時事随想

時事随想

ニュースや新聞を見て、想ったことを綴った随想・論説集

政務活動費の不正受給は刑法犯罪

1. 富山市議による不正受給事件

 政務活動費の不正受給により、連日のように議員が辞職している富山市議会。今日も、市議会議長が議員辞職するというニュースがありました*1

1.1 不正受給の手口

 不正受給の手口はいろいろあるようですが、報道されただけでも、次のようなものがあります*2

  • 白紙領収書を用いた架空請求
  • (プリンタ印刷などで)領収書偽造による架空請求
  • 受領した領収書の支払い額の改竄による水増し請求

これらの手口によって、政務活動費を不正に受給しました。不正取得の総額は、約2373万円(毎日新聞 *3)や3268万円(産経新聞*4)。

 また、使用用途としては、政務活動費を充当する場合もあったのでしょうが、ある議員によれば、

  • 「(議員を続けるうちに)少し余裕が出てきて、つい手を出してしまった。飲み代やゴルフなど遊興費に充てた」(自民党会派前会長・中川勇氏)*5

とのことですので、私的流用している場合もあります。

1.2 市民団体、詐欺容疑で県警に告発

 これに対して、市民団体「市民が主人公の富山市政をつくる会」は、中川勇市議・谷口寿一市議を詐欺容疑で富山県警に告発しました*6。他にも刑事告発を検討している市民団体があるようです*7

2. 不正受給は刑法犯罪

 さて、政務活動費の不正受給は、違法行為と思いますが、どのような犯罪となるのでしょうか?

2.1 あの号泣議員の場合

 あの号泣議員、野々村竜太郎氏の場合には、詐欺と虚偽有印公文書作成・同行使の罪で裁判となり、懲役3年執行猶予4年の判決が下されました*8

 犯行の手口は、「344回の日帰り出張やはがき・切手代などに費やしたとする架空の書類を作成、収支報告書に添えて県議会側に出し、政務活動費913万円を詐取した」ということです。

 今回の富山事件も、野々村事件と同様に架空の領収書や偽造・改竄した領収書を作成し、政務活動費を詐取したということですので、基本的に野々村事件との差はありません。金額的にも富山事件でも数百万円単位で詐取しているので、大差ありません。

 野々村事件の判決文があれば、罪状の詳細が分かるのですが、残念ながら判決文を見つけることができませんでした。

 以下では、詐欺、偽造公文書作成・同行使と横領罪について調べ、罪状について検討しました。

2.2 詐欺罪

 詐欺罪は、刑法246条で規定されています。

(詐欺)
第二百四十六条  人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2  前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

 また、詐欺罪の構成要件は、ウィキペディア「詐欺罪」によれば、以下の通りです。

  1. 一般社会通念上、相手方を錯誤に陥らせて財物ないし財産上の利益の処分させるような行為をすること(欺罔行為又は詐欺行為)
  2. 相手方が錯誤に陥ること(錯誤)
  3. 錯誤に陥った相手方が、その意思に基づいて財物ないし財産上の利益の処分をすること(処分行為)
  4. 財物の占有又は財産上の利益が行為者ないし第三者に移転すること(占有移転、利益の移転)
  5. 上記1~4の間に因果関係が認められ、また、行為者に行為時においてその故意及び不法領得の意思があったと認められること

 富山事件について当てはめてみると、以下のようになるでしょう。

  • 構成要件1: 偽造した領収書を用いて、相手方(富山市)を錯誤に陥らせ、財物(政務活動費)を詐取した。
  • 構成要件2: 偽造した領収書により、相手方(富山市)が錯誤した。
  • 構成要件3: 錯誤に陥った相手方(富山市)が、その意思に基づき、財物(政務活動費)を処分した(交付した)。
  • 構成要件4: 財物(政務活動費)が、行為者(議員)に移転された(支払われた)。
  • 構成要件5: 上記1~4の間に因果関係が認められる。また、行為者(議員)は、故意・不法領得の意思があった(悪いことと思いつつやっていた)。

 従って、詐欺罪は成立すると考えられます。

 富山市の政務活動費の条例を読む限りでは、政務活動費の不正受給(受け取る)というよりは、不正返還(返還しない)ということと思いますので、「財物」ではなく「財産上の利益」のような気がします。適用条項が、刑法246条第1項の1項詐欺(詐欺取財罪)か第2項の2項詐欺(詐欺利得罪)の違いだけで、大差ないですが。

2.3 偽造公文書作成・同行使の罪

 偽造公文書作成は刑法156条(及び刑法155条)、偽造公文書行使は刑法158条に規定されています。

(虚偽公文書作成等)
第百五十六条  公務員が、その職務に関し、行使の目的で、虚偽の文書若しくは図画を作成し、又は文書若しくは図画を変造したときは、印章又は署名の有無により区別して、前二条の例による。

(偽造公文書行使等)
第百五十八条  第百五十四条から前条までの文書若しくは図画を行使(中略)した者は、その文書若しくは図画を偽造(中略)した者と同一の刑に処する。

 偽造した公文書は、「富山市議会政務活動費の交付に関する条例」(富山市条例第6号, 2005/4/1)の第9条に規定されている「政務活動費に係る収入及び支出の報告書(収支報告書)」でしょうか。

(収支報告書の提出等)
第9条 政務活動費の交付を受けた会派の代表者は、政務活動費に係る収入及び支出の報告書(以下「収支報告書」という。)を作成し、議長に提出しなければならない。
(中略)
4 前3項の規定により収支報告書を提出する場合においては、支出に係る領収書等の証拠書類の写しを添えなければならない。

 収支報告書の金額は詐取するため(政務活動費を返還しないため)に書かれたものであるので、虚偽であることは明らかです。従って、公文書の偽造にあたるでしょう。

 提出する「領収書等の証拠書類」の偽造は、私文書偽造になるのでしょうかね?

