時事随想

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ニュースや新聞を見て、想ったことを綴った随想・論説集

【森友事件】国有地売却における疑惑の価格決定方程式

 国有地売却の森友事件は公文書の改竄事件にまで発展しましたが、本稿では、森友事件の発端である国有地売却の背任事件、特に、売却価格の決め方について考察します。

 なお、筆者は不動産鑑定士でもなく、ゴミ撤去費の積算根拠値のデータも、算出スキルもありません。しかし、森友学園のような特殊な取引の場合には、よくよく調べると、価格決定のプロセスが垣間見えてきます。

 そこで、本稿では、不動産鑑定やゴミ撤去費用の積み上げるような方法とは違った視点から、土地評価額が9.5億円となった価格決定プロセスを示します。

 以下に述べる国有地売却の価格決定の手順は、あくまで推測であり、仮説です。しかし、可能性が高い仮説と考えています。


森友・国有地払下げ不正の構造

小川 敏夫
(緑風出版, 2018)

1. 価格決定プロセスの推定

 森友事件では、9.5億円の評価額の土地を8.2億円値引きして、1.3億円で売却したとされています。そして、この8.2億円が不当な値引きではないかと疑われています。

 しかし、本稿では、豊中市に売却した隣地の土地評価額14億円を基準として、財務省・国交省・不動産鑑定士がどのように価格算定を行ったか、その価格決定のプロセスを明らかにしていきます。

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朝日新聞2017年2月9日(現在、参照不可)

2. 前提条件

 まずは、評価額・費用等の概算値と売却に関するルールについて示します。

① 国有地の評価額は14億(概算値)
 森友学園が購入しようとした土地の隣の土地は、豊中市に売却されましたが、ざっくりと、隣の土地と同等の金額、つまり14億円とします。実は、正確な見積よりもざっくりとした概算値の方が辻褄が合うのです。
② 1回目のゴミ撤去費は、1.3億円(確定値)
③ 2回目のゴミ撤去費は、8.2億円(国交省見積り)
④ 地盤対策費は、5.8億円(国交省見積り)
⑤ 国は、キャッシュアウトできない。
 国有地売却によって、キャッシュがでていくような取引はできないということ。 今回の売却では、既に1回目のゴミ撤去費として森友側に1.3億円を支払っていますので、売却額は、1.3億円以上としなければなりません。
⑥地盤対策費は、認められない。
 実際の校舎は3階建にも関わらず、8階建を前提とした地盤対策費は認められません。

 そして、最も、重要な条件は、次の条件です。

森友学園に、実質タダで国有地を売却する

 

3. 経緯

 この実質タダの条件は、2016年3月15日~2016年3月30日のどこかの時点で、ほぼ確定したと思われます。

  • 3月15日:籠池氏と理財局(田村国有財産審理室長)の会談
  • 3月16日:森友・近畿財務局・航空局の会議
  • 3月30日:森友側(籠池・業者・酒井弁護士)・近畿財務局・大阪航空局)の会議

 実質タダとする判断が、理財局の判断か、大阪側(近畿財務局・大阪航空局)の判断か、両者の合議による判断かは、不明です。

 また、「実質タダ」が、森友にとってのタダか、国側にとってのタダかは、この時点では意見対立があり*1、少なくとも5月18日の近畿財務局(池田靖国有財産統括官)との会談までには決着がついていなかったようです。

 理財局から近畿財務局への指示で、翌日2016年3月16日に近畿財務局が森友学園を訪問、それ以後土地売却交渉が行われますが、3月30日の関係者で作った「ストーリー」に基づき実質タダを前提として実作業が本格化したと考えられます*2

