時事随想

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時事随想

ニュースや新聞を見て、想ったことを綴った随想・論説集

【政治資金パーティー白紙領収書事件】主文:被告人・稲田朋美を懲役2年の実刑に処する

法律 政治 (白紙領収書)

私文書偽造・同行使、政治資金規正法違反事件

判決

被告人 防衛大臣 稲田朋美

主文

被告人を懲役2年に処する。

理由

(罪となるべき事実)

(領収書写しの提出の事実)
 被告人は、被告人が代表を務める政治資金管理団体「ともみ組」の20012年から2014年に添付した領収書のうち、政治資金パーティーに「会費」として支出した計260枚の約520万円の領収書の写しを政治資金規正法*1第12条2項に定められた報告書(以下、「収支報告書」という)の領収書の写しとして、総務大臣に提出した。

 ここで、提出した領収書の写しは、政治資金パーティー主催者から入手した白紙の領収書を用いて、被告人の管理監督する稲田事務所の職員に、宛先、金額及び年月日を記載させたものである。

(白紙領収書の無効性)
 領収書は、支払者の支払を領収した者が証明する証書である。従って、宛先、金額及び年月日の記載のない領収書(以下、「白紙領収書」という)を入手し、白紙領収書に宛先、金額及び年月日を領収書の受領者が記入した領収書(以下、「自己記入領収書」という)は、社会通念上、支出の証明に当たらず、支払者の支出を証明する証書とはならないことは明らかである。

 従って、政治資金パーティーの円滑な運営に大きな支障が生じてしまうとして主催者から渡された白紙領収書に、被告人が宛先、金額及び年月日を記載したとしても、この自己記入領収書は、支出の証明には当たらず、政治資金規正法上の領収書としても認められない。

(政治資金規正法上の要請)
 一方、政治資金規正法第11条では、「領収書又は支払いを証すべき書面」(以下、「領収書等」という)を徴することを求めている。但し、「これを徴し難い事情があるときは、この限りではない」としている。政治資金パーティーの円滑な運営に支障が生じるとして主催者が発行した白紙領収書は、「領収書等」に当たらず、政治資金規正法第11条の但し書きにある「徴し難い事情」により領収書が得られなかった場合に該当する。

 政治資金規正法第12条2項には、「領収書等を徴し難い事情があったとき」は、「その旨並びに当該支出の目的、金額及び年月日を記載した書面」(以下、「徴難明細書」という)を作成し、提出することを求めている。

(領収書の偽造と行使の事実)
 領収書の写し又は徴難明細書の代わりに、自己記入領収書の写しを用いることで、政治資金の支払が領収書の発行者によって証明されたかのように装うために、被告人は、収支報告書の提出において、本来、併せて提出すべき領収書の写し又は徴難明細書を作成せず、自己記載領収書の写しを提出した。
 
 ここで、収支報告書に併せて提出することを目的に、入手した白紙領収書に宛先、金額及び年月日を記載する行為は、刑法第159条2項に定めるところの文書の変造に当たり、私文書の偽造である*2。また、偽造した領収書の写しを提出する行為は、刑法第161条1項に定めるところの偽造私文書の行使に当たる。

(収支報告書に付すべき書面の不提出の事実)
 被告人は、政治資金規正法第12条の規定に違反し、偽造した領収書の写しを提出し、本来提出すべき領収書又は徴難明細書を提出しなかった。従って、政治資金規正法第25条1号に定める「第十二条又は第十七条の規定に違反して報告書又はこれに併せて提出すべき書面の提出をしなかつた者」に該当する。

(争点に対する判断)

第1 争点の所在

(a) 被告人による領収証の有効性の主張

被告人の主張は以下の通り。

 「それらは政治資金パーティー主催者側の都合により、主催者側の権限において発行された領収書に対して、主催者側の了解のもとで、稲田側において未記載の部分の日付・宛名・金額を正確に記載したものであります。国会議員はしばしば同僚の国会議員の関係政治団体が主催する政治資金パーティーに参加をいたします。その際、主催者側としては数百人規模が参加するパーティーの受付で、特に政治家の先生方は会費をご祝儀袋、水引のついたご祝儀袋で持ってこられますので、参加会費の入れられた封筒を開封し、金額を確認した上で宛名と共に金額を記載すると、受け付けに長時間を要してしまう。受付が混乱すると、パーティーの円滑な運営に大きな支障が生じてしまうことから、その都合上、金額が空欄の領収書を発行することがあります。そのため互いに面識がある主催者と参加者との間においては、領収書の日付、宛先、金額について、主催者側の了解のもと、いわば「委託」を受けて、参加者側が記載することがしばしば行われております。その際、参加者側が実際に支払った日付・宛先・金額を領収書に記載することとしております。」
(白紙領収書「なんら問題ない」 稲田防衛相、追及に反論:朝日新聞デジタルより引用)
 
