10月27日にレオパレスのテレビ付き賃貸住宅について、居住者にNHK受信料の支払義務なしとの判決が東京地裁で下され、NHKは敗訴しました。報道を見る限りでは、NHKの敗訴は当然と言える内容でした。この判決に対して、NHKは控訴するようですが、素直に非を認めるべきではないでしょうか?
1. 裁判の概要
いくつかのニュース記事 *1 *2 *3から、その概要をまとめると以下の通り。
- 事件の概要
- 原告の福岡市の男性が勤務先の指定で兵庫県内のマンスリーマンション(レオパレス21)に短期プラン(30-100日)で33日間入居した(2015年10月19日入居)。
- 約10日後、NHK訪問員から執拗に契約を迫られ、サインの上、2カ月分の受信料(2620円)を支払った。
- 男性は、2015年11月20日に退去。後にNHKは男性に1カ月分の受信料1310円を返還したが、残る1カ月分は返還しなかった。
- 男性は「自分がテレビを設置したわけではないのに、不当に受信契約を結ばされ、受信料を支払わされた」として、NHKに1カ月分の受信料(1310円)の返還を求めた。
- 争点
- 原告の主張
- テレビを設置したのはレオパレスである。
- 短期間の宿泊施設として利用されるホテルでは、ホテル側が受信料を支払っている。
- NHKの主張
- マンションの運営業者は「受信料は入居者が負担する」と明示していた。
- 「受益者負担」の観点から、テレビを現実に占有・管理している入居者が実質的な「受信設備を設置した者」に当たる。
- 原告の主張
- 判決要旨
- 受信料とはNHKの放送を視聴する対価ではなく、公共的なNHK放送を維持するために、テレビを設置した者に対して公平に負担を課すものだ。NHKが視聴の対価として受信料を理解しているとすれば間違いだ。テレビ設置者を問題にせず、テレビの使用者を問題にしている点も失当だ。
- 男性の入居時点で既に設置されており、貸主側が設置者と推認される。
- 「設置者」は、実際の視聴者が誰かが問題ではなく、物理的・客観的にテレビを設置して受信できる状態を作り出した者である。
- よって、未返還の受信料全額(受信料1か月分,1310円)の返還をNHKへ命じた。
- NHKの対応
- 即日控訴した。
また、背景としては、以下のことがあります。
- レオパレスの物件では、入居者がNHKの受信料を支払うように定めており、空室では受信料が支払われていない。
- レオパレス21によると、同社のテレビ付き賃貸物件の入居者側の支払い義務を否定した判決は初めてという。同社は50万件以上のテレビ付き賃貸物件を扱うが、従来は入居者がNHKの受信料を支払っていた。
2. 破綻しているNHKの反論
「受益者負担の観点から、テレビを現実に占有・管理している入居者(レオパレスの利用者)が「受信設備を設置した者」に当たる」とNHKが本当に主張しているのであれば、あまりにも論理が飛躍しています。
受益という点では、レオパレスも受益者で、テレビが予め設置されていることを売りにして賃貸サービスをしているわけで、素直に考えれば、ホテルと同様にレオパレスと受信契約を結ぶべきです。
判決はさらに突っ込んでいて、受益は関係ない(「NHKが視聴の対価として受信料を理解しているとすれば間違いだ」)と言っています。受益は無関係というのは放送法上はそうだと思います*4。だから、NHKの視聴の有無に無関係(受益に無関係)に、NHKの受信できるテレビを設置すると受信料を払わなければならないのです。しかし、放送法は受益者負担の原則に反しているので、憲法に照らせば問題があるような気がしますが、該当する憲法の条文が分からない…。憲法13条(自由及び幸福の追求)や憲法29条(財産権の保護)に違反しているような気がするのだけど、論理の組立が難しく、ちょっと無理のような気もする。
また、「受信料は入居者負担とする」と明示しているとのNHKの主張ですが、少なくとも「入居者がNHK受信契約を結ぶ」というレオパレスとの契約でなければ、利用者にはNHKとの受信契約義務は発生しないでしょう(それでも、利用者に契約義務があるかは疑わしいです)。
但し、利用者はレオパレスに対するNHKの受信料金分の支払義務は残ります。賃貸料金の中にNHKの受信料金が入っているのか入ないのか知りませんが、賃貸料金とは別に受信料は入居者負担ということなのでしょうかね。
NHKは即日控訴しましたが、明らかに無理筋の裁判でしょう。これまでもレオパレスを始めとして、いろいろなところで違法な受信契約を居住者にさせているので、引くに引けないということだと思いますが、そんな理不尽なことをやっているから、アンチNHKが増えるのではないですかね?
3. NHKによる強引・脅迫的な契約の強要と取立て
原告の方も、1310円の金の欲しさで、裁判を行っているわけではなく、NHK訪問員の執拗・強引さ、NHKの理不尽な対応に怒りを覚えて、訴訟をしているのでしょう。これは多くの体験者の共感を呼ぶところではないでしょうか?
前日の10月26日にもNHK関連の訴訟で東京地裁の判決がありました。こちらは、原告敗訴でしたが、ビデオに撮っておけば勝訴したでしょう。
裁判官も、NHK訪問員によるトラブルは日常茶飯事で、被害女性の恐怖を理解できないわけではないでしょうが、確たる証拠がないことには、いかんともし難いです。
従業員に呼び鈴を10回ぐらい鳴らされ、拒否するとノックが激しくなった。払うまで帰らないと言われた。
出典:産経ニュース, 「「NHK受信料のしつこい取り立てで苦痛」認めず 東京地裁、脅迫や強要否定」, 2016/10/27.