  • 3月30日:森友側(籠池・業者・酒井弁護士)・近畿財務局(武内良樹近畿財務局長)・大阪航空局(加藤隆司大阪航空局長)の会議*3
    • 売却の「ストーリー」作り。
    • 近畿財務局が大阪航空局にゴミ撤去費の見積りを依頼。
  • 4月1日:近畿財務局が、森友へメール
    • 「埋設されている廃棄物層、軟弱地盤関係等を適正に(不動産鑑定評価の)価格に反映させ、価格提示を行いたいと考えている」
    • 筆者注:ゴミ撤去費だけでは国有地をタダまで値引くほどの金額がでないので、地盤対策費も含めることを事前に連絡したと思われる。
  • 4月11日:森友側、試掘の結果、3.8mのゴミがあったと虚偽の報告書を提出
    • 筆者注:ストーリーに基づいて、試掘業者が虚偽報告書を作成。
      試掘業者は、大阪地検に「学園や財務省近畿財務局側から促された」「事実と違うことを書かされた」「書けと言われてしょうがなくやった」などと説明しているようであるが、3月30日の会議出席者であれば、共同謀議の一員である。
  • 4月14日:大阪航空局が、見積り結果を近畿財務局に報告
    • ゴミ撤去費(8.2億円)、地盤対策費(5.8億円)
  • 4月22日:近畿財務局が、不動産鑑定依頼
    • 不動産鑑定士にゴミ撤去費(8.2億円)と地盤対策費(5.8億円)を考慮した鑑定を依頼。
    • 不動産鑑定士は、地盤対策費を認めず。
  • 5月18日:近畿財務局(池田統括官)が、籠池氏と価格交渉(額面0円か、実質0円か)
  • 5月31日:近畿財務局が、土地評価額9.5億円の鑑定書を受領。
    • ゴミ撤去費(8.2億円)を考慮すると、1.3億円との意見価値。
  • 6月20日:国と森友が、1.3億円の売却契約を締結
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森友問題の経緯


 本稿で示した推論は、3月30日以降に行われたと思われる価格決定プロセスについての推論となります。

4. 国交省の見積り

 ゴミ撤去や地盤対策を購入側が行った場合、国有地の売却額は、土地の評価額から有益費(ゴミ撤去費や地盤対策費)を差し引いた金額となります。

売却額=土地評価額-有益費=土地評価額-ゴミ撤去費-地盤対策費

 国交省大阪航空局は有益費(ゴミ撤去費と地盤対策費)を見積ります。このときの考え方は、森友側に国有地をタダで売却する前提です。また、国有地の評価額は、豊中市への売却額とほぼ同じ14億円とします。

売却額=土地評価額(14億円)-ゴミ撤去費(8.2億円)-地盤対策費(5.8億円)=0億円

 ここでの価格見積りでは、まず、土地評価額を豊中市に売却した隣地と同程度の14億円として、有益費を同額の14億円まで積み上げることを考えます。有益費をゴミ撤去費のみで見積もると、例えば、地下のゴミが9mよりも遥かに深く埋まっているなど、疑わしい前提を置くことになりますので、ゴミ撤去費(8.2億円)と地盤対策費(5.8億円)に振り分けます。

 ここで、国交省は、⑤、⑥の条件を考慮していません。

 先に、土地評価額はざっくりと14億円とした方が辻褄が合うと述べましたが、国交省見積りの正確な値を代入して計算すると、よりはっきりします。

土地評価額=ゴミ撤去費(8億1974万円)+地盤対策費(5億8492万円)=14億466万円

 14億円を基準にすると、0.3%の差です。見積り額が「14億円」となるように依頼された人が、できるだけ14億円ちょうどとなるように生真面目に作った数字なのでしょう。

 なお、国交省のゴミ撤去費見積り8億1974万円は、国交省共通建築工事積算基準に基づいて算出した査定額4億3572万円よりも、3億8401万円過大であると指摘されています*4

 また、試掘で見つかったゴミの深さは虚偽であるとの報道があり*5、虚偽データを用いてゴミ撤去費を8.2億円と見積ったと考えられます。

5. 地盤対策費は認められない

 国交省の地盤対策費は、8階建てを前提としていますが、実際に立てる校舎は3階建て。不動産鑑定士は財務省から地盤対策費を認めるように求められましたが、これを断りました*6。このため、売却額は、次のようになります。

売却額=土地評価額(14億円)-ゴミ撤去費(8.2億円)-地盤対策費(0円)=5.8億円

 これでは、売却額を実質0円にできません。そこで、土地評価額を逆算することになります。

6. 売却額から土地評価額を逆算

 森友側は売却額は額面で0円を希望します。一方、国側はキャッシュアウトできません。つまり、売却額は実質値で0円以上にしなければなりません。そうでないと、国有地を0円で売却した上で、さらに1.3億円(1回目のゴミ撤去費)を購入側に支払うという明らかに異常な取引になってしまいます。

 この意見の相違で、籠池氏と財務省の金額交渉が難航することになりますが*7、最終的には、売却額は額面1.3億円で決着します。この決着に基づき、国有地評価額を売却額から逆算します。

土地評価額=売却額(1.3億円) + 2回目のゴミ撤去費(8.2億円)=9.5億円

 なお、交渉過程で、森友側の業者である業者がゴミの撤去費を9.6億円と見積ります*8。これは、土地評価額の大枠が9.5億円と決まった頃に売却額を額面0円にするための森友側の対抗提案と考えられます*9

