時事随想

時事随想

ニュースや新聞を見て、想ったことを綴った随想・論説集

【尖閣有事】小部隊駐留を想定した奪還作戦の損失

 尖閣諸島は、竹島のようなパターンで、中国が占拠し、実行支配する可能性がある。これを防ぐために尖閣諸島に小部隊を常駐させておくことが、占拠を防ぐための一つの方法であろう。

 本記事では、中国が尖閣を占拠するという尖閣有事における損失について、駐留の簡単シナリオと確率を用いてモデル化し、シナリオの与える影響について検討する。

1. 尖閣有事のシナリオ

 尖閣有事のシナリオとして、次の二つのシナリオを考える。

  • シナリオ1:日本が小部隊を駐留→中国が小部隊を排除・占拠する→日本が奪還する
  • シナリオ2:中国が占拠する→日本が奪還する

 なお、小部隊として想定しているのは、自衛隊に限らず、海上保安庁・警察などの武器使用が可能な実力組織である*1

 また、以下を仮定する。

  • 仮定1:中国の占拠作戦は、小部隊の有無に関らず、必ず成功する
  • 仮定2:日本は、中国占拠に対して、必ず奪還作戦を行う
  • 仮定3:日本の奪還作戦は、必ず成功する(奪還するまで戦う)

 それぞれの事象の発生確率を以下のように表記する。

  •  p_1:小部隊をおいたときの中国が占拠する確率
  •  p_2:小部隊をおかないときに中国が占拠する確率
  •  L_1:小部隊の排除時の日本側の損失
  •  L_2:奪還作戦による日本側の損失

 ここで、損失は、各種指標を用いて総合的に評価することが必要であるが、最も簡単な指標の一つは死傷者数であり、それを損失としてイメージしてもらうと分かりやすいだろう。

2. 小部隊設置時の紛争リスクを考慮しない場合

  • シナリオ1の損失期待値  E_1 = p_1(L_1 +L_2)
  • シナリオ2の損失期待値  E_2 = p_2L_2

 E_1 - E_2 = p_1 (L_1+L_2) - p_2L_2  = p_1L_1 + (p_1-p_2)L_2

 小部隊が駐留すると、中国は小部隊を排除することが必要となり、血を見ることを覚悟せねばならない。特に、死者が発生した場合、日中関係は極度の緊張状態となるので、中国としては占拠作戦を実施することがより困難となる。このため、 p_1 \lt p_2 と考えられる。従って、 L_1 \ll L_2 であれば、第1項は無視できるので、 E_1 \lt E_2 となる。

 つまり、シナリオ1の方が損失は小さい*2。つまり、小部隊を駐留させた方がよい。

3. 小部隊設置時の紛争リスクを考慮する場合。

 小部隊を駐留させようとすると、日中間の緊張状態が高まり、小部隊をおいたときの中国の占拠の確率 p_1が大きくなり、 p_1 \gt p_2となるだろう。

 E_1 - E_2 = p_1L_1+(p_1-p_2)L_2

 p_1\gt p_2 なので、 E_1 \gt E_2 で、シナリオ2の方が損失は小さい。つまり、小部隊を駐留させない方がよい。

4. 最後に

 このモデルから分かることは、小部隊を設置した時に紛争が発生しなければ、その後は、日本の損失は小さくなるということである。このため、小部隊の設置のみを考えれば、小部隊の設置が紛争に発展しないタイミングで小部隊を設置することが望ましいと言える(数式を用いてはいるが、得られる結果は当たり前の話である)。

 しかし、当然のことながら、小部隊の設置は日中関係を悪化させるので、大局的には日本の損失(及び中国の損失)が大きくなる。それでも、中国が尖閣占拠を行ってしまった場合の損失に比較すれば、損失は遥かに小さいだろう。

 また、小部隊は最前線で楯となる役割を担うことになるので、より危険な任務となることは言うまでもない。

 今思えば、日中関係が最悪だった安倍政権の発足当初に部隊の駐留をしておけばよかったのかもしれない。当面は、部隊を駐留させるチャンスはないと思う。

(2017/11/16)

関連記事

*1:駐留場所は、魚釣島となるだろうが、尖閣諸島は5つの島と3つの岩礁から構成されることを考慮すると、他の部分の防護も考えると、海上保安庁の巡視船を常駐するということも考えられるだろう。

*2:
 厳密には、

 E_1 = E_2 となるのは、

 p_1 L_1 + (p_1-p_2) L_2  = 0
 p_1 = p_2\frac{ L_2}{L_1+L_2}

であるので、

  •  p_1 \lt p_2\frac{L_2}{L_1+L_2}の場合に、シナリオ1の損失が小さい
  •  p_1 \gt p_2\frac{L2}{L1+L2}の場合に、シナリオ1の損失が大きい

となる。

Copyright © Tenyu Toranosuke. 時事随想 All Rights Rreserved.