時事随想

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時事随想

ニュースや新聞を見て、想ったことを綴った随想・論説集

働き方に中立な税制・社会保障制度の改革 (1) 政府与党の配偶者控除の見直し案

 政府・与党による配偶者控除の改正案が報道されています*1。女性の社会進出を推進するという名目での税制改革が検討されてきましたが、どうも抜本改革とは程遠いもののようです。

 今回は、パート労働者などの就業調整の原因となっている所謂、103万円の壁と130万円の壁について税制や社会保障制度の面から考えたいと思います。

1. 政府与党の配偶者控除の見直し案

1.1 背景

 女性活躍のための税と社会保障制度の見直しは、安倍政権の一億総活躍プランの「女性の活躍促進」のための政策の一つとして、パート労働などの就業調整の原因となっている税制度(所謂、103万円の壁)、社会保障制度(所謂、130万円の壁)などの対応を検討するとしていることに端を発しています。

■女性・若者・高齢者・障害者等の活躍促進
○就労促進の観点から、いわゆる 103 万円、130 万円の壁の原因となっている税・社会保険、配偶者手当の制度の在り方に関し、国民の間の公平性等を踏まえた対応方針を検討する。
出典:一億総活躍国民会議, 「一億総活躍社会の実現に向けて緊急に実施すべき対策 - 成長と分配の好循環の形成に向けて - 」, 2015/11/26.

1.2 政府・与党の見直し案

 今回、政府・与党として、見直すことを検討しているは、次の2点です。

  • 配偶者控除の対象の拡大
  • 配偶者手当の廃止・削減

 配偶者控除については所得税法等の改正、配偶者手当については国家公務員の手当見直しや経済界への要請によって実現を試みています。

 (追記) 12月8日に自民党・公明党名で平成29年度税制改正大綱が発表されました。この中で具体的な改正内容が示されています。

1.1.1 配偶者控除の拡大

 政府・与党が提出予定の所得税法等の改正案の要旨は、図1.1に示すように配偶者控除を変更し、従来の103万円の壁を150万円の壁に変更し、配偶者優遇を強化するという施策です。

  • 配偶者収入105万円~201万円の世帯を配偶者控除の対象に拡大する。
     所得税により設けられた「103万円の壁」が「150万円の壁」に変更となりますが、年金・健康保険により設けられた「130万円の壁」はそのまま残ります。
  • 1120万円以上の高所得世帯に年収制限を設ける

また、130万円の壁(国民年金第3号被保険の問題)については、何も手を付けないようです。

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図1.1 配偶者控除の改正案。

1.1.2 配偶者手当の廃止・削減

 配偶者手当がある国家公務員や約7割の民間事業所で支給されている配偶者手当の基準として、配偶者控除対象と同じ「103万円」や、社会保険料の「130万円」で設定しています。この配偶者手当による「103万円の壁」「130万円の壁」が、強固な壁として存在します。配偶者特別控除が適用できる場合、「103万円の壁」はほとんど平坦化されるため、それほど高い壁は残っておらず、実質的にないといっても構いませんので、「103万円の壁」として残っているのは、配偶者手当による壁です。

 国家公務員については、配偶者手当(扶養手当)の基準を130万円に設定して、配偶者手当を支給しています((人事院規則9180(扶養手当)
地方自治体は、それぞれで基準を設定するため一定ではありませんが、東京都の場合では、140万円に設定されています(東京都人事委員会, 「諸手当(主な手当)」) ))。この手当を2017年度から段階的に削減する方向です((
毎日新聞, 「人事院勧告 配偶者手当、18年度に半減 給与3年連続増」, 2016/8/8.
産経ニュース, 「公務員の配偶者手当を半減 人事院 その分は…」, 2016/8/4.
日本経済新聞, 「国家公務員の扶養手当、妻から子へシフト 女性の就労促進狙う」, 2016/8/8. ))。