(私文書偽造等)
第百五十九条  行使の目的で、①他人の印章若しくは署名を使用して(略)事実証明に関する文書若しくは図画を偽造し、又は②偽造した他人の印章若しくは署名を使用して(略)事実証明に関する文書若しくは図画を偽造した者は、三月以上五年以下の懲役に処する。
2  ③他人が押印し又は署名した(略)事実証明に関する文書又は図画を変造した者も、前項と同様とする。
3  前二項に規定するもののほか、④(略)事実証明に関する文書又は図画を偽造し、又は変造した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
(①、②、③、④は筆者の追記)

(偽造私文書等行使)
第百六十一条  前二条の文書又は図画を行使した者は、その文書若しくは図画を偽造し、若しくは変造し、又は虚偽の記載をした者と同一の刑に処する。

 刑罰は、偽造公文書作成が懲役1年以上10年以下、私文書偽造も3カ月以上5年以下とかなり重い罪です。詐欺罪は10年以下で下限がありませんが、文書偽造だと下限が設定されていて、それだけ重罪ということですね。

(追記:2016/10/6) 富山市が、中川市議・谷口市議を「有印私文書偽造・同行使」の容疑で刑事告発しました*9。「領収書の偽造や改ざん」ということなので、「領収書等の証拠書類」の偽造は、私文書偽造でよさそうです。

(追記:2016/10/24) 各犯行手口は、それぞれ以下の私文書偽造①~④に該当します。
+ 白紙領収書を用いた架空請求            → ①、③あるいは④
+ (プリンタ印刷などで)領収書偽造による架空請求  → ②あるいは④
+ 受領した領収書の支払い額の改竄による水増し請求  → ③

2.4 横領罪

 政務活動費は、議員活動のためなら、比較的自由に使えるお金なので*10飲み代飲食を伴った会合やゴルフなどの遊興交流を通じた住民からの意見・要望の聴取などの議員活動のためなら刑法上の違法性を問うことは難しいでしょう*11

 しかしながら、中川議員のように「飲み代やゴルフなど遊興費に充てた」ということであれば、横領罪(横領あるいは業務上横領)に当たるのではないでしょうか。

第三十八章 横領の罪

(横領)
第二百五十二条  自己の占有する他人の物を横領した者は、五年以下の懲役に処する。

(業務上横領)
第二百五十三条  業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の懲役に処する。

 舛添さんのクレヨンしんちゃんや美術品も、どう考えてもアウト。一般人ならほぼ確実に横領罪です。

3. まとめ

 政務活動費を不正に受給した議員は、野々村事件と同様に詐欺罪や偽造公文書作成罪などの刑法犯罪を犯していることは明らかです。刑法に基づき適切に処罰されるべきです。

 おまけ:富山市の条例によれば、富山市議の政務活動費は1カ月当たり15万円。私が住んでいる市の政務活動費は月2万円でした(2万円というのも、これはこれで問題があるような...。地方議員にはほとんど政治献金はないでしょうし、これで議員活動ができるのでしょうか?)

  富山市議、政活費とて悪びれず、生活のため騙し取るかな

(2016/9/21)

関連記事

*1:毎日新聞Web版, 「富山市議会 新たに議長ら3市議が辞職願 計9人に」, 2016/9/20.

*2:毎日新聞Web版, 「富山市議会 政活費不正、ずさん請求満載」, 2016/9/19.

*3:毎日新聞Web版, 「政活費不正:市議補選へ 富山、6人目が辞意」, 2016/9/15.

*4:産経新聞, 「【富山市議政活費不正】「詐欺の片棒担いでしまった」領収書偽造の富山市議 辞職願提出も後悔の念 不審感じつつ先輩に遠慮も」, 2016/9/21.

*5:毎日新聞Web版, 「政活費不正 市議補選へ 富山、6人目が辞意」, 2016/9/15.

*6:産経West, 「7人目、54歳市議が20日に辞職願」, 2016/9/15.

*7:日刊ゲンダイDigital, 「不正発覚で辞職ドミノ 富山市議"芋づる逮捕"は時間の問題」, 2016/9/15.

*8:朝日新聞Digital, 「野々村元県議に懲役3年執行猶予4年の判決 政活費詐取」, 2016/7/6.

*9:時事通信, 「政活費不正、元市議2人告発=有印私文書偽造容疑-富山市」, 2016/10/6.

