。
【自民党Q&A】
Q5:「日本国憲法改正草案」では、天皇を「元首」と明記していますが、これについてどのような議論があったのですか?

 憲法改正草案では、1 条で、天皇が元首であることを明記しました。
 元首とは、英語では Head of State であり、国の第一人者を意味します。明治憲法には、天皇が元首であるとの規定が存在していました。また、外交儀礼 上でも、天皇は元首として扱われています。
 
 したがって、我が国において、天皇が元首であることは紛れもない事実ですが、それをあえて規定するかどうかという点で、議論がありました。
 
 自民党内の議論では、元首として規定することの賛成論が大多数でした。反対論としては、世俗の地位である「元首」をあえて規定することにより、かえって天皇の地位を軽んずることになるといった意見がありました。反対論にも採るべきものがありましたが、多数の意見を採用して、天皇を元首と規定することとしました。

【所感】明治天皇をイメージしていたのか...。反対意見も「元首」などの俗世の言葉を使うのは不敬だ、というものしかない?
 自民党は昔からこういう政党だったのでしょうか?草案全体の印象からも、民を主とした発想に欠け、国家主義が目立ちます。自民党は、いつから、自民党になたのでしょうか?

第2条 (皇位の継承)

現行憲法自民党草案
 
第二条 皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。
(皇位の継承)
第二条 皇位は、世襲のものであって、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。

昔から思うのは、天皇家に生まれてしまうのは、幸福なのか不幸なのか?一人の人間として生きるのでなく、国家のために生きる運命を背負ってしまうのですから。

第3条 (国旗及び国歌)

現行憲法自民党草案
 
【新設】
(国旗及び国歌)
第三条 国旗は日章旗とし、国歌は君が代とする。
2 日本国民は、国旗及び国歌を尊重しなければならない。

【初見】

  • 日本国民は日の丸・君が代を尊重すべし。日の丸を焼いたりすると、刑法犯罪とするように法整備するのでしょうか。ちなみに、現在でも、外国の国旗を燃やしたりすると、外国国章損壊罪(刑法92条)で処罰される可能性があります。
  • 「君が代」は、実質的に「国歌」として使われているのですが、歌詞があまりにも悪いのですよね。「君が代は、千代に八千代に...」(天皇の治世は、いつまでも続きますように)と天皇統治が長く続くことを願う歌詞になっていて、現行憲法の理念とは相いれません。和を尊ぶ精神からすれば、いっそのこと、「上を向いてあるこう」なんかを国歌にしてしまうのはどうですかね。いい歌だし、海外でも有名。
【自民党Q&A】
Q6:国旗 ・国歌及び元号について規定を置いていますが、これについてどのような議論があったのですか

(国旗・国歌について)
 我が国の国旗及び国歌については、既に「国旗及び国歌に関する法律」によって規定されていますが、国旗・国歌は一般に国家を表象的に示すいわば「シン ボル」であり、また、国旗・国歌をめぐって教育現場で混乱が起きていることを踏まえ、3 条に明文の規定を置くこととしました。
 
 当初案は、国旗及び国歌を「日本国の表象」とし、具体的には法律の規定に委ねることとしていました。しかし、我々がいつも「日の丸」と呼んでいる「日章旗」と「君が代」は不変のものであり、具体的に固有名詞で規定しても良いとの意見が大勢を占めました。
 
 また、3 条 2 項に、国民は国旗及び国歌を尊重しなければならないとの規定を置きましたが、国旗及び国歌を国民が尊重すべきであることは当然のことであり、これによって国民に新たな義務が生ずるものとは考えていません。
 
(元号について)
 さらに、4 条に元号の規定を設けました。この規定については、自民党内でも特に異論がありませんでしたが、現在の「元号法」の規定をほぼそのまま採用したものであり、一世一元の制を明定したものです。

(現行憲法第3条 (国事行為の助言と承認))

現行憲法自民党草案
第三条 天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ。 【削除】(「第6条(天皇の国事行為等)の4」に移動)

第4条 (元号)

現行憲法自民党草案
【新設】 (元号)
第四条 元号は、法律の定めるところにより、皇位の継承があったときに制定する。

【初見】
 元号は不便なので、公式な暦としては廃止して欲しいです。

 西暦が嫌なら、適当なところを起点にして皇位継承に不変な年号を使うようにするとか。戦前なら、皇紀でしょうけど、いまならどうするのかな。現行憲法が施行された1947年や十七条憲法の604年を起点とする?宇宙世紀なんかもいいかも(笑)。

 日本の「長い歴史」と「良き伝統」を守るという思想からすれば、グレゴリオ暦を廃止し、旧暦を復活させるというのも考えとしてはあるでしょう。しかしながら、グレゴリオ暦という西洋の暦を廃止するという議論が行われないのは、世界中で使われている暦なので便利だからです。

第5条 (天皇の権能)

現行憲法自民党草案
 
第四条 天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行、国政に関する権能を有しない。
2 天皇は、法律の定めるところにより、その国事に関する行為を委任することができる。
(天皇の権能)
第五条 天皇は、この憲法の定める国事に関する行為を行い、国政に関する権能を有しない。
【削除】(「第6条(天皇の国事行為等)3」に移動)

【初見】
 「のみ」を削除しているので、「この憲法の定める国事に関する行為」以外も行うことができるということです。草案第6条第5項で追加している「国や地方自治体の式典への参加」を可能とさせるための変更でしょうか。

(現行憲法第5条 (摂政))

現行憲法自民党草案
第五条 皇室典範 の定めるところにより摂政を置くときは、摂政は、天皇の名でその国事に関する行為を行ふ。この場合には、前条第一項の規定を準用する。 【削除】(「第7条(摂政)」に移動)

第6条 (天皇の国事行為等)

現行憲法自民党草案
 
第六条 天皇は、国会の指名に基いて、内閣総理大臣を任命する
2 天皇は、内閣の指名に基いて、最高裁判所の長たる裁判官を任命する。
(天皇の国事行為等)
第六条 天皇は、国民のために、国会の指名に基づいて内閣総理大臣を任命し、 内閣の指名に基づいて最高裁判所の長である裁判官を任命する

【初見】実質的な変更なし。

現行憲法自民党草案
第七条 天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
一 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
二 国会を召集すること。
三 衆議院を解散すること。
四 国会議員の総選挙の施行を公示すること。
五 国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること。
六 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。
七 栄典を授与すること。
八 批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。
 
九 外国の大使及び公使を接受すること。
十 儀式を行ふこと。
2 天皇は、国民のために、次に掲げる国事に関する行為を行う
 
一 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
二 国会を召集すること。
三 衆議院を解散すること。
四 衆議院議員の総選挙及び参議院議員の通常選挙の施行を公示すること。
五 国務大臣及び法律の定めるその他の国の公務員の任免を認証すること。
 
六 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。
七 栄典を授与すること。
八 全権委任状並びに大使及び行使の信任状並びに批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。
九 外国の大使及び公使を接受すること。
十 儀式を行うこと。

【初見】現行憲法の「内閣の助言と承認により」が削除されているのは、現行憲法の第3条(天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ)と重複するためと思われる。現行憲法第3条に相当する条項は草案第6条4に相当する。それ以外は、正確さのための修正(第6条2の四)と各項の整理などで、実質的な変更なし。

現行憲法自民党草案
第四条 (略)
2 天皇は、法律の定めるところにより、その国事に関する行為を委任することができる。
 
3 天皇は、法律の定めるところにより、前二項の行為を委任することができる。

【初見】条文整理のための変更。実質的な変更なし。

現行憲法自民党草案
第三条 天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ 4 天皇の国事に関する全ての行為には、内閣の進言を必要とし、内閣がその責任を負うただし、衆議院の解散については、内閣総理大臣の進言による。

【初見】

  • 「助言と承認」が「進言」に変更されていますが、単なる言い換えなのか、意図があるのか不明。
  • 衆議院の解散権については、現状では、首相が自分の都合のよいところで、自由に衆議院を解散してしまっていますが、首相に無制限に衆議院の解散権を与えない方が良く、何らかの歯止めが必要でしょう。これにはいろいろ議論がありますので*5、よく議論する必要があるでしょう。
現行憲法自民党草案
【新設】 5 第一項及び第二項に掲げるもののほか、天皇は、国又は地方自治体その他の公共団体が主催する式典への出席その他の公的な行為を行う。

【初見】被災地慰問等がここでいうところの「公的な行為」に該当するのでしょうか。今までは、違憲(憲法第4条違反)だった?

【自民党Q&A】
Q7:その他、天皇に関連して、どのような規定を置いたのですか?