7.逆算の土地評価額を出すように、不動産鑑定を依頼

 財務省は、不動産鑑定士に、土地評価額9.5億円、売却額1.3億円を回答するように国有地の評価を依頼します。

 不動産鑑定士は、地盤対策費5.8億円は認めませんでしたが、地盤の影響を土地価格の減価要因として約10%と評価します。

土地価格をXとすると、

  土地価格X - 土地減価額(0.1X) - ゴミ撤去費用(8.2億円) = 売却額(1.3億円)

よって、土地価格X = 10.6億円

  土地評価額=土地価格(10.6億円)-土地減価額(1.06億円)=9.5億円

従って、土地評価額9.5億円からゴミ撤去費を引いた金額1.3億円が売却額となります。

 14億円と9.5億円・10.6億円は乖離がありますが、不動産鑑定では、この程度の違いがあっても、ちょっと安いかなという程度のようです*10。不動産鑑定の裁量は大きいので、直ちには不合理な鑑定と断定できないと思われます。

8. 最終的な売却価格

 最終的には、不動産鑑定士の評価額に基づき、売却額を再計算します。

売却額=土地評価額(9.5億円)-2回目のゴミ撤去費(8.2億円)=1.3億円

9. 正確な数値

 これまでの金額は、概算値で示しましたが、会計検査院の報告書に正確な数値が記載されています。

  • 1回目のゴミ撤去費用=1億3176万円(4ページ
  • 2回目のゴミ撤去費用(国交省見積り)=8億1974万円(43ページ
  • 地盤対策費(国交省見積り)=5億8492万円(43ページ
  • 不動産鑑定士による土地評価額=9億5600万円(4ページ
  • 売却額=1億3400円(4ページ

 参考までに、豊中市購入の隣地と同じ単価で計算すると、森友の土地の評価額は約13億円となります。

  • 国有財産評価額=13億1476万円(筆者推定)
     豊中市に売却した土地(9492㎡で14億2300万円)と同じ単価で計算すると、森友学園の8770㎡の用地は13億1476万円となります。

10. 売却益

 実際の売却額から支出(1回目のゴミ撤去費用)を引いた金額が売却益となります。

売却益=実際の売却額(1億3400万円)-1回目のゴミ撤去費(1億3176万円)=224万円

 推定評価額約13億円の国有地の売却で、国が得られるキャッシュは224万円だけ。実質、タダです。交渉に要した人件費や諸経費を考えれば、大幅なマイナスと言えます。

11. 最後に

 森友事件における土地売却額の価格決定プロセスを推測しました。このようなプロセスで土地評価額を計算したため、約13億円の評価額の国有地が9.5億円と安い評価になったと考えられます。

 意外と的を得ている仮説ではないかと、自負しています。

(2018/3/20)

(2018/3/23:追記1)  8月23日付の夕刊フジ系の記事に「ごみの撤去費用として約8億円を値引きする方法は、土地を所有する国交省大阪航空局が近畿財務局に提案していたことが分かった。」とありました*11。筆者の見立てを裏付ける記事です。もっとも、これは、国交省主導ではなく、森友側・財務省・国交省の合議の結果だと思います。2016年3月下旬の会議の録音テープは、この合意の様子を録音したものと考えられます*12。この合議を元に、国交省見積りのために、森友側の工事業者が虚偽データを財務省に提供するなど*13、それぞれが価格決定における役割を担います。

(2018/3/23:追記2)3月20日にNHKが「森友 “ごみ撤去費用として大幅値引き” 大阪航空局が提案」と報道していました*14。新たに発見された文書は、売払決議の添付文書のようです。

(2018/3/24) 「経緯」に関する記述を大幅に加筆・修正。

(2018/3/24:追記1) 3月15日の田村室長との面会については、鴻池事務所は面会のアポ取りを断っています。昭恵夫人の口利きがあった可能性がありますが、それ以外の価格交渉に関しては昭恵夫人や政治家などの直接的な関与を疑わせる情報は私が調べた限りではありません。但し、交渉期間中も昭恵夫人は籠池夫妻と密に連絡を取り合っていたと思われます(3月15日の田村室長との面会直後に、昭恵夫人が籠池氏に電話をしている)。その事が、籠池氏に交渉材料として使われてしまったことは、否定できないでしょう。まずは事実確認が重要ですが、口利き等の事実確認ができず直接的な関与がないという前提でも、首相夫人が広告塔や交渉材料として利用された事実に対しての首相の政治的責任とは如何にあるべきかという問題は残ります。