*10:政務活動費は、地方自治法第100条14に規定され、地方自治体の条例により、「政務活動費を充てることができる経費の範囲」を決めることになっています。 富山市の政務活動費に関する条例では、政務活動費は、「議員の調査研究その他の活動に資するため必要な経費の一部」として交付され(第1条)、その経費の範囲が規定されています(第8条)。

*11:住民監査請求等により、不適切な支出であると、監査請求を行うことはできると思います。政務活動費の不正受給に対する刑事告発 - 時事随想で、住民監査請求について記事を書きましたので、参考にしてください。

台風16号、接近中

子供の頃の台風の記憶

 台風16号が接近中。テレビでは、朝から台風ニュースが流れています。

 子供の頃に住んでいた家は、今の家とは違い、柱とトタン屋根と少々の壁からできた1階建の質素な家でした。子供の頃に聞いた親の話では、大きな台風が来た時に窓や襖がすべて飛ばされたことがあったそうです。屋根も飛ばされるのではないかと思ったとか。私の記憶にはないのですが、この話を聞いていたので、子供の頃は、台風をすごく恐れていました。家の作りが貧弱で、台風がくると家が軋む音が凄く、窓が吹き飛ばされても不思議ではないと子供心に思ったのです。子供のときならず、大人になっても、台風で屋根が飛ばされる夢をときどき見ていました。

 新しい家に建て替えて以降は、自分も成長していたので、子供の頃のように台風に恐怖を感じることはなかったし、最近まで、台風が怖いと思ったことはありませんでした。

 しかし、先日台湾を襲ったスーパー台風14号の被害を見ると、新築のしっかりとした家でも、子供の頃に住んでいた脆弱な家のように屋根や窓が飛ばされるのではないかと思います。恐怖を感じます。

スーパー台風

 昔、NHKスペシャルで地球温暖化について放送していました*1。2005年にハリケーン・カトリーナがニューオリンズを襲った頃なので、もう10年ぐらい前になるかと思います。

 その中で、地球シミュレータによる台風シミュレーションの結果が示されていて、将来的には(確か、30年とか50年後)、カトリーナのような規模のスーパー台風が頻繁に日本を襲うということでした。

 図1に1950年からのスーパー台風の発生数をまとめました。意外と多いですね。但し、多くは南方の海上で発生し、日本やフィリピン・台湾などに到着するまでに勢力が衰えているので、実際に大きな被害を及ぼす台風の数と一致するというわけではありません。

 1959年に発生した伊勢湾台風(台風15号)は、大きな被害を及ぼしましたが、急速に発達し勢力が衰えないまま日本に上陸したことが原因でした。記憶が正しければ、地球シミュレータの予測では、衰えない台風が日本を直撃することが多くなるというものでした。

 最近は地球温暖化の影響を身近に感じますが、今後、台風もどういうように影響を受けるのでしょうか?

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図1: スーパー台風の発生数。
(ウィキペディア「Pacific typhoon climatology」に基づき筆者作成)

(2016/9/20)

*1:追記:2006年2月18日放送のNHKスペシャル「気候大異変 Climate in Crisis 第1回 異常気象 地球シミュレータの警告」, 2016/2/18放送.

厚木基地所属の海自ヘリの部品落下

海自ヘリの部品落下

 9月8日の読売新聞朝刊(相模版)に小さく「海自ヘリ部品紛失」という記事がありました*1

海上自衛隊第4航空群司令部は7日、厚木基地所属第51航空隊のヘリコプター(SH-60J)が、厚木基地-相模湾を訓練飛行のため往復した際、尾部の回転するブレードを小石などから守るポリウレタン製カバー(長さ約70センチ、幅約6センチ、厚さ約1ミリ、重さ約50グラム)を紛失したと発表した。同航空隊が原因を調べている。

 綾瀬市の市議のブログにホームページに自衛隊の広報室からのお知らせの内容が転記されていました*2。関連自治体には連絡がいくようですが、一般人は新聞の小さな記事で知るしかないのですかね。

我が家上空にもP-3CやC-130が巡回

 実は我が家の上空には、厚木基地所属の航空機が巡回しています。特に多いのが、P-3C対潜哨戒機やC-130輸送機。厚木基地のランディング待ちで巡回しているのだと思いますが、非常に低い高度で飛行しています。 できるだけ田んぼの上空を選んで飛んでいるようなので、田んぼの中にある我が家周辺が航路に選ばれてしまうのでしょう。低空飛行するので、騒音も無視できず、落ちてきそうで怖いです。

 実際、過去に米軍のヘリコプターが、自宅の1kmの範囲内で何回か落ちています。1回は50年以上前になりますが、乗員3名が全員死亡。その他、不時着が2回。1回はヘリコプターからサンタクロースが下りてきたので、テレビでも取り上げられました。米軍の事故リスト*3を見ると、昔は死亡事故がかなり多いです。

 1日数十回程度の巡回でも嫌に思うのですが、厚木基地周辺の方や沖縄の方はさぞかし迷惑に思っているでしょうね。

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 我が家上空を飛行するC-130輸送機
iPhone5sでの撮影ですが、特に何もしなくても、この大きさで写ります。右下が我が家の屋根。


(2016/9/16)

関連記事

【NHK】ワンセグ携帯、受信料の支払い義務なし

「ワンセグ放送 NHK受信料、支払い義務ない」(毎日新聞Web版, 2016/8/26*1 )

テレビを視聴できるワンセグ機能付き携帯電話しか持っていない場合に、NHKに受信料を支払う義務があるかが争われた訴訟で、さいたま地裁は26日、支払い義務はないとの判決を言い渡した。

これと関連する原稿を別のブログ向けに随分と昔に書いたのですが、今回、加筆・修正して公開することにしました。

NHKの訪問員が来た

休日のひととき

 風邪で休んでいたら、NHKの訪問員の方がいらっしゃいました。  そう言えば、ここのマンションに引っ越してきてから、初めてのNHKの訪問員かもしれません。

 (NHKを装った空き巣の下見人らしき)怪しいヒトも、訪問してきます。怪しいヒト達は、身分証の提示がないので、「NHK?」と怪訝な顔をして、ジロジロ見ていると、直ぐに退散してしまいます。ヤクザ顔というわけではないのですが(笑)。