 6 条に天皇の行為に関する規定を置きましたが、現行憲法を一部変更している所があります。
 
(国事行為には内閣の「進言」が必要)
 現行憲法では、天皇の国事行為には内閣の「助言と承認」が必要とされていますが、天皇の行為に対して「承認」とは礼を失することから、「進言」という言葉に統一しました(6 条 4 項)。従来の学説でも、「助言と承認」は一体的に行われるものであり、区別されるものではないという説が有力であり、「進言」に一本化したものです。
 
(天皇の公的行為を明記)
 さらに、6 条 5 項に、現行憲法には規定がなかった「天皇の公的行為」を明記しました。現に、国会の開会式で「おことば」を述べること、国や地方自治体が主催する式典に出席することなど、天皇の行為には公的な性格を持つものがあります。しかし、こうした公的な性格を持つ行為は、現行憲法上何ら位置付けがなされていません。そこで、こうした公的行為について、憲法上明確な規定を設けるべきであると考えました。
 
 一部の政党は、国事行為以外の天皇の行為は違憲であると主張し、天皇の御臨席を仰いで行われる国会の開会式にいまだに出席していません。天皇の公的行為を憲法上明確に規定することにより、こうした議論を結着させることになります。
 
(国事行為の基本に変更なし)
 なお、6 条 2 項では、天皇の国事行為について列記されていますが、規定を分かりやすく若干整理したものの、基本は変えていません。

【所感】

  • 「助言と承認」から「進言」への置き換えは、「天皇に対して承認とは、失礼である」ためとのこと。明示天皇をイメージした元首像、草案第102条で天皇には憲法尊重義務を課さないということなどから、草案では天皇の「神聖化」を進めたいという意図があるようです。天皇を日本版王権神授説として政治利用するのは1000年以上も続く日本の伝統であり、国を統べる立場からすれば、神格化した天皇(但し、時の権力の命令でしか動けないロボット)は使い勝手がよいということは理解できますが、現代において天皇の神聖化を進めるのは如何なものでしょうか。
  • 現行憲法では、「国事行為のみ」と規定されているので、「公的行事」や「国会の開会式の「おことば」」は確かに現行憲法からすれば違憲と思いますが、まあ、目くじら立てるほどのことではないですかね。

第7条 (摂政)

現行憲法自民党草案
 
第五条 皇室典範の定めるところにより摂政を置くときは、摂政は、天皇の名でその国事に関する行為を行ふこの場合には、前条第1項の規定を準用する。
(摂政)
第七条 皇室典範の定めるところにより摂政を置くときは、摂政は、天皇の名で、その国事に関する行為を行う
2 第五条及び前条第四項の規定は、摂政について準用する。

【初見】実質的に現行憲法からの変更はなさそうです。但し、草案第6条5項(公的な行為)が抜けているような気がします。

第8条 (皇室への財産の譲渡等の制限)

現行憲法自民党草案
 
第八条 皇室に財産を譲り渡し、又は皇室が財産を譲り受け、若しくは賜与することは、国会の議決に基かなければならない。
(皇室への財産の譲渡等の制限)
第八条 皇室に財産を譲り渡し、又は皇室が財産を譲り受け、若しくは賜与するには、法律で定める場合を除き、国会の承認を経なければならない。

【初見】予め法律を作っておけば、毎回毎回の国会承認は不要。

第二章 安全保障

現行憲法自民党草案
第二章 戦争の放棄
第二章 安全保障

第9条 (平和主義)

現行憲法自民党草案
 
第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する
(平和主義)
第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動としての戦争を放棄し、武力による威嚇及び武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、用いない
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。 2 前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない。

【初見】

  • いろいろと議論がある憲法9条です。現行憲法の解釈でも、自衛隊を合憲にするための小難しい憲法論がありますが、ここでは、中学生レベルで分かる文面として、現行憲法を解釈します。つまり、「日本は戦争をしないし、自衛隊は陸海空軍なので持ちません」という字句通りの解釈です。この立場から、変更点を読み解きます。
  • 現行憲法でも草案でも「Aとしては、Bする(Bしない)」という語句が使われています。つまり「A以外は、Bしない(Bする)」という解釈もできます。
    • 現行憲法では、「国際紛争を解決する手段としては、放棄する」のであって、「それ以外の場合(例えば国内治安維持のため)には、放棄しない」と理解できます。
    • 草案でも、「国権の発動としての戦争を放棄」しますが、「国権の発動でない戦争は放棄しない」ということになると思います。
  • また、現行憲法で使われている「たる」について「国権の発動たる戦争」の「国権の発動たる」が「戦争」を限定しているか("国権の発動たる戦争"は、"戦争"という全体集合のうちの"国権を発動する"という部分集合の戦争)、「戦争」を形容しているか(「(全ての)戦争は国権の発動である」を名詞句にしたもの)のいずれかで、第9条の実質的な意味の変更があるのか、変更がないのか分かれます。「たる」は形容しているのだと思いますが、確信がありません。「たる」が形容しているものであるとすると、草案は少しだけ意味が変わってきてます。
    (【追記】英語訳を読むと(war as a sovereing right of the nation)、「たる」は限定修飾で、国権の発動としての戦争は放棄するが、そうでない戦争は放棄しないと理解できます)
  • このような観点から第9条第1項を解釈すると、以下となります。
    • 現行憲法:「全ての戦争・武力による威嚇・武力の行使は、国際紛争を解決するためには放棄するが、国際紛争以外(国内の治安維持など)には放棄しない」
    • 草案:「国権の発動としての戦争は放棄するが、そうでない戦争(例えば、自衛戦争、国際平和のための戦争(多国籍軍による戦争、国連決議に基づく戦争)は放棄しない」「武力による威嚇・武力の行使は、国際紛争を解決するための手段としては用いないが、国際紛争以外(国内治安維持など)には用いる」
  • 領土問題(竹島や尖閣)は、典型的な国際紛争ですので、現行憲法・草案ともに、字面だけを追えば、「武力行使できない」となります(憲法解釈の変更で、領土への侵略行為に対する自衛権の発動ということで、武力行使してもよいということになっていると思いますが)。
  • 草案9条第2項は、第1項の記述では、自衛権があるのかないのか良く分からないので、自衛権がある(自衛戦争できる)ということを明確化するものです。
  • 現行憲法第9条第2項(軍隊の不保持、交戦権の放棄)の削除の意味するところは、「軍隊持って、戦争します」ということ。

【追記】戦争放棄を謳うのであれば、余分な限定修飾を排除し、次のようにすると、シンプル・明解な条文になります。

  • 第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、あらゆる戦争、武力による威嚇、武力の行使を永久に放棄する。

第9条2項があることを考えれば、あらゆる戦争・武力行使を遂行する能力がないので、放棄しない戦争・武力行使の余地を残しておく必要は、(少なくとも憲法制定当時は)なかったように思います。現在は、自衛権・自衛のための実力組織は必要という時代ですが。

【自民党Q&A】
Q8:「日本国憲法改正草案」では、9条 1 項の戦争の放棄について、どのように考えているのですか?

 現行憲法 9 条 1 項については、1929 年に発効したパリ不戦条約 1 条を翻案して規定されたものであり、党内議論の中で「もっと分かりやすい表現にすべきである。」という意見もありましたが、日本国憲法の三大原則の一つである平和主義を定めた規定であることから、基本的には変更しないこととしています。
 
 ただし、文章の整理として、「放棄する」は戦争のみに掛け、「国際紛争を解決する手段として」は戦争に至らない「武力による威嚇」及び「武力の行使」にのみに掛ける形としました。19 世紀的な宣戦布告をして行われる「戦争」は国際法上既に一般的に「違法」とされていることを踏まえた上で、法文の意味をより明確にするという趣旨から行った整理です。
 
 このような文章の整理を行っても、9 条 1 項の基本的な意味は、従来と変わりません。新たな 9 条 1 項で全面的に放棄するとしている「戦争」は、国際法上一般的に「違法」とされているところです。また、「戦争」以外の「武力の行使」や「武力による威嚇」が行われるのは、
1 侵略目的の場合
2 自衛権の行使の場合
3 制裁の場合
の 3 つの場合に類型化できますが、9 条 1 項で禁止されているのは、飽くまでも「国際紛争を解決する手段として」の武力行使等に限られます。この意味を1の「侵略目的の場合」に限定する解釈は、パリ不戦条約以来確立しているところです。
 
 したがって、9 条 1 項で禁止されるのは「戦争」及び侵略目的による武力行使(上記1)のみであり、自衛権の行使(上記2)や国際機関による制裁措置(上記3)は、禁止されていないものと考えます。

【所感】
 解説が難しくて、よく理解できませんでした。

  • 草案での「戦争」は、「宣戦布告して行われる戦争」のみに限定されている?
  • 国連決議に基づく制裁措置によるイラク戦争は「戦争」ではない?
     解説文は非常に分かりにくいです。(憲法学的な解釈ではなく)一般的に湾岸戦争は「戦争」と呼ばれます。
     湾岸戦争は、草案における「武力行使」であって、草案における「戦争」ではないとしていると思われます。これは、湾岸戦争が、イラクを「制裁する」のための国連による「武力行使容認決議」に基づく戦争(武力行使)であるからです。やりたい「武力行使」の例を具体例を挙げてもらえるとありがたいです。
  • 「戦争に至らない「武力の行使」」とは何か?
     草案の「戦争」は「宣戦布告して行われる戦争のみ」とすれば、戦争に至らない「武力の行使」は、どういう例を想定しているのか良く分かりませんでした。「武力の行使」をしても、相手国が反撃してこないようなケースでしょうか?