人事院勧告 配偶者手当、18年度に半減 給与3年連続増
 人事院は8日、国家公務員の扶養手当を見直し、月額1万3000円の配偶者手当を2018年度に半減するよう国会と内閣に勧告した。本省課長級は20年度に廃止する。子どもに対する手当を増額し、扶養手当の総額は維持する。16年度に一般職の月給、ボーナスを引き上げ、いずれも3年連続のプラスとすることも盛り込んだ。扶養手当の見直しは女性の就労を後押ししつつ、子育て支援を充実させる狙い。地方公務員の給与制度に波及する可能性もある。
出典:毎日新聞, 「人事院勧告 配偶者手当、18年度に半減 給与3年連続増」, 2016/8/8.

   また、民間の配偶者手当を廃止・削減することを、経済界へ要請しています。

配偶者手当の廃止や削減、経団連が要請へ
 経団連は16日、来春闘で企業が社員に支払う配偶者手当の廃止や削減を、会員企業に呼びかける方針を明らかにした。
(中略)
 働く女性を後押しするため、経団連は、配偶者手当の見直しで浮いた原資を子ども手当などに振り向けて、子育て世代の支援にあてるように呼びかけることを検討している。来春闘で経営側の指針となる経団連の「経営労働政策特別委員会報告」に盛り込まれる見通しだ。
出典:朝日新聞DIGITAL, 「配偶者手当の廃止や削減、経団連が要請へ」, 2016/11/16.

1.3 新聞各紙の論調

 この改正案に対して、新聞各紙は「場当たり的」「抜本改革に程遠い」など批判的です。

  • 東京新聞社説(2016/11/23)

    配偶者控除 女性活躍の理念どこに
     おかしな議論である。「女性活躍」という本来の目的は選挙対策の前にどこかへ消え、おまけに家計にとって貴重な配偶者手当までなくされそうだ。何のための働き方改革なのか。
     安倍晋三首相は「女性が就業調整を意識せずに働くことができる仕組み」を標榜(ひょうぼう)してきたのではなかったか。
     当初、政府与党は二〇一七年度税制改正で所得税の配偶者控除について「女性の就業調整につながっているとして廃止」の方向で議論を進めた。だが、廃止すると専業主婦世帯などが広く増税となり、取りざたされる年明けの衆院解散-総選挙で不利になりかねないとして廃止論を封印した。
    (中略)
     「女性活躍推進」などというのは所詮(しょせん)、その程度のものなのか。現実には子育てや家族の介護などで働きたくても働けない人が少なくない。保育所や介護施設のサービスさえ不十分なのにどうやって働けというのか。結局は「もっと働け、もっと税金や保険料を納めろ」というのが本音ではないか。

  • 読売新聞社説(2016/11/28)

    配偶者控除 今の見直し代案では不十分だ
    税制面から女性の社会進出を促す狙いは、どこへ行ったのか。場当たり的な見直し案では、弊害も無視できない。
    (中略)
    夫婦控除のほか、所得税の各種控除を高所得者に有利な所得控除から、所得にかかわらず一律の金額を軽減する税額控除に変更することなどが検討課題となろう。

  • 日経新聞社説(2016/11/27)

    小手先の配偶者控除見直しで止めるな
     人口が減り、人手不足が広がる日本経済を活性化するには、パートで働く人にもっと活躍してもらう必要がある。そのために時代遅れとなっている税制を変えなくてはならない。
     2017年度税制改正に向けた政府・与党の検討状況をみると、税制の抜本改革にはほど遠く、小手先の見直しで終わるのではないか、と心配だ。

1.4 所感

 正直、記事を見て、いったい何を考えているのだろう?と耳を疑いました。不公平と言われる配偶者控除の適用を拡大し、パート層を中心に減税するという単なる選挙対策です。税制をよく知らなかった筆者ですら、抜本改革とはほど遠い内容であることは、直ぐに理解できました。

 次章以降では、「壁」に関わる税制度・社会保障制度について調べて、検討した結果についてまとめます。

(2016/12/8)

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