北朝鮮有事などもあり、核シェルターについての関心も高まっています。今回の記事では、核シェルターの普及率について書きたいと思います。
1. 核シェルターの普及率
1.1 日本核シェルター協会の普及率
日本核シェルター協会は、核シェルターの普及率を発表しています。これによると、スイス100%、イスラエル100%、ノルウェー98%、アメリカ82%、ロシア78%、イギリス67%、シンガポール54%、日本0.02%とのことです。
私が調べた限りでは、国内はもとより、海外を含めても、国際的な核シェルターの普及率を比較した報告はこれだけです。
米国の首都ワシントンDCに住んでいたことがあります。ワシントンDCの地下鉄は核シェルターとの噂がありますが*1、ワシントンDCの首都圏数百万人を収容できるとは思えません。また、通っていた大学、住んでいたアパートメント、映画館、ショッピングモール、身近な人の住居などで、核シェルターを備えているという話を一度も聞くことはありませんでした。
米国の普及率が82%という数字は、本当に信じてよいのでしょうか?私は、このデータを信じることはできませんでした。
1.2 日本核シェルター協会と織部精機製作所
国家機関や大手の調査会社などの統計データであれば、ある程度信頼はおけますが、よく知らない団体が発表している場合には、まずその団体がどういう組織であるか確認することが重要です。特にデータの信憑性に疑いを抱いた場合には、必須と言えるでしょう。
そこで、核シェルター普及率を発表している日本核シェルター協会というNPO法人を調べました。すると、その協会の第1号会員として織部精機製作所という会社もでてきます。
日本核シェルター協会と織部精機製作所は、所在地が同一です。また、協会の代表者が織部信子氏(織部精機製作所の5代目社長)で、設立時の理事長が織部健二氏(織部精機製作所の6代目社長)ということが分かります。
さらに、NPO法人の事業報告書を見ると、収支は5万円~10万円程度となっています。
このNPO法人の主な収入源は会員からの年会費です。2014年度の年会費収入は2万円。定款によれば、会員の年会費は1万円ですので、2014年度の会費を支払っている会員数は2名となります。2名の会員のうち、1名は織部精機製作所、もう1名は代表の織部氏(信子氏あるいは健二氏)と思われます。つまり、法人会員を除くと、1名だけのNPO法人と考えられます。
また、このNPO法人は、定款で理事を3名以上、監事を1名以上置くことになっていますが、2014年度はこの条件を満たしていません。
2015年度・2016年度でも、年会費が5万円で、理事・監事の計4名と法人会員1団体しかいないNPO法人ではないかと思います。
NPO法人の認証の基準の一つに「10人以上の社員を有するものであること」(社員とは会員のこと)という条件があります。現在、このNPO法人はこの基準を満たしてないと思われます。NPO法人の認定は取り消されるべきでしょう(※追記参照) *2。
- 日本核シェルター協会(NPO法人)
- ホームページ: http://www.j-shelter.com/
- 内閣府NPO法人の登録情報(事業報告書・定款などの資料あり)
- 所在地:兵庫県神戸市垂水区天ノ下町6番地22号
- 代表者:織部信子
- 認証日:2003年2月3日
- 目的:「この法人は、一般市民に対して放射能の危険性についての研修会を開催し、又放射能についての知識を高めて、放射能の利用や核シェルター等の監視を行い、地球環境の保全を図ることを目的とする。」
- 設立時の役員:織部健二(理事長)、岡部紀世美(副理事長)、菅野建六(理事)、仙波雅敏(監事)
- 収支(事業報告書より引用)
収入 支出 2014年度 60,140円 (内、年会費2万円) 61,529円 2015年度 50,140円 (内、年会費5万円) 80,866円 2016年度 50,007円 (内、年会費5万円) 104,583円
- 織部精機製作所
- ホームページ:http://www.oribe-seiki.co.jp/index.html
- 所在地:兵庫県神戸市垂水区天ノ下町6番22号
- 社長(6代目):織部健二
(5代目社長は、日本核シェルター協会の代表の織部信子氏)
このようなNPO法人が発表するデータを信じるか・信じないかは、読者の判断にお任せします。
2. 核シェルターに関する報道と政策
2.1 核シェルターの報道と拡散する普及率
北朝鮮有事などもあり、核シェルターについての報道が多くなっています。
● ハフィントンポスト, 「核シェルター、日本で販売急増「4月だけで2016年超えた」 1ついくら?」, 2017/4/27.
● 毎日新聞, 「核シェルター「日本からの注文急増」米の製造会社」, 2017/8/4.
● DIAMOND online, 「危機の時代の新常識 核シェルターの値段、知ってますか?【前編】」, 2017/8/28.
● DIAMOND online, 「危機の時代の新常識 核シェルターの値段、知ってますか?【後編】」, 2017/8/29.
● ITメディア, 「核シェルターが売れているのに、なぜ業者は憂うつなのか」,2017/9/7.