 筆者の理解の範囲では、草案の内容は、

  • 「宣戦布告して行われる戦争」及び「侵略目的による武力行使」は禁止。
  • 「自衛権の行使」(自衛戦争)や「国際機関による制裁措置」(湾岸戦争など)は、してもよい。

 国連による武力行使決議のない制裁(イラク戦争、イスラム国制裁など)は、してもよいのか、悪いのか、理解できませんでした。いずれの場合も、具体例を挙げてもらえると分かりやすいです。

【自民党Q&A】
Q9:戦力の不保持や交戦権の否認を定めた現行 9 条 2 項を削って、新9 条 2 項で自衛権を明記していますが、どのような議論があった のですか? また、集団的自衛権については、どう考えていますか?

 今回、新たな 9 条 2 項として、「自衛権」の規定を追加していますが、これは、従来の政府解釈によっても認められている、主権国家の自然権(当然持っている権利)としての「自衛権」を明示的に規定したものです。この「自衛権」には、国連憲章が認めている個別的自衛権や集団的自衛権が含まれていることは、言うまでもありません。
 
 また、現在、政府は、集団的自衛権について「保持していても行使できない」という解釈をとっていますが、「行使できない」とすることの根拠は「9 条 1 項・2 項の全体」の解釈によるものとされています。このため、その重要な一方の規定である現行 2 項(「戦力の不保持」等を定めた規定)を削除した上で、新 2 項で、改めて「前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない」と規定し、自衛権の行使には、何らの制約もないように規定しました。もっとも、草案では、自衛権の行使について憲法上の制約はなくなりますが、政府が何でもできるわけではなく、法律の根拠が必要です。国家安全保障基本法のような法律を制定して、いかなる場合にどのような要件を満たすときに自衛権が行使できるのか、明確に規定することが必要です。この憲法と法律の役割分担に基づいて、具体的な立法措置がなされていくことになります。

【所感】そういえば、2014年時点では、集団的自衛権は「行使できない」でしたね...。

第9条2 (国防軍)

現行憲法自民党草案
【新設】 (国防軍)
第九条の二 我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する。
2 国防軍は、前項の規定による任務を遂行する際は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。
3 国防軍は、第一項に規定する任務を遂行するための活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる。
4 前二項に定めるもののほか、国防軍の組織、統制及び機密の保持に関する事項は、法律で定める。
5 国防軍に属する軍人その他の公務員がその職務の実施に伴う罪又は国防軍の機密に関する罪を犯した場合の裁判を行うため、法律の定めるところにより、国防軍に審判所を置く。この場合においては、被告人が裁判所へ上訴する権利は、保障されなければならない。

【初見】軍隊の創設。これで自衛隊は日本軍として、大手を振って海外での戦争ができます(地域制限はありません)。

  • 「国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動」は、PKO活動の他に、多国籍軍への参加も含まれるでしょう。
  • 「公の秩序を維持し」は、国内で内乱が発生した場合には、反乱軍や革命勢力などを軍隊により武力鎮圧できるということ。いわゆる戒厳令下での治安維持活動も行えるのかな。
  • 「国民の生命若しくは自由を守るための活動」はいわゆる邦人保護でしょうね。
  • 「審判所」は、所謂、軍事法廷。
     軍事法廷は必要ですかね?戦争やっている最中に、敵前逃亡したり、上官に従わない軍人、(民間人への)殺人・強盗・強姦など犯罪をする軍人などがいたら困るので、軍の統制と規律を維持するため、ちゃっちゃちゃっちゃと会議にかけて処罰しましょうというものです。敵前逃亡はやはり死刑でしょうか※。なお、現行憲法では、特別裁判所の設置が禁止されているので(憲法第76条第2項)、軍法会議を開くことはできません。上訴権はあるとはいえ、過去の日本軍の歴史からすれば、通常の裁判所での裁判の方が良いと思います。
    ※「多くの国の軍隊では、戦闘放棄し逃げ出した部下を上官がその場で射殺する即決銃殺刑を、部隊の規律と秩序を維持するために認めている。」(ウィキペディア「敵前逃亡」より
  • そういえば、自衛隊がやっている災害派遣がない。国防軍の役務に入っていないのか、「国民の生命を守る」に入るのか、災害派遣はおまけ活動なので憲法に入れる必要がないのか。やはり、おまけ?
     
     蛇足ですが、日本では、既にMinistry of Defense(国防省)が創設されています。自衛隊はJapan Selft-Defense Forcesで、Self-が入っていますが、それがないのです。まあ、これは防衛庁(Japan Defense Agency)の時代からですけど。
【自民党Q&A】
Q10:「自衛隊」を「国防軍」に変えたのは、なぜですか?

 日本国憲法改正草案では、9 条の 2 として、「国防軍」の規定を置きました。その 1 項は、「我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する」と規定しています。世界中を見ても、都市国家のようなものを除き、一定の規模以上の人口を有する国家で軍隊を保持していないのは、日本だけであり、独立国家が、その独立と平和を保ち、国民の安全を確保するため軍隊を保有することは、現代の世界では常識です
 
 この軍の名称について、当初の案では、自衛隊との継続性に配慮して「自衛軍」としていましたが、独立国家としてよりふさわしい名称にするべきなど、様々な意見が出され、最終的に多数の意見を勘案して、「国防軍」としました。
 
 国防軍に対する「文民統制」の原則(注)に関しては、(1)内閣総理大臣を最高指揮官とすること、(2)その具体的な権限行使は、国会が定める法律の規定によるべきことなどを条文に盛り込んでいるところです。
 
 また、9 条の 2 第 3 項には、国防軍が行える活動として、次のとおり規定されています。
1 我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するための活動(1 項に規定されている国防軍保持の本来目的に係る活動です。)
2 国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動(これについては Q11 で詳述します。)
3 公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動(治安維持や邦人救出、国民保護、災害派遣などの活動です。)
 
(注) 文民が、軍人に対して指揮統制権を持つという原則(シビリアン・コントロールの原則)

【所感】災害派遣は、おまけではなく、2項の「国民の生命を守る」でした。

【自民党Q&A】
Q11:国防軍は、国際平和活動に参加できるのですか?
:参加できます。
 
 9 条の 2 第 3 項において、国防軍は、我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するための任務を遂行する活動のほか、「国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動」を行えることと規定し、国防軍の国際平和活動への参加を可能にしました。その際、国防軍は、軍隊である以上、法律の規定に基づいて、武力を行使することは可能であると考えています。また、集団安全保障における制裁行動についても、同様に可能であると考えています。

【所感】「集団安全保障における制裁行動」とは何だろう?国連決議による武力制裁とはまた別の概念のようで、米国による武力制裁も含まれそうです。

【自民党Q&A】
Q12:国防軍に審判所を置くのは、なぜですか?

 9 条の 2 第 5 項に、軍事審判所の規定を置き、軍人等が職務の遂行上犯罪を犯したり、軍の秘密を漏洩したときの処罰について、通常の裁判所ではなく、国防軍に置かれる軍事審判所で裁かれるものとしました。審判所とは、いわゆる軍法会議のことです。
 
 軍事上の行為に関する裁判は、軍事機密を保護する必要があり、また、迅速な実施が望まれることに鑑みて、このような審判所の設置を規定しました。具体的なことは法律で定めることになりますが、裁判官や検察、弁護側も、主に軍人の中から選ばれることが想定されます。なお、審判所の審判に対しては、裁判所に上訴することができます。諸外国の軍法会議の例を見ても、原則裁判所へ上訴することができることとされています。この軍事審判を一審制とするのか、二審制とするのかは、立法政策によります。

第9条3 (領土等の保全等)

現行憲法自民党草案
 
【新設】
(領土等の保全等)
第九条の三 国は、主権と独立を守るため、国民と協力して、領土、領海及び領空を保全し、その資源を確保しなければならない。

【初見】国民はどういう協力する必要があるのだろうか?