 身分証明証の提示がなかったので、「ジロ見」していたのですが、しつこかったので、どうも本物のようでした。「視聴者の皆様は、受信料債務を抱えた債務者です」と対応するように教育されているのでしょうか、笑顔もなく怖かったです(変なヒトだったし)。

 幸か、不幸か、ちょうどテレビが故障中だったので、一旦、お引取り頂いたのですが、こんなやりとりをしました。

  • 「テレビはありますか?」→「あるけど、故障中です」
    B-CASカード回りの不具合らしく、テレビ放送は見れませんが、インタネット回りは問題く、U-NEXTやAmazon TV StickやChromecastは使えます。
  • 「どうやってテレビを見ているのですか?」→「インタネットで見ています」
  • 「インタネットで見ていても、パソコンで見ていても、必要です」→「インタネットで見ています」
     テレビと言っても、放送は映らないので、もっぱら、AmazonビデオやU-NEXT、BBC・NHKのインタネット放送などのインタネット放送だったのです。NHK World TVを見ているというと、強引に居座りそうだったので、これについては沈黙を守りました。
  • 「ワンセグ携帯見ていても、必要です」→「今使っているのはiPhone。ワンセグついていません」
     使っていないワンセグ携帯も、持っているけど、契約が必要とは思えないので、ワンセグ携帯を持っていること自体、明かしませんでした。

 どこの勧誘員も、基本的に歩合制なので、頑張りすぎてしまうところがあって、いろいろ不都合な事実は告知しないことがほとんど。その場で契約しないことが基本的な対応ですので、今回も同様に対応しました。

初めてのNHK

 大昔に、生まれて初めてのNHKの訪問員の方が来られたときに、NHKは映らない(当時は深夜時間帯には放送がなかったので、家に帰ったときには映っていない)と、ちょっとゴネたら、すぐに「放送法」の小さなビラを出してきて、なかば脅迫的に契約を迫ってきたので、逆ギレしてしまいました。「白黒契約でもいいから契約して」というダンピングも勝手にやっていたので、さらに逆ギレに拍車がかかりました。若かったです。

 そのときに、きっちり放送法・NHK受信契約関連の調査をしました。二度目の訪問には菓子折りを持ってきましたが、丁寧にお断りした上で、NHKの問題点・改善案を上げて、最終的には、「契約内容に同意できないので、契約できない」ということで、受信契約を行いませんでした。

 当時は、NHKは裁判を起こすことはなかったので、「契約の自由」(民法)と「契約の義務」(放送法)のどちらが優位であるかを争点とした司法判断はありませんでした(今は判例があるようです)。

 今回の対応でも、そのとき調べたいろいろな知識が役に立ちました。

NHKコールセンターとの質疑応答

 さて、今回の訪問での疑問点としては、以下の2点がありました。

(1) インタネット視聴でも、契約は必要か?
(2) ワンセグ携帯を持っているだけでも、契約は必要か?

 早速、NHKふれあいセンターに電話して聞いてみました。

(1) インタネット視聴でも、契約は必要か?

 ・ NHKの放送をみるのでなければ、不要。
 ・ (TVerなどの)民放を見るだけなら不要。
 ・ (Amazonビデオ、U-NEXTなどの)ビデオ・オン・デマンドを見るのなら不要。
 このあたりは、すぐに回答を頂きました。他社が提供しているサービスに対して、NHKが契約を求めるのは明らかにおかしいので、当たり前といえば当たり前ですね。
 ・ NHKオンデマンドを見るのも不要
  そもそも有料サービスですから、二重取りになってしまいます。
 ・ 「NHK ワールドTV」も、不要。
 これには、即答できず。そもそも「NHKワールドTV」が何か知らなかったようです。少し調べてからの回答で、これも不要。

 NHKワールドTVは、NHKの海外向けの無料放送で、同じ内容をインタネットにライブ配信しています。

NHKワールド: よくあるご質問(FAQ)
直接受信するには、直径2.5~6mのパラボラアンテナと専用のデジタルチューナーが必要です。映像にスクランブルはかかっていません。無料で受信できます。

 この海外向け国際放送はインタネットにも配信しているので、パソコンやスマホで簡単に見ることができます。放送法及びNHK受信規約上は、NHKのインタネット放送を受信できる装置を設置している人は、契約義務があります(詳細は補足参照)。つまり、放送法上は、パソコンを家に置いておいて(設置して)、ネットにつないでいる人は契約義務があるように読めますが、NHKワールドTVは契約は不要だろうということで、念の為の確認でした。

(2) ワンセグ携帯を持っていると、契約は必要か?