● zakzak, 「北の水爆実験で『核シェルター』に問い合わせ殺到、日本も「安全と水はタダ」は昔話… 」, 2017/9/16.
● 読売オンライン, 「核シェルターに問い合わせ殺到、空気浄化装置も」, 2017/9/16.
● 産経ニュース, 「ミサイル発射・核実験…北の暴挙続き 日本政府、シェルター補助を検討!?」, 2017/9/15.
● 産経ニュース, 「核シェルターに熱視線 地下型、家庭型…北朝鮮の挑発で変わる国民意識」, 2017/10/9.
● 朝日新聞, 「核シェルター、日本からの注文「勢い止まらない」」, 2017/10/4.
上記のうち、産経ニュース、ITメディア、zakzakについては、日本核シェルター協会の普及率を参照しています*3。
ネット上では、日本核シェルター協会の普及率を用いた記事が溢れており、「日本人は平和ボケ」「日本の普及率は低い」などと言及されています。
また、ネット上だけではなく、ウィキペディアや石破茂氏の論評、自治体の資料にも、この普及率が用いられています。
● ウィキペディア,「シェルター」
● 石破茂, 「ICBMなど」, ハフィントンポスト, 2017/5/19.
● 朝日新聞, 「シェルター少ない日本「北朝鮮が撃とうかと…」 石破氏」, 2017/12/7.
● 愛知県が公開する資料(愛知県国際交流協会,「私たちの地球と未来ースイス連邦ー」, 2011/3.)
日本核シェルター協会の核シェルター普及率は、ネット上のみならず、大手メディアや大物政治家、自治体資料にも用いられるという状況です。
2.2 核シェルターについての自民党の取り組み
自民党の衆院選挙の選挙公約にも「地下シェルター」の整備を公約に掲げ、自民党国土強靭化推進本部にて検討を進めています。
- 「核兵器による攻撃からの防護を目的とした「核シェルター」の整備を住宅や公共施設などで進めるよう求める意見が複数の議員から相次いだ。」
時事通信, 「「核シェルター整備を」=自民会合で意見相次ぐ」, 2017/9/4. - 「地下シェルターの整備等の国民保護関連施策の強化に加えて、公共・民間の既存の地下空間を活用して緊急避難場所を確保するための新たな取り組みを早急に進めるとともに、国民保護にも大きな効果を発揮する国土強靱(きょうじん)化の取り組みを加速する。」
衆院選選挙公約(34ページ), 要旨(日経新聞, 2017/10/2) - 「同時に「Jアラート」はミサイルのみならず、地震、津波など災害を速報するものでもあります。災害対策あるいは国土強靭化の観点からも、Jアラートの改良やシェルターの整備などを含め、国民保護の態勢をいかに充実させていく考えか、周知徹底も含めて、総理に伺います。」
「岡田参院幹事長代行代表質問」, 参議院審議中継(2017/11/22) - 「自民党国土強靱(きょうじん)化推進本部(本部長・二階俊博幹事長)は8日、党本部で会合を開き、北朝鮮による相次ぐミサイル発射などを念頭に、シェルター整備を推進する方向で一致した。」
Yahoo!ニュース, 「国民保護でシェルター整備=北朝鮮念頭に本格検討―自民」, 2017/12/8.
このような政策が信頼できる統計データに基づいて議論されることを期待しています。
3. 最後に
会社で、信頼性が低い統計データに基づいて、事業計画などのプレゼンをしようものなら、ボロクソに言ってダメ出しします(営業部門は嬉々として使うでしょうが)。
信頼性が低いデータを怪しいと思わないのか、怪しいと思っても調べないのか、調査能力がないのか?はたまた、信頼性が低いと知っていて使うのか。
ネット上には数多くの信頼性の低いデータが出回っています。注意が必要です。
(2017/12/9)
(追記:2017/12/13)
神戸市が日本核シェルター協会に確認したところ、2017年12月現在、会費を改定しており、10名以上の会員がいるとのことした。
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結構、いいお値段です。放射性物質をフィルタで除去するエアコンは少々お安い(笑)。
核物質除去エアコンを、福島の原発周辺の病院や老人ホームに設置しておけば、もしかしたら、慌てて批難する必要はなかったのかもしれません。
しかし、全国的に公共機関・病院・老人ホームなどに核シェルターを設置するとなると、何兆円かかるのでしょうか?1兆円?10兆円?100兆円?まさかの1000兆円?
*1:ワシントンの地下鉄が深い訳|ワシントン通信 3.0~地方公務員から転身した国際公務員のblog
*2:
● 内閣府ホームページ, 「認証制度について」
● 内閣府NPOホームページ, 「認定の取消」
他にも、運営に当たっては「理事を3名以上、監事を1名以上置く」という条件がありますが、2014年度は満たしていません。2015年度・2016年度については、この条件を満たすべく、会員数を4名(法人会員を除く)としていると思われます。
*3:朝日新聞については、「国内普及率、02年で0・…」までは確認できましたが、それ以降は有料記事のため確認していません。