【自民党Q&A】
Q13:「領土等の保全等」について規定を置いたのは、なぜですか?国民はどう協力すればいいのですか?

 領土は、主権国家の存立の基礎であり、それゆえ国家が領土を守るのは当然のことです。あわせて、単に領土等を守るだけでなく、資源の確保についても、規定しました。
 
 党内議論の中では、「国民の『国を守る義務』について規定すべきではないか。」という意見が多く出されました。しかし、仮にそうした規定を置いたときに「国を守る義務」の具体的な内容として、徴兵制について問われることになるので、憲法上規定を置くことは困難であると考えました。
 
 そこで、前文において「国を自ら守る」と抽象的に規定するとともに、9 条の 3 として、国が「国民と協力して」領土等を守ることを規定したところです。
 
 領土等を守ることは、単に地理的な国土を保全することだけでなく、我が国の主権と独立を守ること、さらには国民一人一人の生命と財産を守ることにもつながるものなのです。
 
 もちろん、この規定は、軍事的な行動を規定しているのではありません。国が、国境離島において、避難港や灯台などの公共施設を整備することも領土・領海等の保全に関わるものですし、海上で資源探査を行うことも、考えられます。
 
 加えて、「国民との協力」に関連して言えば、国境離島において、生産活動を行う民間の行動も、我が国の安全保障に大きく寄与することになります

【所感】

  • 領土保全における軍隊や民間の役割は、尖閣諸島をイメージすると分かりやすいかも。軍隊が港や灯台を作って、民間で鰹漁をして鰹節工場を操業するとか※。中国と同様に、日本も官民共同で漁船をバンバンだせば、中国としてもやりにくいですね。でも、希望して漁船を出す人はいないので、国民の義務として漁にださせるということかな?あまり強制するわけにもいかないので、まずはごっそりと金を積む?
    ※嘗て、尖閣諸島では、鰹漁や鰹節の製造が行われ、200名程度の住民が居住していました。
  • 国民は領土を守るための義務があるということなので、第9条の三を法令化する段階で、義務を具体的に規定していくのでしょう。

第三章 国民の権利及び義務

第10条 (日本国民)

現行憲法自民党草案
 
第十条 日本国民たる要件は、法律でこれを定める。
(日本国民)
第十条 日本国民の要件は、法律で定める。

【初見】実質的な変更なし。

第11条 (基本的人権の享有)

現行憲法自民党草案
 
第十一条 国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる
(基本的人権の享有)
第十一条 国民は、全ての基本的人権を享有する。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利である
  • 初見:実質的な変更なし。
     「享有」は、「権利・能力などを、人が生まれながら身につけて持っていること」(デジタル大辞泉)という意味らしい。憲法以外で使っているところを見たことがないです。
【自民党Q&A】
Q14:「日本国憲法改正草案」では、国民の権利義務について、どのような方針で規定したのですか?

 国民の権利義務については、現行憲法が制定されてからの時代の変化に的確に対応するため、国民の権利の保障を充実していくということを考えました。そのため、新しい人権に関する規定を幾つか設けました。
 
 また、権利は、共同体の歴史、伝統、文化の中で徐々に生成されてきたものです。したがって、人権規定も、我が国の歴史、文化、伝統を踏まえたものであることも必要だと考えます。現行憲法の規定の中には、西欧の天賦人権説に基づいて規定されていると思われるものが散見されることから、こうした規定は改める必要があると考えました。例えば、憲法 11 条の「基本的人権は、......現在及び将来の国民に与へられる」という規定は、「基本的人権は侵すことのできない永久の権利である」と改めました。

【所感】天賦人権説的な表現を変更しているのは、第3章では、例示した第11条の変更だけのようですが...(他にもあるのかな?)。

【自民党Q&A】
Q17:「新しい人権」について、どのような規定を置いたのですか?

 現在の憲法が施行(昭和 22 年 5 月 3 日)されてから 65 年を越え、この間の時代の変化に的確に対応するため、国民の権利保障を一層充実していくことは、望ましいことです。
 
 「法律で保障すればよい」という意見もありますが、憲法に規定を設けることで、法律改正だけでは国民の権利を廃止することができなくなりますので、国民の権利保障はより手厚くなります
 
 日本国憲法改正草案では、「新しい人権」(国家の保障責務の形で規定されているものを含む。)については、次のようなものを規定しています。
(1)個人情報の不当取得の禁止等(19 条の 2)
いわゆるプライバシー権の保障に資するため、個人情報の不当取得等を禁止しました。
(2)国政上の行為に関する国による国民への説明の責務(21 条の 2)
国の情報を、適切に、分かりやすく国民に説明しなければならないという責務を国に負わせ、国民の「知る権利」の保障に資することとしました。
(3)環境保全の責務(25 条の 2)
国は、国民と協力して、環境の保全に努めなければならないこととしました。
(4)犯罪被害者等への配慮(25 条の 4)
国は、犯罪被害者及びその家族の人権及び処遇に配慮しなければならないこととしました。
 
 なお、(2)から(4)までは、国を主語とした人権規定としています。これらの人権は、まだ個人の法律上の権利として主張するには熟していないことから、まず国の側の責務として規定することとしました。

【所感】「新しい人権」の追加については、各党で意見が割れることはなさそうですが、どうかな?

【追記】(1),(2),(3)については、「新しい人権」ではなく、新しい義務ですよね。

  • (1) (国及び国民は)個人情報を不当に取得してはならない(新しい義務)
    また、プライバシー権といわれると違和感があります。
  • (2) 国は、国民への説明をしなければならない(新しい国の義務)
  • (3) 国は、国民と協力して、環境の保全に努めなければならない(新しい義務)
  • 「これらの人権は、まだ個人の法律上の権利として主張するには熟していない」:国民の義務はすぐに熟してしまうのですよね。草案には、「新しい国民の義務」を多数設けています。また、新設した草案第102条により、この憲法のすべての条項に対して、国民は義務を負うことになりました(天皇は除外されたけど)。

第12条 (国民の責務)

現行憲法自民党草案
 
第十二条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持なければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ
(国民の責務)
第十二条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力により、保持されなければならない。国民は、これを濫用してはならず、自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない

【初見】

  • 現行憲法の第12条を「国民の責務」とすると、非常に違和感を感じます。
    • 現行憲法の第1センテンスは、「自由及び権利が保持されなければならない」ことを規定しているのであって、その努力は、国民にも求められますが、(憲法前文の「人類普遍の原理」からすれば)国政にも求められることは明らかです。
    • 現行憲法の第2センテンスは、国民は、「自由及び権利」を「常に公共の福祉のために利用する責任を負ふ」、つまり、公共の福祉(みんなの幸せ)を目的として、自由及び権利を使うことを求めています。これが主文で、「但し、」この自由及び権利を濫用はしてはいけない、ということで、「濫用の禁止」は但し書き的位置づけでしょう。
    • 一方、草案では、第1センテンスは、ほぼ同一ですが、第2センテンスは、禁止条項(~してはならない)として「自由及び権利」の利用を制限する規定で、「公共の福祉のために利用すべき」という考え方とは異なる考え方です。
    • 現行憲法にタイトルをつけるとすれば、(自由及び権利)や(自由及び権利の保持)でしょう。草案は、それを(国民の責務)へと変更してしまったということです。
  • 「公共の福祉」と「公益及び公の秩序」
     「公共の福祉」から「公益及び公の秩序」への変更は、いろいろ議論があるところでしょう。最初に読んだ時にも、凄いインパクトがある変更だなと思いました。まず、用語から考えたいと思います。それぞれ難しい言葉ですが、次のように言い換えられるでしょう(憲法学的な解釈ではなく、辞書的な解釈)。
    • 「公共の福祉」は、「みんなの幸せ」
    • 「公益」は、「みんなの利益」
    • 「公の秩序」は、「みんなの秩序」といいたいところですが、これでは意味が分かりません。みんなが形作る集合体である社会、つまり、「社会の秩序」です。
       逆に、「公共の福祉」を「社会の幸せ」とすると、これはこれで変です。なぜか?「幸せ」は、社会に存在するのではなく、人に存在するからです。それに対して、「秩序」は、人に存在するのではなく、社会に存在するので「社会の秩序」となります。「利益」は、人にも、社会にも存在しますので、「公益」は「みんなの利益」でも「社会の利益」でもよいでしょう。
       また、「社会」は、いろいろなセグメントで存在します。例えば、「国」、「地方」、「男」、「女」、「若者」、「老人」などです。「公の秩序」の「公」の場合は、「国」で考えるのが代表的な例でしょうか。また、私益に相反する相手方によっても、「社会」はいろいろ変わるでしょう。
  • 「みんなの幸せ」と「社会の利益と秩序」
    • 上記では、「公益」は「みんなの利益」でも、「社会の利益」でもよいとしましたが、「公益及び公の秩序」の文脈では、「社会の利益」とした方が素直なので、「社会の利益と秩序」としました。
    • 「みんなの幸せ」と「社会の利益と秩序」の違い
      「社会の利益と秩序」が保たれていても、「みんなの幸せ」が必ずしも得られるわけではありません。これは、「みんなの幸せ」の犠牲があって「社会の秩序」が確保される場合があるからです。逆に、「みんなの幸せ」が得られた状態は、「社会の利益と秩序」が保たれている状況でしょう。つまり、我々がより重視すべきものは、「みんなの幸せ」です。また、「社会の利益と秩序」は、「みんなの幸せ」を実現するための手段であって、目的ではありません。
    • 現行憲法12条の場合、「みんなの幸せ」のために「自由と権利」使うことを求めているので、これを「社会の利益と秩序」(公益及び公の秩序)に変更すると、違和感があります。一方、草稿12条は禁止条項なので、この観点からは、「社会の利益と秩序」でも、「みんなの幸せ」でも、違和感はありません。
  • 「社会の利益と秩序」とは何か?
     「公共の福祉」(みんなの幸せ)から「公益及び公の秩序」(社会の利益と秩序)への書き換えが議論を呼んでいます。おそらく、これは、「社会の利益」「社会の秩序」とは何か、誰が決めるのかということから起こる議論でしょう。特に問題となるのが、「社会」を「国」とした場合です。例えば、「国民の自由及び権利は、「国の利益」を犯してはならない」となるからです。これに対して、現行憲法であれば、「国民の自由及び権利は、「みんなの幸せ」を犯してはならない」ので、みんなの幸せは問題毎に検討されるべき問題となります。一方、国の利益は、国を司る政権が決めることになります。もちろん、政権が決めたことが国益か否かの議論の余地はありますが、国益を判断するのは国の専権事項でしょう。ここが論議を呼ぶポイントではないかと思います。
【自民党Q&A】
Q15:「公共の福祉」を「公益及び公の秩序」に変えたのは、なぜですか?