  • ワンセグ携帯を持っていると、契約は必要か?
    回答:「携帯でも、ワンセグが見られれば、契約は必要」

 これは、NHKのホームページのFAQに出ている公式見解の内容とほぼ同じ。

NHKよくある質問集:パソコンや携帯電話(ワンセグを含む)で放送を見る場合の受信料は必要か*2
Q. パソコンや携帯電話(ワンセグ含む)で放送を見る場合の受信料は必要か?
A. NHKのテレビの視聴が可能なパソコン、あるいはテレビ付携帯電話についても、放送法第64条によって規定されている「協会の放送を受信することのできる受信設備」であり、受信契約の対象となります。NHKのワンセグが受信できる機器についても同様です。

  • 使っていないワンセグ携帯を持っているだけでも必要か?
    回答:「ワンセグ機能があれば、使っていない携帯電話でも、NHKとの契約が必要」

  • SIMカードを入れていないので、ワンセグが使えない携帯電話でも必要か?
    回答:ワンセグが使えないのあれば、契約不要。

  • 現在スマホに入れているSIMカードを、今は使っていないワンセグ携帯に入れ直せば、また使える状態に簡単に戻る。普段は、スマホにSIMカードを入れているのでワンセグを見ることはできません。このような場合にも契約は必要か?
    回答: 「契約しなくてもいいようです」(ちょっと自信なさげ)
     この質問には、回答を保留して、少し待ってからの回答でした。上司に判断を仰いでいたのでしょう。

 ついでに、苦情というかお願いをしておきました(これについては、地域担当の窓口に言ってくれということで、電話は掛け直し)。

  • マンションの管理組合の許可を得た上でマンションの敷地内に入ること。
     高齢者や女性の一人暮らしも多いので、怪しい人には侵入してもらいたくはないのです。マンションは、新聞配達と電気・ガス・水道の検針などは除いて、関係者以外の立ち入りは禁止。当然、新聞などの勧誘員などの立ち入りは厳禁です(このために、立て看板を立ているようなもの)。NHKの勧誘員だからといって、不法に他人の土地に侵入して良いわけではありません。
  • 身分証を提示すること。名刺を渡すこと。
     身分証の提示もなく、名刺も渡してもらえませんでした。勧誘員に連絡するにも、苦情を申し立てるにも、どこの誰か知る必要があります。名刺を渡さないのは、NHKのみです。新聞の勧誘でさえ、名刺を置いていきます。
  • 事前に必要資料・契約書を提出すること。
     勧誘員が来てからでは契約書の内容を精査できないので、契約書は予め提示してもらう必要があります。契約書面を見ないで、押印することは通常あり得ません。提示を要求しても渡さないのはさらにあり得ません。全く信用できません。
  • 事前に訪問日の予定を示すこと。
     まともな民間の会社であれば、事前連絡やアポイントをとってから訪問にいらっしゃいます。いきなり来るのは、NHKと新聞の勧誘ぐらい。訪問販売は迷惑です。
     契約することと、訪問販売は別のこと。家電量販店や街角で、「NHK放送の契約をお願いします」とかやっているところを見たことがない。民間であれば、あれやこれやと、努力しています。訪問販売だけが手段ではないはずです。引っ越し時にも、電気・ガス・水道の案内はありましたが、NHKは案内が届いていない。少なくとも、最低限の努力はしてほしいです。
  • 普通に考えれば、スクランブルをかければよいこと。なぜ、スクランブルをかけないのか?
     アナログ時代には技術的に困難でしたが、デジタル化されたので、スクランブルは容易に可能になりました。いろいろ議論はあるようですが、スクランブルをかければ、今のような訪問販売というレガシーな方法で脅迫的に受信契約を強要させる必要はないはずです。きっと笑顔で訪問にきます(笑)。

 (追記) 捨てゼリフに「また来ますよ」と凄みを聞かせたNHK勧誘員は、その後、来ることはありませんでした。NHKにチクったわけなので、逆切れされたりすると嫌でしたけど、大丈夫でした。

教訓

 うっかりワンセグ携帯持っていますとか、NHKワールドTVを見ていますと回答していたら、NHKの押し売りをされるところでした。

 NHKの勧誘員の言うことを、信用してはいけません。


教訓2

 今回の判例からすれば、NHKも信用してはいけません。

(2016/9/8)

関連記事

補足:NHKワールドTVに受信契約は必要か?

放送法第64条第1項には、以下の規定があります。

協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。

ここで、「放送」は、放送法第2条第1項で定義されています。

「放送」とは、公衆によつて直接受信されることを目的とする電気通信の送信をいう。(一部省略)

「電気通信の送信」の意味が分かりづらいですが、NHK受信料制度等専門調査会第3回会合資料*3によれば、有線・無線を問わないということですので、インタネット経由の放送も含まれます。

  • 現行法の放送法: 放送とは「公衆によって直接受信されることを目的とする無線通信の送信」(「無線通信」は、無線のみ)
  • 改正後の放送法: 放送とは、「公衆によって直接受信されることを目的とする電気通信の送信」(「電気通信」は、無線・有線を含む)

 NHKの海外向け国際放送(以下、NHKワールドTV)は、「協会の放送」ですので、放送法第2条第1項によりインタネット経由であっても「協会の放送」であること変わりはありません。従って、第64条第2項により、NHKワールドTVを受信することのできる受信設備を設置した者は、NHKと受信契約しなければなりません。

 また、NHKの放送受信規約第1条第2項には、以下の規定があります。

2 受信機(家庭用受信機、携帯用受信機、自動車用受信機、共同受信用受信機等で、NHKのテレビジョン放送を受信することのできる受信設備をいう。以下同じ。)のうち、地上系によるテレビジョン放送のみを受信できるテレビジョン受信機を設置(使用できる状態におくことをいう。以下同じ。)した者は地上契約、衛星系によるテレビジョン放送を受信できるテレビジョン受信機を設置した者は衛星契約を締結しなければならない