 「政治資金規正法では、領収証の作成方法は規定されておらず、主催者の了解を得ていれば、法律上は問題ない」
(参院予算委 稲田防衛相や菅官房長官、白紙領収証「問題ない」:FNNニュースより引用)

 つまり、領収書の発行者の了解のもと、「委託」を受けて、「宛先、金額及び年月日」(以下「金額等」という)を白紙領収書に記載することは、国会議員の間ではしばしば行われていることであり、政治資金規正法には領収書の発行についての規定はないので、委託による白紙領収書への金額等の記載に違法性はなく、その領収書も支出の証明として有効である。

(b) 国民の主張

 領収書の発行者の了解のもとであったとしても、支出者が白紙の領収書に金額等を記載した書面は、支出の証明として無効である。また、政治資金収支報告書に付すべき領収書の写しとして提出する目的で、白紙領収書に金額等を記載する行為は、私文書の偽造に当たり、その偽造した私文書を提出する行為は、偽造私文書の行使に当たる。さらに、領収書が得られなかった場合に代わりとして作成すべき徴難明細書を作成せず、収支報告書に併せて提出しなかった。これらは、それぞれ、私文書偽造(刑法第159条2項)、偽造私文書行使(刑法第161条)、「領収書を徴し難かった支出の書面(徴難明細書)」の不提出(政治資金規正法第12条違反)に該当する。

第2 争点に対する判断
   領収書の発行者の了解のもとであったとしても、支出者が白紙領収書に金額等を記載した書面は、支出の証明として無効である。

 自己記入領収書を有効とする主張は、一般の社会常識とかけ離れており、社会通念上許されるものではない。

 国会議員の間では白紙領収書を用いることが頻繁に行われている行為であったとしても、これを根拠に支出の証明として有効と認めることはできない。また、政治資金規正法に領収書の作成方法の規定がないことをもって、委託によって記載された自己記入領収書を有効とする根拠にはならない。

 受領した白紙領収書を政治資金収支報告書に付すべき領収書の写しとして提出する目的で、金額等を書き加える行為及びその提出は、有印私文書偽造罪・同行使が成立し、且つ、政治資金規正法第12条違反となる。

(法令の適用)

 被告人の判示所為は、刑法第159条2項、刑法第161条に該当する。また、政治資金規正法第12条に違反し、その罰条は同第25条1号による。

 刑法第159条2項の刑罰:    3カ月以上、5年以下の懲役
 刑法第161条の刑罰:      3カ月以上、5年以下の懲役
 政治資金規正法第25条1号の刑罰:5年以下の禁錮又は百万円以下の罰金

(量刑の理由)

 被告人が偽造した領収書の数は、3年間で260枚、金額で約520万円にものぼり、常習性が認められる。

 また、白紙領収書を利用した偽造領収書の濫用は、社会の混乱をもたらし、公の秩序を害する行為であり、国民にその範を垂れるべき国政を預かる政治家としては、あってはならないことである。

 さらに、被告人は犯行を否認し、謝罪の弁もない。

 このため、情状酌量の余地はなく、実刑に処することが適当である。

 刑は懲役2年とし、執行は猶予しない。

平成28年吉日
裁判官 ある一人の国民


【解説】

「領収書」とは?

 「目的」、「金額」、「年月日」が記載されていない場合、政治資金規正法上の「領収書等」には該当しません。

【よくあるご質問】領収書関係
Q1 法における「領収書等」は、当該支出の「目的」、「金額」、「年月日」を記載した領収書その他の支出を証すべき書面とのことですが、これらの記載すべき事項が記載されていない場合は、「領収書等」に該当しないのですか。
A1 法における「領収書等」は、当該支出の「目的」、「金額」、「年月日」の三事項が記載されていなければなりませんので、1つでも欠ければ、法の「領収書等」に該当しません。一般的な領収書において、「目的」とは「ただし、○○代として」など何に支出されたのかが分かるような記載を、「金額」とは当該支出の金額を、「年月日」とは当該支出の日付をいいます。
出典:総務省「国会議員関係政治団体の収支報告書の手引き III. 収支報告書等の作成」(52頁)

領収書に追記することは可能か?