(「公共の福祉」を「公益及び公の秩序」に改めた理由)
 従来の「公共の福祉」という表現は、その意味が曖昧で、分かりにくいものです。そのため、学説上は「公共の福祉は、人権相互の衝突の場合に限って、その権利行使を制約するものであって、個々の人権を超えた公益による直接的な権利制約を正当化するものではない」などという解釈が主張されています。しかし、街の美観や性道徳の維持などを人権相互の衝突という点だけで説明するのは困難です。
 
 今回の改正では、このように意味が曖昧である「公共の福祉」という文言を「公益及び公の秩序」と改正することにより、その曖昧さの解消を図るとともに、憲法によって保障される基本的人権の制約は、人権相互の衝突の場合に限られるものではないことを明らかにしたものです。
 
(国際人権規約における人権制約の考え方)
 我が国も批准している国際人権規約でも、「国の安全、公の秩序又は公衆の健康若しくは道徳の保護」といった人権制約原理が明示されているところです。また、諸外国の憲法にも、公共の利益や公の秩序の観点から人権が制約され得ることを定めたものが見られます。
 
(「公の秩序」の意味)
 なお、「公の秩序」と規定したのは、「反国家的な行動を取り締まる」ことを意図したものではありません。「公の秩序」とは「社会秩序」のことであり、平穏な社会生活のことを意味します。個人が人権を主張する場合に、人々の社会生活に迷惑を掛けてはならないのは、当然のことです。そのことをより明示的に規定しただけであり、これにより人権が大きく制約されるものではありません

【所感】

  • 「公共の福祉」の変更は、基本的人権の制約範囲を拡大することを意図したものでした。「公共の福祉」では、「人権相互の衝突の場合」しか制約できないので、「公益及び公の秩序」によって、「基本的人権の制約は、人権相互の衝突の場合に限られるものではない」と制約範囲を拡大すると解説しています。
  • 安保闘争は、「公の秩序」を乱すものと考えられますが、「反国家的な行動」である安保闘争を取り締まらないことを保障する規定になっていません(草案第21条2項で「公の秩序」を害するような結社の自由を禁止しています)。
  • 「街の美観」に関しては、いろいろ条例を作っていると思ったけど、特に現行憲法で対応できないわけでもないでしょう。
  • 現行憲法下でも、「公序良俗」(公の秩序又は善良の風俗)による基本的人権の制約は導かれていると思います。
  • 「性道徳の維持」のために「公の秩序」によって規制する基本的人権はどのようなものを想定しているのだろう?Q&Aでは良く分かりませんでした。

第13条 (人としての尊重等)

現行憲法自民党草案
 
第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする
(人としての尊重等)
第十三条 全て国民は、として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公益及び公の秩序に反しない限り、立法その他の国政の上で最大限に尊重されなければならない

【初見】「個人」から「人」への書き換えは、表現だけの変更か、意図がある変更なのか良く分かりませんでした。「個人」であれば、「一人の人間」としての尊重という印象が強いですが、「人」だと、「一人の人間」という印象が弱まります。恐らく、意図がある変更で、「個人の権利の主張ばかりをするな」ということでしょうか。

第14条 (法の下の平等)

現行憲法自民党草案
 
第十四条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
2 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
3 栄誉、勲章その他の栄典の授与はいかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。
(法の下の平等)
第十四条 全て国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別障害の有無、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
2 華族その他の貴族の制度は、認めない。
 
3 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。

【初見】

  • 法の下の平等に「障害の有無」を追加。
  • 「いかなる特権も伴わない」の削除は、実質的に影響せず、表現上の変更と思いますが、違うのかな?書き換えたということは、やはり、特権を与える?

第15条 (公務員の選定及び罷免に関する権利等)

現行憲法自民党草案
 
第十五条 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
2 すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。
3 公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する
 
4 すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない
(公務員の選定及び罷免に関する権利等)
第十五条 公務員を選定し、及び罷免することは、主権の存する国民の権利である。
2 全て公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない。
3 公務員の選定を選挙により行う場合は日本国籍を有する成年者による普通選挙の方法による
4 選挙における投票の秘密は、侵されない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問われない

【初見】選挙権を日本国籍に限定することを明確化。特に地方自治体における外国人参政権でいろいろ議論があるので、明確化したということでしょう。

第16条 (請願をする権利)

現行憲法自民党草案
 
第十六条 何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない
(請願をする権利)
第十六条 何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願をする権利を有する
2 請願をした者は、そのためにいかなる差別待遇も受けない。

【初見】実質的な変更なし。

第17条 (国等に対する損害賠償請求権)

現行憲法自民党草案
 
第十七条 何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。
(国等に対する損害賠償請求権)
第十七条 何人も、公務員の不法行為により損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は地方自治体その他の公共団体に、その賠償を求めることができる。

【初見】実質的な変更なし。

第18条 (身体の拘束及び苦役からの自由)

現行憲法自民党草案
 
第十八条 何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない
(身体の拘束及び苦役からの自由)
第十八条 何人も、その意に反すると否とにかかわらず社会的又は経済的関係において身体を拘束されない
2 何人も、犯罪による処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない

【初見】現行憲法の「奴隷的拘束」は時代遅れな表現です。この点を変更した草案ですが、「社会的又は経済的関係において」の意味が理解できませんでした。また、「その意に反すると否とにかかわらず」の意味も不明。

【自民党Q&A】
Q16:草案で憲法 18 条の文言を改めたのはなぜですか? このことにより、徴兵制を採ることが可能になるのですか?