 NHKワールドTVも衛星系によるテレビジョン放送(インタネットは、その再放送)です。NHK受信規約では、衛星系テレビジョン放送であるNHKワールドTVを除外してもよいという記載はありません。従って、NHKワールドTVについては、放送法・NHK受信規約上は受信契約契約をしなければならないと解釈できます。

 実際には、NHK受信規約の衛星契約はBS放送などを想定しているので、NHKワールドTVについては、NHK受信規約には規定されずに、未規定となっているといったところでしょうか?放送法、あるいは、NHK受信規約のいずれかに、現在インタネット放送しているNHKワールドTVを除外する規定を入れなければならないでしょう。そうでなければ、(NHKワールドTVの視聴の有無に係らず)パソコン設置者はNHKと衛星契約をしなければならないということになってしまいます(見落としがあるかもしれませんが、それを否定する規定が見つかりませんでした)。

ワンセグ裁判判決文 (追記:2016/11/1)

 ワンセグ裁判の判決文がありました。

ワンセグ裁判判決文(NHKから国民を守る党, 2016/8/29)

 論点は、「設置」に「携帯」の概念が含まれるかということです。NHKの弁護士さんは、よく調べて、論理を構成をしています。但し、素人目でも、単なる屁理屈。単純に、素人vsNHKの口喧嘩であれば、NHKの屁理屈に言い負けてしまいそうですけど、口喧嘩の間に入って裁判官が、「君のいうことは屁理屈だよ」と適切な仲裁をしていると感じました。頭でっかちで負けを認めたくないNHKくんは、我儘いって、自分は正しいんだと、控訴したようです。

 上級審で判決が逆転する可能性は非常に少ないと思いますが、どうなんでしょうね。

 下記のYouTube映像を見ると、ほとんどの自治体・国の機関がワンセグ携帯を契約していないとのこと。私は正しいと主張しているNHKくん、全部徴収すれば、1000億円単位の増収になるのでは?まずは、ワンセグだけしか持っていないような学生さんから徴収するのではなく、法人営業を頑張るべきではないですかね?1000億円の増収であれば、1-2割ぐらいの値引き原資が生まれます。


ゴルゴ13、北朝鮮へ

「北、EEZに3発 - ミサイル - 首相「重大な脅威」」(読売新聞朝刊1面,2016/9/6)*1

 毎度、北朝鮮の傍若無人ぶりを見るにつけ、ゴルゴ13を送り込んで暗殺してしまえと思ってしまいます。

 現実問題としては、ゴルゴ13はいませんし、首領様一人を暗殺したからと言って、北朝鮮問題が解決される訳ではないでしょうが、今回は、ゴルゴ13が暗殺依頼を受け、実行してしまった場合の思考実験をしてみたいと思います*2

ゴルゴ13、暗殺依頼を受ける

 さて、ゴルゴ13に暗殺依頼をするのは、誰でしょうか?

 米国政府・韓国政府・日本政府・中国など政府系、あるいは、米国の軍産複合体あたりでしょうか?軍産複合体のうち、政府筋の意向を組んだ産業界の右派の大物からの依頼、あるいは、脱北者の少女の一輪の花によって依頼を受けるかもしれません。

ゴルゴ13、一発の銃弾で眉間を打ち抜く

 ゴルゴ13なら、途中苦難はあるでしょうが、一発の銃弾で眉間を打ち抜いて任務を完了します。民間人の犠牲者はありません。さすがスーパースターです。

 現実世界だと、一発で仕留めることは無理でしょうね。ビン・ラーディンを殺害したときのように((ウィキペディア, 「ウサーマ・ビン・ラーディンの殺害」.))米軍特殊部隊が急襲しても、失敗したら、反撃が恐ろしいです。日本・韓国にミサイル攻撃されることを想定しなければなりません。困った。

ゴルゴ13、北朝鮮を去る。その後は?

 ゴルゴ13は、北朝鮮を去って行く。その後は、残った人々の仕事です。

 どうするんだぁ...、その後は...。

 北朝鮮のその後の行方は、以下のケースのいずれかでしょうか?

  • case 1:独立国家として存続する。

    • case 1-1: 北朝鮮体制は崩壊しない。
      • case 1-1-1: 米国陣営(米韓日)との戦争に突入する。
      • case 1-1-2: 戦争はしないが、基本的な政策に変更なし。
      • case 1-1-3: 柔軟路線に転換するが、独立国家は維持。
      • case 1-1-4: 韓国との統合を目指す。
    • case 1-2: 米国の傀儡政権が樹立される。
    • case 1-3: 中国の傀儡政権が樹立される。
       
  • case 2: 国家としては崩壊する。

    • case 2-1: 韓国と統合する。
    • case 2-2: 北朝鮮の各派により内戦状態に突入する。
      • case 2-2-1: 中国と米国の代理戦争となる。
      • case 2-2-2: 大国の支援を受けない内戦状態。

 暗殺の直後に最もありそうなシナリオは、(a)独裁者を失った現政権に対する軍事クーデターが発生し軍事政権が樹立される、あるいは、(b) 米韓軍が軍事侵攻し、北朝鮮を制圧する((ウィキペディア, 「作戦計画5029」.))といったところでしょうか(その後、紆余曲折があり、結局は上記のケースのいずれかになる)。

