二重課税=ダメ?
内部留保課税に関連し、「二重課税だからダメ」という意見*1を散見するが、本当に「二重課税=ダメ」なのだろうか。
合理性に欠け、公平公正でない二重課税がダメなだけで、単純に「二重課税=ダメ」というわけではないと筆者は考える。
確かに、二つの国から所得税が課せられる国際的二重課税などは二重課税がダメな典型例として分かりやすい。生命保険金における相続税と所得税の二重課税の問題も分かりにくいが、理解はできる*2。
二重課税の定義として、以下の例がある。
二重課税(Double Taxation)は、「二重税」や「重複課税」とも呼ばれ、同一の課税物件(同一の納税者や取引・事実)に対して、同一または同種の租税が重複して課税されることをいいます。
二重課税とは|金融知識ガイド
この定義であれば、所得税と住民税の所得割は、同一の課税物件である所得に課される二つの同種の税であるので、二重課税ではないだろうか?その昔、高額所得者の所得税率が75%という時代があったが、高額所得者だからと25%以上の住民税を課すことになれば、著しく理不尽な事態が発生する。まさに、二重課税の弊害である。
しかしながら、住民税は「二重課税であるからダメ」という意見は聞いたことがない。これは、所得税と住民税は合理性がある課税体系であると認知され、受け入れられているからである。
利益剰余金に課税する内部留保課税についても、法人税と二重課税であるという理由では、直ちにダメということは言えないだろう*3。
内部留保課税は、そもそも二重課税?
また、利益剰余金に対するフロー課税とストック課税の両方を徴収することを考えたとき、これは、二重課税となるのであろうか?ここで、利益剰余金に対するフロー課税とは、利益剰余金の増分に課す税(実質的には法人税)であり、ストック課税は利益剰余金の保有に課す税、所謂、内部留保税である。
先に挙げた二重課税の定義を採用した場合、フロー課税とストック課税が同種と見做せば二重課税、同種と見做さなければ二重課税ではない。フロー課税とストック課税は同種の種類の課税だろうか、別種の課税だろうか?
自動車を何台もストックする場合を考えると、ストックの増分(取得)に対しては自動車取得税が課せられる。また、ストックの保有に対しては、自動車税が課せられる。「自動車取得税と消費税は二重課税」という指摘や、「自動車税と自動車重量税は二重課税」という指摘はあるが、自動車取得税と自動車税が二重課税という指摘は聞いたことがない。フロー課税とストック課税は、別種の課税と考えられているからではなかろうか?
同様に不動産については、フロー段階で不動産取得税、ストック段階で固定資産税が課せられる。この二つも、一般的には二重課税という指摘を受けることはない*4。
これらの例が二重課税でなく、フロー課税とストック課税は別種の課税と考えられるのであれば、内部留保課税は二重課税ではないと帰結できる。
いずれにせよ、フロー課税とストック課税が二重課税であるか否かは実は問題ではなく、問題は課税体系の合理性であり、公平公正であるかという点であろう。
(2017/10/24)
関連記事
*1:
産経ニュース,「希望の党公約の内部留保課税は「二重課税」 麻生太郎財務相」, 2017/10/6.
週刊ダイヤモンド編集部,「小池新党「内部留保課税」を課税推進派の財務省さえ見放す理由」, DIAMOND online, 2017/10/17.
*2:
「二重課税」, ウィキペディア.
河野敏鑑, 「相続税と所得税の二重課税が与える波紋」, 2010/7/15.
*3: 例えば、国内法人は、法人税と内部留保税の両方を支払う必要があり、国内で活動する海外法人は、法人税のみでよいということが発生するのであれば、「公平性に欠く課税のため、内部留保課税はダメ」ということは理解できる。しかし、仮に国内法人だけの競争環境であれば、法人税と内部留保課税の徴収が二重課税であっても、直ちにダメとはならないのではないか。
*4:筆者は税制の専門家でないので、詳しいことは分からないが、フロー税(流通税)とストック税(資産税)の考え方については、租税論としては、いろいろ考え方があるらしい。石村耕治, 「二重課税とは何か」, 獨協法学第94号(2014年8月).