(奴隷的拘束」の表現振りの変更)
 自民党の憲法改正草案では、現行憲法 18 条前段の「奴隷的拘束も受けない」を「社会的又は経済的関係において身体を拘束されない」(草案 18 条 1 項)と改めています。「奴隷的拘束」という表現は、歴史的に奴隷制を採っていた国に由来すると考えられるため、我が国の憲法になじむような、分かりやすい表現で言い換えたものです。
 
 「社会的関係」とはカルト宗教団体のようなものを、「経済的関係」とは身売りのようなことを想定しており、こうした不合理な身体拘束が本人の同意があっても認められないことは、現行憲法と同様です。規定の表現が変わったからといって、現行規定の意味が変わるものではありません。
 
(「その意に反する苦役」については、文言を維持)
 現在の政府解釈は、徴兵制を違憲とし、その論拠の一つとして憲法 18 条を挙げていますが、これは、徴兵制度が、現行憲法 18 条後段の「その意に反する苦役」に当たると考えているからです。「その意に反する苦役」という文言は、自民党の憲法改正草案でも、そのままの形で維持しています。文言が変わらない以上、現行憲法と意味が変わらないのは当然であり、徴兵制を採る考えはありません。

【所感】

  • カルト宗教の規制を想定しているのですか。カルト教はたくさんあり、信者も多いのです。メジャーなところだけでも、統一教会・幸福の科学・エホバの証人など。昔は、モルモン教や創価学会もカルト的でした。今でも、多くの国でカルト扱いされています(ウィキペディア,「政府の文書によってセクトと分類された団体一覧」)。
  • 現在、大きくなった教団は、程度の差こそあれ、勢力を拡大する過程の勧誘活動で、かなりの「社会的関係又は経済的関係において身体を拘束」していると思います。
  • 新興宗教は、それまでの既存宗教からすれば異端ですので、差別的な扱いを受けることが多いので、最初は異端な新興宗教であったキリスト教・イスラム教も、相当に迫害されました。信教の自由とカルト規制をどうやって両立させるかは難しいところです。注意深く取り扱わないと、いけないでしょう。
  • 草案20条(信教の自由)では、「宗教団体の政治上の権力行使」を解禁します。現状追認と思いますが、宗教団体の政治活動をどうするかもよくよく検討する必要があると思います。
  • ついでに、カルト教的な会社はたくさんあるので、そういう会社は草案第18条1項で規制できそうです(笑)。
  • それにしても、草案第18条1項の表現は、もう少し練った方がよいでしょう。解説の内容を表現しているとは、とても思えません。

第19条 (思想及び良心の自由)

現行憲法自民党草案
 
第十九条 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない
(思想及び良心の自由)
第十九条 思想及び良心の自由は、保障する

【初見】実質的な変更なし。

【追記】
 「侵してはならない」から「保障する」の変更に、なんとなく違和感を感じていましたが、次の理由によるもののようです。
 「侵してはならない」「保障する」で暗示されている主体の変更が生じています。

  • 「侵してはならない」:(国も国民も)何人も侵してはならない。つまり、「思想及び良心の自由」は「神聖にして侵すべからず」という印象です。
  • 「保障する」:「国」が保障する。

 受動態から能動態に変更することで、暗示される動作主体を変更し、その基本となる理念を変更しているようです。単なる表現の変更と思われるものでも、注意深く読み解く必要がありますね。

第19条2 (個人情報の不当取得の禁止等)

現行憲法自民党草案
 
【新設】
(個人情報の不当取得の禁止等)
第十九条の二 何人も、個人に関する情報を不当に取得し、保有し、又は利用してはならない。

【初見】

  • 個人情報保護に関する条項。
  • 禁止条項として書くのではなく、第1項は、「個人に関する情報は、保護される」などとして、個人情報の保護を実現するために、第2項の禁止条項があるという位置づけの方がよいでしょう。より重要なのは、禁止することではく、保護することですから、第2項(禁止条項)は第1項(保護条項)の従属項であるべきです。
  • また、第19条(思想及び良心の自由)の第2項に入れるのは変。独立条項の方が素直。
  • まとめると、変更するなら以下のような条項がよいでしょう。

(個人情報の保護)
第X条 全て国民の個人に関する情報は、保護される。
2 何人も、個人に関する情報を不当に取得し、保有し、又は利用してはならない。

【自民党Q&A】
Q17:「新しい人権」について、どのような規定を置いたのですか?

(前略)  日本国憲法改正草案では、「新しい人権」(国家の保障責務の形で規定されているものを含む。)については、次のようなものを規定しています。
(1)個人情報の不当取得の禁止等(19 条の 2)
いわゆるプライバシー権の保障に資するため、個人情報の不当取得等を禁止しました。
(後略)

【所感】

 プライバシー権ということであれば、「個人に関する情報」では広すぎるので、「私事に関する情報」に変更しました。「私事に関する情報」は、本人の意に反して知られたくない情報という意味で使っています。プライバシー権全般を保護するのであれば、別の表現をする必要があります。また、公人に関する除外規定は、国会議員の資産公開などが制約を受けないようにすることを明示するための例外規定です。

(私事情報の保護)
第X条 全て国民の私事に関する情報は、保護される。ただし、公人については、公益及び公の秩序に資する場合において、この限りではない。
2 何人も、私事に関する情報を不当に取得し、保有し、又は利用してはならない。

第20条 (信教の自由)

現行憲法自民党草案
 
第二十条  信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない
2 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
3 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。
(信教の自由)
第二十条 信教の自由は、保障する。国は、いかなる宗教団体に対しても、特権を与えてはならない。
 
2 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
3 国及び地方自治体その他の公共団体は、特定の宗教のための教育その他の宗教的活動をしてはならない。ただし、社会的儀礼又は習俗的行為の範囲を超えないものについては、この限りでない。

【初見】

  • 第1項は、主体が変更されていますが、要するに「宗教団体は、政治上の権力を行使してはならない」の削除です。宗教団体が政治上の権力を行使することが可能となります。
  • 現行憲法にはない、「特定の」を付けることで、「特定の」でなければ、国などは、「宗教のための教育そのほかの宗教活動」を行ってもよいということです。「特定の宗教のため」でない宗教活動が何を意味するか不明ですが。
  • 「社会的儀礼...」は、靖国問題などに代表されるさまざまな問題(公人として参拝、玉ぐし料など)を合憲化するものですね。
【自民党Q&A】
Q23:その他、国民の権利義務に関して、どのような規定を置いたのですか?

 国民の権利義務に関しては、これまでに述べたもののほか、次のような規定を置いています。
 
(1)国等による宗教的活動の禁止規定の明確化(20 条 3 項)
 国や地方自治体等による宗教教育の禁止については、特定の宗教の教育が禁止されるものであり、一般教養としての宗教教育を含むものではないという解釈が通説です。そのことを条文上明確にするため、「特定の宗教のための教育」という文言に改めました。
 さらに、最高裁判例を参考にして後段を加え、「社会的儀礼又は習俗的行為の範囲を超えないもの」については、国や地方自治体による宗教的活動の禁止の対象から外しました。これにより、地鎮祭に当たって公費から玉串料を支出するなどの問題が現実に解決されます。
(以下、略)

【所感】

  • 解説文を読むと、「宗教教育」を「特定の宗教のための教育」、「その他いかなる宗教的活動」を「その他の宗教的活動」と変更して、「特定の」は「教育」までに係るようです。
  • 「一般教養としての宗教教育」の意味が分かりませんでした。「宗教に関する一般教養」であれば、意味はわかりますが(キリスト教・イスラム教の歴史とか、仏教の成り立ちなどの一般教養)。
  • 聖書やお経の内容を教材として用いることなのかな?でも、それは宗教教育と呼ぶのか否か。
    • 旧約聖書の「初めに、神が天と地を創造した」を教養として教えるのはよいのか、どうか?進化論を否定する信者にとっては、「教養」として教えてもらっては困るでしょうし。
    • 般若心経の「色即是空、空即是色」は、高校で教えられたことはありますが、それもよいのか悪いのか。
    • クリスチャンの教授による授業で、「ヨブ記」の全文を英語教材で使っていましたが、それがよいのか悪いのか(キリスト教の思想に触れるよい機会でしたが)。
    • ほとんどの日本人は、この程度なら、なんら抵抗ないと思いますが、いろいろな立場・宗派がありますからね。
  • 調べてみたら、1947年制定の教育基本法、現行教育基本法に関連する記述がありました。

【1947年制定時の教育基本法(文部科学省, 「昭和22年教育基本法制定時の条文」, 1947/3/30, http://www.mext.go.jp/b_menu/kihon/about/a001.htm)】

第九条(宗教教育) 宗教に関する寛容の態度及び宗教の社会生活における地位は、教育上これを尊重しなければならない。
2 国及び地方公共団体が設置する学校は、特定の宗教のための宗教教育その他宗教的活動をしてはならない。

【2006年改正時の教育基本法(e-Gov,「教育基本法」, 2006/12/22, http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H18/H18HO120.html)】

(宗教教育)
第十五条 宗教に関する寛容の態度、宗教に関する一般的な教養及び宗教の社会生活における地位は、教育上尊重されなければならない。
2 国及び地方公共団体が設置する学校は、特定の宗教のための宗教教育その他宗教的活動をしてはならない。

 2006年の改正時の議事録*6からすると、「一般教養としての宗教教育」とは、「宗教に関する一般的な教養」のことを指しそうです。

  • また、「特定の」は既に1947年の教育基本法に記載されている内容で、それを憲法にも反映したということでしょうか。「特定の宗教のための宗教教育」から「特定の宗教のための教育」と変更されてはいますが。

  • 草案第20条3項は、係り受けが複雑なので、以下の方がすっきりするかな?