 最終的には、ドイツやベトナムのように1つの国家として統合するのが、1つの民族として目指すべき姿なのでしょう。 そう言った意味では、case 1-1-4(韓国との統合を目指す)、case 2-1(韓国と統合する)が望ましい姿なのでしょうが、東西ドイツの統合よりもハードルが高そうです。統合後は、韓国が中心となる政治・経済の運営となるので、必然的に米国陣営の体制となります。

 中国としては、北朝鮮バッファーがなくなり、米国陣営と国境を接するのは、避けたいでしょうね。

 現状維持という意味では、case 1-1-3(柔軟路線に転換する)が、両大国・韓国にとっては、望ましいシナリオなのかもしれません。当面は問題の先送りになりますが、できるだけソフトランディングを目指すのであれば、case 1-1-3なのでしょう。

 韓国統一省などは、具体的にどのような統合シナリオを描いているのかよく知りませんが、いずれにせよ、いろいろハードルが高そうです。

まとめ

 ゴルゴ13はいません。現実は厳しいです。

(2016/9/7)

*1:読売新聞Web版、「北朝鮮、日本海に向けて弾道ミサイル3発を発射」, 2016/9/5.

*2:さいとう・たかを氏は朝鮮半島を舞台にしたエピソードも検討をしたそうです。(週刊文春, 「ゴルゴ13 朝鮮半島に現れない「深刻な理由」」, vol. 52(31), pp. 173-174, 2010-08-12, 文芸春秋)

2015年度末の企業の内部留保は、429兆円

1. 2015年度末の企業の内部留保は、429兆円

 9月2日の読売新聞朝刊一面によれば、2015年度末の企業の内部留保は377兆円で、2014年度末に比べて、23兆円の増加とのことです*1

 「内部留保」にはいろいろと定義はあるようですが、財務省発表*2では、利益剰余金を発表していますので、読売新聞の報道の内部留保とは、利益剰余金を指すと思われます。但し、読売新聞の数字は、金融・保険業を除いた値で、金融・保険業を含めると、429兆円となるようです(増加額は26兆円)。

 では、この利益剰余金とは何かというと、

  • 利益剰余金 = 純利益 - 配当金・役員賞与など
  • 純利益   = 経常利益 ± 特別利益・損失(土地の売買などで発生する利益や損失)
  • 経常利益  = 営業利益 ± 営業外収益・費用(受取利息等の収入や借金の利息など)
  • 営業利益  = 売上 - 費用(人件費・材料費・販売管理費など)(本業の利益)

従って、

  • 利益剰余金 = (本業の利益) ±(営業外収益・費用)±(特別利益・損失)-(配当金・役員賞与など)

という面倒な関係にありますが、簡単に言えば、最終的に会社に残る"お金"。これが429兆円にも上るということです(M&Aにより買収した会社の株式なども入るため、必ずしも、現預金だけではありません。しかし、それでも、現預金は200兆円程度あるようです)。

 日本人一人当たり*3で計算すれば、335万円のお金に当たります。年間の増加分の26兆円では、一人当たり20万円。労働者を6479万人*4として一人当たりに換算すると、40万円となります。内部留保せず、すべて賃金に回せば、労働者一人当たり40万程度のボーナスが貰えそうです。実際には、大企業の内部留保が多いのでしょうから、大企業正社員なら、この数倍のボーナスとなるのでしょうか。ぱっと使ってしまえば、直ぐにデフレから脱却できそうな金額ですね。

2. なぜ、内部留保が貯まっていく?

 デフレからの脱却ができない原因の一つとして、企業がこのお金を賃上げや設備投資に回さないことが挙げられています。では、何故、企業が内部留保を抱え込んでしまうのか?理由にはいくつかあると思いますが、大きくは次の点でしょうか?

(a) 日本の成長は望めないこと
 少子高齢化社会となり、人口減少する国では、成長は望めず、むしろ減退していくと考えるのが自然です。成長が望めない国への投資はしづらく、保守的にならざるを得ません。

(b) 為替レートの大幅な変動があること
 為替レートの変動が、企業業績に与える影響は非常に大きいです。この為替レートが、貿易決済などに必要な実需により決まるというよりも、今では巨大になった金融マネーで決まっていくために、非常に速く、大きな為替レートの変動となっています。企業としては、最悪な為替レートを考慮して、経営をしていかなければならないので、どうしても手元にお金を確保したくなります。

(c) 国内だけでなく、国際的な政治・経済に将来的な不安があること
 リーマンショック後だけでも、ギリシャショック、中国ショック、Brexitなど毎年のように大きなイベントがあります。シリア問題や中国の覇権拡大など地政学的な問題も大きな不安要素です。これらは、為替レートにも大きな影響を与えますし、実際の事業そのものにも影響を与えます。将来が予測しにくい世界では、やはり保守的にならざるを得ません。

 他にも、日本が成長期から成熟期を迎えたということなどいろいろな要因があるのでしょうね。

3. 貯まったお金はどこへ行く

 さて、内部留保は、投資資金や株主還元、リスクバッファーに向けられるべきと言われることもありますが*5、実際に向かっているお金の行き先の多くは海外投資です*6。日経新聞によれば、為替要因を除いた海外投資は、1年前に比べて、15.8兆円の増加とのこと*7

 企業にとって、(a)の日本の成長が望めないことへの対応策の一つがグローバル化、海外進出です。企業は必ずしも国家の枠に囚われないので、企業が成長するのであれば、海外進出することを厭いません。このため、多くの企業が利益剰余金を資金源の一つとして大規模な海外投資を行っています。

 結局、日本人が苦労して稼いだお金が海外に出て行ってしまっているという構図です。海外投資で利益が出ていれば、国内への還流があるので必ずしも悪いことではありませんが、利益がでていなければ、利益の還流なし、最悪、評価損が過大となり、減損処理しなければなりません。つまり、投資は高値買いや失敗で、無駄遣いだったと言わざるを得ません。

4. 海外に行ったお金は戻ってくるの?