【よくあるご質問】領収書関係
(Q) 領収書等に支出の目的が記載されていない場合、国会議員関係政治団体側で追記してもよいのか。
(A) 領収書等は支出を受けた者が発行するものであり、支出の目的についても発行者において記載すべきであり、国会議員関係政治団体側で追記することは適当ではありません。したがって、会計責任者等において発行者に対し記載の追加や再発行を要請することが適当です。
出典: 総務省「国会議員関係政治団体の収支報告の手引き III. 収支報告書等の作成」(62頁)

 「目的」と同様に「三事項」に該当する「金額」、「年月日」を追加することが適当でないことは、明らかです。発行者に対し記載の追加や再発行を要請することが適当です。発行者による追記や再発行がされない場合には、領収書として認められませんので、徴難明細書を作成することが必要となります。

「領収書等を徴し難い事情」とは?

 「領収書等を徴し難い事情」とは、電車やバスなどの利用のように領収書が得られない場合を想定していますが、総務省による手引きでは、社会通念上客観的に領収書等を徴することが困難な場合として、結婚披露宴や葬儀の祝儀・香典に対して領収書をもらうことができない場合も例示しています。

【よくあるご質問】領収書関係
Q5 政治家の秘書や配偶者が、選挙区外にある方の結婚披露宴や葬儀に出席して政治団体からの祝儀や香典を出した場合、領収書をもらうことができないと思いますが、このような場合はどうしたら良いですか。
A5 ご質問のようなケースは、通常、「領収書等を徴し難い事情があった場合」に該当するものとして、収支報告書の提出の際に添付すべき「領収書等の写し」の代わりに、徴難明細書に必要事項を記載して対応していただくことになります。
出典: 総務省「国会議員関係政治団体の収支報告の手引き III. 収支報告書等の作成」(53頁)

徴難明細書の記載例

 徴難明細書の記載例は、総務省の収支報告書の手引きに掲載されています。

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出典: 総務省「国会議員関係政治団体の収支報告の手引き III. 収支報告書等の作成」(129頁)

 この記載例から分かるように、徴難明細書には支払の証明能力はほとんどありませんので、虚偽記載の発見がより困難となります。このため、政治資金パーティーの収支に関して、領収書の写しではなく、徴難明細書だけで済ませてしまうことが本当によいかは疑問です。受付の際に支払った会費の領収書を帰り際に受け取れるように主催者側に依頼すればよいだけなので、徴収し難い事情ではないと考えることもできます。

 会社であれば、葬儀で領収書がない場合でも、葬儀参列の証拠として会葬礼状などを提出する必要があります。政治資金の場合には、出金伝票あるいは支払証明書、及び、それらを補完する補助資料の提出は不要なのですかね?補助資料として白紙領収書が添付されていれば、どういう資金管理を行っている団体か把握できるので、政治資金の不透明性の存在を確認することができます(苦笑)。
 今回の白紙領収書事件は、適法な領収書の受領が面倒で、皆がやっているからと安易に犯行に及んだのだと思います(しかし、私文書偽造という重大な犯罪)。また、偽造領収書を添付することで、徴難明細書への記載を避けることができるので、資金管理が適正に行われていると見せかけることも動機としてはあったでしょう(大量の政治資金パーティー支払が徴難明細書というほとんど証拠能力のない書類で済ませてしまっているとまずいですから)。多くの議員が白紙領収書のやり取りを行っているようなので、富山市議会と同様に違法行為が自民党議員に蔓延していて、多くの不透明にしたい金の流れがあるという疑念が生じます。

 判決文では、正式な領収書を徴すことが困難だったという被告側の主張を受け入れ、判決文を構成していますが、徴収し難い事情に当たらないとすれば、また別の判決文となります。但し、政治資金規正法上の罰条が第25条1項から第24条3号などの変更は生じることになりますが、私文書偽造・同行使については変更なく、ほぼ同様な論旨で判決文を構成することができます。