男性従業員が「呼び出しのチャイムを計10回鳴らし玄関ドアをどんどんと叩き」、「支払いを求めて玄関の中に足を踏み入れ」、受信料の支払いを強いた。
出典:弁護士ドットコム, 「「NHK受信料の取り立てに強い恐怖」担当業者を訴えた裁判で原告敗訴…東京地裁」, 2016/10/26.
精神的苦痛で慰謝料を要求するのには、イマイチ弱いかも、ですが、男の私でもNHKの訪問員には恐怖を感じますから、さぞかし恐ろしかったのではないかと思います。
さらに、15万円も滞納していたので、要するに昔のサラ金の取り立て屋みたいなの(あくまでもドラマイメージ)が来たのでしょう。現在は、消費者金融(サラ金)がNHKのような取り立てをすると、違法行為になってしまうので、少なくとも大手の消費者金融はやっていないと思います。
貸金業法・貸金業法施行規則で規制される違法な取り立ての例*5
●「午後9時~午前8時以外の時間に債務者に電話をかけたり、FAXを送ったり、自宅を訪問すること」(貸金業法第21条の1)
●「債務者から、訪問に対して退去するように意思表示されたにもかかわらず、退去しないこと」(貸金業法第21の4)
NHK訪問員は貸金業法で禁止されているようなことは、平気でやりますので、NHKはサラ金よりも悪質な業者ということです。少なくとも、貸金業法で禁止されている行為は法律で禁止してもらいたいです。一部の悪質なNHK訪問員は、刑法犯罪(住居侵入罪や不退去罪、恐喝罪、強要罪、詐欺罪など)をしていると思いますが、それだけだと、NHKそのものを処罰することはできないですから。
4. 最後に
なぜ、NHKは、敗訴することが分かっているような裁判に上告するのでしょうか。個人対組織の戦いなので、個人は消耗戦についていくのは大変です。原告イジメとしか思えません。
思い出すと、腹が立つNHKの押し売り員。こんな裁判を続けているのなら、アンテナ外して、BS契約は解除しようかしらん(前々から解約しようと思っていたのだが、面倒なので放置していた)。
(2016/10/28)
付録A. NHKは、既にレオパレスに契約を断られていた(追記)
下記の記事によれば、既にNHKとレオパレスは、受信契約の協議をしていたようです。
かつて、NHKとレオパレス側は受信契約についての協議を行いました。
結果的に「入居者が居ない時期の受信料免除」がNHK側に受け入れられなかったことから受信契約を行わないこととしました。
レオパレス側は「テレビは使用目的を定めずに入居者に貸し出すためにそこに置いてあるだけ」とし、いわゆる「協会の放送を受信できる設備の設置者」ではないと主張、レオパレス規約に「NHK受信料は入居者負担とする」という一文を入れることでその後の訴訟に対応できる体制を整えました。
NHK側はレオパレスと明確に合意したわけではありませんが、事実上その主張を認めているようです。
出典: sabotennetobasさん, 「レオパレスにおけるNHK受信契約」, Yahoo!知恵袋, 2011/12/24.
この記事が事実だとすると、NHKは入居者に受信契約義務がなく、レオパレスに受信契約義務があると認識していたと理解できます。放送法上もレオパレスと契約することが適当ですし、NHKもそれは理解しているはずです。
要するに、NHKはレオパレスに断られたので、取れるところから取ったということですね。
極めて悪質です。NHKの訪問員にせよ、この事例にせよ、法令順守の概念がNHKにはないのでしょうか?大手企業で、このように悪質な事例は聞いたことがありません。
付録B. レオパレス裁判判決文 (追記:2016/11/1)
判決文がありました。
NHKとの裁判また勝ちました ワンセグに続きレオパレスも|NHKから国民を守る党 公式ブログ
論理構成はシンプルで比較的分かりやすい判決文です。
NHKの反論も大したことを言っているわけではありませんので、上級審で判決が逆転することはないでしょう。
NHKは最高裁まで戦うつもりなのかもしれませんが、こんな勝ち目のない裁判を継続するなんて、NHKは視聴者のためのNHKではなく、単なる守銭奴ではないですか。
付録C. 原告へのインタビュー (追記:2016/11/6)
原告へのインタビューがありました。
NHK相手に裁判してくれている方の紹介です レオパレスは【オーナー】か【住民】どちが支払うの?|NHKから国民を守る党 公式ブログ
やはり、集金人の恐喝によって、契約を強要されていたようです。
ワンセグ裁判は「NHKから国民を守る党」所属の市議会議員によるものでしたが、レオパレス裁判も、立花氏が支援した裁判だったのですね。
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*1:弁護士ドットコムNEWS, 「テレビ付き賃貸物件のNHK受信料「入居者は支払い不要」返金認める…東京地裁」, 2016/10/27.
*2:産経ニュース, 「マンスリーマンション入居者には 「NHK受信料の支払い義務なし」 東京地裁 NHKに受信料返還命じる」, 2016/10/27.
*3:読売新聞ONLINE, 「TV付き賃貸入居者に「NHK受信料義務なし」」, 2016/10/27.
*4:「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない」(放送法64条)
*5:お金を学べる情報ポータル・ファイグー, 「借金督促(取り立て)の9ルール。これに違反していたらすぐに警察へ」, 2016/10/25(最終更新日)