3 国及び地方自治体その他の公共団体は、宗教教育をしてはならない。ただし、宗教に関する一般的な教養を教育することについては、この限りではない。
4 国及び地方自治体その他の公共団体は、宗教的活動をしてはならない。ただし、社会的儀礼又は習俗的行為の範囲を超えないものについては、この限りでない。

第21条 (表現の自由)

現行憲法自民党草案
 
第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
【新設】
 
 
2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
(表現の自由)
第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、保障する。
2 前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。
3 検閲は、してはならない。通信の秘密は、侵してはならない。

【初見】沖縄の反基地運動は、「国益に反する」ので、団体運動は禁止される?大規模なデモ活動も「社会の秩序を乱す」ので、運動を主導する団体(SEALDsなど)は禁止される?

【自民党Q&A】
Q18:表現の自由を保障した21条に第2項を追加していますが、この条文は表現の自由を大きく制約するのではないですか?

 自民党の憲法改正草案では集会、結社及び言論、出版その他表現の自由について、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動及びそれを目的とした結社を禁止する規定を設けました。
 
 これは、オウム真理教に対して破壊活動防止法が適用できなかったことの反省などを踏まえ、公益や公の秩序を害する活動やそれを目的とした結社を認めないことにしたのです。内心の自由はどこまでも自由ですが、それを社会的に表現する段階になれば、一定の制限を受けるのは当然です。
 
 21 条 2 項では、他の箇所の「公益や公の秩序に反する」という表現と異なり、「公益や公の秩序を害することを目的とした」という表現を用いて、表現の自由を制限できる範囲を厳しく限定しているところです
 
 かつ、その禁止する対象を「活動」と「結社」に限っています。「活動」とは、公益や公の秩序を害する直接的な行動を意味し、これが禁じられることは、極めて当然のことと考えます。また、そういう活動を行うことを目的として結社することを禁ずるのも、同様に当然のことと考えます。
 
 したがって、この規定をもって、公益や公の秩序を害する直接的な行動及びそれを目的とした結社以外の表現の自由が制限されるわけではありません
 いずれにしても、この規定に伴って、どのような活動や結社が制限されるかについては、具体的な法律によって規定されるものであって、憲法の規定から直接制限されるものではありません。

【所感】

  • オウム真理教には、破壊活動防止法は適用されませんでしたが、適用しようと思った時期は、麻原彰晃をはじめとした危険思想(ポア思想)を持った教団幹部が逮捕されたり、逃走した後でした。残ったオウム真理教は、危険思想を持たない普通の信者の集団で、その時点での「破壊活動防止法」を適用できなかったのは無理もないでしょう。幹部の逮捕後のオウム真理教は、(テロは犯してしまったが破壊活動を目的としない)普通のカルト教団だったのですから。いま思えば、破壊活動防止法を適用すべきだったのは、松本サリン事件のタイミングですね。警察は明後日の方向に捜査をしてしまったのですけど。
    一連の事件後、オウム真理教は、「団体規制法(オウム新法)」(「無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律」)で規制されています。
  • このため、オウム真理教に破壊活動防止法を適用できなかったことを例示して、解説するのは適当ではないでしょう。
  • 「公益や公の秩序に反する」と「公益や公の秩序を害する」は、ほとんど同じ意味ではないですかね。特に厳しく限定しているようには思えません。制定される法律により、幅広い団体を規制することが可能となります。

第21条2 (国政上の行為に関する説明の責務)

現行憲法自民党草案
【新設】 (国政上の行為に関する説明の責務)
第二十一条の二 国は、国政上の行為につき国民に説明する責務を負う。

【初見】説明責任に関する条項の追加。

第22条 (居住、移転及び職業選択等の自由等)

現行憲法自民党草案
 
第二十二条 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
2  何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない
(居住、移転及び職業選択等の自由等)
第二十二条 何人も、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
 
2 全て国民は、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を有する

【初見】

  • 「公共の福祉に反しない限り」という限定を削除。確かに、この限定は不要ですね。
  • タイトルの(居住、移転及び職業選択等の自由)の2番目の「等」は不要。

第23条 (学問の自由)

現行憲法自民党草案
 
第二十三条 学問の自由は、これを保障する。
(学問の自由)
第二十三条 学問の自由は、保障する。

【初見】実質的な変更なし。

第24条 (家族、婚姻等に関する基本原則)

現行憲法自民党草案
 
【新設】
 
 
第二十四条 婚姻は、両性の合意のみ基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
2 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。
(家族、婚姻等に関する基本原則)
第二十四条 家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない。
2 婚姻は、両性の合意に基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
3 家族、扶養、後見、婚姻及び離婚、財産権、相続並びに親族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

【初見】変更点に焦点を当てて考えると、家族は助け合わななければならないのだから、(親兄弟の)扶養は義務だよ、ってことでしょうか。生活保護の受給に影響を与えそう。扶養義務者が扶養しないようなら、憲法違反?

【自民党Q&A】
Q19:家族に関する規定は、どのように変えたのですか?

 家族は、社会の極めて重要な存在ですが、昨今、家族の絆が薄くなってきていると言われています。こうしたことに鑑みて、24 条 1 項に家族の規定を新設し、「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない」と規定しました。なお、前段については、世界人権宣言 16 条 3 項も参考にしました。
 党内議論では、「親子の扶養義務についても明文の規定を置くべきである。」との意見もありましたが、それは基本的に法律事項であることや、 「家族は、互いに助け合わなければならない」という規定を置いたことから、採用しませんでした。
(参考)世界人権宣言 16 条 3 項
家族は、社会の自然かつ基礎的な単位であり、社会及び国による保護を受ける権利を有する。
【自民党Q&A】
Q:現行 24 条について、「家族は、互いに助け合わなければならない」という一文が加えられていますが、そもそも家族の形に、国家が 介入すること自体が危ういのではないですか?

 家族は、社会の極めて重要な存在であるにもかかわらず、昨今、家族の絆が薄くなってきていると言われていることに鑑みて、24 条 1 項に家族の規定を置いたものです。個人と家族を対比して考えようとするものでは、全くありません
 
 また、この規定は、家族の在り方に関する一般論を訓示規定として定めたものであり、家族の形について国が介入しようとするものではありません。
 
 人権保障における家族の重要性は、国際的にも広く受け入れられている観点であり、世界人権宣言 16 条 3 項は「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位であり、社会及び国による保護を受ける権利を有する」と規定されています。草案の 24 条 1 項前段はこれを参考にしたものです。

【所感】

  • 家族の絆が薄くなっているとしても、憲法で規定したからといって、変わるものではありません。
  • 問題意識としては、家族の絆が薄くなっているので、扶養しない人が多くて困る。だから、「扶養義務を果たせ」ということが趣旨のようです。 介護や生活保護受給にはほぼ確実に影響しそうです(扶養義務者が扶養しなければ、処罰するということかな)。
  • 世界人権宣言の「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位であり」(定義?)の部分は参考にしていますが、「尊重される」では「社会・国から保護を受ける権利を有する」を反映しているとは言えそうにありません。家族の定義だけを参考にしているということですね。

第25条 (生存権等)

現行憲法自民党草案
 
第二十五条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
(生存権等)
第二十五条 全て国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2 国は、国民生活のあらゆる側面において、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

【初見】実質的な変更なし。

第25条2 (環境保全の責務)

現行憲法自民党草案
【新設】 (環境保全の責務)
第二十五条の二 国は、国民と協力して、国民が良好な環境を享受することができるようにその保全に努めなければならない。

【初見】環境保全についての新条項。

第25条3 (在外国民の保護)

現行憲法自民党草案
【新設】 (在外国民の保護)
第二十五条の三 国は、国外において緊急事態が生じたときは、在外国民の保護に努めなければならない。

【初見】邦人保護の新条項。状況によっては、国防軍が邦人保護のため出動するのかな。

【自民党Q&A】
Q23:その他、国民の権利義務に関して、どのような規定を置いたのですか?
: 国民の権利義務に関しては、これまでに述べたもののほか、次のような規定を置いています。
(中略)
(2)在外国民の保護(25 条の 3)
 グローバル化が進んだ現在、海外にいる日本人の安全を国が担保する責務を憲法に書き込むべきであるとの観点から、規定を置きました。
(以下、略)

【所感】具体的には、いままで通り外務省が動くなどはあるでしょうが、国防軍が邦人保護のため、海外にいく根拠ともなります。海外派兵には、国際的な決議・自衛権の行使などは不必要で日本だけの判断で可能となります。危険地域に行くので、(正当防衛などの理由により)合法的に現地で軍事力を行使できるように法整備をするでしょう。

第25条4 (犯罪被害者等への配慮)

現行憲法自民党草案
【新設】 (犯罪被害者等への配慮)
第二十五条の四 国は、犯罪被害者及びその家族の人権及び処遇に配慮しなければならない。

【初見】犯罪被害者に関する新条項。

第26条 (教育に関する権利及び義務等)

現行憲法自民党草案
 
第二十六条 すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
2 すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。
【新設】
(教育に関する権利及び義務等)
第二十六条 全て国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、等しく教育を受ける権利を有する。
2 全て国民は、法律の定めるところにより、その保護するに普通教育を受けさせる義務を負う。義務教育は、無償とする。
3 国は、教育が国の未来を切り拓ひらく上で欠くことのできないものであることに鑑み、教育環境の整備に努めなければならない。

【初見】教育環境の整備の義務に関する新条項。

【自民党Q&A】
Q21:教育環境の整備について規定を置いたのは、なぜですか?