最後に

 今回の記事は、判決文という形式で違法性を立証し、白紙領収書問題を批判させて頂きました。

 稲田防衛相・高市総務相・菅官房長官など、国政の中枢を担う立場であることを自覚して、国民に納得のいく行動をしてもらいたいものです。政治資金パーティーが必要であったとしても、少なくとも普通の会社と同程度の適正さで会計事務や領収書管理をして頂きたいと思います。特に難しいことではなく、普通にやって頂ければ良いだけです。普通にやらないから、疑念が湧くのです(というか、実際に数多くの不正が、これまであったのです)。

関連する報道一覧

● しんぶん赤旗(2016/8/25):稲田防衛相 疑惑の白紙領収書/同じ筆跡 約520万円分/日曜版スクープに反響
● しんぶん赤旗(2016/10/7):3閣僚 白紙領収書認める/菅官房長官・稲田防衛相・高市総務相 開き直り “規正法の根幹揺らぐ”小池書記局長が批判/参院予算委
● 日刊ゲンダイ(2016/8/24):稲田防衛相 “同じ筆跡の領収書”が260枚、520万円分のア然 | 日刊ゲンダイDIGITAL
● 朝日新聞(2016/10/6):白紙領収書「なんら問題ない」 稲田防衛相、追及に反論:朝日新聞デジタル
● 朝日新聞(2016/10/6):白紙領収書「法律上規定ない」 高市氏答弁、議場はヤジ:朝日新聞デジタル
● 産経新聞(2016/10/6):稲田朋美防衛相ら3閣僚の白紙領収書を追及 共産小池氏 3年間で計270枚の閣僚も 参院予算委 - 産経ニュース
● 毎日新聞(2016/10/6):菅、稲田氏:パーティーで白紙領収書 総務相「問題ない」 - 毎日新聞

補足:
 菅官房長官・高市総務相も稲田防衛相と同様に白紙領収書不正を行っています。

  • 菅官房長官:白紙領収書270枚で1875万円
  • 高市総務相:白紙領収書340枚で990万円

(2016/10/10)

関連記事

*1:政治資金規正法の関連する主な条項は以下の通り。

(会計責任者等が支出をする場合の手続)
第十一条  政治団体の会計責任者又は政治団体の代表者若しくは会計責任者と意思を通じて当該政治団体のために支出をした者は、一件五万円以上のすべての支出について、当該支出の目的、金額及び年月日を記載した領収書その他の支出を証すべき書面(以下「領収書等」という。)を徴さなければならないただし、これを徴し難い事情があるときは、この限りでない。
 
(報告書の提出)
第十二条  政治団体の会計責任者(報告書の記載に係る部分に限り、会計責任者の職務を補佐する者を含む。)は、毎年十二月三十一日現在で、当該政治団体に係るその年における収入、支出その他の事項で次に掲げるもの(これらの事項がないときは、その旨)を記載した報告書を、その日の翌日から三月以内(その間に衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙の公示の日から選挙の期日までの期間がかかる場合(第二十条第一項において「報告書の提出期限が延長される場合」という。)には、四月以内)に、第六条第一項各号の区分に応じ当該各号に掲げる都道府県の選挙管理委員会又は総務大臣に提出しなければならない
(中略)
2  政治団体の会計責任者は、前項の報告書を提出するときは、同項第二号に規定する経費の支出について、総務省令で定めるところにより、領収書等の写し(当該領収書等を複写機により複写したものに限る。以下同じ。)(領収書等を徴し難い事情があつたときは、その旨並びに当該支出の目的、金額及び年月日を記載した書面(第十九条の十一第一項において「領収書等を徴し難かつた支出の明細書」という。)又は当該支出の目的を記載した書面及び振込明細書の写し(当該振込明細書を複写機により複写したものに限る。)。以下同じ。)を併せて提出しなければならない。
 
(罰則)
第二十五条  次の各号の一に該当する者は、五年以下の禁錮又は百万円以下の罰金に処する。
一  第十二条又は第十七条の規定に違反して報告書又はこれに併せて提出すべき書面の提出をしなかつた者
出典:政治資金規正法

*2:

(私文書偽造等)
第百五十九条  行使の目的で、他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造した者は、三月以上五年以下の懲役に処する。
2  他人が押印し又は署名した権利、義務又は事実証明に関する文書又は図画を変造した者も、前項と同様とする。
 
(偽造私文書等行使)
第百六十一条  前二条の文書又は図画を行使した者は、その文書若しくは図画を偽造し、若しくは変造し、又は虚偽の記載をした者と同一の刑に処する。
2  前項の罪の未遂は、罰する。
出典:刑法

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