(2018/3/24:追記2)国有地芸額譲渡の真相解明を求める弁護士・研究者の会の森友学園問題年表を見ると、2015年1月16日の時点で不動産鑑定評価額9億5600万円とされています。国土交通省が2016年4月14日だした有益費のゴミ撤去量8.2億円、地盤対策費5.8億円のうち、5.8億円が認められていたら、5.8億円を森友学園側に支払うという国有地売却になってしまいます。不動産鑑定士が2016年4月22日の鑑定依頼に対して地盤対策費を認めなかった理由は、既に2015年1月時点で9億5600万円と評価してしまっているためと理解できます。2015年1月に決定した評価額9.5億円を前提とした賃料4200万円/年が、同年4月21日に地盤対策費が必要との理由で3600万円/年に減額されています(さらに、同年5月29日の契約時では2730万円に減額)。2016年4月時点では、8.2億円に5.8億円分を足した金額(14億円)が国交省が考えていた国有地の評価額が、2015年4月21日時点では、地盤対策費を理由に4200万円(土地評価額9.5億円)から3600万円に賃料が下げられます。2015年4月の貸付時の土地評価額(賃料3600万円に相当する土地評価額)と、2016年4月に国土交通省が考えていた土地評価額(少なくとも14億円)に大きな開きがあり、いろいろと辻褄が合わないことが起こっていそうです。

(2018/4/2) 不動産鑑定における地盤対策費を0円として土地評価額を出すのではなく、会計検査院報告書にあるように減価要因10%として土地評価額を算出するように修正しました。

関連記事

*1:Harbor Business Online, 「籠池泰典氏と財務省のやり取り録音、音声データ及び文字起こしデータを全編完全公開!」, 2017/5/6.

*2:IWJ, 「「安倍夫人」の名前で恫喝する籠池夫妻とひれ伏す官僚――マスコミでは伝えられない4時間もの「録音データ」を生々しい音声つきで公開! 岩上安身が共産党・辰巳孝太郎参院議員に訊く」, 2018/2/8.

*3:国有地低額譲渡の真相解明を求める弁護士・研究者の会, 「森友学園問題年表(関連情報を含む)」, 2017/4/24.

*4:
国有地低額譲渡の真相解明を求める弁護士・研究者の会,「「近畿財務局への証拠の捜索・押収の要請書」及び「学校法人森友学園い国有地の譲渡に関する平成28年5月31日付不動産鑑定評価書の地下埋設物撤去及び処理費用の内訳書に対する鑑定意見書」を大阪地検特捜部に提出」, 2017/9/1.
平野憲司, 「学校法人森友学園に国有地の譲渡に関する平成28年5月31日付不動産鑑定評価書の「地下埋設物撤去及び処理費用」の内訳書に対する鑑定意見書」, 2017/8/30.

*5:毎日新聞, 「森友学園 国有地売却問題 ごみの深さは「虚偽」 値引き根拠 「3.8メートル書かされた」業者、大阪地検に証言」, 2018/3/16.

*6:朝日新聞DIGITAL, 「低層校舎着工「5億円、引けない」 鑑定士、要求を拒否 森友に売却の国有地」, 2017/5/22.

*7:フジテレビ・グッドディ!, 「籠池夫妻が詐欺容疑で逮捕! 森友学園国有地売却の重要音声データをFNN独自入手!」, 2017/8/1. (映像

*8:毎日新聞, 「森友学園 「ごみ撤去費は9億円」業者が見積もり」, 2017/11/16.

*9:細かいことですが、ゴミ撤去費9.6億円、土地評価額9.5億円だと、国有地の購入者(森友学園)に国が1000万円を支払うという事態が発生するので、この場合は、土地評価額を9.6億円とする必要があります。

*10:不動産実務TIPS,「森友学園(豊中市)の国有地払下げ、鑑定評価は適正だった?不動産鑑定士の関りは?」, 2018/3/11.

*11:zakzak, 「「森友」国有地問題の核心、8億円値引きは大阪航空局提案 小学校予定地と「野田中央公園」の類似性 」, 2018/3/23.

*12:東京新聞, 「森友」協議 音声データ詳報」, 2017/12/20.

*13:朝日新聞DIGITAL, 「ごみ量算出「虚偽」 業者「森友と財務局から働きかけ」」, 2018/3/17.
工事業者は、森友と財務省から働きかけれたと証言しているようですが、録音テープからすれば、森友と一緒になって、積極的に国側(財務省・国交省)に働きかけたように見えます。

*14:NHK, 「森友 “ごみ撤去費用として大幅値引き” 大阪航空局が提案」, 2018/3/20.

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