 最近、報道された有名な海外投資の減損の事例だけでも、資源案件の三井物産や三菱商事・住友商事、東芝の原子力事業など多数あります。減損処理は、将来的に投資の回収の見込みがないと判断されるためになされる処理です。このため、減損額は、大雑把にいえば、戻ってこないお金の額です。

 ざっと、過去1年の記事を検索して調べただけでも、総計2兆2610億円の減損が発生しています(直近の1年間に限っても、1兆6939億円)。簡単に調べただけなので、実際の損失額は、この数倍に及ぶのではないかと想像します。海外投資規模を15.8兆円とすれば、少なくとも1割程度、実際にはその何倍もの損失が発生していると推測できます。つまり、減損額の数兆円のお金は戻ってこないと思われます。

 多くの事例では、事業から撤退することはなく、継続しています。これには「成長する事業である」「今後、利益が見込まれる」というような理由付けがなされます(株式投資で損切りできない心理と何か相通じるものを感じます)。たとえ、そうであっても、売却した側からすれば、(将来的に望みのないであろう)事業を高値で買ってくれたいいお客さんが日本企業ということですね。

 減損は、損失側の一方だけを見ているので、実際には、利益が上がった方も見ないと、正当な評価ではありません。例えば、ソフトバンクの約20年前の米Yahoo!への投資、約15年前のアリババへの投資などは成功例です。ただ、日本企業全体で見れば、減損額や評価損を上回る評価益・売却益が得られているかは、怪しいところではないかと思います。

5. では、どうすればよい?

 では、どうすればよいか?難しい問題ですよね。

 数年程度の直近の話としては、アベノミクス3本の矢の第3の矢の成長戦略を進めることでしょう。但し、実際にはほとんど実行性のあることは何もやっていないという印象です。

 第1の矢の「大胆な金融政策」は、日銀による無理筋の金融政策です。この効果は一時的にありましたが、日銀に高く積まれた373兆円の国債をさらに年80兆円ペースで増加させる*8のは、素人考えでも、無謀としか思えません。日銀に貯まった400兆円、500兆円を市場に戻すことはできるのでしょうか?国債の暴落をもたらすので、ずっと日銀が抱え込むのでしょう。EXITがない金融政策です。

 第2の矢の「機動的な財政政策」は、国土強靭化に代表される昔ながらの公共事業のばらまきで、国の成長に寄与するとは思えません。むしろ、多額の借金をさらに増やすことで、成長の足かせになることでしょう。 

 長期的には、少子高齢化への対応が本質的な問題と思います。安倍政権の政策として、「女性活用」がありますが、低賃金労働者として使える労働者を増やしたいという経済界の要望を満たすことが主眼です(この意図があまりに見え見えで印象が悪かったので途中から「女性活躍」と呼び変えました)。保育環境の充実なく、「女性活用」を進めれば、さらに少子化が進みます。「保育園落ちた日本死ね!」に関して、「誰がいってるか分からないことを取り合う必要はない」という趣旨の安倍首相の国会答弁がありましたが、それが基本的な考えなのでしょう。ただ、批判の火が付きそうだったので、直ぐに「保育園充実させます」というように変更しました(変わり身の早さには感心させられます)。しかし、これも、参院選の前の一時的なもので、少子化問題に対して長期的な視点で本気で取り組むことは、残念ながら無いでしょう。

 公共事業費のごくごく一部のお金で、保育環境の充実は図れるはずです。給付型奨学金なども可能でしょう。90歳になっても老後の心配をしなければならない環境も問題です。老人ホームや病院に何年もいなければならないと、直ぐに1000万円単位の出費となります。身近でも、7年間意識不明の寝たきりの入院で先日亡くなった叔母、10数年意識不明のまま入院している隣のおばさん、妻が10年以上痴呆でほとんどの介護をしている91歳の叔父、義理の父・母の両方が老人ホームに入っている姉。そして、痴呆が進んでいる83歳の母。何歳になっても老後は心配なのです。このため、1000万円単位で預金があっても、それを使えずにいる高齢者も多いのではないかと思います。裕福な家庭に育ったどこぞの国の副総理には理解できないことかもしれませんが。

 この原資として、企業の内部留保のうち、現金の部分に課税することも考えられるのではないでしょうか?現金も、積みあがっているのです。また、課税が嫌なら、投資をせよ・賃金を増やせ、という強力な圧力にもなります(リスクバッファを取らなくなると困りますけどね)。

(2016/9/3) 

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  このブログは、ニュースや新聞を見て、想ったことを綴った随想・論説集です。

 理系研究者のためか、妙に詳細な場合がありますが、気になったことを改めて調べ直しているうちに、詳しくなったものなので、その分野の専門家という訳ではありません。理解についての誤りなどがありましたら、ご指摘頂ければ幸いです。

2016年9月3日
天祐虎之助
 
twitter: @TenyuToranosuke



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