 憲法改正草案では、26 条 3 項に国の教育環境の整備義務に関する規定を新設し、「国は、教育が国の未来を切り拓く上で欠くことのできないものであることに鑑み、教育環境の整備に努めなければならない」と規定しました。
 
 この規定は、国民が充実した教育を受けられることを権利と考え、そのことを国の義務として規定したものです。
 
 具体的には、教育関係の施設整備や私学助成などについて、国が積極的な施策を講ずることを考えています。

【所感】

  • 教育環境の整備は重要と思いますが、施設整備、箱物行政ですかぁ...。
  • 大学卒業時点で数百万円の借金を背負ってしまうという奨学金制度の方が、大きな課題だと思います。以下はどうですかね?
第二十六条 3 国は、前二項を保障するため、国民を経済的に支援することに努めなければならない。

第27条 (勤労の権利及び義務等)

現行憲法自民党草案
 
第二十七条  すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ
2  賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。
3  児童は、これを酷使してはならない。
(勤労の権利及び義務等)
第二十七条 全て国民は、勤労の権利を有し、義務を負う
2 賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律で定める。
3 何人も、児童を酷使してはならない。

【初見】実質的な変更なし。

第28条 (勤労者の団結権等)

現行憲法自民党草案
 
第二十八条 勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。
【新設】
(勤労者の団結権等)
第二十八条 勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、保障する。
2 公務員については、全体の奉仕者であることに鑑み、法律の定めるところにより、前項に規定する権利の全部又は一部を制限することができる。この場合においては、公務員の勤労条件を改善するため、必要な措置が講じられなければならない。

【初見】公務員の団結権についての制限を新条項として追加。いろいろと制約がある公務員版労働組合(職員団体)の権利が制限されることを憲法レベルで明文化。

【自民党Q&A】
Q22:公務員の労働基本権の制約について規定を置いたのは、なぜですか?

 憲法改正草案では、28 条 2 項に公務員に関する労働基本権の制限の規定を新設し、「公務員については、全体の奉仕者であることに鑑み、法律の定めるところにより、前項に規定する権利の全部又は一部を制限することができる。この場合においては、公務員の勤労条件を改善するため、必要な措置が講じられなければならない。」と規定しました。
 
 現行憲法下でも、人事院勧告などの代償措置を条件に、公務員の労働基本権は制限されていることから、そのことについて明文の規定を置いたものです

第29条 (財産権)

現行憲法自民党草案
 
第二十九条 財産権は、これを侵してはならない
2 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
 
3 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。
(財産権)
第二十九条 財産権は、保障する
2 財産権の内容は、公益及び公の秩序に適合するように、法律で定める。この場合において、知的財産権については、国民の知的創造力の向上に資するように配慮しなければならない。
3 私有財産は、正当な補償の下に、公共のために用いることができる。

【初見】

  • 「公共の福祉」から「公益及び公の秩序」への変更。
  • 知的財産権に関する新条項の追加。
【自民党Q&A】
Q23:その他、国民の権利義務に関して、どのような規定を置いたのですか?
: 国民の権利義務に関しては、これまでに述べたもののほか、次のような規定を置いています。
(中略)
(3)知的財産権(29 条 2 項)
 29 条 2 項後段に、「知的財産権については、国民の知的創造力の向上に資するように配慮しなければならない」と規定しました。特許権等の保護が過剰になり、かえって経済活動の過度の妨げにならないよう配慮することとしたものです。
(以下、略)

【所感】

  • 「国民の知的想像力の向上に資するように」、発明者や特許権者保有の利益(知的財産権)を保護するものと思っていたら、制限する意図だったのですね。ちょっと驚き。そう読むとは思いもよりませんでした。
  • 具体的には、どういう制限を加えるのでしょうか。ぱっと思いつくところでは、以下のようなものでしょうか。
    • 発明者の権利を制限する(実績補償金に制限を加える)(経済団体が現在要望している)
    • 知的財産権の権利期間の短縮(20年からの短縮)
    • パテント・トロール対策
    • むやみやたらな「商標権」の取得の制限
      最初の二つを制限することは、「国民の知的想像力の向上に資する」ことでないという意見もあるでしょう。

第30条 (納税の義務)

現行憲法自民党草案
 
第三十条 国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ
(納税の義務)
第三十条 国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負う

【初見】実質的な変更なし。

第31条 (適正手続の保障)

現行憲法自民党草案
 
第三十一条 何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。
(適正手続の保障)
第三十一条 何人も、法律の定める適正な手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、又はその他の刑罰を科せられない。

【初見】実質的な変更なし。

第32条 (裁判を受ける権利)

現行憲法自民党草案
 
第三十二条 何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない
(裁判を受ける権利)
第三十二条 何人も、裁判所において裁判を受ける権利を有する

【初見】実質的な変更なし。

第33条 (逮捕に関する手続きの保障)

現行憲法自民党草案
 
第三十三条 何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。
(逮捕に関する手続きの保障)
第三十三条 何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、裁判官が発し、かつ、理由となっている犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。

【初見】実質的な変更なし。

第34条 (抑留及び拘禁に関する手続きの保障)

現行憲法自民党草案
 
第三十四条 何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。
(抑留及び拘禁に関する手続きの保障)
第三十四条 何人も、正当な理由がなく、若しくは理由を直ちに告げられることなく、又は直ちに弁護人に依頼する権利を与えられることなく、抑留され、又は拘禁されない。
2 拘禁された者は、拘禁の理由を直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示すことを求める権利を有する。

【初見】実質的な変更なし?

第35条 (住居等の不可侵)

現行憲法自民党草案
 
第三十五条 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。
 
2 捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ
(住居等の不可侵)
第三十五条 何人も、正当な理由に基づいて発せられ、かつ、捜索する場所及び押収する物を明示する令状によらなければ、住居その他の場所、書類及び所持品について、侵入、捜索又は押収を受けない。ただし、第三十三条の規定により逮捕される場合は、この限りでない。
2 前項本文の規定による捜索又は押収は、裁判官が発する各別の令状によって行う

【初見】実質的な変更なし?

第36条 (拷問及び残虐な刑罰の禁止)

現行憲法自民党草案
 
第三十六条 公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる
(拷問及び残虐な刑罰の禁止)
第三十六条 公務員による拷問及び残虐な刑罰は、禁止する

【初見】実質的な変更なし。現行憲法は、強い想いがあるのが分かりますが、条文としてはちょっと感情的、草案の「禁止する」も素っ気ない。「いかなる場合であっても禁止する」ぐらいではどうですかね。

第37条 (刑事被告人の権利)

現行憲法自民党草案
 
第三十七条 すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
2 刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。
3 刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する
(刑事被告人の権利)
第三十七条 全て刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
2 被告人は、全ての証人に対して審問する機会を十分に与えられる権利及び公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。
3 被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを付する

【初見】実質的な変更なし。

第38条 (刑事事件における自白等)

現行憲法自民党草案
 
第三十八条 何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
2 強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。
3 何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない
(刑事事件における自白等)
第三十八条 何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
2 拷問、脅迫その他の強制による自白又は不当に長く抑留され、若しくは拘禁された後の自白は、証拠とすることができない。
3 何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされない。

【初見】実質的な変更なし。

第39条 (遡及処罰等の禁止)

現行憲法自民党草案
 
第三十九条 何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない
(遡及処罰等の禁止)
第三十九条 何人も、実行の時に違法ではなかった行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問われない。同一の犯罪については、重ねて刑事上の責任を問われない

【初見】実質的な変更なし。

第40条 (刑事補償を求める権利)

現行憲法自民党草案
 
第四十条 何人も、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる。
(刑事補償を求める権利)
第四十条 何人も、抑留され、又は拘禁された後、裁判の結果無罪となったときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる。

【初見】実質的な変更なし。

(「第4章~第11章に続く)

(2016/10/1)

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